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防ぐ ~地震、津波、洪水、火災…災害に強いまちをつくる

 

日本は災害の多い国です。太古の昔から地震や津波、洪水や火災、火山噴火といったありとあらゆる災害に悩まされ続けてきた結果、「強い忍耐力」という国民性が芽生えました。

その忍耐力は数々の災害で傷ついたまちの復興に大いに生かされてきましたが、と同時にこれから起こるであろう新たな災害に対する備えに関する研究の上にも費やされてきました。地震学や津波工学、地質・土質工学といった分野がそれであり、いずれもが世界に冠たる日本の技術として認められているところです。

そうした技術力は、阪神淡路大震災や東日本大震災といった大災害以降さらに「災害に強いまち」を創るために高められてきています。数々の新技術の開発やしくみの改変が進み、行政もこれに合わせて新たな取り組みを始めています。

地方レベルでは「地域防災計画」を作成するよう義務付けられており、平成26年からは内閣府の主導により「地区防災計画制度」という取組が始まりました。これは日本各地の都市を「モデル地区」として選び、地域の環境や特徴を生かした防災計画を推進するというしくみです。

 

 

地域防災計画と地区防災計画の違い

 

ここで、「地域防災計画」と「地区防災計画」の違いについて述べておきたいと思います。

従来、防災計画としては国レベルの総合的かつ長期的な計画である「防災基本計画」を基本方針とし、地方レベルでは都道府県及び市町村独自の防災計画がつくられてきました。これが「地域防災計画」であり、国はその作成を地方の各自治体に義務付けています。

しかし、これは国や都道府県が作ったプロトタイプを元に作成するよう求めたものにすぎず、自治体がその独自性を生かせないものなっています。十分に地域特性が反映されていないため使えないものになっていることが多いのです。また、行政主体で策定された計画であり、一般市民にはなじみにくくわかりにくい「行政文書」になってしまっています。

さらに当初これを作った役人はある程度その内容を理解していますが、いつの間にか計画が存在することに安心してしまい、作ったあとは忘れ去れられていることも少なくありません。阪神大震災で被災した神戸市の職員の中には「地域防災計画があるなんて、震災後に知った」という人もいたそうです。人が替わって引き継ぐうちに、本来なぜ計画書が作られたのかの意味が損なわれてしまっているのです。

しかも、こうした行政文書を作った役人も必ずしも防災対策に詳しいわけではありません。町村レベルではまだまだ防災の担当職員が少なく、その専門性も低いようです。

彼らも努力はしていますが、行政組織の縮小化のトレンドの中においては、防災担当職員の確保すら難しいというのが現状です。多くの日常業務をこなしながら自ら専門性を高めていくよう求めるというのは酷というものであり、これが地域に根ざした綿密な防災計画を定め維持していくことを困難にしています。

このため、外部の民間会社などに防災計画の作成を委託している自治体も多くなっています。また、住民の避難活動に必須のハザードマップの制作を業者に丸投げしたり、防災計画をつくるのにシンクタンクへ調査をまかせっきりにする、といったことが日常的に行われています。

それでも外部業者ときちんと打ち合わせを行い、きちんとしたものが出来上がってくれば文句を言う筋合いはありません。ところがそれだけではなく、こうした専門性の低い職員が防災を担当すると、ときにとんでもない問題を引き起こしかねません。

たとえば津波の避難訓練は、本来高台に集まらなくてはならないのに、「高台だとお年寄りが大変だから」という理由でわざわざ海の近くに住民を集めて防災訓練を行っている自治体があります。

2011年に発生した東日本大震災でも、計画上は高台で行うことになっていた災害対策訓練を庁舎前で行っていたために、実際の津波が襲ったときには計画が生かされませんでした。間違った訓練を誰かが始めて、それを踏襲してしまった悪い例です。残念ながらこの例では、ことは机上のミスに終わらず、多数の尊い人の命を奪う結果になってしまいました。

 

 

地域防災計画と地区防災計画は別物

 

こうしたことから、東日本大震災以降は、役人に頼らず、住民自らが専門性を高めることに重点が置かれるべきだという声が高まってきました。自力で災害に立ち向かう、いわゆる「自助」、もしくは住民同士が助け合う「共助」が大きくクローズアップされるようになってきたのです。

その結果、国土交通省などが中心となってこうした制度を見直しはじめ、平成25年には国会で「災害対策基本法」が成立するまでにこぎつけました。そして、この中ではとくに従来はなかった、“自助及び共助に関する規定“が追加されました。

その基本的な概念は、地域コミュニティの中の居住者だけでなく事業者も含めた住民が「自発的に」防災活動を行う、というものでした。内閣府の主導でその計画を推進するよう定めたもので、その制度こそが「地区防災計画」です。

都道府県、市区町村レベルで国が策定するように義務付けた「地域防災計画」とは異なり、計画の作成自体をその地域の管理者(役人)だけではなく、そこに住む住民に委ねた、という点がその最大の違いです。

しかし、いざ災害になれば先頭に立って住民を守るべきなのが自治体です。従来からある「公助」があわさってこそ、災害対策は最大の効果を示します。このため、地区防災計画の策定にあたっては、行政関係者や学識経験者等の専門家に制度の説明を求め、アドバイスをしてもらうよう求めています。

 

内閣府地区防災計画作成ガイドライン(H26.3)

 

平成26年4月1日施行されたこの制度は、市・区以下の町や村あるいは自治会だけでなく、事業者(企業)や管理組合といった経済活動をしている組織も含めた居住者全員が、防災計画について理解を深め、地区防災計画を自ら作成するように仕向ける、というものでした。

 

修善寺ニュータウンの地区防災計画

 

従来行政が作成していた防災計画を、住民自らが作成することによって、いざ災害が発生した場合により実効的に機能することが期待されたものです。

しかしただ単に制度を設けました、とアナウンスしただけでは、自主的に防災計画を立案しようという機運は生まれません。少ない予算しかもたない町村・自治会レベルではなかなか計画を創ろうという気にならないのは当然です。市区町村の防災担当職員ですら防災に疎いというのに、ましてや一般の住民にそれより高い専門性を期待すること自体に無理があります。

このため内閣府は、計画策定の方法や、完成した計画案の広報、実際にうまく計画が作動するかどかの検証等についてのガイドラインを作成し、公表しました。平成25年度からは、全国各地に「モデル地区」を設け、各地区毎に専門家を派遣したり、補助金をつけたりして住民主体の計画がなるべく多く生まれるよう、指導を行ってきています。

その結果、平成26年度には15地区、平成27年度には22地区、平成28年度には7地区が選ばれました。これら計45地区は、全国に先駆けて地区災害計画を策定したモデル地区として今後計画を策定する地区のための先例、もしくは「お手本」としてその内容が公開されています。

東海地震の襲来が懸念されている静岡県においても、平成26年度に富士駅南地区、静岡市葵区上足洗(かみあしあらい)3丁目地区の2地区が、そして平成27年度には、伊豆市の修善寺ニュータウン地区が県内3番目のモデル地区として選ばれました。

修善寺ニュータウンは当事務所が籍を置いているまちです。その策定にあたっては当所が全面的に協力し、地元住民に対するアンケート実施や環境データの収集整理、計画策定、計画書作成、行政・研究者との会合などを実行しました。

修善寺ニュータウンは、伊豆半島のほぼ中央に位置する高台にあるまちで、想定される主な災害としては、すぐ近くにある丹那断層の活動による地震、火山性土壌に起因する土砂災害、冬季を中心とした強風による火災の拡大などです。

 

修善寺ニュータウンの位置

 

当地は高台にあって、これに通じる道路が災害によって分断される可能性も高く、公助は期待できないことから、高齢化が進む中での自助・共助が大きな課題になっています。また温泉別荘地であることから、自治会、温泉管理組合、常住者+別荘利用者の3者が、協力しあう体制づくりが求められています。

 

修善寺ニュータウン地区防災計画の骨子

1.地震・土砂災害、強風火災に対する備えとしての計画
2.高齢化が進む中での自助・共助による防災。
3.自治会、温泉管理組合、住民の3者が、協力しあう体制づくり

当地区では、市からの防災メールとは別に、地区の自主防災会が災害時に住民に向けて発する防災メール(Eメール)を導入しており、地域内に生じた身近な危険をいち早く知らせるしくみとして期待されています。

 

高台であるため孤立する危険性がある

 

自治会、温泉管理組合、住民の3者が、協力しあう体制

 

完成した計画概要は内閣府報告書に掲載されるとともに、計画書全文が伊豆市ホームページにも掲載されています。当事務所が一年近くをかけて作成した努力作品でもあります。一度ご覧になってください。

 

修善寺ニュータウン地区防災計画書 pdf版 ダウンロード

伊豆市ホームページへ

 

当事務所の災害対策への取り組み

 

前述の修善寺ニュータウンは高台にあり、地域防災計画の重点対策項目の中には津波はなく、主として地震対策と火災予防です。しかし、他の地域においては海に近く津波対策が最も重要項目として挙げられる場合もあります。たとえば同じ伊豆市ではこのほか、伊豆半島の西海岸に位置する土肥地区での津波防災計画が、その策定の端緒に就いています。

 

このほか本年(平成30年)夏に広島で発生した土砂災害のように洪水対策に主眼が置かれるべき地域もあり、あるいはここ静岡県においては富士山の噴火が懸念される場所も多く、災害に対するリスクの種類やレベルはそれぞれの地域で異なります。

今後、それぞれの地域で地区防災計画を策定していく上においては、そこにおける過去の災害の実例を知る必要があります。そして実効性のある災害対策を立案するためには、そうした災害を想定した具体的な避難プログラムのシナリオの作成が必要です。

良いシナリオを書くためにはこれまでに起きた災害の事態を調査し、今後どのような災害が発生しうるのか、災害が起きたときどのような情報が入ってくるのかを把握する必要があります。このほかにも、どういう経路で避難するのか、避難所運営をどうするか、食料や救急医療品をどう調達するか等々、すべてを整理する必要があります。

 

防災対策には良いシナリオを

 

十分な情報が集まったならば、図上シミュレーションやクロスロード(カードゲーム形式の防災教材)、防災グループワーク等のイメージトレーニングといった机上の検討もやってみると良いでしょう。実際に避難訓練を行い、実技で鍛える、といったことは災害に備えて極めて効果が高い、といわれています。

そうした現実的な行動状況を把握した上で、避難プログラムを作成・修正し、いざ災害が発生したときに機能するシナリオを完成させます。従来の地域防災計画のように役人が作成し、具体的な行動シナリオがない計画書は絵に描いた餅にすぎません。住民自らが実際に行動できるシナリオこそが本当に求められているものです。

今後30年以内に90%に近いような高い確率で地震が起こるとされている東南海地域のように、喫緊にこうしたシナリオが必要な地域も多数あります。

しかし地区防災計画を作成するにあたっては、公からの援助は期待できないというところも多いでしょう。防災よりも他のまちづくりにお金をかけたい、というところはやはり多いようです。内閣府としてもモデル地域に指定した地域以外の地区に援助の手を差し伸べる十分な予算は確保していません。

シナリオづくりのためには、高度な知識を持った専門家が必要ですが、こうした専門家も不足しています。雇用したくても費用を工面できず、計画が宙に浮いたままの場所がほとんどです。防災の専門スタッフを確保した上で有事に備えることができる自治体や地方団体は限られている、というのが現状です。

 

当事務所は、防災計画を進めようとしていながら、なかなかそれが進まないこうした地域をできるだけ応援したいと考えています。対策が急がれている地域の計画を早期に完成させ、一刻も早く災害からの脅威に備える体制を構築するうえで、当事務所が“キーマン”になることができれば幸いです。

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