コラム

目 次

1.在来工法と2×4工法の根本的な違い

2.セルフビルドに最適な季節はいつか

3.住宅金融公庫融資は可能か

4.DIYショップは使えるか

5.オーナービルドという「手」

6.100万円でどこまでできるか

7.小さな家から大きな家へ、という考え方

8.不安を払拭するには・・・

9.安く家を建てたいけれど・・・

1.在来工法と2×4工法の根本的な違い

わが国の伝統的な工法、在来軸組工法による家づくりと2×4工法を比べたときの根本的な違いとは何でしょうか。それは施工ルールの違いであると筆者は考えています。

在来工法による家づくりは設計図書の基本的な構成は踏まえつつも、むしろ担当大工の施工経験や流儀などに基づいた施工ルールによって、梁・桁・継手・仕口などが決定されるという中で行われています。極論すれば同一の設計図書でも、3つの工務店に施工を任せれば三者三様の家ができあがってくるわけです。これに対して2×4工法では、施工ルールはもちろん、梁や桁の長さ、継手・仕口の形式までも細かくマニュアルで定められていて、異なる工務店に頼んでも設計図が同じであればほぼ同じ家を完成することができます。このことは、2×4工法の構造そのものが単純ということにもよりますが、それぞれの国での家づくりに対する考え方の違いによるものだと考えられます。   

すなわち、もともと材料費が高く人件費の安い日本で発達した在来軸組み工法は、手間暇は惜しまず材料を惜しむ工法として発展してきたのに対し、2×4工法は、材料費は豊富にあり、相対的に手間賃の高い先進国で発達してきた工法です。手間賃が高ければできるだけ作業工程は短く効率的にするほうがよく、技能の違った大工でも同じ仕上がりが期待できるよう構造や作業手順を明確に示す必要があったわけです。一方、日本の在来工法では、貴重な材料をできるだけ捨てないようにし、そのためには多少の手間暇がかかっても良いという発想に基づいた工法といえます。つまり複雑な加工技術が必要となり、多数の技術が競うようにして発達してきたため、これらを統一し体系づけたマニュアルが発達しにくかったということがいえます。

実はこうした技術の発展のしかたが今も日本の住宅を高くしている理由のひとつです。昔は安かった人件費も高度成長期をすぎたあたりから世界でも類をみないくらい高いものになり、家一軒を建てる費用に占める大工さんの人件費は相当なものになっているというわけです。日本もかつて2×4工法が発達してきた北米と同じように、輸入材料は豊富にあり一方では人件費は高いという状況になってきており、そうした事情に見合った家づくりにそろそろ転換すべき時代に入ったといえるのではないでしょうか。

2.セルフビルドに最適な季節はいつか

セルフビルドでの家づくりに一番適した季節はいったいいつでしょうか。日本の夏は高温多湿です。その暑い中をセルフビルドに精を出すのはいくら好きでもちょっとしんどいでしょう。また暑いだけではなく、雨が降ることも多く、梅雨のシーズンと合わせてセルフビルドにはできるだけ避けたい季節です。とはいえ、雪の多い北国では冬の作業ができない分、気温の低い夏の作業時間は貴重なものでしょう。とくに梅雨がない北海道では雪融けの4月頃から雪が降り始める11〜12月頃までの期間がかきいれどきということがいえると思います。本州でも冬季には雪が多くて作業のできない高地や日本海側の地方でもやはり春から秋にかけてしか作業ができないかもしれません。

 しかし、東京や名古屋などの太平洋岸の大都市圏では冬はむしろセルフビルダーにとっては快適な季節のひとつかもしれません。秋から1〜2月にかけてこれらの地域では太平洋高気圧に覆われて晴天の日が続くことが多く、降雨量も極端に少なくなるからです。関東地方ではからっ風が吹くことも多く、寒いのがきらいな人にはあまりいい季節とはいえないかもしれませんが、作業をしていればすぐに温まりますし、作業の途中で出た端材でやきいもを焼いて食べるというのもおつなものです。週末しか作業ができない人にとって年末年始は作業を先に進めるためのまとまった時間にもなります。

 結論から言うと北海道などの多雪地帯を除く地域ではセルフビルダーにとって最適な季節はやはり秋から冬を中心にした季節だと思います。夏の暑さが一段落し、秋の長雨が終わる9月後半からスタートし、翌年の梅雨までのおよそ9ヶ月間で棟上と窓・外装材の取り付けまでこぎ着けることができれば、あとは雨が降っても作業ができる内装作業だけになります。

 夏がそれほど苦手でないという人は梅雨の季節を避け7月後半から作業を初めれば更にフレームワークの作業時間に余裕が出ますが、夏の炎天下の作業で体調をくずさないようにすることが大事です。思い立ったときが建て時、などと計画性もなく家づくりを始めるより、こうした季節変化も視野に入れた作業計画を立てましょう。

3.住宅金融公庫融資は可能か

セルフビルドで家を建てる場合、一般住宅に比べてかなり格安に建てられることは事実です。それでも建物面積が大きくなれば総費用も相当嵩みますから、金利の安い住宅金融公庫を利用したくなるのは当然でしょう。結論からいうとセルフビルド住宅でも住宅金融公庫の仕様を満足した住宅であるならば何ら問題なく資金が借りられるはずです。ただし、注意しなければならないのが、中間検査と完成検査をクリアする必要があるということです。中間検査は「屋根工事完了時から外壁の断熱工事完了時までの間」とされていて、一般的には4〜5ヵ月程度、完成検査は、住宅金融公庫から検査を受託する地方自治体の規定にもよりますが、一般的には9ヵ月〜1年後になります(期間に幅があるのは自治体によって検査規定が異なるため)。従って、4〜5ヶ月の間に最低でも屋根を葺き終える必要があり、地方によっては9ヵ月で家作りを完了させなければならないことになります。ちなみに公庫融資は中間検査に合格すれば中間資金を借り受けることができますから、少ない資金でフルセルフビルドを始めた人にとっては、工事開始から4〜5ヶ月が正念場となります。一方、ハーフビルドで建てようと決めた人は、長めに考えても1ヵ月以内には屋根まで完成しますから、中間検査はクリアできるでしょう。問題はそこから完成検査までを8〜11ヶ月で完成できるかどうかですが、週末だけしか作業ができないとしても30〜40日程度の作業日数が確保できることとなります。延べ日数30日というのはあまり余裕のある時間とはいえませんが、内装工事が中心のハーフビルドであれば奥さんや家族に手伝ってもらうことも可能でしょうから、検査までに完成させることは十分に可能でしょう。

住宅金融公庫融資住宅の中間検査や完了検査の内容は、公庫基準への適合を目視できる範囲で審査するものであり、工事が設計図書どおりに施工されているかどうかを審査するものではありません。中間検査でも主要な構造上の問題点がないかどうか、完成検査では内外装の仕上がり具合を中心に検査が進められることになります。しかし、大きな声ではいえませんが、お役所も忙しいところが多く、中間検査では、あれ?もう帰っちゃうのというような検査もあるようです。完成検査にいたってはほとんど行われないていないという実態もあるようで、最近法改正によってこうした現状への抑制措置がとられるようになったとはいえ、だまだ十分な検査は行われていないのが実情のようです。しかし、セルフビルドで作る家の場合は素人が作った家ということで検査官もそれなりに検査を行う可能性もありますので油断は禁物です。なお、キットの構造そのものには問題がなくても、キットを建てる敷地の条件によってそのままの形では建てられないという場合が生じ得ます。多くは斜線制限や室内の採光上の問題、防火仕様などの問題などです。もっともこれらは工事に入る前の設計検査時にその問題点が明らかになっているはずですので、設計検査時に問題点が指摘され、その問題点が構造上クリアーされていれば中間検査や完了検査の段階で再度審査される恐れはありません。この設計審査は公庫の融資決定の通知を受け、工事に入るまでに受ける必要があります。審査結果が出るまでに約1.5〜2ヶ月程度かかります。このため梅雨明けからすぐに作業をはじめようと準備をしていても実際の作業を始めるのは秋になってしまった、ということもありえますから、公庫の融資を受けてセルフビルドを始める人はできるだけこうした手続きを早く終わらせる必要があるということを覚えておいてください。

4.DIYショップは使えるか

最近のDIYショップでの家作りの材料の品揃えはずいぶん豊富になりました。一昔前は大きな「よろず雑貨屋」のイメージで、本格的な家づくりのためには中途半端な品揃えでしたが、ここ数年では家一軒を建てるための材料すべてをなんとかまかなえる店が多くなりました。このため、店を訪れる客層も以前は一般人ばかりだったのが、最近ではプロも多くみかけるようになり、店によってはプロのために早朝から店をあけたり、プロ用の割引サービスを行う店もでてきています。こうした風潮は我々のような素人のセルフビルダーにとっても大いに歓迎できるものですが、こうしたDIYショップを訪れていつも不満に思うのは店員の中に家作りに関して詳しい専門家がほとんどいないということです。無論、豊富な商品知識を持った店員さんもいますし、数は少ないもののDIYアドバイザーという民間資格を取った人を置いている店もあるのですが、どこの店も少ない人数で高利益をあげたいということで、こうした人は引く手あまたでなかなか相手になってもらえません。多くの店では「アドバイスコーナー」とか「材料加工サービス」を行っていますが、家一軒を建てたいのだけど、という相談や増築したいので材料をカットして、という相談にはおよそ乗ってくれそうもありません。その知識もないので相談に乗りたくても乗れないというのが実情だと思います。

ではこうした家づくりの知識はどこへ行ったら教えてもらえるのでしょうか。残念ながら国内ではそう多くはありません。いくつかの自治体で「職業訓練校」というのがあってこの中で大工の養成講座を設け、在来軸組み工法による家づくりを教えているところはあります。しかし数は非常に少なく一般向けの公開講座としている学校はまずないでしょう。このほか、各キットハウスのメーカーがセルフビルドスクールを開催していますが、これはいずれも自社製品を購入してもらうことを前提としており、キットそのものもログハウスのような比較的単純構造のものを対象としていることが多いようです。米国では、カーペンターになるための職業訓練校というのがあり、実務経験を経て自分で工務店を経営しくたり、市役所の検査員や母校の訓練校の教官になったりする道が開かれています。このため家づくりのノウハウを収めたマニュアル等も豊富に揃っており、素人向けの家づくりの雑誌なども出回っているようです。こうしたふうに日本も早くなれば良いのにと願うものですが、在来工法やメーカーハウスによる家づくりが主流になっているわが国では、2×4工法のような素人向け工法を通じての家づくりのノウハウの普及にはまだまだ時間がかかりそうです。

DIYショップを通じて建築材料をメーカーから取り寄せる場合、品物によっては取り寄せてもらえない場合があるということをご存知でしょうか。筆者も一度キッチンのカタログをみてシンクの部分だけを取り寄せようとしたところ、メーカーからDIYショップへの卸を拒否され、とうとう手に入れることができませんでした。こうしたことはしょっちゅうあるようで、キッチン用具だけではなく、窓やドアなどの住宅建材を素人が手に入れようとするとなぜかか入手ができないのです。

実はこれは建築材料の取引の商習慣に由来するもので、日本では建材メーカーで作られた製品のほとんどは工務店や建材卸店を中心にしか流通していないためです。そもそも在来工法による家づくりは素人が手を出すことができない部分が多く、このため材料の流通はおのずから建材メーカー、卸、大工(工務店)の3者の間に限られるということになりました。「素人には手を出せない」商品であるということをいいことに次第にこの3者の間での既得権益として確立し、それが流通の面でも習慣として定着してしまったというわけです。必ずしもそれだけが原因とはいえない面もありますが、日本の住宅がアメリカの住宅価格のおよそ1.5〜2倍といわれるまで膨れ上がっているのはこうしたゆがんだ流通の成り立ちと無縁ではないと思われます。

では、DIYショップで売られている住宅建材の流通経路はどうなっているのでしょうか。その多くは建材卸問屋から仕入れているのではなく、建材メーカーから直接仕入れているようです。といっても家一件分の資材をすべて仕入れているわけではなく、特定の売れ筋商品に絞って大量に仕入れているようです。大量に仕入れるために価格も安くなり、この不況の時代に大量の商品を買ってくれるわけですから建材メーカーにとっても上得意客というわけです。しかしメーカーとしては卸問屋も大得意さまですから彼らのもつ既得権益に反してまでDIYショップに品物は卸しません。ましてや一般客からの特定商品のリクエストということになると論外というわけです。DIYショップも利ざやは小さいので積極的に仲介はしかねる、ということになります。

 これがDIYショップで売っている商品の裏側です。すなわち、家一軒分の材料をDIYショップを通じて購入する場合、自分の好みの商品は必ずしも手に入らないということになります。とはいえ、それでも最近のDIYショップの品揃えがかなりよくなってきたのは、長引く不況で工務店や大工さんは仕事がなく、建材メーカーも元気のいいDIYショップに物を売ったほうが商売になるということがだんだんとわかってきたからでしょう。2×4工法などの素人向けの工法が浸透していくにつれ、これからはメーカーや工務店だけの既得権益であった建材の流通が一般にも広く開かれる時代になってきたと筆者は感じています。

5.オーナービルドという「手」

「オーナービルド」というのはあまり聞きなれないことばかもしれません。北米ではオーナービルド(Owner Built House)というと建て主(オーナー)が自分で家を建てること、すなわちセルフビルドも含めた家づくりを総称してこう呼びます。しかし、国内のある輸入2×4住宅メーカーが、建て主による「分離発注方式」をさしてオーナービルドといったことから、この名前で定着しつつあるようです。分離発注方式とはどういうことかというと、例えば本書のようなキットハウスは必ずしもセルフビルド専用というわけではなく、キット部材だけを入手し、専門の大工さんに立てて貰うこともできるわけです。複数の大工さんから見積もりをとって一番工賃が安いところにお願いすることもでき、家づくりん各工程それぞれの専門家すべてをオーナーであるあなたが雇って家を建てることも不可能ではないわけです。こうした方法は、ある程度一定の品質を期待できる2×4工法ならで可能であるといえ、同じ設計図でも工務店が違えば、外見はともかく全く違ったものができてしまう在来工法ではなかなか難しいでしょう。もし2×4の知識をかなりお持ちならば、設計から材料選び、施工業者の選定、施工管理までをすべて自分でやることも不可能ではなく、コスト的にも工期的にもかなり効率的に家作りができそうです。なによりも自分で作業をすこる必要がないので忙しい人にはもってこいの方法です。仮に2×4工法に関する知識がまったくない場合でも、本書のような入門書を購入して基礎知識を持った上で(ここがミソです)、設計と施工管理を専門にしている建築士事務所の助けを得るという手もあります。無論、建築士事務所には報酬をあげなければいけませんが、建築事務所を通じて効率的な施工を考えてもらい、全体的なコストを低く抑えられるならば安いものでしょう。安価な材料の入手先や信頼できる施工業者を紹介してもらって直接交渉できる可能性もあります。北米ではかなりポピュラーな手法ですが、日本でも最近こうした方法で家を建てる人が徐々に増えつつあるようです。セルフビルドには安い家を建てたいという実用的な部分と手作りで好みの家を自分で建てたいという趣味性の部分があり、その魅力はやや半減するものの、自分でやるのはちょっとという人は一考してみる価値のある方法かもしれません。

6.100万円でどこまでできるか

100万円でどこまでできるか?家を建てる予定のない人でも興味のあるところでしょう。「キットハウスガイド」という本をみてみると2×4ならば約100万円で10〜15m2程度の大きさのキット住宅が手に入るようです。しかし10〜15m2というと6〜9畳くらいの大きさしかなく、倉庫や子供の勉強部屋用の用途ならばともかく、本格的な住宅ではちょっとというかんじです。では2×4材のフレーミング(骨組み)に限って100万円でどの程度までできるかを試算してみましょう。最近はHCでもかなり安値の2×4材が購入できるようになりました。店によっては値段の差がありますが、だいたい1m3あたり、6万円前後で入手できるようです。もっとも2×4材だけでは家はできません。壁や屋根を作って家の形にするためには、このほかにも壁材や床材、屋根の下地材などが必要です。また、フレーミング以降の作業をするためには屋根材で屋根を葺いておく必要があり、屋根まで仕上げれば、あとはなんとか、少しずつ材料を買い足して家を作っていくということは不可能ではないでしょう。当社の試算では、もし100万円の資金があるならば2×4材:構造用合板:屋根材にそれぞれ、59万円:29万円:12万円の比率でフレーミングができるという結果が出ました。それではいったいどのくらいの大きさの家なのでしょう。答えは50〜55m2程度の大きさ(延べ床面積)。50m2というと日本のマンションの平均的な大きさといわれ、家族3人が暮らすにはなんとかいける大きさです。とりあえず、屋根まで作っておいて、あとは少しずつ材料を買い足して家をつくろうというセルフビルダーにとっては悪くない選択でしょう。最近ではリサイクルショップで中古のサッシを売っているところもあるようですから、こうした安い材料を買ってきてとりつければとりあえず雨露は避けることができ、その後のセルフビルドもはかどるに違いありません。内外装材も選り好みしなければHCで手に入るようになった昨今、100万円ですべて完璧な住宅というのは無理としても100万円台でそこそこの大きさの住宅を手に入れることもあながち夢ではないかもしれません(注:以上の試算の中には基礎や接合用金物などの資材は入っていません。ほかにもコーキング材とか防腐剤などなど色々な資材が必要ですので、100万円で完璧な家が建つ!などと思い込まないようご注意願います)。

7.小さな家から大きな家へ、という考え方

上述のようにとりあえず少ない資金で買えるだけのフレーミング資材だけを取り揃え、上棟までなんとかこぎつけて、あとは長期戦でやろう、ということでセルフビルドに取り組む方も多いことでしょう。しかし、そこからは実は長い道のりで、もし休日を使ってひとりでやるならば、内装や外装を取り付けるためにおそらく1年はかかると見てよいでしょう。ほかにもっといい方法はないか?と考えた場合、多くの人が思い当たるのは、そうだ!小さい家からつくってだんだん拡張していけばいいじゃない!ということでしょう。まずは最低限の生活ができる小さな家をつくって、あとはだんだんと拡張していく、そんなセルフビルドを支援してくれるキットメーカーがないものか、とお考えの方も多いと思われます。また、一戸の家を建てようという人だけではなく、自宅の増築をセルフビルドしてみたい、という人も多いでしょう。このため、当社では、建築面積20m2程度の小さな家をだんだんと増築して大きくしていくキットを開発し、ご提供することにしました。通常、2×4住宅は拡張がしずらい、と言われますが、それは、いったん作った壁を取り壊して新たな拡張をするためです。そうではなく、壁は取り壊さず、あらかじめできるだけ大きめの開口部を作っておき、その面の方向に同じく2×4住宅をつくっていけば何ら構造上の問題を来すことなく、増築は可能になります。既存の住宅には当然サッシが付いていますが、これを残しておいても良く、また取り外すことも容易なように外壁に乾式のサイディングを用いておけば簡単に増築ができます。外壁サイディングにレッドシダー材のような木質壁を用いれば増築した部分の壁としても見栄えはよく、サイディングは取り外さずに済みます。このようにして、小さなサイズから大きなサイズへ予算ができれば継ぎ足していける、という形のキット住宅はこれまでにななく、多くの方に受け入れられていただけると考えています。上述の特集のように少ない予算で材料を買えるだけ買って始めるというやり方もありますが、居住スペースとして仕上がっていない住宅に「住みながら」作業を進めるというやり方では、いちいち家財道具を動かしながらの作業となり、実際には非現実的といえましょう。小さいながらも「完結」した住宅から始めれば、まったく問題なく「住みながら」増築作業が続けていけます。実はこうしたスタイルは欧米では普通であり、最初はあまり大きくもない小さな家を買って、これにオーナーが少しずつ手を加えて質感を高めたり、増築したりして、家の価値をだんだんと高めていきます(これをハウスインプルーブといいます)。そうした家の中には買ったときの数倍の値段で取引されるものもあり、欧米では家=資産なのだという考え方が行き渡っています。どこかの国のメーカーハウスのように買ったときにはぴかぴかだけれども、20年もたったら使い捨て、というような代物とは格が違います。オーナーがその構造を知り抜いていて、長年の間に愛情を注いで「育てる」からこそ高値で取引されるのです。皆さんもそうした家づくりに取り組みませんか?

8.不安を払拭するには・・・

最近良く聞く、セルフビルドで家を建てたいけれども本当に大丈夫なんだろうか?途中でやめた人っていないの?こうした疑問セルフビルダーでなくても誰しもが持っていることでしょう。実際にセルフビルドを始めた人のお話を聞くと、多くの人が「自分でやる」と決めるまでには相当な時間がかかるようです。それはそうでしょう。机だって作ったことがない人がいきなり家一軒を作るなんて人生一度の大決心であるにちがいありません。本屋さんに行ってもたくさん技術図書はあるものの、素人を対象にした解説書というものはほとんどなく、設計図はついているものの実際にどうやって組み立てているかについてまで詳しく説明しているものは皆無です。セルフビルドは始める人の不安のひとつは、まずこうした素人向けのきちんとした技術情報がないということがあげられます。また、難しい専門書を紐解いて、いざ設計図を書こうとすると、専門知識がないためにきちんとした図面が書けない、あるいは書いたとしてもそれをチェックするすべがない、というのが、セルフビルドを始めようとする人の大方が最初にぶちあたる壁のようです。更に資材をどうやって手配するかについても多くの人が悩むようで、最近多くのホームセンター(HC)で2×4材が手軽に手に入るようになったものの、外壁材や屋根材まで幅広い建材を用意してくれるHCは少なく、またサッシや内装材に至っては展示してあるごく少数の品物しか注文できないということが多いのです。サッシ屋(ガラス屋)さんや建具屋さんに注文しようにも、どう注文していいのかわからなかったり、少数の注文すると馬鹿高い値段を請求されたりするケースもあります。このほかにもセルフビルダーの不安としては、本当に素人の自分ができるのだろうか、という漠然としたものから、近所の人に奇異に見られないだろうかとか、もし途中でいやになったらどうしようかとか、といった具体的なものまで様々で、これらの不安が多くの人がセルフビルドを決意するまでに時間がかかる原因です。
そこで、セルフビルダー予備軍が考えるのが、多くのメーカーが販売している「キットハウス」なるものです。材料はすべてメーカーが揃えてくれ、多くのメーカーが技術的な相談に乗ってくれます。輸入もののログハウスや2×4が主流で、近年急速に流通が伸びており、新聞や雑誌で広告を見かける人も多いでしょう。セルフビルドを志す人は一度は検討したことがあると思われますが、既製のキットハウスにはひとつ大きな問題があります。それは、これらのキットハウスは当社の製品もそうですが、実際には大きさや形状が決められており、自分の家を建てる敷地の形や、隣家や隣接道路との関係からそのまま建てられないというケースが多いということです。広い敷地が手に入る田舎と違って都会ではメーカーのキットがそのまま建てられないということが多く、気に入ったキットハウスを見つけたけれども建築基準法に引っかかってしまうことがわかり、泣く泣くあきらめたというケースも多いようです。とくにログハウスは基本的な構造体がすべて「木」であることから防火規制の厳しい地域では建築が認められないキットが多いのです。
以上のように、セルフビルドを志す人達にとって現状は厳しそうですが、最近は設計から施工まで詳しい技術相談に乗ってくれ、しかも格安で資材も提供してくれる会社も少しづづではありますが出てきているようです。町中の敷地でも建てられるオリジナルのキットハウスを設計してくれるメーカーの登場を願いたいものです。

9.安く家を建てたいけれど・・・

家が欲しいけれどもこの不況じゃあ、ちょっと無理。そういえば家を建てる費用の半分は大工さんの手間賃やメーカー手数料なんだって。手間賃や手数料を安くする方法ってないの?こんな夫婦の会話が聞こえるような今日この頃です。実際に日本の住宅は高すぎる、というのは良く聞く話です。ある経済雑誌によれば日本:アメリカ=1.7:1、日本:イギリス=2:1程度だそうで、確かに日本の住宅は高い!ただ欧米の住宅は至ってシンプルであり、日本のように注文住宅が多いのに対して、建売り住宅の比率が多いということもあるようです。また、欧米の住宅では敷地が広いため、狭い敷地で住宅設計プランに悩む日本に比べて単純な構造の住宅であることが多く、これが低価格に作用しているようです。
とはいえ、日本の住宅が相対的に高いのはそれだけではなく、大手メーカーハウスの場合は莫大な営業費や宣伝費、一般管理費がその価格を吊り上げており、また工務店が建てる住宅の場合には、多岐にわたる工種毎にぶら下がっている業者への手間賃の累積が価格への上乗せになっているのが現状です。こうした環境の中、どのメーカー、工務店も低価格化のためのしのぎを削っていますが、長年続いた業界の形態そのものを変えるのはなかなか難しく、ダンピングのような価格で住宅を販売している大手メーカーハウスの新製品をみると、その品質は目を覆いたくなるようなものもあります。また、いわゆる、手抜き工事によって手間を省くことでコストを落としている工務店も増えているなど、これから家を建てようとする人にとってはどこを頼りにしたらいいのかわからない時代となっています。
一方では長引く不況で給料は少なく、低金利が続く好条件にもかかわらず、資金不足でなかなか家作りに踏み切りことができない人も多いと思われます。テレビでは、有名な建築家に頼んで「格安」に「注文住宅」を作ってもらったといったたぐいの特集番組を良くみますが、実際にかかった費用をみると、2000万円とか2500万円近くかかったものが多く、庶民にとってはなかなか手の届きにくい世界のようです。
家をつくりたいけれども資金が少ないという人達の中には、幸運にも良い建築士さんをみつけることができ、少ない予算の中で非常に機能的な家を作ってもらえた人もいますが、星の数ほどいる建築士の中でそうした建築士さんを見つけるのは多分に運が作用したという面もあると思われます。
運頼みによらず、良い建築士さんをみつけたい、あるいは住宅の建築を自分で勉強して、できるだけコストを下げたい、と切に祈っている人は多いと思います。外壁と屋根だけ工事してもらって、あとは自分でやりたいというセルフビルド派だっているでしょう。

最近では、建築士さんの達の中にもセルフビルドで家を建てたい人向けのこうした設計を行ってくれる人も増えているようです。建築士さん達も不況のさ中、なんとかユーザーを増やしたいと思っているはずです。臆することなく、いろんな建築士さんをあたってみて、相談に乗ってくれそうな良識のある建築士さんをみつけましょう。