M4ガスマスク

ガスマスクを使った演習をするジョージ・キャンブラー軍曹 1942年9月 フォート・ベルヴォア、ヴァージニア。

フォート・ベルヴォアは、ワシントンD.C.のすぐ南に位置する場所で、現在、アメリカ陸軍情報保全コマンド(United States Army Intelligence and Security Command 略称:INSCOM)が置かれています。

1977年に、アメリカ陸軍の主要情報部隊を集約して出来た組織で、諜報、防諜、および情報作戦を行っています。INSCOMには、防諜、電子戦、および情報戦における重要な責任があり、さらに、I軍の近代化と訓練にも関わっています。

部隊防護(部隊の安全に関わる情報収集)も携わっており、よくわかりませんが、第二次世界大戦時には、その前身の組織が写真にあるようなガスマスクのテストを行っていたものと推察されます。




ガスマスクとは、毒ガス・粉塵・微生物・毒素などの有害なものや強烈な匂いをするものから体を守るために顔面に着用するマスクで、目など傷つきやすい組織や鼻・口を覆うものです。

初期の物は軍用ではなく民生用だでした。1799年にドイツの博物学者兼探検家で鉱山技師でもあった、アレクサンダー・フォン・フンボルトが開発した粉塵防護用の物が最初だと言われています。

1854年にイギリスでステンハウス式ガスマスクが販売されましたが、これは、普通のマスクに活性炭フィルターを付けた程度で目を防護する機能がありませんでした。

日本でも、幕末の1858年(安政4年)ごろに備後国の医師宮太柱が、銀山における防塵マスクとして、鉄の枠に梅肉を布で挟み込んだ「福面(ふくめん)」を開発し、石見銀山で使用したとされます。

1874年に酸素ボンベを背負って酸欠状態でも活動できるスバートン式が開発されましたが、これが現代でも消防で使用されている物の原型です。

アメリカ軍におけるガスマスク開発の歴史は、第二次世界大戦前あたりがはじまりと思われ、大戦中は「M4ガスマスク」が使用されていました。おそらくは写真のものがそれか、その改良形を実験している様子と思われます。




第二次世界大戦中には大規模な化学兵器戦は行われませんでしたが、各部隊にかならず装備されていたため、次のような本来の用途とは違う使い方もされていたようです。

・キャニスターのフィルターを浄水器の代わりにして飲料水を濾過する。ただし、フィルターが濡れているとガスマスクとして使用できないため、規則で禁止されていた。
・顔面を凍傷から守る防寒具。
・ガスマスクを携行するケース(布または金属製)を、雑嚢代わりに使う。

その後、第一次世界大戦が勃発し、化学兵器が大規模に使用されたことに対する防御手段として各国の軍に採用されるようになります。イギリス軍では、1915年2月に目を覆うゴーグルと民間用のガスマスクをセットにした簡易ガスマスクの支給を始め、その年の後半からは本格的なガスマスクを支給するようになりました。

旧ソ連軍では、自動車化狙撃兵(機械化歩兵)という特殊部隊がガスマスクを呼吸器として流用していました。

演習で戦闘状況に入ると装甲兵員輸送車のハッチがすべて閉められるため、車内の換気が極端に悪くなります。

このため、兵士たちは隔離式のガスマスクを装着し、吸収缶を外すとホースの先端を銃眼から外に突き出して、少しでも新鮮な外気を吸おうとしていたといいます。

アメリカ軍もその後、ガスマスクの改良を重ねています。米軍の装備には代々Mのアルファベットが付けられるのが慣習で、戦後の1960年代にM17ガスマスクが開発され、軍に採用されるとこれがベストセラーとなりました。以後30年にわたってM17A1、M17A2と改良されながら使用されています。

しかし、1991年の湾岸戦争で砂漠での使用に不向きであることがわかると、新型機の開発と配備が急速に進められ、 M40 Field Protective Maskが採用されました。2009年12月からは最新式のM50ガスマスクへの更新が進められています。


M40 Field Protective Mask


最新式のM50ガスマスク

このM50ガスマスクは核・化学・生物兵器に汚染された状況下で24時間の連続使用ができるといい、小型軽量で不快感を減らし、より効果的です。大きな特徴として、フィルターの使用期限が切れると青くなる指標が付けられているそうです。

ちなみに、日本の陸上自衛隊の防護マスクは、「個人用防護装備」の中に含まれており、平成12年に85式防護マスク4型および88式戦闘用防護衣の後継として採用されました。制式名称は「00式個人用防護装備」と呼ばれています。

平成13年から普通科教導連隊や第14普通科連隊等、警備隊区内に重要防護施設が存在する部隊から優先的に配布され、順次戦闘用防護衣との更新が進んでいます。

陸上自衛隊の個人用防護装備

全備重量:7.7kg。防護マスクは内蔵式であり、有毒ガス、液滴、空気中を浮遊する微粒子状物質から全身を保護します。マスクは旧型よりも視界が広くかつ目ガラスが従来のガラスから強化プラスチックに変更されています。また、従来品と違い眼鏡を着用している隊員もそのまま装着出来るように仕様変更されています。

防護マスクは、防護衣ともに有毒化学剤およびフォールアウト(核兵器や原子力事故などで生じた放射性物質を含んだ塵、放射性降下物のことで、一般には死の灰という)に対処できます。防護衣は汗を外部・内部へ発散することが出来るという優れものです。

しかし、地下鉄サリン事件において防護衣を着用した隊員が作業中尿意を催しても対処できず、実に8時間後作業終了後にトイレに駆け込む事案が発生したため、「排尿」を目的とした装備も封入されているそうです。

北の脅威が高まっている昨今、できるだけ使われないことを祈りたいものです。