ランドセーリングを楽しむ男たち

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ランドセーリング(Land sailing)は、サンドヨッティング(Sand Yachting)またはランドヨッティング(Land Yachting)ともいわれ、帆で風をつかんで、これによって生じる揚力を動力として車輪のついた台車を動かすものです。

その車体はランドヨット(Land Yacht)と呼ばれます。通常は三輪車であり、操縦者が座る場所や横になる場所、ペダルやハンドルなどの操作場所を除いて機能は帆船と同様です。

最初にランドヨットが使われたのは古代エジプトといわれ、レジャーの為に作られたと言われています。中国でも6世紀頃、帆を大型の手押し車に据え付けたものが使われたという記録があります。

ヨーロッパでの登場はこれより遅く、16世紀にオラニエ家のマウリッツ・ファン・ナッサウ(通称オラニエ公)が作らせた娯楽用のものが最初といわれています。

このオラニエ家というのは、オランダの王家で、元はドイツ西部のライン地方を発祥とする諸侯の家系でしたが、1568年から1648年にかけてネーデルラント諸州がスペインに対して反乱を起こした「八十年戦争」において中心的指導者となり、その子孫からも優れた軍事指導者を輩出して、オランダの独立と発展に貢献しました。

ご存知のとおり、オランダは平地が多く、風が強いので、農作業用にあちこちに風車が造られ、現在もこの国の風物詩になっていますが、このランドヨットもこうした風車の技術を使って開発されたようです。オラニエ家のお抱え技術者への委託により開発され、同家への客人のためのエンターテインメントとして利用されました。

その後、ヨーロッパでは馬車の安価な代替手段として帆をつけた大型の荷車が舗装道路で利用されることもあったようで、このヨーロッパから多数の移民が移り住んだアメリカでは、西部のユタ州北部にある、巨大な塩水湖、グレートソルト湖などでも塩の輸送手段として利用されていました。

しかし、その後はレジャーやスポーツ用としての要素が強くなり、1909年にベルギー、フランスの砂浜で最初の競技が行われました。冒頭の写真は、1903年撮影とされていることから、このころアメリカでもレジャーやスポーツ目的でさかんに使われていたことが推察されます。

下の写真は、フロリダ州のオーモンドというところで撮影されたもので、このオーモンドは、デイトナビーチのすぐそばにあります。デイトナ24時間レースでも知られるデイトナ・インターナショナル・スピードウェイのある場所であり、全米のレーサーたちのメッカでもあります。

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1936年に、デイトナビーチでレース用に改造された車、「ストックカー」によるレースが初めて開催されたのが、この地がその後モーターレースのメッカになったきっかけかと思われますが、これより30年近く前から、この地ではこうしたランドヨットによるレースが行われていたに違いありません。

ランドヨットは、1950年代からレーシングスポーツとして発展するようになり、1960年代からは、三輪でポリエステルやガラス繊維、金属製のカートと一緒にマストや堅い帆を用いた近代的なランドヨットも登場するようになりました。

ランドセーリングの適地は、風が良く吹き平らな場所で、現在におけるレースは、砂浜や飛行場、乾燥した塩湖などの湖や砂漠地帯などで行われます。レースにおける操縦者(ランドセーラー)は「パイロット」と呼ばれます。

というのも、その最高速度は水上のヨットより速く、風速の3~4倍もの速い速度が出ます。時速203kmの記録もあり、車輪の代わりに橇を用いるものは時速230kmを出した記録もあるそうです。凍った湖や河川で行われるこうしたランドヨットは、「アイスヨット」と呼ばれることのほうが多いようです。

日本でも最近は、趣味としてこのランドセーリングの愛好家が増えているようで、「日本ブローカート協会」なるアソシエーションまでできているようです。

同協会では、一般体験レッスン会や講習会を行うとともに、学校や企業などへも普及活動を行っているようです。みなさんも来年、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。