今日は、二百十日でしかも満月だそうです。二百十日というのは、立春から数えた日数で、
気象学的には、季節の移り変わりの目安となる「季節点」のひとつです。その昔、このころには、台風が来て天気が荒れやすいと言われ、奈良県大和神社で二百十日前3日に行う「風鎮祭」、富山県富山市の「おわら風の盆」などのように、各地で風鎮めの祭が催されてきました。
しかし、実際にはこの日に台風が多いという事実はなく、9月中旬の台風襲来を前にして、210日頃の台風はむしろ少ないそうです。
満月のほうは、ご存知のとおり、地球を真ん中にして月と地球と太陽とがほぼ一直線になる日で、地球から月をみると、太陽の光を全面に受けて、まんまるにみえます。逆に「新月」は、月が地球と太陽の真ん中に入るので、地上から月をみると明るいところのない真っ黒な星にみえます。
この当たり前の事実を、子供のころにはどうしても理解できなくて、学校の理科のテストで×をつけられたのを覚えています。その後、大人になっても、ある時期までは理解していなかったなぁ。人間というのは、日常の生活をするのに支障がないことには感心を持たないものですね。
ところが、月が人間の生活に全く関わりがないかというと、とんでもない勘違いで、月の重力は地球に影響を及ぼし、潮の満ち引きを起こしていますよね。潮汐変化は、海にかかわって生きている人たちにとっては大きな環境変化であり、海水面が高いか低いかによってどういう漁をするかの判断をしなければなりませんし、港を出入りしたり、海岸近くを航行する船は、潮の満ち引きを考慮に入れていないと、座礁してしまいます。
潮汐の変化は、海の中では潮流にも影響を与えます。地球をとりまいている海を流れる潮流は、季節変化や、地球の自転による大気の変化によってその速度や方向が決まりますが、その流れには月からの引力の影響も及んでいます。
海流の変化は、即地球の環境の変化につながります。南米チリ沖のエルニーニョやラニャーニャ現象が、日本の暑さや寒さに大きな影響を与えているのは周知のところです。このエルニーニョやラニャーニャ現象によってかき回された海水は、やがて月や地球の公自転によって影響を受けた潮流によって、日本付近にまで運ばれ、我々の四季環境にも影響を与えるのです。
さらに、漁師たちは月齢を見て漁をします。満月の夜水面に集まる魚たち、半月によく取れる魚たちがいることを知っているからです。これと同じように、農家では、地上に実をつける作物は新月がすぎ満ち始めるときに植え付け、地中にできる作物は満月がすぎ、欠け始めてから植えつけます。
このように、月の満ち欠けは、人間の生活に密着しているといっても過言ではなく、もし月が無くなったら、この世の風景は全く違ったものになっているに違いありません。一説によると、もし月がなかったら、地球の自転速度は現在の4~5倍となり、地上では突風が吹きすさび、とても人間の住めるような環境ではなくなるといいます。
毎晩のように夜空に出るお月様を両手を合わせて拝む人がいますが、これこそまさに月に対する正しい礼なのです。
生理的、精神的影響?
でも、ほかにはたいして影響ないじゃん、月の光で「月焼け」するわけじゃなしという人もいますが、本当にそうなのでしょうか。確かに、満月の光の強さは昼間の太陽に比べたら10万分の1くらいの強さしかなく、これくらいなら少なくとも月焼けが「目立つ」心配はなさそうです。
しかし、昔から、月齢が出産や人が死ぬ時期に影響しているという話はよく聞きますし、ドラキュラや狼男のお話などに代表されるように、月が人間の生理的、精神的な面に影響し、その理性を狂わせてしまう、というのはよく言われることです。
月はぐるぐると地球のまわりを回っていますが、「月に一度」地球と月と太陽が一直線になったとき、月の重力によって海水面が持ち上げられて海水面の高さが最も高くなり、「大潮」になります。大潮は満月のときにも新月のときにも起こりますが、新月のときには、太陽の側に月が移動しているので、太陽の重力も加わるため、満月のときよりも若干、大潮の高さが高くなります。
新月であれ満月であれ、いずれの場合も海の水は月に最も引き寄せられますが、このとき、月の引力の影響を受けるのは海だけでなく、人間の細胞も大きな影響を受けている、という説があります。
月の重力にひっぱられて細胞内で電位に変化があるのだそうで、この電位変化が微弱な電流を発生させ、これにより自律神経が刺激され、人は興奮状態になりやすいといいます。
こうした説の代表例としてよくとりあげられるもののひとつに、アメリカの精神科医アーノルド・L.リーバーという人の研究で、「バイオタイド(体内潮汐)理論」というものがあります。人間の体内に含まれる水分にも、海の潮の満ち引きのようなものがあり、それが満月や新月のときに人を狂わせる、という現象を引き起こしているのはないか、というのです。
マイアミの精神科医であるアーノルド・L.リーバー(Arnold L. Lieber)は、精神科病棟の患者の行動が周期的に乱れることに気付いていました。病棟の看護婦らも同じように言動や態度が不自然になるような「気がして」いましたが、その因果関係については、何の確信も持っていませんでした。
しかし、長年の勤務で、どうしてもこの原因をつきとめたくなったリーバーは、いろいろ考えた末、人間の体内80%を占める「水分」が、海の満潮・干潮と同じように月の引力の影響を受けるのではと考えました。そして、これを生物学的な潮汐(バイオタイド)と名づけ、月という天体の活動と人間行動の相関を、科学的に解明しようとしました。
しかし、彼が行った研究は、他の研究グループが、月齢と「死亡時刻」との関連を検証したり、患者の精神状態を計るなどの臨床的アプローチをしたのに対して、月齢の変化と事件や事故の「発生時刻」の相関を統計的に明らかにするという、医療からは少し離れた見地からの検証でした。
検討の結果、他の研究グループが「死亡時刻」で統計を取って出した結論が、有意性を損ねた結果であったのに対し、リーバー博士の検証では、かなりの有意性が認められ、彼は月齢と事件や事故の数との間に関連があることを確信します。ただ、事件や事故において、実際に人間がとった異常行動の「内容」との因果関係については、リーバー博士ははっきりとした結論を下せませんでした。
リーバー博士が出した結果は、統計学的にも多分に流動性のあるものだったようで、その方面の専門家からも疑問の声があがっています。しかし、「月が人の心を狂わせる」という、いわばオカルティズムの世界に対して、いまだ確実性が高いとはいえず、発展途上にある精神医療的な見地からチャレンジするのではなく、結論が明らかになりやすく、分析方法の確立している統計学の方面から挑んだ姿勢は好ましく思えます。
しかし、リーバー博士は、このほかにも驚くべき結果を出しています。月齢の周期は平均で29.531日ですが、彼が無作為に抽出した女性たちの生理現象の周期を調べたところ、この周期が月齢の周期と完全に一致したというのです。妊娠期間の平均日数は265.8日であるといいますから、これをこの月齢29.531で割ると、9.00071となり、一般的な妊娠期間の平均の月数である9ヶ月とほぼ一致します。
やはり人間の生理現象は月の満ち欠けと関係している、と思わざるを得ない結果であり、だとすると、精神面でも影響を受けているのは間違いない、と考えてもおかしくないのかもしれません。
月明かりの影響
満月のときには、とりわけ犯罪が多いという話も聞きます。これは、リーバー博士たちのような科学的なアプローチによって出された結論とは必ずしも一致しません。
なぜなら、新月のときにも、潮汐の大きな変化が起きるのに、なぜ満月のほうが犯罪が多いのか説明がつかないからです。しかも、新月のときのほうが、満月のときよりも大潮の高さはより高くなります。新月のほうがより犯罪が多くてもおかしくないはずです。
満月のときになぜ犯罪が多くなるのかについては、諸説があるようですが、それらの説でまず第一にとりあげられるのは、「月明かり」ということです。
満月の夜というのは、手元に灯りが必要のないほど、明るいものです。狼男が変身するのも満月の夜ですし、ジキル博士とハイド氏のハイドは、満月の夜になると性格が一変し凶悪犯罪を繰り返します。
逆にドラキュラはこの満月が苦手で、満月になると棺桶に隠れてしまいますが、これは月の光を浴びると死んでしまうからです。こうした物語にもとりあげられてきたように、月の明かりというのは、古来から人間を狂わせる、といわれてきました。
ロンドンの「切り裂きジャック」や「ボストンの絞殺魔」「サムの息子」による殺人は、新満月の夜に行われました。1976年に、サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジで9件も連続した投身自殺は、満月の前後に起きています。
精神科の入院患者は、満月の夜に乱れ、騒ぎ始めることが多いといい、月経を前にして、体がむくんだり、緊張やいらだちなど生理的ストレスのため体調をくずす女性も多く、こうしたときには、突飛な行動を起こしやすいともいわれています。
外科医の中では、満月の夜の手術ではなぜかいつもより出血の量が普段より多いと感じる医者が多く、このため、満月の夜には、医者たちは通常よりも準備を早めにしたり、避けたりする人がいるそうです。
交通事故でも、大きな亡事故が起こるのは満月に近い日が極端に多いそうで、兵庫県警の巡査部長が月齢と交通事故の発生件数を調査したところ、死亡事故に関しては、新月・満月の時期に集中しているという結果が得られたということです。
なぜ、月明かりが人を狂わせるのか、についての科学的なアプローチもあるようですが、いろいろ言われている中で、もっともだと、うなづけそうなのは、月明かりが人間の防衛本能を呼び覚ますためだというもの。
人間は、何万年もの昔から地球で暮らしていますが、今のように立派な家屋がなかった太古において、人は洞窟や森に棲んでおり、そこには猛獣や毒蛇などあらゆる外敵がいました。また、人間同士での争いもあり、こうしたなか、満月の夜は周囲が明るすぎて、自分の位置がこうした外敵にばれてしまいます。そのような状況の中、一晩中ドキドキしながら過ごすわけで、そうした状態では人間の体の中にはアドレナリンがより過剰に分泌されます。
アドレナリンが過剰に分泌されると、理性を逸脱したような興奮状態でなることは医学的にも証明されていますから、今のように家に住む前の古代、何万年もの間そうした暮らしを続けていた人間は、月の光をあびると、アドレナリンが分泌され興奮状態になりやすく、そうした生理的な性質が長い間にDNAに刷り込まれていった、という説です。
近代になっても、その昔は街灯などの電気の照明が普及していませんでしたから、満月の夜は明るくて夜歩きしやすかったはずですが、反面、出歩く人が多くなれば、犯罪も起きやすいもの。だから、月夜には犯罪が起きやすい、という説もあります。
いずれも至極シンプルなために、なるほどと思わせる説得力があります。
「lunatic」は、英語で「狂人」を意味しますが、これはラテン語で「月に影響された」という意味の言葉が語源となっています。神話や民間伝承などでも、月と狂気を結びつけたものは世界中に数多く存在してます。
ここでいう「月」が必ずしも満月をさすものではなりませんが、古来から人間が月に心狂わされる何かパワーのようなもの感じていたことだけは確かなようで、パワーといえば、やはり明るく輝くお月様です。新月の真っ暗な夜空にパワーは感じませんから。
このように、「月の明かり」にはやはり何かある、と考えてしまうのは私だけではないと思います。では、月の明かりは本当に我々に悪影響ばかりを与えるだけで、良い影響は与えてくれないのでしょうか。
残念ながら、私が調べた限りでは、やはり満月のときに人間に良い影響を与える、という話はあまりありませんでした。
逆に新月のときには、良いことがあるというお話も多いようです。
オーストリアでは12月の新月の夜に伐採した木で家を建てると10倍は長持ちすると言い伝えられています。また、ホルンやバイオリンなどの木製楽器は、新月に切った木で作ると音が全然違うといいます。日本でも、ある大学の先生が研究した結果、満月のときに切った木は黒カビがびっしり発生しましたが、新月のときに切った木はほとんど発生しないことを突き止めたそうです。
やはり満月の夜はダメみたいです。ただ、こんな話もあります。
恋人同士が、ロマンチックな満月の夜にデートをします。このとき、お互いを想う気持ちが強ければ、その相手を思いやる力がさらに強まり、二人の仲はより強固になっていくというのです。
しかし、もし二人の仲がうまくいっていないときに満月デートをしたら……
そのときは、相手を嫌う気持ちが強まり悲しい結末をむかえるかもしれません。なので、心当たりのある方、月夜のデートはやめましょう。そして、新月の夜、新月に切った木で作ったバイオリンを相手のために奏でながら、一夜を過ごしましょう。きっと、9ヶ月後の新月の夜、かわいい赤ちゃんができると思います。