昨日のこの町は、終日雨交じりの雪でした。もっとも、麓の修禅寺では終日雨だったようで、雪が降っていたのは、標高の高いここから、達磨山にかけての高地だけだったようです。
この降雪のおかげで、終日陽がささず、夕方までの気温も5℃以上なることはとうとうありませんでした。
それでも終日零下になるのが当たり前の、日本海側の地方や東北北海道などに比べればましなほうであり、そこは暖地であるこの地のメリットではあります。が、それでも夜はさすがに冷えるので、最近の夕食はというと、ほぼ毎日のように鍋になっています。
簡単に用意でき、かつ暖まるし、野菜もたくさん採れる、ということで我が家では冬場の定番なのですが、この鍋においていつも欠かせないのが、キノコです。
色々な種類がありますが、通常スーパーで出回っているのがエノキタケや、シメジ、エリンギなどですが、ここ伊豆ではやはり名産地ということで、シイタケが安く売られていることが多く、我が家でもたいがいこの黒いダイヤモンドが鍋の中央に座ります。
そのエキスから出る独特のダシも鍋のスープの味わいを引き立たせてくれ、食べても非常に美味な逸品です。無論、その他のキノコを入れてもおいしく、キノコオンパレードにして「キノコ鍋」にするのもまたオツなものです。
このキノコですが、例によって改めてこれが何者かを調べてみる気になりました。いろいろな病気を引き起こす、バイキンに近いもの、ということは薄々知っていたのですが、キノコはこのうちでも、比較的大型のもので、厳密な定義があるわけではないものの、無論、微細なバイキンとは明らかに異なり、植物でもありません。
どちらかといえば「カビ」に近く、このカビと共に」「菌類」という生物群にまとめられるようで、この菌類の特徴は、「菌糸」と呼ばれる管状の細胞列を持ち、これが体外の有機物を分解吸収することで生長し、繁殖を繰り返します。
ただ、一概に菌類といっても大きいものも小さいものもあり、その姿はカビに見えたり酵母状のようなものであることもあり得ます。その場合、たとえば枯れ枝の表面などに張り付いていたり埋もれていたりする微小な点状のものもキノコです。
しかし、一般的は「キノコ」と言えばより大きい、傘状になるものを指し、たいてい日陰や湿ったところに生えます。実際にそういうところで目にする場合が多いわけですが、ただ、キノコの側からすれば、好んでこうした暗くて陽の当たらないところに育っているわけではないようです。
というのも、キノコは地下性のものを除けば、もともとその成長のためにはある程度の光が必要な場合が多いそうです。また、キノコは繁殖するために、その胞子を外界に飛ばします。このため、広い空間が必要であり、朽ち木の中の閉じた空洞で胞子を飛ばしても仕方がないので外に開かれた場所で成長する必要があります。
しかし一方では、自らの体を作る菌糸は、湿った場所でしか育ちません。キノコ自身は明るい場所が好きなのですが、明るい場所は乾燥しやすく成長するにはあまり良い環境とはいえません。スポーツは大好きなのだけれども、炎天下で運動すると肌が弱く日焼けしやすいので、室内でしか運動できない体質の子供のようなものです。
このため、開けてはいて多少陽はさすとしても、周囲に比べるとやはり暗く湿ったところが生育場所にならざるを得ないわけです。が、真っ暗で閉鎖的なところではキノコは太く大きな傘を形成することはできません。その代表例がびん栽培のエノキタケです。
か細くひょろ長くなり、一応キノコの形はしていますが、同じく冷暗所で育てられるモヤシのようです。自然に生えたエノキタケは立派な傘を持っており、びん栽培のエノキとは明らかに違います。
無論、この自然に近い状態で育てたエノキもエノキタケとして販売されています。びん栽培のものとは食感も全く違うし、別の種類だと思っている人も多いでしょうが、同じものです。
このほか、キノコは雷が大好きだ、という話をご存知でしょうか。落雷した場所では大量のキノコが生育しやすい、という話は、ギリシャ時代の哲学者、プルタルコスが「食卓歓談集」という本に記しているほどで、昔から事実とされてきました。
落雷によるショックで防衛本能から子孫の増殖本能が働くため、そうした場所ではキノコが増えやすい、と考えられているようです。実際に木材腐朽菌のシイタケ、ナメコ、クリタケ、ハタケシメジの4種類のほだ木に人工的に交流の高電圧パルスを与えた栽培実験では、2倍程度の収量が得られた事が報告されています。
ギリシャ時代からこうした事実が知られているほどですから、人類は昔からキノコが大好きです。食用としてのその歴史は古く、ギリシャ時代には焼いて食べるくらいだったようですが、後世の古代ローマ時代からは、色々なキノコ料理が発明されるようになりました。また、薬用としてもいろいろな使い方をされてきました。
日本においても古くから身近な存在であったようで、縄文時代の遺跡からは既に「きのこ型土製品」も出土しているほか、シイタケなどの人工栽培が普及し、このほか漢方薬としても使われてきた歴史があります。霊芝や冬虫夏草などがそれであり、また最近では健康食品としてアガリクス(ヒメマツタケ)なども重用されます。
ただ、ご存知のようにキノコには、食べられるものと食べられないものがあります。食べられるものは、「食用」ですが、食べられてもまずく、非常に硬く食用にされないもの、毒性が不明なものは、「不食」とされます。また。毒または猛毒で間違って食べれば大きな副作用のあるものもあり、これはいわゆる「毒キノコ」と呼ばれるものです。
このうち、食用キノコについては、現在世界では一年間に800万tが食べられているそうです。その多くは人工栽培されたものでしょうが、無論、自然から採取して食べる風習は日本だけでなく、世界各国であります。
ちなみに、キノコは英語では、マッシュルームといいますが、日本でいうところのマッシュルームは、もともとは商品名です。正式な名称はセイヨウマツタケといい、和名はツクリタケです。これもご存知でない方が以外に多いものです。
このセイヨウマツタケもまた、人工栽培がさかんですが、元々は自然にあったものです。それを最初に見つけて、食べられるかどうかを試した人は勇気がいったと思われますが、他のキノコも同じであり、食べられるキノコと毒キノコ類を見分けるのは、簡単ではありません。
キノコの形態は多様であり、その様々な特徴において毒があるかないかを見分ける、ということが先人により行われてきました。現在でも古人の経験則を頼りに同定するわけですが、ただ、上で述べたように元来キノコは菌類、つまりカビと同じように毒性をも持ち合わせている可能性の高い、微細な仕組みの生物であることを忘れてはなりません。
それが多数積み重なって肉眼的な構造を取ってはいるものの、カビと同様に微生物としての目に見えない部分の特徴が実は重要です。従って、みかけでは、食べられる、と判断しても、胞子などを顕微鏡で見れば実は違っていた、なんてこともあり得ます。
もちろん、熟練したキノコ狩りの達人ならば、顕微鏡を使わずとも、大抵の同定を正しく行えるわけですが、これはその地域に出現するであろう類似種や近似種の区別を、その地に住んでいるならではの土地勘というか環境勘というか、そうした知識によって知っているからできるためだといわれています。
他地域に行けばこうした名人でも見分けられない可能性があるわけで、また「キノコ図鑑」なる絵入りのガイドブックなどもあるようですが、外形の写真だけの図鑑での同定は基本的には正しくできない可能性がある、と考えていたほうが良いといいます。
毒キノコの確実な見分け方は存在せず、いわんや、キノコの同定の経験に乏しい人が野生のキノコを食べるのは非常に危険です。食用キノコか否かを見分ける方法は、実際に食べてみるしかない、とまで言われているようです。
一般に言われているように、毒キノコは必ずしも色が派手なものとは限りません。このほか、「たてに裂けるキノコは食べられる」「毒キノコは色が派手で地味な色で匂いの良いキノコは食べられる」「煮汁に入れた銀のスプーンが変色しなければ食べられる」「虫が食べているキノコは人間も食べられる」といった見分け方もありますが、これも迷信です。
何の根拠もなく、事実、猛毒であるコレラタケ、ドクササコなどはたてに裂け地味な色であり、こうした俗説を信じて、野にあるキノコを口にしてはいけません。食用か毒かを判断するには、そのキノコの種、さらにはどの地域個体群に属するかまでの同定結果に基づくべきです。
実際に起きているキノコによる中毒の多くは、既に毒であることが知られていたキノコであるにもかかわらず、これをミスジャッジして食べてしまったことによるものです。必ず専門家の知恵を借りて、安全性を確認しましょう。そしてその専門家も、本当にプロと言える人だけを信じるようにしましょう。
キノコ狩りのプロ、と言われるような人でもその地域のキノコのことしか知らない場合が多く、常住の人達だけに伝わっている俗説に基づいて毒キノコかどうかを同定している場合があるわけです。
これらのよく知られた俗説が全国区の権威あるものとして広まった背景としては、一部で流布していた俗説を事実であると誤認した内容が、明治初期の官報に掲載されてしまったためであるとも言われています。
なお、ハエトリシメジのように人間とそれ以外の生物では毒性がまるで異なるものもあります。この場合は昆虫などに猛毒で、人間への毒性は微弱であり、このように摂取する動物により毒性の程度が異なるキノコも多数存在します。
このように、キノコはさまざまな種類のものが食用となる一方で、人間にとっては猛毒になる毒キノコも数多く存在するわけです。が、その毒についても致命的な毒を持つものから、中程度の毒を持ち神経系に異常をきたすもの、軽い症状で済むものなど色々です。
摂取すると、嘔吐、腹痛、下痢、痙攣、昏睡、幻覚などの症状を生じ、最悪の場合死に至るようなものは最も危険ですが、このほか、長期にわたる体の麻痺を生じるようなキノコや、変わったところでは、アルコールと一緒に食べると中毒を引き起こすヒトヨタケのようなキノコもあります。
しかし、一般に毒キノコとされる、ベニテングタケ、シャグマアミガサタケなどある種の毒キノコは調理によって食用になる場合もあります。ただ、これらは例外であって、ほとんどの毒キノコはどう調理しても食用になりません。「ナスと一緒に食べれば中毒しない」といった説もありますが、これも迷信です。
ところで、このベニテングタケは、摂食した際の中毒症状として「幻覚作用」を起こすことが知られています。
東シベリアのカムチャッカでは酩酊薬として使用されてきた歴史があり、西シベリアではシャーマンが変性意識状態になるための手段として使われてきたように、ベニテングタケはシベリアの文化や宗教において重要な役割を果たしてきました。
古代インドの聖典で「リグ・ヴェーダ」というものがあるそうですが、ここに登場する聖なる飲料「ソーマ」の正体が、実はベニテングタケではないかという説もあるようです
日本では、覚せい剤としての使用の歴史はないようですが、少量摂取では重篤な中毒症状に至らず、軽い嘔吐程度で済むことなどから、長野県の一部地域では塩漬けにして摂食されているそうです。
ただ、本種を乾燥させると、毒性が強化され、また長期間食べ続けると肝臓などが冒されるといいます。有効成分は水溶性であるため、加熱調理を加えれば部分的には解毒することもできますが、いずれにせよ有毒菌であるため本種の喫食は厳に慎むべきです。
しかし、現在のところ、国際連合の国際法で未規制のため、日本を含めたほとんどの国ではベニテングダケの所持や使用は規制されていないようです。
しかも、ベニテングダケ以外にも、日本には幻覚症状を起こす種類のキノコは多数自生しており、実際には野放し状態であり、規制されていません。ところが、「マジックマッシュルーム(Magic mushroom)」のように脱法ハーブとみなされ、規制されるものが最近は増えてきました。
幻覚成分であるシロシビン、またはシロシンを含むキノコであり、日本ではこれらの成分を含有するキノコを、「麻薬原料植物」として規制対象にしており、許可なく栽培することが禁じられています。
ただ、日本を含め、世界に100以上の種が存在しています。栽培が禁止されているため、目につくところにはありませんが、実際は似たような品種が、自生している可能性もあります。そしてこれらをひそかに栽培、もしくは許可なく輸入し、裏世界で生成して販売している業者が出るようになりました。
1990年代より、既にサブカルチャー向け雑誌等で脱法ドラッグの一種として紹介されていたといいますが、当時はこうした麻薬になる品種の栽培を規制する法律がなく、また栽培も容易であり、野放し状態でした。
ところが、その後、「デザイナー・ドラッグ」と呼ばれるものが増えるようになりました。法律で麻薬に指定されている化学物質以外に、化学式が非常に良く似ている物質を、これらの品種から抽出して合成したものです。麻薬に似てはいるものの、厳密には指定されていない薬物であることから、違法でないとしてこれを製造する輩が増えました。
そして、これが「脱法ドラッグ」、もしくは「脱法ハーブ」と呼ばれるものです。その後は、インターネットの普及も手伝って流通するようになり、やがて大きな社会問題となりました。
このため、このマジック・マッシュルームものちには規制の対象となり、薬として、また食品として販売することはそれぞれ薬事法、食品衛生法に触れるようになったわけです。
それでも、「観賞用」等の名目で販売されることが多かったといい、雑誌の通販などでほそぼそと販売されていましたが、インターネットの普及でより広範に販売されるようになりました。2001年には、俳優の伊藤英明さんがマジックマッシュルームを摂取して入院するという騒動が発生し、騒ぎを大きくしました。
このマジック・マッシュルームとは、もともとは、古代メキシコなどでシャーマンが神託を得るために食べるものであったとされます。その後も南北アメリカ大陸を中心に神聖なる物として扱われ、アメリカの先住民は、先コロンブス時代から数世紀にわたり、マジックマッシュルームを宗教儀式や病気の治療などに用いてきました。
グアテマラのマヤ遺跡では、キノコの形をした小型石像がいくつも発掘されているといい、14〜16世紀に栄えたアステカ王国では、「神の肉」を意味する「テオナナカトル」と呼ばれ、キノコを食べる先住民の姿などが描かれた写本も残っています。
またアステカの花の神、「ショチピリ像」には、幻覚キノコや幻覚性植物の彫刻が身体にほどこされているといいます。
その後、スペインによる征服とカトリック布教に伴い、幻覚キノコや植物の使用は弾圧されたようですが、現在でも南北アメリカの人里離れた地域では現在でも用いられているようです。
1950年代に、アメリカのキノコ研究者ロバート・ゴードン・ワッソンらの実地調査によって初めてこのキノコの存在が明らかにされました。さらには、1959年ごろアルバート・ホフマンという学者がこの幻覚成分を特定し、成分にシロシビンとシロシンと名をつけました。
1960年にメキシコでマジックマッシュルームを食べた心理学教授のティモシー・リアリーという人は、自らこれを摂取した結果、神秘体験をして衝撃を受け、オルダス・ハクスリーやリチャード・アルパートらと共に研究を開始。
刑務所の囚人や、400人ものハーバード学生らにシロシビンの錠剤を投与した結果、前向きな変化が現れることを確認しました。神学校の学生に投与した際には、10人中9人が本物の宗教的な体験をしたと報告したといいます。
そして、1970年代に入ると、LSDの規制に伴いナチュラルな幻覚剤の人気が上昇します。LSDは化学的に人工合成された強い麻薬ですが、比較的簡単に製造できるこの薬が規制されたことからマジックマッシュルーム栽培が一躍着目され始めます。
ガイドなどが出版されるようになり、ハイ・タイムズなどのカウンターカルチャー雑誌は、自宅でマジックマッシュルームを簡単に栽培するための菌糸や栽培キットの販売を行うようになりました。
カウンターカルチャーとは、既存の・主流の・体制的な文化に対抗する文化、「対抗文化」という意味です。またハイ・タイムズ(High Times)はアメリカで販売されている雑誌であり、嗜好品としての大麻の使用の合法化を強く主張しています。大麻に寛容なカナダ、アメリカ西海岸などでは、コンビニエンスストアでも気軽に入手可能な雑誌です
それでは、このマジックマッシュルームの実際の作用はどういったものかというと、まず肉体的作用としては、脱力感、悪寒、瞳孔拡散、嘔気、腹痛などが挙げられます。問題は知覚作用であり、これは視覚の歪み、色彩の鮮明化などがあり、これは瞳孔が拡散するために起こるとされます。
このほか、皮膚感覚の鋭敏化、聴覚の歪みなどが挙げられ、閉眼時にも視覚的な認識があり、何らかの模様や色彩的な変化を感じます。LSDの知覚的作用に良く似ているといい、しかし視覚的な変化はLSDを上回るといいます。
摂取より1時間ほどで効果が現れ、5時間から6時間ほど持続し、ほかの薬物摂取と同様に摂取時の周りの環境や自分自身の精神状態の良、不良により、経験する内容も大きく変わります。また、効果が消えてからも、摂取経験からくる何らかの偏執に捕らわれることもあるそうです。
その摂取により、感情の波が激しくなり、摂取者の経験に因る部分もあるが自身での感情のコントロールが難しく、偏執に捕らわれることも多いといい、基本的にはハッピーな気分になる、すなわち「多幸感」と呼ばれる感覚を伴います。
が、感情の波がネガティブな方向に向かってしまう、いわゆる「バッド・トリップ」になるとパニック症状を起こしたり、ネガティブな偏執に捕らわれたりします。つまり、「幻覚」を見るわけです。
この幻覚とは、見たことがない人にはさっぱり理解できないものです。無論、私もみたことはありません。
定義としては、対象なき知覚、即ち「実際には外界からの入力がない感覚を体験してしまう症状」をさすようで、幻聴、幻視、幻嗅、幻味などの幻覚を含みますが、四肢を失った人が良く感じるという、幻肢もまた、幻覚だそうです。
ただ、錯覚実際に入力のあった感覚情報を誤って体験する症状は幻覚ではなく、これは「錯覚」と呼ばれるものであり、あー勘違い、というアレです。
この幻覚は、マジックマッシュルームのような麻薬などの服用によって起きるわけではありません。また、精神病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などといった、特殊な状況でのみ起きるわけでもなく、正常人であっても起こりうるといいます。
夜間の高速道路をずっと走っている時など、刺激の少ない、いわば感覚遮断に近い状態が継続した場合に発生することがありますが、これも幻覚の一種だそうです。このほか、アイソレーション・タンク(Isolation tank)のように徹底して感覚を遮断することでも幻覚が見られることが知られています。
これは、内部に人間が浮かぶ程度の比重を持った液体を入れ、光や音を遮蔽した小部屋ないし大きな容器のこと。アイソレーション(Isolation)とは分離を意味します。1990年代以降はヨーロッパを中心にフローティング・タンク(floating tank)と呼ばれることが多いようです。
感覚遮断(感覚遮蔽)の効果をみるためにジョン・C・リリーという人が1954年に考案し、現在では心理療法や代替医療としても使われています。タンク内部の液体は通常、濃度の高い硫酸マグネシウム溶液が用いられ、液体に浮かんだ人間が温度差を感じないように人の皮膚と同じ温度に調整されます。
この部屋に入り、液体に浮かんだ人間は視覚・聴覚・温覚を完全に、また重力によって発生する上下感覚からある程度遮蔽されます。タンクには、温水が浅く張られ(約25cm)、温水には硫酸マグネシウムが溶かされており、非常に濃い塩水となっています。
その濃さは死海、あるいはグレートソルトレイクよりも、遥かに浮力が高い程で、水の中に仰向けに横たわる人は、コルクのように水面に浮かぶことが可能だといいます。扉を閉めるとタンクは完全な闇になります。外からの視覚刺激が全く無い状態は、我々のほとんどが通常の生活では経験できることはない体験です。
タンクの中では、あまりも暗いために、目を開けているのか閉じているのかさえも分からない状態となり、耳は水面下にあって、耳栓をしているために、外の音も全く聞こえません。これもまた通常では全く経験しない体験です。光と音の両方が消され、またタンクに入れられる水温は、肌の表面温度に等しいため、暖かくも冷たくも感じないそうです。
このため肌と水の境目がわからなくなり、温痛覚、触覚などの皮膚感覚のブランクアウトが生じます。また、体が浮くことによってなくなるもう一つの感覚は、重力による圧力で、これは「深部感覚」といいます。
この感覚を感じるようになると、それまで毎日、一日中顔を突き合わせている重力から解放されます。日常における我々の神経活動の90%は、どこに重力があるのか、どちらの方向を向いているのか見極めること、そしてどう動けば倒れずに済むのかを考えることに無意識に費やされているそうですが、そうした重圧から解放されるわけです。
タンクで浮き始めると、それまでずっとしてきていた、あらゆる重力計算から即座に解放されるため、このため、今まで分散されてきた意識の集中が解放され、この解放される意識の中には「無意識」も含まれます。
そして、これらのすべてが一つのことに向かい集中されることにやがて自ら気づくといい、それはまるで、月と地球のどこか中間に浮かんでいて、自分にかかる引力が全くない状態のようだといいます。もちろん動けば自分がどこにいるのかはわかるわけですが、動かなければ、周りの世界は全て消え、事実上自分の体を全く感じなくなります。
このようにアイソレーション・タンクを使えば、呼吸を整える、何かを集中して見つめるといった瞑想テクニックが、到達しようとして努力していながらなかなか得られないでいる感覚が得られるといいます。最新のテクノロジーを用いて、素早く、簡単に、確実に、しかも安全にこうした体験ができるわけです。
仏教では、特に密教では仏に対する讃歌や祈りを象徴的に表現した短い言葉、「マントラ」を繰り返すことで、無我の境地に至るとされます。これが、発展したものがいわゆるヨーガにおける音声による修行であり、アイソレーション・タンクによって得られる効果も、これと同じだといいます。
そして、初めてアイソレーション・タンクを体験する人でも、このヨーガと同じように、数分のうちに自分の体が消えてなくなるように感じ、完全な闇、音の無い虚空の中に、無重力状態で浮遊していると気づけるといいます。
また、最近は心理療法としても使われるようです。使用後20分ほどで脳波は覚醒時のアルファ波やベータ波からシータ波に脳波が移行するといいます。シータ波は就寝前や起床前に見られる脳波であすが、このタンクの中では意識が飛ぶことなくシータ波が数分間観測されるようになるとのことで、この状態が治療上必要です。
シータ波が観測される状態とは、自分と他との境界の消失、あるいはその逆に融合などにつながる体験だそうで、これが痛んだ心を癒してくれるわけです。
また、多くの研究者が、フローティングには大きなストレス軽減効果があると言っているようです。アメリカの有力大学の一連の研究では、定期的にフローティングすると、心拍数、酸素消費量、ストレスに関連した血液中の副腎皮質刺激ホルモン、乳酸塩、アドレナリンなどのレベルの低下がみられたといいます。
そして、それら生化学物質はセッションのあと数日間、場合によっては何週間も、低レベルに抑えられていることも示されたといいます。
うつ病にも効く、とされます。1960年代からの研究により、慢性的な精神的なストレスと肉体的ストレスの間には高い関連があり、慢性的な高いストレスはうつ病の原因となることが知られています。
そしてアイソレーション・タンクの精神的、肉体的なリラクゼーション作用は、こうしたストレス緩和に有効であり、感情のバランスを整え、うつ病を予防する作用があると考えられているようです。
無論、アイソレーション・タンクは、こうした医療目的だけではなく、気軽にリラックスしたいときにも有効です。
無重力で浮かぶフローティングは、他のいかなる方法でも体験できないほどの深いリラクゼーションが体感できるといい、この深いリラックス体験は体内の免疫力や恒常性を賦活し、交感神経と副交感神経のバランスを改善します。
心と身体のアンバランスによって生じる様々な自律神経症状である、頭痛、めまい、肩こり、腰痛、ほてり、倦怠感、イライラ感などを緩和し、また不眠症の改善作用があるといいます。これは我が家自慢の温泉と似ています。
そして、この効果はスポーツへも応用できます。アイソレーション・タンクの感覚遮断状態では、通常の感覚刺激の90%が解放されているとされといい、この筋肉が重力から解放された全く負荷のない状態では、身体の慢性的な疼痛なども急速に改善されるそうです。
スポーツマンにありがちな、ストレスや心配事などの混乱で低下したパフォーマンスを、瞑想的な気づきの体験によって克服したり、イメージトレーニングの効果を最大限に拡張することが可能であるとされます。
アイソレーション・タンクをスポーツのイメージトレーニングに用いた最も成功した例は、ロサンゼルス五輪の際のカール・ルイスであったといわれており、彼は参加した4種目全てで金メダルを受賞しています。
このように、タンクによるフローティングは睡眠と覚醒をコントロールする技術であり、麻薬のような薬物に頼らずに、覚醒した意識の中での夢見を可能にする技術のようです。
日本国内では、東京や愛知県、長野、岡山、愛媛、沖縄などにアイソレーション・タンクを利用できるそうした施設があるといいます。
みなさんもいかがでしょうか。少なくとも、違法な脱法ハーブよりもずっと健全のようです。が、費用がどのくらいかかるかは問題です。ちょっと調べてみたところ、結構いい値段のようなので、我が家では当面、同等の効果がある? 温泉で我慢することになりそうです。
が、温泉がお宅にない方は一考してみてはいかがでしょう。少なくとも摂取して死んでしまう可能性のある、毒キノコよりもずっといいと思います。キノコをたべてトリップをしようと考えているあなた、ぜひ試してみてください。