天城高原へ

さて、ここまでこのブログにお付き合いいただいた方は、ブログカテゴリーがいつのまにか、「伊那谷日記」から「修善寺日記」に変わっていることに既にお気づきかと思います。

そう、この物語の最終目的地は「修善寺」なのですが、そこへ至るまでにはまだまだ紆余曲折あるのです。なので、もう少しこのストーリーにお付き合いください。

前号からの続き・・・・そう、そして移住先探しの先は、伊豆中央部へと移っていきました。伊豆半島は、一般的に東伊豆、中伊豆、西伊豆、南伊豆の4つの地方に区分されているそうで、あまりにも町中すぎる、として移住先として私が選択から外した三島市や沼津市、函南町は、このうちの中伊豆という区分に入るようです。

中伊豆と呼ばれるこの地域には、このほか伊豆市と伊豆の国市などに小さな別荘地が散在していますが、あまりぱっとした物件もなさそうなので、リサーチは更に東伊豆、南伊豆へと移っていきました。

そこで目にとまったのが、伊豆高原と天城高原です。この二つの高原地帯は、もともと伊豆急行線を保有する東急電鉄とそのグループ会社の東急電鉄、東急不動産といった会社が開発した別荘地です。伊豆地方だけでなく、関東地方にも鉄道を保有しており、かのバブル崩壊でも倒産するようなことはなく、管理する別荘地でも運営に支障がでるなどの問題はとくに出なかったようです。

伊豆の他の別荘地でも、大手建設機械メーカーのコマツ(旧小松製作所)のグループ会社が造った別荘地や、三菱地所や住友不動産などの大手不動産会社や銀行などが造った別荘地がありますが、これらについても現在までのところ大きな破たんのうわさはなく、おおむね運営は安泰のようです。

寄らば大樹の陰・・・ということで、ここはやはり管理体制がしっかりしている別荘地を探そう、ということに気付いたまではよかったのですが、しかしそれでも、ともかく実際の土地を見なければ埒があきません。ともかく、現地に行ってみよう!ということになり、ようやく伊那以来の重い腰を上げる時が来ました。

ただ、行くなら行くで、やはり具体的な物件候補を絞ってから行こう、ということになりました。どこでもいい、ということではなく、できれば伊豆の中でも涼しそうなところ、ということで、まず選んだのは「天城高原」でした。標高1000m近い高所にあるため、そのほかの伊豆のどこよりも夏涼しく、海岸に近い土地よりも気温は2~3度も低い、というのがその理由です。

そして東急グループが管理する「天城高原別荘地」の中にみつけた物件は、床面積はそれほど多くないのですが、敷地にある程度の余裕があり、増築が可能かもしれない、という物件。物件の管理しているのは、伊豆急行線、伊豆高原駅にほど近いM社さんで、地元でも老舗の不動産屋のご様子。早速電話で予約を入れ、その物件と同じ別荘地内でタエさんが選んだ物件の二つをみせてもらうことにしたのです。

6月28日の午後、東京の自宅を出て、厚木小田原道路を経て伊豆高原に着いたのは午後過ぎのこと。気温はやや高めで、30度をちょっと超えていたかも。天気はこの時期にしてはめずらしい晴天で、物件を見せてもらうには絶好の条件です。

約束の時間が迫っていたので、手早く近くのラーメン店でお昼を済ませ(実はこのラーメンやのラーメンは絶品でした。また後日ご紹介しましょう)、すぐ近くの不動産屋さんM社さんへ。

M社は、伊豆高原駅から歩いて十数分の高台の桜並木通りにあります。この桜並木通り近辺は知る人は知る、結構有名な観光地。おしゃれな飲食店や、工房、ブティックのほか、「ねこの博物館」などのプチミュージアムがあちこちにあり、とくに若い人に大人気。M社さんも桜並木沿いに本拠を構えておられ、広々とした敷地に建てられた洋風の明るいお店でした。不動産屋というよりも、どこかのマンションのショールームのようなかんじ。

受付でお約束をしたことを告げ、打ち合わせルームに案内されたやや緊張気味の二人の前に出てこられたSさんは、やや痩せ気味で中背のやさしそうな男性。年齢不詳ですが、気安くお話ができそうなタイプ。笑顔を絶やさない落ち着いた応対をする方で、今日のご案内も彼がしてくれるとのこと。早速、Sさんが運転するプリウスの後ろに乗せてもらい、現地へ向かうことになりました。

M社を出て、まがりくねった山道を山の上のほうへ上のほうへと向かう道中、さりげなく天城高原の様子やら伊豆高原の様子などをお聞きしてみました。それによると、天城高原は東急グループが管理しているリゾートなので、管理体制は非常にしっかりしているとのこと。しかし、最近は新しくここに別荘を建てる人はそれほど多くなく、出て来るのは築後20年以上経った中古物件が多いとか。住んでいる人の高齢化も進んでおり、最寄りの鉄道駅(伊豆高原駅)から30分以上かかることから人気は今ひとつ・・・なのだそうです。

これから目指す目的地について、それを案内する不動産屋さんご自身の口から、あまり人気がない・・・みたいな言葉が出て来るとはビックリ。しかし、何事にも隠しだてせず、率直なものいいで現地の現状について語ってくれるSさんに、二人とも好印象を持ちました。

その日は梅雨中にも関わらず良いお天気でしたが、湿気が多く、外は蒸し風呂状態。外気温は30度を超えています。ところが、プリウスが、まがりくねった道をどんどん山の上のほうへあがって行くにつれ、プリウスの車載温度計の表示も1度、また1度と下がっていきます。ああ、やっぱり涼しいんだーという実感・・・

そして、まずタエさんが選んだ物件に着いたのは、ふもとの町を出てからおよそ30分ほど経過してから。気温は、既に27~28度に下がっています。やはり涼しい!その物件は林間にあり、あまり眺望はよくない別荘でしたが、5LDKと広く、床面積も120m2あるのを気に入り、タエさんが選んだのでした。

物件は、天城高原の最も高いところから東側に下がった林間にあり、かなり入り組んだ地形の中にありました。道路からもさらに谷底に向かうような細い小道をくだったところにあり、まさに森の中の一軒家という雰囲気。涼しそうですが、周囲は何やら暗い雰囲気。Sさんに鍵をあけてもらい、早速内部に入ると、この暑さの中でも中はひんやりとしています。ただ、中に入ったとたん、何やらカビの臭いにおいが・・・しばらくするとさきほどまで、ひんやりと・・・と感じていたのは湿気が多いため、と気がつきました。

ただ、いかにも「別荘」という重厚な造りで、2階から1階を見通せる吹き抜け構造になっている間取りは、なかなかおしゃれ。持ち主さんがまだ現状でも別荘として使われているようで、家具やら生活用品はそのまま。しかし、この湿気の中でよくカビないなーという印象。ふたりであちこち見ていたところ、1階のリビングで何かをチェックしていたご様子のSさんがポツリと一言・・・曰く・・・「ダメだなこりゃ」。

みると、リビングの床の上を何度も体重をかけて踏んでみて、床下の様子を確認していたご様子。聞くと床下の構造材がどうも腐っているようだ、とおっしゃいます。

さきほどまでの車中でも率直なモノの言いようをされる人だなと思っていましたが、自社管理の物件をけなすような言い方で、「ダメ」と言い切るとは・・・

続けてSさん曰く、「湿気が多いんで床下が腐っているんだと思うんですよ。こういう湿気の多い場所に建てた家は床下から腐ってくるんです、床を踏んでみてグニャグニャしているようなら、かなり傷んでいると思って間違いない。こういう物件はあまりお勧めできないですね~」とのことで、長いこと使っていない別荘物件には、こういうのが結構あるそうです。

二人で床を踏んでみると、なるほどグニャッと沈みこむような感じが確認でき、思わず顔を見合わせて、うなずき合うふたり・・・

「カビ臭いんで、早くこ出ましょう。こんなところに長くいたら、肺が悪くなっちゃう。つぎ行きましょ、次!」とSさん。それにしても結構はっきりモノを言う人だなーと、思わずふたたび笑ってしまった二人。

「仕事だから案内させていただいているけれど、それで体を悪くしたらもともこもありませんからね。」というSさんのひょうけた言い方にも再び大笑いした二人でした。

後日Sさんからお聞きしたことですが、Sさんは2年ほど前に、東京で別の仕事をしていたのを辞め、田舎暮らしをしたいという奥さんの希望を入れて伊豆へ来られたとのこと。M社に勤め初めてまだ1年あまりなのだそうです。会社が売り出している物件についても、悪いものは悪い、と平気でお客さんに言うことをポリシーにしている、とのことで、どうもその背景にはM社の人使いの荒さがあるようです。それでもこの仕事を続けておられるのは、人と接することがお好きなためのようで、今日のムシャ&タエとの接客もそれなりに楽しんでおられるご様子。

なかなか良い案内人に出会ったなー、とあとでタエさんともうなずき合ったものでした。

さて、林間の別荘を出て、次の物件へ。この別荘地は敷地面積が1000万m2あるそうで、場所から場所へ移動するのも一苦労。敷地の端から端まで移動するには車で数十分はかかりそうです。

次の物件へ向かう途中、この別荘地の中心的存在の「ホテルハーヴェスト天城高原」に立ち寄ってもらいました。18ホールの立派なゴルフコースを備えたこのホテルは、なかなか立派なもので、二食付き一泊、16,000円〜27,000円とか。富士山を望む比較的高級なリゾートとのことです。

このホテルには隣接して、「天城高原ベコニアガーデン」といった観光施設もあります。広い別荘地の中で食べ物やちょっとした日常品が手に入るのはホテルハーヴェストとこの施設の二つだけとのこと。あとは、ふもとの伊豆高原まで30分以上かけて車で買い出しに行かなければなりません。ふもとの伊豆高原駅までシャトルバスもあるそうですが、有料で片道300円取るとのことで、その費用もばかにはなりません。

ホテルを後にし、ようやく次の物件に到着。この物件は、私ムシャが選んだ物件。現場は、明るい尾根の上にあり、その尾根の上にさらに盛土をしたような高台に建っていました。家の外回りはパステルカラーでおしゃれに塗装されており、リビングの外側にはウッドデッキがしつらえてあって、そこからは富士山も見えるとのこと。あいにくその日は雲がかかっていて見えませんでしたが、富士山が見える、というのが私がこの物件を選んだひとつの理由。前々から富士山の見える家に住みたいと思っていたからです。

敷地はそれほど広くない印象ですが、建物自体はおしゃれで小奇麗なかんじ。早速内部を見せてもらうことに。この家は、土地の傾斜を生かしてスキップフロアになっており、きれいに掃除された3DK。床面積はそれほど大きくはないけれども、プラスで小さなロフトもあって、そこそこ収納も多い様子。おそらく、かなり年配のご夫婦が二人でお住まいになっていたようで、内部のあちこちには手摺が。外部にはその旦那さんが手作りしたと思われる小さな物置小屋もあり、ここに住んでおられたご夫婦の睦まじさが目に見えるようです。

再度、外部に出て、床下などもチェック。大きな問題はないようでしたが、さすがに築30年近く経ていることから、外壁や基礎部分の根太の一部分が腐っているようでした。敷地は北側に向かってやや傾斜しており、平たい部分もあることはあるのですが、増築をするとなると、基礎工事には結構お金がかかりそう・・・

なんでも、ここに住んでいたご夫婦はこの天城高原が大変気に入っていて、ここを売りに出して、現在同じ別荘地内の別の土地を購入し、そこに新しい家を建築中とのこと。人口が減少しているというこの天城高原ですが、こうした交通の便の悪いところを気にいって住みたいという人もいるぐらいだから、きっと良い所なんだろうなーと思いました。

確かに景色もよく、明るい感じでなかなか良い家だな、とは思ったのですが、ただ、いかんせん床面積が小さく、また増築も難しそうなので、我々二人が使うとすると、これはちょっと無理かなーと正直思いました。

伊豆での家探しはまだ始まったばかりだし、初日にすぐに気にいった物件に出会えるとも思っていなかったので、この物件にあまり乗り気でない、といったそぶりはSさんにはみせず、ほどよいところで「今日のところは」ということで、引き揚げたい旨を伝えました。

下山途中、他の別荘も2~3軒ほど外部からだけ見せてもらいましたが、その日はとうとうこれぞ!という物件には出会えず時間切れ。

山を下ってM社に戻り、再度応接ルームに案内された二人に、受付のお嬢さんから、冷たいおしぼりと飲み物、そしてケーキのご提供が。一日暑い中を歩き回ったあとのこのサービスはなかなか心にくいものです。

事務室で何やら探していたSさんが戻ってこられ、手渡してくれたのは本日の物件の資料と他の物件資料。今日の物件の印象を聞かれたので、正直にいまひとつだったことを伝えると、これを予期しておられたようで、曰く、「今度は、一日かけて伊豆のあちこちの物件をみてはどうですか?」とのお申し出が。

その日の応対で、Sさんのお人柄に大変好意をもっていた二人は、このお申し出を快諾。後日再び、伊豆の別荘めぐりをすることにしました。このとき既に私の心の中では、天城高原と伊豆高原はないな・・・とどこかで思っていたものの、今度来れば、もっと良い物件にめぐりあえるかもしれない・・・という期待も半分。しかしそれが空振りに終わるとはこのときはまだ考えてもいませんでした・・・(続く)