前回のブログを読まれた方は、ある疑問を持たれたことでしょう。
それは、右手が不自由なくせに、いったいどうやってブログを書いているの? ということ。
たしかに右手の骨折によりギブスをはめてはいるのですが、私の場合、医者先生に強くお願いをして、右手の指の先端と他の4本の指の第一関節の部分だけはフリーになるようしてもらっています。
そのおかげで、なんとかパソコンのキーボードだけは叩ける、というわけなのですが、それでも文字をつづるのに、ふだんの5割増し以上時間がかかるのに加え、パソコンの操作以外の右手の操作はほとんどできません。服のボタンをはめるのも一苦労といったありさまで、その他食事も入浴もほとんどを左手で行う毎日が続いています。
かくして、大部分の人が右利きのこの世において、左利きの人の不便さ、あるいは障害があって左手しか使えない方の不自由さを、まざまざと感じているわけなのです。
それならばそれで、ということで、では左手利きであることについて、スポーツ以外ではどんなメリットがあるのだろうと思いつき、調べてみることにしました。
すると、主として人文科学的な理由により、少数派である左利きにとってのほうが有利になっていることもいくつかあるようです。
たとえば、文字を縦書きするときに手が汚れない、ということがあります。但し、これは日本語や中国語の・韓国語などのように右から左に縦書きする言語の場合であって、英語やモンゴル語のように行を左から右に書く言語の場合は当てはまりません。ただ、アラビア語のように横書きではあるものの、右から左に書く言語の場合は、左利きの方が手を汚さずに済むようです。
このほか、現代に住む我々にとって不可欠な道具となっているコンピュータにおいては、これを扱うためのメインの入力機器となるキーボードの配列が左利きにとって有利な配列だといいます。
例えば、もっとも一般的なQWERTY配列は、左手の使用頻度のほうがわずかながら右手より多いのだそうで、限られた時間内に数多く文章を書かなければならない、といったシチュエーションでは、左利きのほうが多少なりとも有利になる、ということになるようです。
このほか、ビデオゲームのコントローラは、業務用ゲーム・家庭用ゲームを問わず、方向キーやジョイスティックを左手で操作するものが標準となっているそうです。
ゲームの種類にもよりますが、多くの場合、複雑・微妙な操作を要求されるのは左手のほうだといいます。ほとんどコンピュータゲームをやらない私にはよくわかりませんが、ゲーマーの中にはなるほど、と思う人も多いのかもしれません。ゲームダコが左手指にできることが多いことも、ビデオゲームのコントローラが左手偏重である証です。
なぜ左手のほうを難しくしているのかはよくわかりませんが、こうした風習は初期の業務用ゲームの時代からの慣習のようです。推測ですが、簡単にゲームをクリアしてしまうと面白くないので、利き手の多い右手よりも左手のほうに重要な操作を多くしたのかもしれません。
ほかにも、世界における左利きの割合は約10%なのに対し、MENSA(知能指数130以上の人しか入れない団体)の会員の2割は左利きだそうです。また左利きのほうが頭脳明晰な人が多いということを反映してか、平均的に左利きの男性は右利きの男性よりも15パーセント収入が多いのだそうです。
さらに、これは必ずしも左利きの人だけが有利とはいえませんが、一般に左手を使用している時は、左の耳はゆっくりとした音の変化に敏感になるといわれているようです。つまり、どちらの手を使っているかによって音の聴こえ方が変わってくる、というわけで、左手を多用する左利きの人は右利きの人とはまた違った音感を持っている可能性があります。音楽の世界などではよりクリエイティブな活動ができるのかもしれません。
以上、私が調べた限りの左利きであるメリットですが、たかがそんなもんかい、と思われる方もいるでしょう。ただ、前回のブログでも書いたように、とくにスポーツの世界において、左利きはサウスポートして歓迎されていますし、一般には左利きのほうが脳が活性化されやすく、とくに芸術的な才能に恵まれることが多い、といったことが言われているようです。
さらに左利きにとってうれしいのは、最近ではユニバーサルデザインの視点から、右利き左利きどちらでも快適に暮らせる社会にしようとの動きも出始めていることです。
例えば、マウスにも左利き専用のものがあり、左利き専用マウスを発売する会社も増えています。
そのひとつ、ロジテック社のCEOのゲリーノ・デルーカは左利きだそうで、マイクロソフトのビル・ゲイツも左利きであり、そうしたトップの意向もあるのかもしれません。もっともマイクロソフトは左利き専用のマウスは発売していません。ただ、左右対称のマウスを基本形としているため、どちらの手でも同じように使えるのだそうです。
このほか、大手民鉄、JRが導入している一部の自動改札は、左手で使う場面も考え、券投入口が左に5度傾いており、これで投入がしやすくなるといいます(ただし、小児検知センサーを付ける支柱がない“バーレススタイル”と呼ばれる機種のみ)。
他にも左右両開きの冷蔵庫など家電製品にも対応品があり、左利き用のはさみなどの文房具は多くの文具店にみられるほか、最近では左利き文具の専門店も増えているといいます。
そんな少数派のための商品を作っていて儲かるのかしらん、と思うわけですが、社会的に左利きのような少数派に迎合できる企業というのは、ボランティア精神に富んでいるということでそれだけ信用も高くなります。株価などにも反映するため結果的には利益につながる、ということなのでしょう。
ところで、社会的といえば、現在欧米を中心に世界中の道路に「右側通行」が多いのは、ナポレンオの影響だ、といわれているようです。
フランス皇帝ナポレオンが登場する前、ヨーロッパのほとんどの国は左側通行でした。しかし左側通行で馬に乗っていると、左利きのナポレオンは戦闘になった時に右側から向かってくる敵を切り付けにくい、ということがあったようです。このため、自分が統治している国々の道をすべて右側通行にしてしまったのだそうです。
かくして、その後ナポレオンに占領された国々でも次々に右側通行が導入されるようになっていき、現在でも右側通行の国が多いのはその名残りなのだとか。ところが、ヨーロッパ諸国ではイギリスだけが左側通行であり、これはこの国が唯一フランスの手に落ちなかったからだといわれています。
他にはオーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、インド、香港、ケニア、南アフリカ共和国などが左側通行ですが、これらの国はかつてイギリスの植民地であった地域です。タイのように植民地になっていない国でも、近代になってイギリスの制度や技術等を取り入れた際に、影響を受けて左側通行となった場合もあるようです。
では、日本も同じ理由で左側通行になったのでしょうか?
答えはノーです。その理由は日本独自のものであり、江戸時代より以前の武士の時代の名残だといわれています。
日本の路地は大変狭い場所が多く、対面で右側通行になったときに、左腰に差している刀の鞘(さや)同士がぶつかってしまうので、「武士の喧嘩の種」によくなっていたようです。この無用な争いを避けるために、侍のルールとして左側通行が定着していったという説が有力です。
やがて、江戸幕府が終わり、明治時代に入った際、鉄道や道路などの交通における新しい技術の導入にあたってはフランスよりもイギリスをお手本にすることが多く、同じく左側通行の英国と友好を深めるためもあって、左側通行を正式に交通法とし定めたそうです。
このように、右か左かといった社会的な風習は、文化的・軍事的な理由のほか、驚くべきことにその時代の統治者が右利きか左利きかという事実に、文字通り「左右」されてきました。
こうした中、世界中、のみならず日本における文化・軍事面にも大きな影響を与えているアメリカ合衆国のリーダーについても、近年、左利きが多くなっている、ということが話題になっているようです。
実は、2017年の現在に至るまでの、直近の8人の大統領のうち5人が左利きだ、という事実をご存知でしょうか。トルーマンの時代まで戻れば、13人のうち5人(あるいは6人)が左利きだといい、1992年の大統領選挙では、有力候補であったジョージ・H・W・ブッシュ、ビル・クリントン、そしてロス・ペローの3人は全員左利きでした。
1996年の大統領選挙でも左利きに関係の深い候補が3人登場します。左利きのクリントンとペロー、そして第二次世界大戦中の怪我がもとで右手が麻痺してしまったことにより左手を使うようになったボブ・ドールです。加えて、2008年の大統領選挙においても、二大政党の候補者であったバラク・オバマとジョン・マケインの両方が左利きでした。
アメリカにおける左利きの人口比率は、他国と同様に約10%でしかありません。にもかかわらず、このように近年の大統領、大統領候補者に左利きの比率が高いように見えることについては、単なる偶然であるとする見方がある一方で、科学的な説明を考察する研究者も現れています。
例えばカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の教授で、神経遺伝学の権威として知られるダニエル・ゲシュビン(Daniel Geschwind)博士は、このように近年の大統領に左利きが多いことには何らかの意味がある、と言っています。
ゲシュビンは、人間の利き手に影響を与える要因と、左利き人と右利き人の脳構造の違いに関する研究で知られており、過去12人の大統領のうち6人が左利きであるということは統計的にも有意であるとし、研究の対象に値する、と述べました。
また、今年3月に亡くなった、遺伝子研究の第一人者で、インド系アメリカ人のアマル・クラー(Amar Klar)博士は、利き手の研究でも良く知られており、左利きの人たちは広範囲に物を考え、多くのノーベル賞受賞者や作家、画家が左利きに偏っていると指摘していました。クラーは、左利き、そして両利きは、両方の半球において言語を処理することができ、それにより、さらなる複雑な論理的思考が可能である、とも示唆していました。
さらに、米オンタリオ州、グェルフ大学の神経心理学者、マイケル・ピーターズ(Michael Peters)が20万人以上の被験者を対象にアンケート調査を行った結果、左利きの人の多くが、識字障害、喘息、注意欠陥多動性障害、同性愛になりにくいという結果が得られたといいます。これらは、「一般的な」生活を送る上においては障害になりうる可能性がある因子ばかりです(同性愛の場合は「障害」という表現は適当ではありませんが)。
ピーターズ博士は、左利きの人は右利きに適している世界でうまく暮らしていかなければならず、そのことが右利きよりも優位な「精神的回復力」を生みだすのではないかと指摘しました。つまり、左利きであることが、もともとのハンディである左利きということを十分に補うだけの新たな能力を逆に与える、ということのようです。
脳、特に大脳皮質が部分ごとに違う機能を担っているとする理論を、「脳機能局在論」といいます。これによれば、左側の大脳半球は通常、言語を司りますが、左利きの人の場合、この区分はそれほど明確になっていないことがわかっています。これについては、前回のブログでも少し述べましたが、左利きの人の脳は、何かに集中するときに使う脳の部分が右利きの人よりもより分散しているようです。
左利きの人のうち7人に一人は、言葉を使っているとき、脳の左だけでなく左右両方を使って処理していることもわかっており、一般的な右利きの人々の場合、こうしたことができるのは20人に一人にすぎません。
このことは、左利きであることと、言語を操る上での器用さの間には深い相関があることを示しており、左利きの場合、脳内で言語に割り当てられる場所が増加するため、高いコミュニケーション能力が得られている可能性があります。
本題に戻りましょう。近年の大統領、中でもとくにレーガン、クリントン、そしてオバマ元大統領はとくに演説が上手だった、と記憶しているのは私だけではないと思います。左利きの彼らは、その高い言語能力を駆使して、合衆国トップに登り詰めた、といえるのかもしれません。
ところが、アメリカ合衆国大統領の利き手に関しては、彼らより以前の大統領、ここ数十年より以前のリーダーに関しては確実に特定することは、極めて困難だといいます。なぜかといえば、アメリカ合衆国が建国された18世紀から19世紀にかけて、左利きの人は障害者と見做され、教師の多くは左利きの生徒に対してこれをやめさせるように努力したためです。
2017年現在、データ上では、アメリカの左利きの人の割合はわずか2%になっています。ただしその代わり、両利きの人の割合が約28%もあり、これは実は、アメリカで左利きに生まれた人の多くは、右手も使える様にして、後天的に両利きになった人が多いためです。
伝統的に左利きを矯正して両利きにすることが行われてきたという経緯があり、その結果、左利きの人の割合が少なく見えてしまっていますが、平均的には他国と同じ10%前後と考えられています。
こうした理由のため、20世紀初期より前の大統領に関しては、利き手を確実に決定できるような出典はほとんど存在していません。左利きであった最初の大統領は、第31代のハーバート・フーヴァー(任期1929 – 1933年)であったとされていますが、これについても議論が存在します。
ましてや、これより前に左利きの大統領がいたという証拠はありませんが、第20代大統領の、ジェームズ・ガーフィールド(任期1881年の6か月間、同年7月暗殺により死去)は右手でラテン語を、そして左手で古代ギリシア語を同時に書くことができたと言われています。つまり両利きです。
また、第40代のロナルド・レーガンも、必ずしも左利きだったと確認されているわけではありません。左のほうが利き手として優勢と噂されることが多かっただけで、学校の教師や両親に強制的に右利きにされたのではないか、といわれています。もし事実であれば、レーガンも元は左利き由来の両利き、ということになります。
二度のピューリッツァー賞を受けた有名な伝記作家、デビッド・マッカロウの研究によれば、第33代大統領のハリー・S・トルーマンも同様に左利きである、と噂された人物だったようです。
トルーマンといえば、日本への原子爆弾投下を指示したとされ、アメリカでは未だに「戦争を早期終結に導き兵士の命を救った大統領」という評価が定着している指導者です。また、全米有色人種地位向上協会で演説を行い、公民権運動を支援した初めての大統領であり、この人もまた演説が上手なことで定評がありました。
1940年から1941年にかけ、アメリカでは、NTSC(National Television System Committee)が白黒テレビの標準方式を走査線525本、60フィールド方式に決定し、世界に先駆けて白黒テレビの放送が開始されました。1945年4月に大統領に就任したトルーマン大統領は、このテレビを高く評価し、その前年の大統領選における主な演説のすべてにおいて、このテレビを最大限に活用するよう、部下たちに指示していたそうです。
現在でも、アメリカでは政争となると、テレビ討論がよく行われていますが、こうした場合にも、左利きの政治家は有利なのだそうです。
テレビの討論会においては、左利きの政治家は、利き手である左手をジェスチャーでよく動かします。すると、テレビスクリーンを見ている右利きの視聴者によりアピールでき、優位に立てるのだといい、そういわれてみれば、オバマ大統領が大統領選を戦っていたときのスピーチでもよく左手を使っていたような記憶があります。
現職のトランプ大統領はどうやら右利きのようです。だから頭が悪い、演説も下手、というわけではないでしょうが、世界の中でも卓越した国力を持つアメリカという国を牽引してきた指導者の多くが左利きであり、それがこの国の魅力を作ってきたと考えるとすれば、この大統領にはあまり多くは期待できないのかな、とついつい思ってしまいます。
しかし、こうしたアメリカのような傾向は他国では見られていません。イギリスでは戦後、左利きの首相はジェームズ・キャラハンとデーヴィッド・キャメロンの二人しかいませんし、またカナダでも、少なくとも1980年以降、左利きの首相はいません。かといってこれらの国に魅力がないとはいえず、美しく逞しい世界に誇れる国づくりを行ってきています。
お隣、北朝鮮の歴代の指導者にも左利きはいないようです。金正恩(キム・ジョンウン)総書記やその父の金正日(キム・ジョンイル)、祖父の金日成(キム・イルソン)がそうだったという情報はないようなので、彼の国に関してだけは、指導者にも恵まれてこなかったばかりか、右利きの指導者がもたらした弊害が最も色濃く残った失敗作ということがいえるのかもしれません。
それにしても、米朝の緊張が続く中、両国のリーダーとも右利きということで、この先の事態がどうなっていくのか不安でしかたありませんが…
それでは我が国はどうか?戦時下の首相、東条英機は左利きだったそうで、上述のトルーマンとともに、太平洋を隔てて左利きのリーダーを持った両国が戦っていた、というのは、こちらもまた不思議なかんじがします。
最近の首相では、安倍晋三氏や野田佳彦氏、菅直人氏は箸やフォークを右手で持っており、右利きと思われます。また都知事経験者では、石原慎太郎氏が左利きだそうですが、現職の小池百合子氏が左利きという話はないようです。そのほかにも、私が調べた限りでは、目ぼしい?日本の政治家に左利きはいないようです。
ただ、小池氏と同じくニュースキャスターだった故筑紫哲也氏は左利きだったそうで、現役の小宮悦子さんも左利きです。また、解剖学者の養老孟司氏や宇宙飛行士の野口聡一氏、新進作家の綿矢りささんが左利きだそうですが、こうした異分野の中から、新しい時代を形成する政権政党の左利きリーダーが出てくることを期待したいものです。
戦時下の東条内閣は別とし、日本においては、アメリカのようにリーダーが左利きだった、という歴史があるのかどうかは明らかではありません。戦国の武将、松永久秀や上杉謙信、宮本武蔵や新選組の斎藤一などが左利きだったという説がありますが、我が国でも左利きは差別対象ともなり、あまり公表せず矯正させていたりするので、確証は難しそうです。
箸の国日本では、食事の時に隣の人の邪魔になるからという理由で左利きが少ないという俗説もあるようですが、それではいったい、現在の日本人の左利きの割合はどのくらいでしょうか。
これは、「約11%」と言われています。日本人の総人口が、”1億2695万人(平成27年7月1日現在)”ですので、数にすると「約1397万人」の方が左利きという事になります。
政治家だけでなく、天才肌や芸術肌などと言われる事が多いこうした「左利き」の人たち。近代日本を代表する文豪・夏目漱石、同じく俳人・正岡子規も左利きだったと伝わっています。
現在の芸能界をみただけでも、男性では、坂本龍一、鹿賀丈史、ガクト、玉木宏、小栗旬、女性では、倍賞美津子、川原亜矢子、増田惠子、斉藤由貴、そして先日亡くなった小林麻央といった、魅力あふれる方々が実は全員左利きという事を考えると、やはりちょっと彼らに憧れてしまう部分はあります。
しかし、近年の研究により、左利きは右利きよりも酒を頻繁に飲み、飲酒量も多いのだとか。1970年代に、左利きはアルコール依存症になりやすいとの研究結果が発表されたこともあり、現在ではこれは間違いだとは判明しているものの、やはり左利きの酒量は多くなる傾向にあるそうです。
現在、左利き状態である私も酒を飲みすぎないように気を付けなくてはいけません。しかし最近、以前にも増してインスピレーションが鋭くなっているように感じるのは、やはり左利きになってから、全脳を使用する度合いが増えているからかもしれません。
左利きとしての一時期の間、その個性を存分に楽しむとともに、右利きに戻ってからもその能力が維持されることを期待したいものです。