カーリングの科学

冬季オリンピックが終わって、ひと段落しました。まだ、パラリンピックが開催されている最中ですが、それも今週末で終わってしまうようで、さみしい限りです。

それにしても、銅メダルを獲得したカーリング女子の活躍には日本中が沸きましたね。北海道、常呂町の「LS北見」の美人カーラーたちの、最後まであきらめない精神にはおおいに学ぶべきところがありました。

この常呂町がどこだったかな、と改めて地図をみたところ、道東第二の町、網走のやや北西部になります。

その昔、仕事で何度か網走には行ったことがあるものの、日帰りも多く、この町まで足を延ばすことはありませんでした。もっとも、プライベートでは、すぐ近くにある能取湖やサロマ湖に出かけたころもあり、亡き家内とも旅行したことのある場所でもあったことなどを、今思い出しました。

LS北見のLSは、「ロコ・ソラーレ」だそうで、何の意味かなと思あったら、これは常呂町の「常呂」から来ており、常呂の町に育った「常呂っ子」と、「ローカル」から「ロコ」 、そして、 イタリア語で太陽を意味する「ソラーレ」を組み合わせたそうです。

地元常呂から太陽のように輝きを持ったチームになるよう、「太陽の常呂っ子」という意味を込めて名付けた、とチームのオフィシャルサイトにも書いてありました。

ただ、日本カーリング選手権大会など日本カーリング協会(JCA)主管の国内試合では、LS北見として登録されていて、「ロコ・ソラーレ」をチーム名として使用できないのだとか。これは、JCA競技者ユニフォームの規定によるものなのだそうです。

今回のメダル獲得でLS北見の名が世界中の轟いたかと思いますが、その名前の由来も覚えておいてあげてください。

ところで、現在行われているパラリンピックでは、カーリングはないのかな、と調べてみたところ、残念ながら、パラリンピックの正式種目、「車いすカーリング」に関しては、チームJAPANは予選で敗退したため、選手団を送り出すことができなかったようです。

2016年11月4日〜11月10日に行われた、世界車いすBカーリング大会 2016(フィンランド)で、グループリーグ4位、16チーム中全体第8位となった時点で、平昌パラ出場の夢は断たれてしまいました。

この車いすカーリング、ルールは健常者大会とだいたい同じですが、1試合8エンド制であるという点が違います。このほか、1チーム4人で戦うところは同じですが、チームは男女混合で編成されなければならないそうです。

また、ストーンを投げる際、低い姿勢でも投げやすいようにデリバリースティックを用いるのが特徴です。これは杖のようなもので、利き手でもって車イスに座ったまま、杖の先にあるストーンを押し出すようにして使います。

この車いすカーリングと同様に、男女混合で行われるのが、平昌オリンピックから正式種目となったミックスダブルスです。残念ながら、今大会では日本はエントリーがありませんでしたが、アメリカやロシア、カナダ、ノルウェー、韓国 フィンランド、中国、スイスが出場し、決勝戦では、カナダが10-3でスイスを破って金メダルを取りました。

日本の男女混合チームの活躍を見ることができなかったのは残念なのですが、昨夜のニュースでは、平昌五輪で銅メダルを獲得したLS北見と男子のSC軽井沢クラブの選手が、チーム再結成をするそうで、この先開催される大会を前に記者会見の様子を報道していました。

ついこのあいだまでオリンピックで活躍していた美女美男の組み合わせであり、これをテレビで見ながら、タエさんと、まるで結婚発表の記者会見みたいだね、と話していました。それぞれ近いお年頃のようなので、もしかしたらもしかするかも、とミーハーに期待したりもしています。

このミックスダブルスですが、2人のプレーヤー(男性1人と女性1人)から構成されるという点が、通常のプレーと異なりますが、得点方法は、通常のカーリングと同じです。

ただ、ゲームは8エンドから成る、といったところが異なり、これは上の車いすカーリングと同じです。このほかの違いは、各チームの持ち時間は8エンドゲームをプレーするのに48分と短く、各チームは1エンドにつき5個のストーンをデリバリーする、といったところも違います。通常のプレーは、8個でしたよね。

このほか、チームの最初のストーンを投げるプレーヤーは、そのエンドの最後のストーンを投げなければならず、もう一人のチームメンバーは、そのエンドチームの2個目、3個目、4個目のストーンをデリバリーする、と言ったところも違います。ただ、最初のストーンを投げるプレーヤーは、エンドを終了すれば交代しても構わないそうです。

今日から始まるという、第11回全農ミックス日本ミックスダブルスカーリング選手権大会は、18日まで、青森市の「みちぎんドリームスタジアム」で開催されるようです。LS北見とSC軽井沢クラブの男女混合チームがどんな活躍をするのか、目が離せません。試合の放送がある地域ではぜひ鑑賞してみてください。

”カーリング” の物理学的性質

ところで、冬になるとにわかに注目を集めるこのカーリングですが、文字通り、観客の数や熱気が気温を高めて氷の状態を変化させます。会場によっては暖かい会場もあり、エアコンの状態なども異なるほか、アイスの状況も微妙に異なるようです。

従って、いかに氷の状態を読んで精確なショットを放てるかが勝負の分かれ道になりますが、一方では、放たれたストーンの行方を修正する“スウィープ“が重要になります。

このカーリングのストーンが氷上を滑る性質については、運動量保存など力学に基づくことは明らかです。ただ、回転によって曲がる(カールする)性質や、さらに氷との摩擦も大きなファクターであり、それらが組み合わさった結果として、いったいどういう現象が起こっているのか、については、実はまだ実際にはよくわかっていないのだそうです。

より詳しくストーンの動きを考察することは、氷上の摩擦に関する研究途上の科学でもあるといい、とくにストーンのカールと摩擦との関係は一般的な理論化ができない複雑な現象であり、まだ解明されていない部分があるといいます。

さらにはこれに加わるスウィーピングの効果など、実際のストーンの動きは実験と理論の両面から分析されなければならない課題であり、「カーリング」の語源ともなっているストーンの「カール」はそれ自体が、多くの物理学者に対して興味深い問いを投げかけています。

実際、カーリングの物理の実践的な分析も科学者を交えながら行われており、日本カーリング協会でも「研究を通じて選手の独創性や先見性を育て、新たな戦略に結びつけたい」として、2008年より氷やストーンの特性とストーンの動きとの研究を行っているといいます。

カーリングの強国、カナダでは2010年のバンクーバーオリンピックに向けてデリバリーのフォームやスウィーピングの科学的研究を極秘裏に行った結果、現在のように世界ランキング1位の座を獲得できました。今後日本チームがカーリングで強くなっていく上でもこうした科学的分析は欠かせないと考えられます。



ストーンの軌道が大きく曲がる(カールする)という性質は、カーリングのゲームを面白くさせている大きな要素でもあります。衝突の動きが初等的な力学で比較的よく記述されるのに対して、カールの物理的メカニズムは、氷の状態によって大きく変化します。

通常、こうした曲がりの大きさは、仮にスウィープをしない場合においても、元の軌道と比べてストーンの停止までに1メートル前後にも達することがあるそうです。

カーリングの競技場は、標準で長さ約44.5〜45.7メートル、幅約4.4〜5.0メートルのカーリング・シート(アイス・シートとも)と呼ばれる細長い長方形のリンクで行われますが、このシートは薄く氷が張られます。

できるだけ平坦に保つため、アイス・メーカーにより表面にペブル(pebble) と呼ばれる数ミリメートル程度の氷の突起が多数作られ、融けないように氷温は摂氏−5度程度に維持されます。

意外ですが、このぺブルがまったくないアイスの方が曲がりが大きいのだとか。摩擦も大きくなり遠くまで飛ばなくなるといい、ペブルを設けることの意味は、ストーンを滑りやすくするためのものではなく、逆に摩擦の低減に寄与していることがわかります。

また、これも意外なのですが、カーラーがストーンを投げるとき、軽く回転させて投げますが、この回転の速さ(物理学的には角速度という)はカールの効果に大きな影響は与えないのだそうで、その回転は曲がる方向を決めているにすぎないのだといいます。

さらに、早すぎる回転を与えると、ストーンはむしろ余りカールしなくなるのだといい、このため、通常、カーラーたちがストーンを投げる際、その回転の速さが、通常ハウスまで2~3回転程度となるよう、小さく保つようにするのだそうです。

このほか、カールの効果もハウスに近づきストーンの直進速度が小さくなってから顕著になることが知られており、試合を見ていると、最初はあまりまがっていなかったのに、ストーン同士のぶつかり合いになる直前になって急激にその進行方向が変化したりします。

このほか、通常の氷以外の盤面上でリング状の物体を回転させながら滑らせるとき、反時計回りで右に曲がるのに対し、氷上のカーリング・ストーンは逆に曲がることが知られています。例えば左回りの回転を与えながら投げると、氷以外の盤面、たとえば平なコンクリートの上では右に曲がりますが、氷上ではそのまま左に曲がります。

ご自宅の机の上などで、実験してみてもらうとわかるのですが、たとえば反対向きに伏せたグラスなどを同じように左回りに回転させながら滑らせてみると、グラスはカーリングのストーンとは逆向き、すなわちカールの方向は反時計回りで右となります。

これについては物理学的説明がついており、こうした場合の曲がりは、接触面の摩擦力が原因です。グラスの接触面前部における方が後部よりも押さえつける力が大きく、これに回転が加わるとき、接触面前部においては、進行方向右向きの摩擦力の方が後部の左向きの摩擦力より大きくなり、進行方向に向かって右向きの力が生まれるのです。

ところが、カーリング・ストーンの場合はこれとは逆になるため、いったい何故だ??ということが昔から議論になっており、その謎を説明するために1920年代ごろから、いろんな説が現れてきました。

そうした中で、もっともらしい説が出てきたのは、1980年代になってからのことであり、1981年に、カナダの学者で、ジョンストン (G.W. Johnston)という人が、ストーンが曲がる理由は、ストーンの前部で大きくなる摩擦熱によって氷が融け、摩擦係数が低くなるためではないか、としました。

同様に、カナダの物理学者で自身もカーラーでもあるマーク・シェゲルスキー (Mark R.A. Shegelski))という人も、この考え方を支持し、1996年、溶けた水の非常に薄い膜がストーンの接触面に形成されるのだと主張しました。

彼は、圧力の強い前面ではこの膜が厚くなるために、摩擦力を後部より小さくしているとするとし、またストーンが水の膜を引きずりやすい性質をもつ花崗岩で作られていることと関係があると考えました。

摩擦の方向は氷面に相対的な速度の方向ではなく、この引きずられた水の膜に相対的になっているとし、さらにストーンの停止間際では引きずられた膜が一周して前面がさらに厚くなり、一層曲がりやすくなると説明し、こうしたことから予測される性質の一部を実験でも証明しました。

一方では、摩擦によってできる氷の膜が影響しているのではない、という説もあります。ストーンの底面と摩耗によって氷が瞬間的に蒸発して気化熱を奪い、ストーン後部ではむしろ温度が低下して摩擦係数が大きくなるのだといいます。

摩擦による氷の溶融によって曲がり方が左右されるという点は大多数の学者の意見が同じであるものの、その原理についてはまだまだ論争があるわけです。

ごく最近の2012年のスウェーデンのニーベリ (Harald Nyberg) は、ストーンの接触点であるペブル上につけられた高さ0.01ミリメートルに満たない程度の多数のひっかき傷がストーンの軌道を変えているのだとしました。

この説では、進行しつつ回転するストーンは軌道に対して数度程度斜めになった微小な傷をペブルの先端に作ることが原因としています。ニーベリらはこうした傷を顕微鏡写真で調べるとともに、底を磨いて凹凸を少なくしたストーンではカールの効果が現れないことを実験的に示しています。

いずれにしても、ストーンがカールする量は、氷面のペブルの状態やコースの使用状況、氷面の温度、ストーンの速度などに応じて、ストーンとの間で、なにか敏感な変化を起こすために左右される、ということはだんだんと明らかになってきています。

これらがストーンの動きの状況に応じた鋭敏な変化をもたらしていることは確かですがそれをどう予測するかについては、競技者であるカーラーの氷の読みに対する経験とそれにもとづく判断がこの競技において最も重要な要素のひとつとなっていることは間違いありません。

また、これらのことから、投げた石は必ずといってもいいほど曲がる、ということは明らかであり、そのためにその軌道を修正するための「スウィーピング」が欠かせない、というのもこの競技を面白くしている要因です。

スウィーピングの意味

スウィーピングは、方向を微調整するだけでなく、自分のチームのストーンの距離を伸ばしたりするために、ストーンの進行方向の氷をブラシで掃く行為ですが、相手チームのストーンをスウィーピングですることもでき、その結果は、勝敗を左右することが多々あります。

ストーン前面の氷をこすることで、ストーンの摩擦を減少させ速度を保つことができるため、結果的に速度を保ったストーンは、大きくカールし出す地点も遅くなり、またハウス内では曲がったコースのままより先へと進めることができます。

こちらの原理のほうはある程度わかっていて、一般にこの摩擦の減少は、ブラシとペブルとの間の摩擦熱によってペブルの表面をわずかに溶かし、水の膜を形成しているためだと説明されます。

とはいえ、カナダのウェスタン・オンタリオ大学の研究者は、計測の結果温度上昇はわずかなものであり、実際には氷を溶かすのではなく、スウィーピングによって氷の微粒子が形成されてそれが潤滑剤として働いているのだとしています。

またスウィーピングには、ブラシをストーンの進路に対して斜めに置くとする昔ながらのやり方と、直角に置くとする最近のやり方があるそうです。が、前者が均一に氷を暖めるのに対し、後者はムラができ効率がよくないという説もあるようで、これについても競技者によって流儀が違うようです。

このほか、スウィーピングにおいて、遅くても力をかける方がよいか、力が弱くなっても素早くスウィープする方がよいかという2つの選択肢があります。これについては、ブラシの位置だけを考えた場合にはかける力を大きくする方がはるかに効率的です。

しかし、同じ氷を複数回ブラシがこするほうがさらに熱が発生するため、全体としてはハウスの近くでは素早くスウィープする方が効率的なのだそうです。ただしストーンが素早く動いている間は同じ場所をスウィープできないため、力をかけたスウィーピングの方が効率的であるといいます。

スウィープひとつをとってもかなり細かい技術が要るようですが、このスウィープについては、ストーンを投げる側とスウィープをする側の阿吽の呼吸もまた勝敗を左右するため、「掛け声」というのも非常に重要です。

カーリングの試合を見ていると聞きなれない掛け声が飛び交っていますね。掛け声にはそれぞれ意味があり、イエス 、ヤー、イェップは、スウィーピングをしてという指示。ウォー、ノー、オフ、アップ、はスウィーピングをやめてという指示だそうです。

このほか、「ハード」は、もっと強く掃いてという指示。「ハリー」はもっと速く掃いてという指示。「クリーン」はストーンの前のゴミを取り除く意味で軽く掃いてという指示です。

これだけを覚えているだけでも、今後カーリングを見ていて楽しくなるかもしれません。
今日、ここで書いたことも、少し皆さんのテレビ鑑賞の際のお役に立てたなら、幸いです。

さて、3月も半ばに入ってきました。暖かい伊豆では、もうどこにも氷のかけらはなさそうですが、かくある私もテレビでカーリングの試合をみつけて、冬の名残を楽しむこととしましょう。