宇宙エレベーターのお話


先日、中国北部の万里の長城ツアーで年配の方が三人も亡くなるという痛ましい事件がありました。急激な天候の変化に対応できる装備を持っていらっしゃらなかったことが原因のひとつのようです。

チベット出身の山に慣れたガイドさんがいたようですが、このガイドさんは中国当局がこの地への観光客への立ち入りを禁止していたということを果たして知っていたのでしょうか。

また、ガイドとはいえ、見ず知らずの他人に自分の命を託し、知らなかったとはいえ危険な場所に立ち入ったという点においては、亡くなった方々の自己管理や自己責任の面でやはり弱さがあったと言わざるを得ません。

しかし、それ以上にツアーを提供する側の旅行会社側に大きな問題があったことは間違いありません。「ツアー」という商品を企画しておきながら、売り出した側が現地の下見もせず、危険な場所であると認識していなかった、つまり商品の中身を売主が十分に把握していなかったというのは言語道断です。

「前科」もあるということで、こういう会社が他にもたくさん野放しになっているとすれば、こういう業者に認可を下した行政側も責任を問われてもしかたがないと思います。

行政側の責任といえば、シンドラーエレベーターの事故も同様の臭いがします。こちらも前科があるということで、この業者の運営再開を許可した運輸局は何をやっていたのだと大きな批判が出ています。

この二つの事件に共通するのは、いずれも業者側が売り出した「商品」のことを十分に把握していなかったという点であり、またどちらも人の命に係わるものであったという点です。

先日、テレビでどちらかの有識者さんがおっしゃっていましたが、日本のメーカーの多くは(すべてとはいいませんが)、商品を売ったあとのアフターケアをかなり重視しているということです。

顧客に買ってもらったものに不具合があれば、いずれその評価は他の自社製品にも返ってきます。アフターケアをしっかりやって、自社で売った商品の不具合はとことん直していく、というのが日本製品の良いところだ、とその方はおっしゃっていましたが、私も同感です。

先日、我が家でも冷蔵庫の調子がおかしくなり、メーカーに問い合わせ、系列会社の方が修理に来てくださいました。購入後5年以上も経っており、補償もきかない商品でしたが、懇切丁寧な対応をとっていただき、結局部品も無償で交換してもらいました。

タダで修理してもらったから言うわけではありませんが、こうしたことは欧米では考えにくいサービスだといいます。売ったら売りっぱなし、そういうメーカーが多いそうで、だからこそ日本のようなこういうキメの細かいアフターケアができる商品が世界でも評価されているわけです。

中国や韓国の製品が粗悪とはいいませんが、こうした「使う人のことを考えたモノづくり」はやはり日本のほうが上だし、世界に誇れるものだと思います。いずれこのような日本メーカーの良さが見直され、日本製品が復活する日も遠くないのではないのでしょうか。

もっとも、今回の一連の事故に見られるような悪質業者は徹底して懲らしめるべきです。人の命に係わる商品を、いい加減なチェックだけで済まして儲けようという輩は徹底的に排除して欲しいと思います。

宇宙エレベーター

さて、エレベーターつながり、ということで、今日は「宇宙エレベーター」というモノを話題にしてみたいと思います。

宇宙エレベータは、「軌道エレベータ」という呼び方もあるようですが、まだ公的な正式名称はありません。一般的には、地球などの惑星の表面から静止軌道以上まで伸びる「軌道」を持つエレベーターのことです。

宇宙空間への進出手段として構想されていますが、現状の技術レベルではその建造は極めて困難と考えられており、その構想のほとんどは「空想的」とまでいわれています。

しかし、かつては軌道エレベータを建設するために必要な強度を持つ素材が存在しなかったものの、理論的にその実現が可能な存在としてグラファイト・ウィスカー(人造黒鉛結晶を軽量の束にしたもので原子炉素材などに使われる)などが発見され、さらに20世紀末になってカーボンナノチューブが発見されたことにより、その早期の実現を目指した研究プロジェクトが発足しているそうです。

そのメカニズム

宇宙エレベーターでは、地上から静止軌道以上まで延びる塔や、レール、ケーブルなどに沿って運搬機が上下することで宇宙と地球の間の物資を輸送します。動力を直接ケーブル等に伝えることで、噴射剤の反動を利用するロケットよりも安全に、かつ遥かに低コストで宇宙に物資を送ることができると考えられています。

その概念は簡単です。静止軌道上の人工衛星を、重心を静止軌道上に留めたまま地上に達するまでケーブルを縦長に伸ばし、そのケーブルを伝って昇降することで、地上と宇宙空間を往復するだけです。その際、全体の遠心力が重力を上回るように、反対側にもケーブルを伸ばしたり、十分な質量を持つアンカーを末端に設けます。


宇宙エレベータの概念図

ケーブルの全長は約10万km必要といわれ、下端(地上)、静止軌道、上端の三ヵ所に発着拠点が設けられます。上端のアンカーにおける移動速度はその高度における脱出速度を上回っているため、ここからは燃料なしでも地球周回軌道から脱して惑星間空間に飛び出すこともでき、ここを「外宇宙」への出発駅とすることもできます。

エレベータという呼称が使われていますが、地上のエレベータのように滑車を介して可動するケーブルで籠を動かすのではなく、固定されたケーブルを伝って籠が上下に移動します。ケーブルは下に行くほど重力が強まり遠心力が弱まる一方、上に行くほど重力が弱まり遠心力が強まるので、ケーブルのどの点においても張力がかかります。

その大きさは、その点より上の構造物に働く重力と遠心力の絶対値の差です。このため、ケーブルは一定の太さではなく、静止軌道から両端に向かって徐々に細くなっていく構造で、こうした構造を「テーパー構造」といいます(静止軌道上の「宇宙ステーション」部分が一番太くなる)。

ただし、地上から数kmの部分は風や雷の影響を避けるために10倍ほど太くし、さらに上空数百kmまではケーブルの構成物質が酸素原子と反応して劣化するのを防ぐために金属で薄くコーティングする必要があります。

荷物を上げ下げする際にコリオリ力(地球の自転による遠心力)が発生し、ケーブルを左右前後に揺さぶりますが、ケーブル自体が地球につなぎ止められているため全体が逆さの振り子状態で「しなり」、エレベーター全体は常に元の位置を維持することが可能です。

地上側の発着拠点(アース・ポート)は、赤道上が有利といわれます。赤道上であればケーブルにかかる張力を小さくできるためです。緯度が上がるほどケーブルにかかる張力が大きくなり、また赤道以外ではケーブルが地面に対して垂直にはならないため、赤道から極端に離れた場所に建設するのは難しくなります。

ただし、これは緯度だけを問題にした場合であり、それ以外にも、気象条件や周辺地域の政治的安定性など考慮すべきことは多く、また赤道は暑い場所であるため、ケーブルの振動や熱による伸縮への対策も必要です。

なお、静止軌道上には、多数の人工衛星や大きなスペースデブリ(宇宙ゴミ)が存在するため、これらとの衝突の回避などのために、アース・ポートは地上に固定するのではなく海上を移動可能なメガフロートなどにしたほうが、衝突の回避を制御しやすいのではないかという意見もあります。

ロケットなどとの比較

現在、地球上から宇宙空間へ人間や物資を運ぶ手段はスペースシャトルなどの化学ロケットしか存在しません。しかし、ロケットは、地球の重力に抗して宇宙空間まで重量物を移動させるために莫大な燃料を消費します。

また、燃料そのものが有害物質であったり、燃焼時に有毒物質を発生したりして、環境を汚染する場合もあり、爆音や有毒ガスの発生以外にも、信頼性や事故発生時の安全措置の面でも不安があります。

このため、将来的に大量の物資・人員を輸送することを念頭に置いた場合、経済的で無公害の輸送手段が望まれ、現在、ロケットに代わるさまざまな輸送手段が検討されており、宇宙エレベータもその一つの候補です。

籠の昇降には電気動力を使い、ロケットのように燃料を運び上げる必要がないため、一度に宇宙空間に運び出す、または宇宙から運び降ろす荷を大幅に増やすことができる可能性があります。

また、上るときに消費した電力は位置エネルギーとして保存されているので、下りで回生ブレーキを使って位置エネルギーを回収すれば、エネルギーの損失がほとんどなく、運転費用が非常に安くて済みます。

ある試算によると、現行ロケットの場合、1ポンドあたりの打ち上げ費用が4~5万ドルなのに対し、軌道エレベータの場合たったの100ドル(1kg当たり220ドル=2万円程度)で済むといいます。

電力供給に関しては、昇降機にパラボラアンテナを装備してマイクロ波ないしは遠赤外レーザーの形で送電する方法などが考えられており、加えて人工衛星やISS(国際宇宙ステーション)などでも使用されている太陽電池や燃料電池も流用できると予想されています。

環境への影響や安全面などを考慮して、ケーブルを通じて供給するべきだという意見もあるようですが、もしカーボンナノチューブを使うとすれば、この素材には電気の十分な伝導性がないため、実用化は難しくなります。

昇降機がケーブルと接触した状態のまま動く場合、その速さは毎時200km程度が想定されていて、現在検討されている10万キロの長さのケーブル上を通り、この速度で「アース・ポート」から静止軌道まで達するためには約1週間までかかり、さらにその上端のアンカーポイントまでは更に5日間もかかる計算です。

エレベータに乗る人は、宇宙飛行士のような特別な訓練を受けなくても宇宙に行くことができますが、移動時間がかかるため、利用者にストレスを与えないように、昇降用の駕籠(昇降機)には高い居住性を持たせる必要があるといわれています。

リニアモーターなどを使用すればもっと時間を短縮でき、例えば昇りのとき1Gで加速し、中間点からは1Gで減速すると約1時間で静止軌道に到着できるそうです。

ただし、この場合、中間地点での速度は時速64000kmにも達するそうで、この速度に昇降機やケーブルが耐えられるかどうかがはなはだ疑問視されていて、今のところ、リニアモータは検討対象外ということのようです。

ちなみに、ISS(国際宇宙ステーション)は地上から一番近いところで高度278 km、遠いところで高度460 kmぐらいのところの軌道を回っており、この程度の高度でよければ、毎時200km程度の速度でもごく短時間に到達できるそうです。

その検討の歴史

宇宙エレベータの着想は、かなり昔からあるようで、ロシア人で「宇宙旅行の父」と呼ばれたコンスタンチン・ツィオルコフスキ博士が1895年に自著の中で記述しているのが一番古いそうです。

1970年代ころから軌道エレベータの材料に関する研究が始まり、その結果、上空に行くに従い重力が小さくなり、かつ遠心力が強くなることを考慮すると、一様な重力場においてこれが切れないような太さのケーブルを想定してその長さは4960kmが必要という算出結果が出ました。ただし、この数値は鋼鉄を想定した場合であり、現実的ではないとされました。

そのため、長い間、宇宙エレベータはSFの素材や未来の工学として概念的なものとして扱われてきただけでしたが、1982年になって、理論的には宇宙エレベータを建造できる強度のグラファイト・ウィスカーが発見され、さらに1991年に極めて高い強度を持つカーボンナノチューブが発見されたことにより、実用化可能と言われるようになりました。

NASAなどは、宇宙エレベータの実現を本気で考えているようで、2031年10月27日の開通を目指し1メートル幅のカーボンナノチューブでできたリボンを、赤道上の海上プラットフォーム上から10万キロ上空まで伸ばすプロジェクトを、全米宇宙協会とともに進めているそうです。

また同じアメリカのLiftPort社という会社もNASAからの援助を受けて宇宙エレベータの早期実現へ向けた研究開発を行っているそうで、実際LiftPort社は2005年9月に同社が開発中の宇宙エレベータの上空での昇降テストを行いました。

この時のテストは、カーボンナノチューブではないケーブルを使用して気球に接続し、次第に気球の高度を上げていくというものでしたが、3回目で高度約1,000フィート(約304.8メートル)に達したそうです。

日本においても、「宇宙エレベーター協会」というのができているそうで、2009年から同協会主催の宇宙エレベーター技術競技会が開かれています。ルールは毎年改定され、2010年第2回大会での競技規則は上空の気球から幅5cmのベルト状のテザー(長くて強靭なヒモ)を垂らし、高度300mまで上昇・下降するというものでした。

ゼネコン大手の「大林組」は建設会社としての視点から、宇宙エレベーターの可能性を探る構想を、2012年2月の広報誌「季刊大林」の中で掲載し、「2050年ころの実現を目指す」としたことから話題を集め、新聞各紙の科学情報欄を賑わせました。

建造方法

宇宙エレベーターの具体的な建造方法としては、長大な吊り橋を建設する場合と同じ方法を採ることなどが提唱されています。まず静止軌道上に人工衛星を設置し、地球側にケーブルを少しずつ下ろしていきます。この場合、ケーブル自体の重さによって重心が静止軌道から外れないように、反対側のアンカー側にもケーブルを伸ばします。

そして地球側に伸ばしたケーブルが地上に達すると、それをガイドにしてケーブルをさらに何本も張って太くしていき、エレベータの最終形を目指します。

なお、カーボンナノチューブは軽量なので、かなり長いガイド用の細いケーブルと必要最小限の付帯設備だけならば、これをロケットに積み込んで静止軌道まで打ち上げることも不可能ではないと考えられています。

どんな工法をとるにせよ、現在の構想では、最終的に必要なケーブルの量は長さ1kmあたり7kg、アンカーまで含めた全体の質量は約1400トンだそうで、建設費は100億ドルから200億ドル(1兆円から2兆円)程度になるとか。ISS(国際宇宙ステーション)の建設・運用には1000億USドル以上の費用がかかっていますが、これに比べればかなり「格安」といえます。

技術的課題

とはいえ、宇宙エレベータを実際に建設するためには、乗り越えなければならない技術的課題が多数あります。

一番心配なのはやはりケーブルの材料で、材料の強度の点では、従来の最強クラスの素材であったピアノ線やケブラー繊維では静止衛星軌道から垂らすには強度がまったく足りませんでした。しかし、カーボンナノチューブ(CNT)の発見により、少なくとも理論上は可能性が見えてきたといえます。

ただし、ケーブルの自重を支えるために必要な比強度(強度/密度)は現在のCNTの2倍の比強度のものが必要考えられており、その開発が必要になります。

CNTの研究では、日本は世界の最先端を行っていると言われており、経済産業省の研究機関、産業技術総合研究所では既に、この強度に近づくことのできる非常に高品質なカーボンナノチューブの生成に成功しているといいます。

また、ケーブル材料としての決め手は従来ではカーボンナノチューブのみと考えられてきましたが、近年、「コロッサルカーボンチューブ」と呼ばれる新物質が開発され、この物質を使えば、破断長は6000kmのケーブルの制作も可能といわれ、地上から静止軌道上までのエレベータケーブルの最低破断長の条件を満たすと考えられています。

ただ、CNTやこれらの新物質を使って、外気圏や宇宙空間などの「極環境」の下で建造物を造るための構造計算や維持運用についてはまったくの白紙状態であり、強い宇宙線にさらされる外宇宙では物性の変化も予測されます。このため、実際のエレベータステーションの建造の前に、そのノウハウの蓄積のための十分な実験と試用の期間が必要と考えられています。

ケーブルを昇降させる昇降機の構造も問題です。エレベータのケーブルにラック式鉄道の様なラック(歯)を設けるような原始的な方法はほぼ不可能であり、昇降機はケーブルとの摩擦のみで地球の重力に逆らって昇降を行う必要があります。

駆動系に十分なトルクを得るには減速ギアなどで機構が複雑になり、重量や故障率を増加させてしまうため、いかにシンプルで軽量な機構で十分な昇降能力を実現するかが課題となっています。

しかし、この問題に関しては、ケーブル材料に比べれば遙かに現実的な課題であり、他分野での技術応用も見込めるため、日本でも大学や研究機関も含めて複数の研究者が既に開発を行っています。前述の宇宙エレベーター協会主宰の競技会でも、気球から吊したテープに小型モデルを昇らせる技術競技が行われたそうです。

このほか、昇降機を動かすエネルギーも課題です。前述のようにマイクロ波もしくは遠赤外レーザーの形で昇降機に送電する方法、太陽電池による発電、搭載型燃料による発電などの方法が考えられています。

これらのうちどのエネルギーを使うかは、昇降機の規模や構造によっても違ってきますが、バックアップの意味も含めて複合的な供給が望ましいと考えられいるようです。

レーザーによる供給については高高度における減衰と十分なエネルギーが得られるか疑問点が残ります。太陽電池の場合、非常に大きなパネルが必要とされます。

搭載型燃料については、燃料電池が有力候補ですが、燃料電池は既に自動車各メーカーが開発合戦を続けており、宇宙エレベータに使えるようなものは将来的には火力発電にも使えるのではないかと期待されています。

建造可能性以外の課題

建造の可能姓などの技術的な問題以外にも課題は山積みです。まず、維持費。宇宙空間は相当に過酷な環境であり、宇宙エレベータのような長大な建造物も日光や宇宙線などにより材料の劣化にさらされる懸念があり、スペースデブリとの衝突による破損も考慮に入れなければなりません。

宇宙エレベータのようなまだ誰も建造したことがないような長大な建造物を維持修繕していくのにどの程度の費用がかかるかは全くの未知数です。建設費用と維持費用が、はたして宇宙エレベータ建造が与える利便に見合うかどうかという、費用対効果の問題もあります。

次に、安全上の問題点があります。宇宙エレベータに対する安全上の脅威としては、航空機やシャトル、人工衛星などとの衝突が考えられます。エレベータのケーブルやシャフトの一部でも損傷した場合、損傷箇所に極めて大きな応力がかかって、エレベータ全体が崩壊する可能性があります。

衝突事故を防ぐためには、宇宙エレベータの周囲の広範囲を飛行禁止区域として設定し、レーダーなどで常時監視することが必要です。

宇宙エレベータの軌道は長い弦とみなせるので、荷物を上げ下げ時や天候悪化のときの震動はこれをある程度予測計算することが可能であり、「弦」を自由にコンピュータ制御することによって震動を打ち消すとともに、弦を動かして人工衛星やスペースデブリとの衝突を回避できると考えられています。

ただし、ある程度大きなスペースデブリは軌道がわかるため、上記の方法で回避できますが、小さなものは衝突を避けられません。宇宙エレベータ自体への影響は軽微で済むとしても、宇宙エレベータの昇降機や乗客・貨物への悪影響が考えられます。

このため、小さなものが衝突することを前提とし、スペースシャトルのように複数の昇降機を用意し、一度使った昇降機を修理して再度使うということなども考えられています。

もし宇宙エレベータがかなり大きなものになり、質量も大きくなれば、万一これが落下した場合、地上の広範囲に被害をもたらす可能性もあります。

ただ、全米宇宙協会などが考案しているような案では昇降機はそれほど巨大化しない構造で、ケーブルもラップフィルム状の薄いものを想定しており、このことから落下時の空気抵抗が大きく、万一落下した場合でも地上に大きな衝撃を与えることはなく、重大な影響を及ぼす可能性は少ないと考えられています。

また、宇宙エレベータは縦にきわめて長大な建造物であり、材質の強度と遠心力や重力などのバランスの下に成り立っているため、テロリストなどによる破壊工作に対してはかなり脆弱な構造物であるという指摘もされています。

類似の問題として、軍事衛星との衝突の可能性も考えられます。軍事衛星は機密上存在自体が秘匿されることもあり、特に低高度を飛ぶ偵察衛星などは周回時間も短く、想定範囲外の衝突が発生する恐れがあります。

これらの「秘密衛星」による衝突をすべて回避するようにコントロールするのは困難ですし、他国の偵察活動の妨げになるような建造物を造ることに異を唱える国家が出てくる可能性もあります。

このほか考えられるのが環境への影響です。宇宙エレベータのような大規模構造物が環境にどのような影響を与えるかはまだ全くわかっていないという状況です。ただし宇宙エレベータのケーブルは極めて細いため、大気の擾乱や熱伝導による気温変化への影響は小さいだろうと考えられています。

アース・ポート建設地点の生態系の変化や、建造に伴う廃棄物による公害なども考えられますが、宇宙エレベータが完成すれば有害物質や騒音を撒き散らすロケットの打ち上げは激減し、相対的には環境によい影響をもたらすのではないか、という意見のほうが多いようです。

いずれにせよ現段階では環境問題への影響は想像の域を出ず、このためこの分野に関しては本格的な研究にはまだ着手されておらず、ましてや定量的に環境への影響を示すことはできません。

政治的課題というのもあります。宇宙エレベータはロケットに比べて遥かに安価な輸送手段ですが、赤道上が有利など建設できる場所が限られています。このため強力な国家や経済ブロックの存在は、アース・ポートの建設において、領海・領空の使用権、宇宙エレベータの権利などが生じ、国際的な紛争が起こる可能性もあります。

しかし、南局大陸の平和利用や、ISSのような国際的な取り組みが成功している時代ですから、技術的な問題さえクリアーできれば、将来的にも各国が協調して宇宙エレベータを建設することは可能でしょう。

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以上、長々と宇宙エレベーターについて書いてきましたが、いかがだったでしょう。私も最初は、???実現可能なの?という感じでしたが、書き進めているうちに不可能ではないような気がしてきました。

1957年に打ち上げられた世界初の人工衛星スプートニク1号は、大きさわずか58cm、重さは83kgしかありませんでしたが、いまや世界最大のロケットなら10トンちかい重量物を打ちあげられるといいます。

ましてや、国際宇宙ステーションのように何度も部品を打ちあげて大きな構造物を地球周回軌道上に造ることができる時代です。いつか、宇宙エレベーターも実用化するに違いありません。

スプートニクから約60年が経ちました。私は60年後に生きているでしょうか。生きていなくてもいいですから、それまでに実用化していることを願いましょう。