先日の8月4日、国産大型ロケット「H2B」の4号機の打ち上げが成功しました。
搭載されていた、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を届ける無人輸送機「HTV(愛称こうのとり)」も順調にロケットから切り離されて、ISSにドッキング成功。
これで、H2AとH2Bの2種類を合わせた日本の基幹ロケットの打ち上げは連続20機成功で、成功率は96.2%(26機中25機)となりました。
H2AとH2Bの違いは、運搬能力であり、H2Aはだいたい4トンくらいまでの比較的軽いもの、H2Bは7~8トンくらいまでの物資を運べます。
ただ、H2Aのほうは22回もの「実績」がありますが、H2Bはまだ今回で4回しか「実績」がありません。信頼性ではH2Aを使うほうが上ということになります。
とはいえ、国際的にも高い打ち上げ成功率を誇るようになり、海外からもこの国産ロケットで衛星を打ち上げてほしいという打診も増えており、H2Aのほうは既に韓国からの衛星打ち上げの受注を受け、2012年5月18日、H2Aの21号機により、韓国の人工衛星アリラン3号を予定軌道に投入し、初の商業衛星の打ち上げを成功させています。
H2Bによる諸外国の商業衛星の打ち上げはまだ実現していませんが、かなり重い衛星も打ち上げ可能なことから、重量の重くなることの多い静止衛星の打ち上げも想定されており、ほぼ同じ打ち上げ能力を持ち、欧州宇宙機関(ESA)が運用している「アリアン5号」との打ち上げ競争が始まるのではないかといわれています。
ただ、コスト面において、H2AやH2Bはまだまだ国際競争力が低いようです。H2Bの打ち上げ費用は150億円弱とされ、世界平均の2倍の水準であり、こうした使い捨て型のロケットとしては、かかる費用が高すぎます。
コスト競争力を高める切り札として政府はH2Aの後継機として「H3(仮称)」の開発を決めており、わが国のロケットメーカーの最大手、三菱重工やIHIなどの意見を取り入れながら、打ち上げ費用を半分に抑える方法を模索中です。
いまのところ、H3ロケットの打ち上げ費用は約50億円程度をめざしているそうで、これはH2Aロケットの打ち上げ費用100億円のおよそ半額になります。
ただ、現在運用中のH2AとH2Bは共通部分が多く、両方の機種の製造から打ち上げを一貫して担えるようになってきており、コスト低減がかなり図れるようになり、また打ち上げ成功率も高くなってきていることから、国際的な信頼性も向上してきています。
日本政府としては他のインフラ輸出の動きと合わせてセットとしての受注活動を進めたいと考えており、特にアジアや中東への売り込みに積極的に取り組みたいと考えているようです。
今回打ち上げが成功したH2B、4号機は、その打ち上げ目的がISSへの物資補給が目的という、いわばボランティア打ち上げでしたが、このISSへの協力も2020年までと決められているようで、その後の計画については未定といいます。
ISSへの参加が無駄といはいいませんが、いつまでも延々とボランティア活動へだけ税金の投入を続けていくというわけにはいきません。H2A、H2Bともに商業目的の打ち上げ実績を増やし、今後日本独自の宇宙開発をしていってほしいものです。
例えば有人飛行ですが、既に官民が連携して開発に着手することが決まっているH3については、将来的には有人飛行も見据えた計画となっているようです。
H3は、現在宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業の官民共同で技術的検討が始められたばかりであり、いまのところ従来のH2A、H2Bの技術が継承されるようです。ただ、H2A、H2Bは2段ロケットですが、H3Aではこれまでにはない、3段ロケットが想定されているとか。
3段ロケットにする理由のひとつは、将来的にもし有人飛行を行う場合、1段目、2段目のロケットエンジン噴射に万一失敗したとき、3段目エンジンのエンジンを使って緊急脱出が行えるからだそうです。
具体的にどうやって脱出するのかよくわかりませんが、1段目または、2段目エンジンの失敗が分かった瞬間に、飛行士自らの判断で手動により3段目エンジンを切り離し、安全な場所へロケットを持って行く、ということなのでしょう。
おそらく世界的にみてもこれまでには類例のない方式ではないかと思われ、導入するにしてもかなり高度な技術が必要になるのではいでしょうか。
このH3は、有人飛行に使うことも想定しているだけに、かなり大きなものも打ちあげられる予定だそうで、国際宇宙ステーション(ISS)の高度に6トンの有人船を運べる能力を持たせるとのことです。
打ち上げ能力としては現在のH2Bとあまり変わりはありませんが、試案によれば、1段目に、H2Aの2段目と同じ形式のエンジンを3基ほどを並べるそうです。1基ずつのエンジンは高出力ではありませんが、これにより噴射される燃料の温度が低く、安全性が高くなるのだとか。
有人飛行に対応させるということで、現在のH2Bなどは固体燃料の補助ロケットで推進力を補っていますが、H3ではこの固体燃料は使わないそうです。
固体燃料は米スペースシャトル・チャレンジャー爆発の原因にもなったためだそうで、こうしたことからもJAXAのH3を有人飛行のために使う、「本気度」が垣間見えます。
また、一段目のエンジンも、複数積むことで、仮にこのうちの1基が故障しても推進力を確保できるという点も安全面に寄与します。これと同じエンジンを2段目にも使えば、同じエンジンばかりを使うことになり、低コスト化も図れるということで、3段ロケット化というのは、それなりによく練られたプランのようです。
このほか、3段にするメリットとしては、これまで、衛星などは一番てっぺんのロケット先端に取り付けていましたが、これを2段目に取付けることができるようになります。
従来の2段型だと、複数の衛星を積み込む場合には、先端部分が重くならざるを得ないので、ロケットのバランスが悪くなると同時に、先端のロケット段に観測機器を多く積むことでその予備系は少なくしなければならず、これまでは衛星放出失敗の一因にもなっていました。
3段にして、2段目に普通の小さ目な衛星を積み込むようにすれば、先端の段への機器への集中は少なくなり、ロケットの運用に幅ができることにもつながり、ロケットそのものも更に大型化できる可能性があるそうです。
このように、3段にした新型H3ロケットは良いことづくめのようです。が、H2シリーズは基本設計からもうすでに30年にもなるため、従来の培ってきた技術の部分改良よりも新規開発する方が多目的化できるのではないかという意見もあるそうです。
このため、H2A、H2Bとは全く違ったコンセプトのロケットとなる可能性もまだあり、その辺の検討が今まさに始まったばかりということのようです。
いずれにせよ、私がまだ生きているうちに、日本が開発した有人ロケットの打ち上げが実現するという快挙を見ることもできるかもしれず、ワクワクします。技術的には2020年ごろに初飛行できるということです。あと7年くらいはくたばらずに生きているでしょう。
ところで、スペースシャトルをお払い箱にしてしまい、今のところ、有人飛行のシステムを持たない、アメリカの今後の計画はどうなっているんだろう、と気になったので調べてみました。
そもそも、なんでスペースシャトルをやめてしまったのか、ということなのですが、その理由の最たるものはコストのようです。
スペースシャトルというのは、宇宙と地球を往復する本体とこれを打ちあげるロケットや打ち上げ台などの総称であり、宇宙飛行士そのものが乗り込む翼のついた機体の正式名称は、オービタ(Orbiter、軌道船)といいます。
このオービタを繰り返し使用するには、実は多額のメンテナンス費用が必要で、使い捨てのロケット型の宇宙船を使用したシステムの方が現在の技術では経済的といわれています。
また、オービタには耐熱システムの問題があり、打ち上げ時には耐熱タイルや耐熱シールドが剥がれ落ちて本体に衝突する可能性があり、コロンビア号空中分解事故も主翼の耐熱シールドを損傷したことが原因になりました。
さらにオービタに装備されている主翼や垂直尾翼は、打ち上げ時と大気圏再突入〜帰還時にしか使用されないため、大気のない宇宙空間に出れば全く用をなしません。このため重量的には非常に効率が悪く、打ち上げと帰還時にだけ翼を使用するくらいなら、むしろ翼のない方が効率的です。
こうしたことから、シャトルに比べてロシアのソユーズ宇宙船のほうがよっぽど経済的ではないかということが、長い運用の結果から言われるようになり、しかもシャトルは1980年代初期に建造された4機とその後に加えられた1機のたった5機がボロボロになりながらもほぼそのまま使われ続けました。
その135回の打ち上げによって数多くの成果をあげ、アメリカの宇宙開発の威信を保ち続けましたが、ご存知のとおりこのうちの2機が事故を起こし、その都度クルー全員の命と共に失われています。
一方のソユーズ宇宙船は同じ40年余りの間に100機以上が打ち上げられており、初期のころに2度の死亡事故を含めて何度か重大な事故を起こしたものの、その都度改良が加えられ、1990年代以降は人命に危険が及ぶ事故は起きていません。
ロケット先端に取り付けられたカプセル型の宇宙船は、突入時に姿勢制御ができなくなっても、最悪、非制御状態での弾道突入でも帰還ができるような設計が可能なためでもあります。もっとも過去の打ちあげではこうしたトラブルはほとんどなかったといいます。
さらに、あまり知られていないことですが、スペースシャトルにはなんと、緊急脱出装置を搭載されていませんでした。
チャレンジャー号の事故の教訓から、コックピットからパラシュートを使っての緊急脱出するような訓練もなされたようですが、基本的にはオービタが事故によって急速に回転したりするような状況下では、脱出行動は困難である、との理由からだったようです。
ところが、カプセル型宇宙船では、緊急脱出用ロケット(通称「LES」)を設置することが可能なのだそうで、トラブル時にはカプセルのみを切り離して緊急脱出することができるといいます。このシステムはアポロやソユーズでも設置され、とくにソユーズでは一度使われて安全に避難できることが実証されています。
なのに、スペースシャトルでは何故緊急脱出装置が設置ができなかったのかよくわかりませんが、その構造上、設置ができない何か致命的な技術的な理由があったのでしょう。
ともあれ、こうした経済的な理由や安全面での問題点から、スペースシャトルはその運用が取りやめられました。将来型シャトルとして開発・検討されていたシャトルもあるにはあるようなのですが、結局は実現していない状況だそうです。
シャトルのコスト高を解決する方法として、このほかにも完全再利用型の宇宙機がいくつか検討されましたが、技術的な難易度が極めて高く実現には至っていません。
なお、日本のJAXAにおいても、かつて「HOPE計画」というスペースシャトルに似た再利用型宇宙船の計画がありました。が、同様の理由で中止になり、21世紀初頭における宇宙からの回収システムの技術的な最適値はカプセル型であるとの結論から、上述のH3開発のほうへベクトル修正したという経緯があるようです。
さて、こうしてスペースシャトルの廃止を決めたアメリカ航空宇宙局 (NASA)が現在スペースシャトルの代替として取り組んでいるのが、「オリオン(Orion、またオライオン)」と呼ばれるカプセル型有人ミッション用の宇宙船です。
2006年8月に、オリオン座に因み「オリオン」と正式に命名されたこの宇宙船は、国際宇宙ステーション (ISS) への人員輸送や、次期有人月着陸計画への使用を前提に開発されていたものでした。
ところが、2010年にこの月着陸計画(コンステレーション計画)が中止されたため、新たなオリオン宇宙船(Orion Multi-Purpose Crew Vehicle、略称はMPCV)として、ISSへの人員と貨物の輸送と回収のみに用途が変更されて開発が続けられることになりました。
しかし、それだけではもったいないということで、その後、この機体は小惑星の有人探査にも使うことが表明されました。
2011年にバラク・オバマ大統領によって発表されたコンステレーション計画中止後に、新たに発表された宇宙計画には、月以遠の有人探査、例えば火星探査や小惑星探査が含まれており、打ち上げロケットのスペース・ローンチ・システムと共にオリオンが使用される可能性が高いということです。
「スペース・ローンチ・システム(SLS)」というのは、NASAが開発中の、アメリカ合衆国のスペースシャトルから派生した大型打上げロケットシステムです。
打ち上げ能力の総量は130tに達するといい、これは今までに作られた中でも最も強力なロケットであり、SLSは月や火星のように、地球近傍の惑星探査を目的として宇宙飛行士と装置を輸送する目的で開発されています。
開発は、ロッキード・マーティンが主体となって行なっており、無人試験機が来年の2014年にデルタIV Heavyロケットで初めて打ち上げられる予定だそうです。このフライトでは、長楕円軌道を2周回した後、高速で突入させて耐熱シールドの能力確認を行う予定とのことで、このあと2017年にもSLSで無人試験機が打ち上げられる予定だそうです。
NASAは当初、2011年までに試作機を製作、早ければ2014年にも有人飛行を行うとしていましたが、2007年4月にスケジュールが見直され、SLSとは別に従来型のロケットを使った有人飛行も計画していましたが、それすらも2015年以降に延期となりました。
この延期によって、シャトルが退役した2011年以降、アメリカの有人宇宙飛行に最低4年のブランクが生じる見込みになり、その間のISS滞在要員輸送手段は事実上ロシアのソユーズのみとなっています。
また、コンステレーション計画では、月着陸船の打ち上げ機 (Cargo Launch Vehicle: CaLV)として、「アレスV」というロケットを開発する予定でしたが、計画そのものが中止となったため、アレスVの初飛行も2018年以降になり、ISSへの物資輸送も日本のHTVやロシアのプログレスなどに頼る状況になっています。
このオリオン計画や、アレス開発計画そのものも、サブプライムショック以降の財政悪化を理由に、コンステレーション計画と同様に白紙になるのではないかといわれていましたが、いまのところその開発を継続する方針であることが、オバマ大統領によって表明されています。
従って、今のところ、アメリカによる従来型ロケットを使った次の有人宇宙飛行は、最短でも2015年の2年後。また、新型のアレスロケットを使ったオリオンによる有人飛行は2018年に予定されているアレスの初飛行以降になると思われ、日本のH3の初飛行が期待されるのと同じ、2020年ころになるのではないでしょうか。
とはいえ、おそらくは日本のほうの有人飛行はまだまだそれより先の話。日米両方の宇宙飛行士を乗せた日本のロケットが種子島から打ち上げられるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。生きているうちにそんな光景が見れるかしら……
さて、今日も列島は酷暑が続きます。
手元の温度計はすでに34度。涼しいといわれる昨日の伊豆でも、35度の猛暑に達しました。おそらくは今日も同じくらいにはなるのではないででしょうか。
みなさんも暑さにめげず、お盆をお過ごしください。熱中症や水の事故にもくれぐれも気を付けましょう。