今年は、年初めに風邪をひいてしまい、それまで不定期ではありましたが続けていたジョギングをやめてしまいました。
しかし、梅雨明けの7月ごろからこれを復活させ、以後、ほぼ毎日早朝に30分を目安に走り続けています。
このため体調は悪くはないのですが、時にひざが痛くなることも多く、マッサージが欠かせません。この年齢になると関節の靭帯なども弱くなるので、ジョギングなどの膝に負担のかかる運動はあまりよくない、という話もあるようです。
ジョギングやマラソンよりは、関節に負担のかかりにくい自転車のほうが良い、という話もあるようなので、今後のことも考えて、そちらも検討しようかなと考え始めているところです。
ところで、先日も早朝からこの別荘地内を走っていたのですが、このときふと気が付いたことがありました。
それは、なぜか無意識にいつも道路の左側を走っていることです。ふだん徒歩で歩いているときも、道路交通法上は歩行者は右側、と決まっているにも関わらず、気が付くと左側を歩いていることが多いような気がします。
これは何故なんだろうなーと、自分なりに考えてみたのですが、その思考の行きついたところは、どうやら腕の右利きと関係があるのではないか、ということでした。
道路を歩いているときには、後ろからひっきりなしにクルマやバイクなどの危険が迫ります。万が一これらが自分を襲ってきた場合には、咄嗟に何等かの防衛体制をとらなければならなくなります。が、この時、利き腕の右側であれば、より対処はしやすくなります。
逆に左側をこれらが通過する場合のことを考えたとき、果たして咄嗟の反応で避けることができるか、と自問してみたところ、やはり、右側のほうが対処しやすいよな~と思うのです。
しかし、それにしてもなぜヒトには右利きが多いのだろう、と気になってきたので、今日はそのあたりのことについて、少し調べてみることにしました。
すると、まずわかったのは、そもそも左利きの人は一般的に右手に比べて左手をより多く使うけれども、全ての動作を左手で行うのではなく、実際には完全な左利きは少ないということでした。
文字を書く、箸を使うのは右ですが、ボールを投げたりするのは左を使うなど、動作によって使う手が決まっている場合もあり、また特にどちらの手と決まっていない動作も多いようです。
そうした意味では、左利きの人々は多くの動作で左手を使うことを「好む」というのが正しいようで、このため、「左利き」というよりは、むしろ「両利き」という言い方のほうが説明としては正しいようです。
では、なぜ左利きよりも右利きのほうが多いか、ですが、これには諸説あって、はっきりした理由はいまだにわかっていないようです。
ただ、だいたい成人人口の8%から15%が左利きでだそうで、わずかながら女性よりも男性の方が左利きが多いということです。しかもこの割合は古今東西を問わずほぼ一定だということです。
左利きが生まれるのは、人類の長い歴史の間に、文化・教育・食事などが変化し、その結果後天的に、右利きが多くなったのではないか、とする説もありますが、古代の壁画や石像を見ても右利きの方が圧倒的に多いこともわかっており、歴史の変遷の中で右利きが増えたという説は説得力がありません。
なぜ左利きが少数なのか、以下に左利きが発生する要因についてよく語られている意見を列挙してみましょう。
自然選択説
心臓は左半身にあり、右利きの戦士は右手に武器を左手に盾を持って戦う、左利きの戦士は左手に剣を持ち右手に盾を持って戦います。この結果左利きの戦士の方が心臓を危険にさらされて致命傷を負う確率が高くなります。従って右利きの人間が遺伝的にも多く生き残るという説で、最も主張が多い説です。
しかし、この説では心臓の位置が左半身という前提になっていますが、実際には心臓は身体のほぼ中央にあります。
また利き腕が遺伝することを前提としていますがが、利き腕に関わる遺伝子の存在は確認されていません。さらには、盾を使わない文化圏でも左利きが出ており、盾がまだない石器時代から左利きは少数であり、盾を使わない近代でも左利きは増えていません。
突然変異説
DNAや染色体異常などの突然変異により左利きが生まれるとする説です。しかし、右利きと左利きでDNAや染色体に変化がないことは証明されています。従って、この説は学術的な説ではなく民間で生まれた都市伝説に近いもののようです。
しかし、科学知識のない時代にはかなり信じる人も多く、この説が左手に対するマイナスイメージを生むことになりました。
種の自己防衛説
生物は多様化することによって未知の伝染病や急激な環境変化に遭遇しても全滅することを防ごうとします。左利きが生まれるのもこの多様化の一種であるとする説です。しかし、利き腕の差がその意味で効果があるかと言えば、これに関する傍証データはほとんどないようです。
脳の半球説
右利きの脳と左利きの脳の基本的な違いを脳スキャンで確認した結果、右利きの人はいろんな作業をしているとき、脳の特定部位がその作業のために使われていますがが、左利きの人にはこの集中化はみられず、むしろ分散しているそうです。
また、左利きの人が脳卒中の発作に見舞われた場合、右利きの脳卒中患者よりも復帰が早く、これは左利きの人の脳は、脳の各所に機能を分散する度合いが高く、特定の箇所に集中させる度合いが低いことがわかっています。
さらに、90%前後の右利きの人は言語を制御するのに脳の左半球を使っていますがが、左利きの人は左半球の場合と右半球の場合があり可変です。
以上は、なぜ右利きが左利きより多いか、という問いへの明確な答えにはなっていませんが、これらのことから、一般的な人では、言語と右半身の制御を司る左脳が発達し、このため右利きが多くなる、といったことなどが考えられます。左利きの人はこれらの制御のができ、両方の半脳を司る能力に秀でているということになります。
なお、他の霊長類は、人間のように言語を持たないため、脳の左右にこういった機能の違いはなく、従って利き腕の偏りは見られません。
遺伝によるとする説
イギリス王室の王族の多くは左利きであり、また女王エリザベス2世をはじめ、チャールズ皇太子、ウィリアム王子も左利きです。そのため利き手が遺伝する説の説明によく用いられますが、統計としては分母が少なすぎて参考にならないといいます。
胎内で決まるという説
近年のイギリスで妊娠中の女性1000人に超音波走査を実施した結果、10~12週間目の頃の胎児は左手の親指よりも右手の親指を頻繁に吸っているという結果が出ました。
これまでの説では、3歳から4歳の頃に利き手が決定されるものであるとされていましたが、このことから、10週間目の頃の胎内での手の動きと利き手の関連性についてが取沙汰されています。
しかし、現在のところ胎内において脳が手に対してそれらの命令を出しているという証拠はないようです。
以上を俯瞰すると、私的なジャッジとしては、やはり脳の半球説がもっともらしいかな、という気がしていますが、無論、医学的には何ら証明されているわけでもないようなので、ここで結論とするわけにもいきません。
が、人間が最も人間らしいのは言葉を話すからであり、それを司っているのが左脳であるならば、やはり普通の人なら左脳が制御する右半身のほうが発達する、と考えるのはごくごく自然でしょう。
と、右利きが何故多いのかについては一応自分なりに納得したので、ここで終わりにしても良いのですが、せっかくですから、左利きである人達のメリット・デメリットについてももう少し調べて書いてみましょう。
一般的には、右利きに比べて圧倒的に少ない左利きですから、一般の生活を送るにあたってそのデメリットは多いと思われ、とくに世の中の製品の多くは、右利きの人が利用することを前提に設計されているものが多く、これは左利きにとって不便なだけでなく、危険性が高い場合さえあります。
例えば、機械の操作ボタンの多くは右側に配置されていますし、机に引出しが付く場合はおおむね右側にあります。
刃物・工具の類も右手で使うことを想定した作りになっているものが多く、これらのデメリットに関しては枚挙のいとまもありませんが、私がとくに不便だろうな~と思うのは、文字はそもそも右手で書くことを前提としていることなどです。
例えば、学校では、教室で自分なりのメモを取る分には問題ありあませんが、いざテストになった場合には答案用紙は普通、右利きの人向きに造られおり、右利きの場合問題を見ながら書き込むことができますが、左利きでは問題文が自分の手で隠れてしまうので、いちいち手を浮かせて確認しなければならないという不便があります。
また、公共の場所で書きこむアンケートなどはたいていが横書きで、問が左、回答欄が右になっています。
このほか、一般に左利き用の製品は、右利き用に対して生産数の少ないことから高価となるので、経済的負担を強いられる場合があります。例えばギター、ゴルフクラブなどがあり、私が昔やっていた射撃などでも、左利き用の銃は高価であり、また実用面でも右利きの人のためにそもそも作られているため、その操作は時に危険を伴います。
例えば、多くの回転式拳銃では、回転式弾倉が左側に開くため、再装填しづらく、また、一般的な自動小銃を使用する際、左手で銃把を握った場合は薬きょうの排出口が顔が近くなるので、焼けた薬莢が顔にあたり怪我をする危険性があります。
さらにはこれらの製品を左利きで使ったことのある指導者や知合いが少ないというデメリットもあり、右利きの人の物を借りて使えないというもどかしさもあるでしょう。
また、単に個人で行動しているときには、道具の工夫などによって何等かの対処のしようもあるのですが、集団生活においては、例えば横に並んで食事をする、といったとき、左利きと右利きの利き腕がぶつかるといった問題があります。
建物設計でも、一般的な座席間の距離は、右利きの人だけが並んだことを想定していますし、軍隊などでも、古代ギリシアの槍部隊は全員右手に槍を持つことが前提となっており、左手で槍を持つことは許されなかったそうです。
現代の軍隊でも、上でも述べたとおり銃火器の構造上、標準とされている装備を使うにあたって左利きは不便ですし、日本の警察などでも警官の標準装備は拳銃が右・警棒が左の配置になっており、これは、左利きであっても変える事が認められていません。
こうしたことから、左利きの人は生活の多くの場面で右手や右手用製品を使わざるを得ないので、結果として右手用の物を左手で使うようになり、これが高じると長い間にはもし左利き用の物があったとしてもこれを使えなくなる、といったこともあるようです。
また、箸は左手を使うが筆記は右手を使うなど、用途によって使う手を変えるクロスドミナンス(交差利き、分け利きとも呼ばれる)になる人も多く、さらには努力を重ねて完全な両利きになる人もいます。
ただ、こうした不便からくるストレスや、器具の操作ミスによる事故を起こしやすいなどの理由から、左利きは右利きに比べて平均9年寿命が短いという説もあるそうです。
しかし、一方では逆に左利きであるからこそ生じるメリットもあり、そのひとつとしては、水道の蛇口や電球、機械類を組み立てるボルトなどの操作があります。
これらは通常、取り付けたあと時間の経過によって固着していきますが、いざ開けようとしたときには、締めつけるよりも大きな力が必要です。
一般に、これらに使われているネジは、右手の人用に造られているので、締め付けるときには、右手で右回転させてねじるほうが力が入りやすくなっています。しかしこれを逆に開けるときには、左回しとなり、このときには左利きのほうが力が入りやすくなるというわけです。
このほか、コンピュータのキーボード配列も、ブラインドタッチをする場合には、左手に割り当てられているキーのほうがわずかながら右手より多いそうで、多数の文字を打ち込むときには、厳密に言えばその差が出てきます。
さらに、ビデオゲームのコントローラは、業務用ゲーム・家庭用ゲームを問わず、方向キーやジョイスティックを左手で操作するものが標準となっており、ゲームの種類にもよるようですが、多くの場合、複雑・微妙な操作を要求されるのは左手のほうであり、こうしたシーンでも、左利きのほうが有利なのだそうです。
しかし、左利きの人のほうがメリットが出やすいといわれるのは、やはりなんといってもスポーツの世界でしょう。
左利きであることは、時にハンディになることもありますが、特に野球、ボクシング、相撲、柔道など直接人と勝負するスポーツや一対一で必ず対戦するようなスポーツにおいては左利きであることが有利に作用します。
これは、右利きと左利きの人口比のためであり、当たり前のことですが、左利きが右利きと対戦する機会が多いのに対して、右利きは左利きと対戦する機会が少なくなります。
その差は歴然で、右利きにとっては慣れないフォームの相手と戦う不利に加え、左利きによる逆方向・逆回転の攻撃に翻弄されることも多くなります。
このため、多くのスポーツで左利きを利点として戦う選手がトップクラスにおり、例えばボクシングの世界では、世界王座6連続KOを含む13度防衛の記録を持つ具志堅用高が左利きであることはよく知られています。
また、一般的にサッカーやアイスホッケーなど、相手側と対称のコートで行う球技の場合、右側には右利きの選手、左側には左利きの選手を配置するのが有利であるとされており、こうなると少数派である左利きの選手のストックをいかに多く持っているかが、いざという場面での勝敗の帰趨を制する大きな要因となり得ます。
左利きが珍重されるというのは、同じ集団スポーツである野球でも同じです。とくに野球においては右投げの投手に対して、左打ちは有利とされています。
また、投手の場合でも左投げ投手の人口が少ないため、打者はこうした左投げ投手に出くわす機会はそう多くなく(但し、最近ではサウスポーが優遇されているので必ずしもそうではありませんが)、これは左投手側にとっては有利に働きます。
プロにおいては左投手が優遇されているため対戦機会は多くなりますが、アマチュアでは少ない場合も多く、とくに投手有利とされます。
また、プロレベルになると、左で速球を投げる投手は右より速く感じられるといいます。これが私にはよく理解できないのですが、左ピッチャーに対して右バッターでは彼我の距離がより短く思える、ということなのかもしれません。
さらに、左投手は、セットポジションでマウンドに立つとそのまま一塁を見ることができるので、一塁ランナーの牽制もしやすいというメリットもあります。
近年では、左投手のこうした優位性が広く認識されているので、リトルリーグや中学校の野球部などでも、入部してきた部員が左利きだという理由だけで投手にされてしまうことも珍しくないそうです。場合によっては左利きである学生をわざわざ探して勧誘する、といったことまで行われることもあるそうです。
ただ、左利きの野球選手は、一般に守備位置の制限が大きく、守備範囲としては投手以外では、ほぼ一塁手か外野手に限られるそうです。これは、例えば二・三塁側の内野で捕球を右手、送球を左手で行った場合、一塁方向への送球はどうしても右手で送球するよりも遅くなってしまうことが理由です。
また、捕手になる場合でも、右バッターが多いので、左利きの捕手は送球に不利になります。このため左利き用のキャッチャーミットは都市部でも取り寄せでなければ入手困難だそうで、左利きの捕手の中には、どうしても左利き用のキャッチャーミットが見つからず、右利き用のミットを裏返しにして左利き用に改造したという事例まであるそうです。
ちなみに、左利きであるという有利を行使せず、左利きであっても右腕で勝負している選手も少なからずおり、シアトル・マリナーズの岩隈久志投手や、阪神の鳥谷敬内野手、ヤクルトの由規(本名:佐藤由規)投手、巨人の坂本勇人内野手などが左利きの右投げの選手として知られています。
相撲では、古くは江戸時代に無敵を誇った大関雷電、大正後期の土俵を支配した横綱栃木山、昭和の大横綱として知られる双葉山を筆頭に、柏鵬時代を作った大鵬と柏戸、「黄金の左」の輪島、モンゴル出身の朝青龍などの横綱陣の多くが左利きです。また、現役力士でも琴奨菊や舛ノ山、大岩戸など左利きの力士として知られています。
ただし、相撲の場合は、四つに組んだ状況では、右利きなら左四つ、左利きなら右四つに持ち込むのが有利なのだそうですが、こうした相手に有利な状況に持ち込まれた場合でも、利き腕をあえて下手にして対処する場合もあるので、必ずしも左利きが有利とかはいえないそうです。
それにしても大横綱に左利きが多いのは、やはり長い稽古の間で、左利きならではの長所は何かを考え、圧倒的に多い右利き力士への対処法を身を必死になって探す努力を重ねているからなのでしょう。
さらに、ですが、テニスのダブルスでは、ラケットを握る手が外側にくるように2人が立つ、すなわち、右利きの人が右側、左利きの人が左側に立つことによって、利き手が同じペアよりもカバーできる範囲が広がり有利だそうです。
これはしかし、卓球のダブルスにおいては逆であり、ラケットを振る手が中央にくるように2人が立つ、すなわち、右利きの人が左側、左利きの人は右側に立つほうが有利になるのだそうで、これは利き手を真ん中に集めることで、対戦相手を圧倒する攻撃力を中央に集中させやすいためでしょう。
以上のように、左利きの選手は、ことスポーツ界においては、むしろ優遇され、その結果として一流プレーヤーにまで上り詰める機会も多いようです。
じゃあ、スポーツ以外で左利きが有利な分野は?ということになると、なかなかこれといったものはないようです。
ただ、左利きは少数派であるというハンディを乗り越え、右手をも利き手にするよう努力した結果、両利きとなり、このために右手だけが利き手の人よりも多くの作業において有利になったという話はよく聞きます。
大人になるほど利き手の変更は困難を極めることになるため、こうした人達は子供のころから涙ぐましい努力を重ねて右手も使えるようになったわけですが、一方では、幼少時に周囲の人物が、強制的に利き手の変更を行なわせようとすることも多いようです。
洋の東西を問わず、かつては左利きを身体障害者と考える人・地域は多く、さらには知的障害の一種のように扱う人もいたため、利き手の矯正はかなり高い比率で、時には厳しい体罰を伴ってでも強制されていました。
イギリス国王ジョージ6世は幼少期から少年時代に、父ジョージ5世により左手に長いひもを結び付けられ、左手を使った時には父から乱暴に引っ張られていたそうで、この虐待によりジョージ6世は重度の吃音になってしまいました。
このため、後年、大英帝国博覧会閉会式で、父王ジョージ5世の代理として演説を行った際、吃音症のために悲惨な結果に終わり、聴衆も落胆します。しかしその後その治療にあたった植民地出身の平の言語療法士にも助けられ、のちにジョージ6世として戴冠式に臨む際には、見事なスピーチをして、観衆を沸かせるほどに回復しました。
この話は、2010年に映画化され、「英国王のスピーチ」として公開された結果、好評を博し、第83回アカデミー賞では作品賞など4部門を受賞したのは記憶に新しいところです。私もこの映画は、劇場にわざわざ出向いて鑑賞しましたが、なかなかの感動作でした。
このほか、漫画家の水森亜土や王貞治、ルイス・キャロル、ネルソン・ロックフェラー、ウィンストン・チャーチルも左利きでしたが、同様もしくは類似の虐待を受けており、水森亜土とルイス・キャロルはジョージ6世と同様、吃音に悩まされ、チャーチルもまた生涯後遺症に苦しめられたといいます。
こうしたことから、最近では利き手の変更には諸々の悪影響が出るということが認知されるようになり、事故によって負傷し利き手に重い後遺症が残ったという場合など以外では、よほどにやむを得ない事情が発生しない限りは利き手の変更はあまり行われないようです。
そもそも左利きであることが悪いことではなく、上述のスポーツの例をみてもわかるように、むしろ希少な優れた資質と考えるならば、強制的な利き手の変更のほうこそが考え直さなければならない風習といえます。
また、スポーツの世界だけでなく、音楽や演劇の世界でも左利きで大成した人も多く、ポール・マッカートニーは、左利き用のギターを使用していたギタリストとして最も有名ですし、チャーリー・チャップリンもまたヴァイオリンを左手で弾いていました。
アメリカの大統領には、左利きの人が多いことはよく知られている事実であり、2013年現在、直近の7人の大統領のうち5人までもが左利きです。
トルーマンの時代まで戻れば、12人のうち6人までもが左利きであり、1992年の大統領選挙では、有力候補であったジョージ・H・W・ブッシュ、ビル・クリントン、そしてロス・ペローの3人は全員左利きでした。
これがどういう理由によるものなのかを分析した学者もおり、それによれば、左利きの人たちは広範囲に物を考えることができるといい、こうした素質は大統領だけではなく、多くの分野でも有効であり、ノーベル賞受賞者や作家、画家などもどちらかといえば左利きが多いという調査結果もあるようです。
左利きの人のうち7人に一人は、言語を脳の両方を使って処理していますが、一般的な右利きの人々の場合、その両方を使える人は20人に一人にすぎないという研究結果もあるようで、両脳を使って言語を操れる人はいろんな分野での器用さに秀でるということもいわれているようです。
脳内で言語に割り当てられる場所が増加することは、コミュニケーション能力の高さにつながるといわれており、これを説明できるデータもあるそうなので、レーガン、クリントン、そしてオバマのような歴代の大統領が雄弁なのはそのためなのかもしれません。
また、両方の半脳球において言語を処理することできる左利きは、より訓練を重ねることでさらなる複雑な論理的思考が可能になることも明らかになりつつあるそうです。
左利きの人は右利きに適している世界でうまく暮らしていかなければならず、そのことがさらなる精神的な回復力を生むのではないかと指摘する学者もおり、マイノリティであることこそが、そのタフネスを生み出すのかもしれません。
ちなみに、全く関係のない話ですが、インドやイスラム諸国では、その昔、トイレでの排泄行為後の処理は、手桶の水を流しながら左手で汚れを洗い落とすのが習慣だったそうです。
なので、現在のように水洗が普及して、シャワーホースを使って水洗いすることが普通になったのにもかかわらず、かつての習慣から左手は衛生面でも不潔(不浄)な手とされるようになりました。
このため、食事の際には左手を隠し、右手でつかんで食べる文化があるのであり、現在でも、公の食事の席では左手を出すのは無礼な行為とされているそうです。
ただしインドやイスラムでも左利きの人はいるはずなので、こうした人達はどうしているのかなと思ったら、やはり食事だけは右手で食べ、その他の動作は左で行っているそうで、たとえ左利きであっても、その手は不浄という原理は変わらないようです。
左手が不条理というのは、こうしたイスラム教の世界だけの話であり、今や左利きは右利きを上回る能力を持つ人々として、注目されつつあるのです。
もしあなたが左利きだとしたら、それを憂う必要はありません。むしろ胸を張ってその能力を誇りましょう。
ところで、「わたしの彼は左利き」という曲が大昔流行りました。歌い手は浅丘めぐみさんだったと思います。
あなたの彼氏は左利きですか?