猿の惑星

ここ伊豆地方の昨日は午後から雷雲に見舞われ、夜遅くまでかなり降っていましたが、今朝は一転、良いお天気です。しかし、富士山のある山の手のほうは大気が不安定であるらしく、今日も昨日も厚い雲に覆われています。ここのところ、富士山の見える回数がめっきり減ってきましたが、これから夏に向けてはさらに見える日も少なくなっていくのでしょう。湿気が多く、雲ができやすい初夏から夏に向けては仕方のないことではありますが、富士山の見えない日は、ちょっとさびしい気分。

でもその分、家の周囲の緑の変化が豊かになってきていて、鳥や昆虫の動きも活発になっったように思います。何の鳥だかわかりませんが、朝早くからピーチくぱーちくにぎやかです。今出入りの左官屋さんのUさん宅では、庭先にエサ台を置いているそうで、そこにひまわりの種などを置くようにしておいたところ、ヤマガラなど、いろんな鳥が遊びに来るようになったそうです。我が家でも庭が完成したら、ぜひ試してみたいと思います。

ここ、10日ばかり、あまり遠出をしていないのですが、ふもとの修善寺や大仁にたまに出かけると、そこら中の田んぼに水が張られ、植えられたばかりの稲の苗が風に揺られている風景をよく見ます。田んぼの風景など、日本中どこでも見られるものですが、ここ伊豆の田園風景は、どこかほかの場所と違う気がする・・・そんな話を昨日、移動中のクルマの中でタエさんとしていました。

いったい、何が違うんだろうか・・・と二人して考えてみるのですが、どうもその理由がよくわかりません。ただ、ついこの間まで住んでいた多摩地方の田園風景は、よく日のあたる上天気の日でさえ、どこかさみしい。というか良い表現が出てこないのですが、色でいうと寒色系なのに対し、ここ伊豆では温かみのある暖色系のような気がするのです。

その原因をあれこれ考えてみるのですが、おそらくは土の色の違いによるのではないかな、というのが一つの理由。多摩地方の土の色はいわゆる関東ローム層の真っ黒な色で、それが多摩の風景を全体的に暗くしているような気がします。それから地形の違い。多摩地方のそれは、かなり起伏に富んでおり、十数キロも先まで見通せるという場所はそれほどないのに対し、ここ伊豆では、富士山はもとより、遠くは箱根や天城山まで見えることも多く、広々とした感じがします。

起伏が多いということは、場所場所で陰影の差が大きい場所も多いということで、それが全体を暗くしているのかな、というふうに思います。

それから、これはあくまで感覚的なもので、何も根拠はないのですが、やはり空気が違うのではないか、と思います。わたしは、仕事柄、これまで日本中のあちこちの場所に行く機会があり、四十六都道府県で行ったことのない県はひとつもありません。そしてその行く先々でやはり、違った空気があることを敏感に感じ取り、ああ、ここはこういう空気なんだ、と思うことしばしば。一番顕著な例は、やはり北海道。ここは、内地に比べて明らかに空気が違うということは、一度でも行ったことがある人はわかると思います。

いうまでもなくそれは、湿気の少なさに起因するのですが、内地の植物が生育できる北の限界線が津軽海峡あたりなのだそうで、海峡を渡ると植生ががらりとかわる、ということをその昔携わっていた環境調査で知りました。このほか、北海道にはゴキブリがいないそうで、植物だけでなく、北海道は動物の生態についても内地とは違う独特の環境を持っているようです。

こういうことから類推すると、いわゆる空気の違いというのは、その地域の大気の状況、すなわち湿気と気温の関係とか、風の状況、日照の程度を基本とし、その環境で育つ植物や動物の種類の違いに原因があるのかな、と。専門家ではないので、本当のところはわかりませんが、いわゆる、土、火(日)、水、風、木がその大地の特色を形作る5大要素なんだろうなということは、なんとなくわかります。

で、あるとするならば、まったく同じ空気の場所というものは、存在しないわけで、多摩地方と伊豆地方の空気の違いもしかり。それぞれの環境を形作る基盤のそれぞれが異なるためなのでしょう。

おそらくはそういうものを理論的に比較する学問があるのでしょうが、ただ、そういうものがあったとしても、人がああ違う、と感じる感覚というものは説明がつかないものなのではないかと思うのです。

 修善寺温泉近くでみつけた麦の穂 こういう風景も多摩ではあまりみかけませんでした

と、ここまで書いてきて、ふと思い出したのは、ハワイの気候です。ご存知の方も多いと思いますが、ハワイ諸島は、海底の火山が隆起してできた島々です。太平洋プレートにのっかって、今も少しずつ日本に近づいているそうで、日の丸がキラウエア火山の頂上に掲げられる日もそう遠くないことでしょう。本当です。でも、これを読んでいる人はその日まで生きていないと思うけど。

で、その火山島であったハワイと、伊豆は、実は大変よく似ている、ということが、先日修善寺虹の郷へ行ったときにわかりました。園内に伊豆の「ジオパーク」への取り組みについて、という表題での展示があり、ここに伊豆半島の成り立ちの説明板があったのです。

ジオパークというのは、地形的にめずらしい特徴を持つ地域で、地形以外にも優れた自然や文化遺産を持っている場合、それをひっくるめて公園化し、地域の経済発展に役立てましょう、という取り組みだそうです。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)がそれを世界的のあちこちで推進していて、審査して「ジオパーク」として認定されると、その地域の発展のためにユネスコからお金が下りる、というしくみのようです。ユネスコに認定され、世界的なジオパークとして認められたものが、「世界ジオパーク」。その前哨戦として、まず国内の委員会で審査され、世界ジオパークに立候補していいよ、として認定されたものが「日本ジオパーク」というそうです。

世界ジオパークには、有珠山のある洞爺湖有珠山ジオパークや、雲仙普賢岳のある島原半島ジオパークが有名ですが、そのほかにも糸魚川ジオパーク、山陰海岸ジオパーク、室戸ジオパークの3つがある、というのは私も知りませんでした。

日本ジオパークには、阿蘇とか霧島、隠岐の島、伊豆大島などが認定済みで、現在15ほどあるみたい。とりあえずは、この仲間入りを果たし、いずれは世界ジオパークに立候補しよう、という試みのようです。どこが主体になってやっているのか確認しませんでしたが、多分静岡県と伊豆・箱根の関連市町村なのでしょう。

ジオパークに認定されれば、地域発展のためにお金が下りる。けっして悪いこととは思いません。ただ、税収悪化に悩むお役人さんもいろいろ考えてるんだなーと感心する一方で、ほかにやることはないんかーい、自然エネルギーを使った発電とかいろいろあるじゃろーが、などと勝手なことを思う次第。

さて、前置きが長くなりましたが、ハワイと伊豆が似ているのがわかったという、虹の郷でみつけたその表示の話です。2週間ほど前に我が家にいらしてくれた、神主さんご夫婦のSさんが、伊豆は南からどんぶらことやってきて、本州にぶつかってできたという話を聞かせてくれていましたが、それは、その話を裏付けるものでした。その昔、やはりハワイと同様に海底火山が隆起してできた伊豆諸島は、100万年前ぐらいに本州にどーんとぶつかり、その時に、箱根やら丹沢山塊が盛り上がり、その後、バラバラの海底火山島だったものがひとつになって今の伊豆半島を形成した、とか。このスケール感。なかなかのものじゃありませんか。

で、気候の話です。以前からここ伊豆の風物は、どこかハワイと似たようなにおいがする、と思っていました。無論亜熱帯にある日本に付属する伊豆と、太平洋のど真ん中になるハワイでは、気候は全く違うのですが、どこか似たものどうしのような気がするのです。空気も澄みきっているし、水もうまい。海に囲まれ、火山活動こそ今は活発ではありませんが、過去の火山活動のおかげで温泉があちこちに出る。共通点が多いように思います。

だとすると、ハワイで3年あまり過ごしたあげく、また似たような空気のところに戻ってきていたのか、と不思議な気になってきます。

その昔、「猿の惑星」という映画がありましたが、宇宙飛行士だった主人公が、宇宙船の故障で見知らぬ惑星に不時着。そこは猿が支配する星だったが、ストーリーの最後で、実はそこは人間の文明が滅びたあとの地球だった・・・というお話。主人公が、最後の場面で、浪打際で半壊した自由の女神像をみつけて、謎が解ける・・・というラストシーンは、結構衝撃的でした。いま、ちょっとそんな気分でもある・・・

・・・空気の話に端を発して、話はハワイへ飛んで行ってしまいましたが、ハワイと伊豆は似た者同士・・・というのはなかなか面白い説だと思いませんか? まだまだ見ていない場所も多い伊豆半島ですが、この先あちこちまた訪問して、まだ見ぬ景色も堪能したいと思います。もしかしたら、その中には、本当にハワイで見たのとまったく同じ風景があったりして。楽しみです。