先日、伊豆にも雪が降りましたが、それ以降は安定した天気が続き、ここのところほとんど毎日、富士山がよく見えます。
まだまだ1月なので、雪が降るとしてもまだまだこれからだな、と思ってカレンダーを見ると、なんともうすぐ1月も終わり、2月です。
冬季の降雪量は、関東甲信越、東海地方とも、1月よりも2月のほうが多いのが通例のようですから、これから2月に入ってもまだまだ雪が降るかもしれません。
雪の多い地方の人や東京の人たちにとっては、あまりありがたくないかもしれませんが、ここ伊豆では雪が降ることのほうが珍しいので、私としてはむしろ望むところです。
先日伊豆にもたらされた雪でも、かなり綺麗な雪景色が見られ、このときには達磨山に登ってきたのですが、絶景でした。まだ、そうした写真は整理していませんが、また良い写真ができたら、またこのブログでもアップしましょう。
さて、先日、ボーイング787についての記事を書きましたが、その後、事故原因の究明についてはさっぱり報道されなくなりました。787が乗り入れている路線を利用している人たちにとってはやきもきするばかりの状況が続いていると思いますので、一日も早い解決を期待したいところです。
ところで、こうした航空機の製造で世界最大のメーカーであるボーイング社ですが、飛行機ばかりではなく、船舶の製造開発もしているというのをご存知だったでしょうか。
「ボーイング929」というのがそれで、まるで航空機の名前のようですが、これは水上を高速で走るいわゆる「水中翼船」と呼ばれる船です。
旅客用はジェットフォイル (Jetfoil) という愛称で呼ばれることが多いようですが、軍用のものもあり、こちらも同じくジェットフォイル、またはその用途のためにミサイル艇などと呼ばれています。
水中翼船全体の総称は、ハイドロフォイル(Hydrofoil) といい、これは推進時に発生する水の抵抗を減らす目的のため、船腹より下に「水中翼」(すいちゅうよく)と呼ばれる構造物を持った船のことをさします。
それではここで、ざっと水中翼船についてざっと述べておきましょう。
全没翼型と半没翼型
いわゆる「排水型」と呼ばれる、喫水線以下の船体が水中に沈み込む一般の船では、速度に関係なく浮力を得ることができますがが、水による大きな抗力から逃れることはできません。
船が進むときに水から受ける「抗力」は速度の二乗倍で増加するため、スクリューで船を推進させる場合には、機関の出力を大きくしても40ノット(時速約74km)あたりで頭打ちとなります。また、全長に対し全幅を極端に狭くする必要もあり、船の最大の利点でもある積載性をも殺ぐ結果となります。
そこで、従来の船よりもさらなる高速な船ができないかと研究が始められた結果、水との接触面を極端に少なくでき、抵抗を揚力に結びつける効果の高い水中翼船が開発されました。
この水中翼船は、低速で水上を航行する際には船体を水面下に浸けて航行しますが、高速航行をする際には、水中に設けられた「水中翼」の角度を上向きにすることで、この水中翼から「揚力」を得、これによって船体を海面上に持ち上げ、水中翼のみが水中に浸っている状態にします。そしてこれにより、水による抗力を大幅に小さくできます。
水中翼船には構造や推進方式が様々あり、構造上の分類では、高速航行時に水中翼の一部が水面上に出る「半没翼型水中翼船」と、水中翼の全てが水面下にある「全没翼型水中翼船」とに大まかに分けられます。そして、前述のボーイング929はこの「全没翼型水中翼船」になります。
さらに全没翼型水中翼船には、単胴型と双胴型がありますが、単胴型の全没翼型水中翼船がこのボーイング929であり、日本では川崎重工業の子会社・川重ジェイ・ピイ・エスがボーイング社のライセンスを取得して製造をしており、また、双胴型の全没翼型水中翼船には、三菱重工が開発した「スーパーシャトル400」などがあります。
全没翼型は半没翼型と比較して安定性に劣るとされており、これは、半没翼型の場合は、多少震動が多いものの、特に水上に出た水中翼の制御をしなくても安定した浮上がなされるのに対し、全没翼型では、翼が水中に没する翼部分が多くて水の抵抗が強いため、そのような自律性があまり期待できないためです。
また、半没翼型の水中翼には大きく上横に反り上がるような補助翼を設けることができ、これによって荒天時などには横揺れに対する復元力が確保できるのに対し、全没翼型は翼が水中に没しているのでこうした小細工ができません。
さらに、半没翼型は水の抵抗が少ないため、低燃費での高速航行が可能であり、こうした全没翼型よりも数々の優れた面が評価され、水中翼船の開発当初は、半没翼型のほうが主流でした。
しかし一方では、波の影響を受けやすい半没翼型は、乗り心地という点に関しては全没翼型に劣ります。また、少々複雑な水中翼であることからそのメンテナンスなどのための維持コストが高いのが難点です。
主流となった全没翼型929
このように欠点はあるものの、特に水中翼に関しては特別な制御をしなくても安定した浮上がなされ、燃費も比較的良いなどの長所多いことから、水中翼船が我が国に導入された当時は、半没翼型が主流でした。
しかし、その後、全没翼型では、コンピュータによる水中翼の細かな制御技術が確立され、とくにボーイング社の全没翼型水中翼船では抜群の安定性が確保できるようになり、他の船でも次第にこの技術が流用されていきました。
全没翼型の安定性が確保されると、逆に上述のような半没翼型のデメリットが浮き彫りになってきました。とくに、その乗り心地を考えると、上下に大きく揺れる半没翼型水中翼船では船酔いをする人があいつぎ、また燃費は良いとはいえません。
船の状態を常に良好なコンディションに保っておくためには水中翼のメンテナンスが欠かせず、この費用が思ったより嵩むことなどが浮き彫りになってきました。
さらに、半没翼型は、水中翼が船底から横にはみ出すように取り付けられているものが多く、こうした水中翼の接触を防ぐ専用の接岸施設のない港には、入港することができない等の欠点もあります。
こうしたことから、半没翼型を選択するユーザーはだんだんと姿を消していき、結果として、現在では全没翼型のほうが主流となりました。
日本では1960年代に商業用半没型水中翼船が相次いで登場し、新明和工業の15人乗りの小型船や、三菱造船下関の小型・中型船(80人乗)、日立造船神奈川の小型~大型船(130人乗)などが相次いで世に出ました。
その後、日立造船神奈川は、ドイツのシュプラマル社の半没翼型水中翼船のライセンス契約を取得して水中翼船を建造しはじめ、型式PT20(70人乗)やPT50(130人乗)を中心に50隻ほどの水中翼船を生産し、これらが瀬戸内海を中心に運航されはじめました。
代表的な運航会社として、瀬戸内海汽船、石崎汽船、阪急汽船、名鉄海上観光船等があり、
また東海汽船が東京湾横断航路でこのシュプラマル社の半没翼型水中翼船を使っていました。
しかし、前述のように半没翼型水中翼船の欠点が目立つようになっていった結果、次第に他の高速船やジェットフォイル(929)にシェアを奪われていき、1999年の石崎汽船の松山~尾道航路の最終運航を以って、半没型水中翼船は国内定期航路から姿を完全に消してしまいました。
こうして、1990年代に入ってから半没型水中翼船よりも全没型水中翼式のほうが主流となりましたが、その高速安定性に軍部が目をつけました。
海上自衛隊は1993年から95年にかけて、全没型水中翼式の1号型ミサイル艇(PG)3隻を建造していますが、これもジェットフォイル(929)をベースとしたイタリア海軍のスパルヴィエロ級ミサイル艇をタイプシップとしたものです。
これはボーイングのライセンスを基にイタリアのフィンカンティエーリ社が1983年に収益させたものであり、これが、ちょうどこのころ中国や韓国からの領海侵犯に悩まされ、沿岸を高速で運行できるミサイル艇を探していた海上自衛隊の目を引き、住友重機械工業がライセンスを受けて1993年-1995年に1号型ミサイル艇を3隻建造しました。
そもそも、929のような水中翼船は、航空機メーカーであるボーイング社が当初は軍事目的で開発を始めたものです。その技術を水上に対して適用する研究を始めたのは1962年頃で、1967年にパトロール用の小型艇が実用化されました。
これがベトナム戦争で有用であったため、その後NATOの依頼によりミサイル艇が開発され、このときに「929」の型番が与えられました。
従って、929は旅客用から軍用へ転用されたのではなく、もともとは軍用だったものが、民間で使われるようになったものです。
現在でもその抜群の安定性能と高速性のために各国で軍用に採用されているようですが、船体がすべてアルミニウム合金で作られているため高価であり、また高速が出る分、それなりに「燃料食い」であり、あまり軍部の拡張に余裕のない国では敬遠されているようです。
もともとが地中海を活躍の場とするイタリア海軍向けの設計であり、日本においては、日本海などの荒波で運用するには船型が小型過ぎたようです。当初は18隻を建造する計画であったようですが、冷戦終結という状況の変化もあって結局3隻で建造は打ち切られ、この3隻も、1995年までに順次廃役になりました。
現在では、より大型でステルス性にも優れる「はやぶさ型」というに移行しており、2004年までに6隻が就航し、こちらが現在の自衛隊の主力ミサイル艇になっています。
929の構造・性能
さて、この929の構造ですが、前述までのとおり、水中翼船としては全没翼型に属し、翼が全て水中にあります。
ガスタービンを動力としたウォータージェット推進であり、停止時および低速では通常の船と同様、船体の浮力で浮いて航行し、「艇走」と呼ばれます。速度が上がると翼に揚力が発生し、しだいに船体が浮上し離水、最終的には翼だけで航行する、「翼走」という状態になります。
船体の安定は Automatic Control System(ACS、自動姿勢制御装置)により制御された翼のフラップにより行われ、進行方向を変える場合もフラップを使うため航空機さながらに船体を傾けながら旋回できます。翼走状態では、水面の波の影響を受けにくく高速でも半没翼式水中翼船に比べ乗り心地がよいようです。
翼は跳ね上げ式になっており、停止・低速時の吃水を抑えることができます。また半没翼型と異なり翼の左右への張り出しもないため港に特別の設備なしに着岸できます。さらに翼にはショックアブソーバーが付いており、材木など多少の障害物への衝突に耐えることができます。
姿勢制御はACSと油圧のアクチュエータ(駆動装置)に依存するので、推進用のタービンの整備ともあわせ、航空機なみのメンテナンスが必要な点が難点です。
主要な諸元・性能は以下のとおりです
諸元(旅客用・ジェットフォイル)
速度: 約45ノット(時速約83km)
航続距離: 約450km
船体材料: アルミニウム合金
全長: 27.4m
水線長: 23.93m
全幅: 8.53m
吃水: 5.40m(艇走状態でストラットを完全に下げた時)
吃水: 1.83m(艇走状態でストラットを完全に上げた時)
型深さ: 2.59m
総トン数: 267トン
純トン数: 97-98トン
旅客定員: 約260名
機関: アリソン501-KF ガスタービン×2基(2767kW×2)
推進器: ロックウェルR10-0002-501 ウォータージェット×2基
ライセンス製造メーカー
前述のとおり、ボーイング社がNATOの依頼によりミサイル艇として開発したのが「929」であり、これを基に旅客用が開発されたのは1974年でしたが、その型番は929に続き番号を加えるというもので、これは929-100型となり、「ジェットフォイル」の愛称もこのとき付けられたものです。
ボーイング社としては初期型929-100型を10隻、前方フォイル及び乗船口付近の改良を施した929-115/117型を13隻、軍用の929-320、929-119、929-120型5隻の合計28隻をアメリカで製造した後、そのライセンスを川崎重工業に提供し、1989年に日本製1号艇が就航しました。
現在、そのライセンスは川崎重工(神戸工場)に全面的に移管されており、現在運航されているものの多くは、川崎ジェットフォイル929-117として製造されたものです。
川崎重工では1989年から1995年までに15隻を製造しており、日本国内において、この川崎重工で作られたものと、元祖のボーイング社で建造された旅客型ジェットフォイルは29隻にのぼります(ただし、軍用-320型からの改造1隻含む)。
なお、この929が日本国内の定期航路に本格的に投入されたのは佐渡汽船の新潟港~両津港間航路で、1977年のことです。当時国内ではメンテナンスが困難だったことから、佐渡汽船の整備担当者はボーイングで長期研修を受けてメンテナンスのノウハウを学んだといいます。
その後川崎重工がジェットフォイルのライセンスを得た際、その実績が豊富な佐渡汽船から運行のための多くのノウハウの提供を受け、その後の製造や販売に生かしているということです。
事故対策
929の新潟港での運航開始当初、この港が河口部にあるという構造上、水と共にゴミなどの異物・浮遊物を吸入して運航不能となるトラブルが頻発しました。このことから、ボーイング社では急遽社内に対策チームを設け、吸入口に特殊な構造のグリルを設置する対策を講じています。
これが奏功して異物吸入のトラブルは減少し、その後製造されたジェットフォイルの設計にも反映されたといいます。
929の水中翼は最新鋭の技術を投入されており、流力性能だけでなく、その強度もかなり頑丈に造られてはいますが、2002年1月に神戸港-関西国際空港間航路(神戸マリンルート)での復路出発後に船底に穴が開き、沈没寸前に至る事故が発生しています。
その事故原因は公表されていませんが、当時は空港連絡橋が閉鎖される程の悪天候であったといい、この事故ばかりが直接の原因ではないようですが、その後同航路は慢性的な乗客低迷に伴い同年休止・廃業されました。
ただ、2006年には、神戸-関空ベイ・シャトルとしてこの航路は復活しましたが、用いられているのは929ではなく、別の高速双胴船です。
このほかにも衝突事故が数回起きています。その運用においては、厳重な海上浮遊物への対策が採られているものの、1992年と1995年には新潟-佐渡間航路で、2004年末ごろからは、福岡-釜山間航路(対馬海峡)においてクジラと見られる生物にたびたび衝突し、前部水中翼が破損して高速航行が不能になるなどの事故が数回発生しています。
2006年4月9日には、屋久島-鹿児島間航路の佐多岬沖合で流木に衝突、100名以上の重軽傷者を出す事故が起きています。このような事故後は運航会社ではシートベルトを着用するよう乗客に促しており、特に佐多岬沖の事故後は、国土交通省から事業者に対して見張りの強化やシートベルトの着用を徹底するよう指導されているといいます。
現況航路
とはいえ、高速で多くの乗客を移送できる929は、とくに短距離航路において人気があり、現在、日本国内を結ぶ航路に投入されている929は以下のとおりであり、こんなにもあるのかと驚かされてしまいます。
●国内航路
○新潟~両津、船名:ぎんが、つばさ、すいせい、佐渡汽船
○東京(竹芝旅客ターミナル)~久里浜/館山~伊豆大島~利島~新島~式根島~神津島、
船名:セブンアイランド、 東海汽船
○熱海~伊豆大島、船名:セブンアイランド、東海汽船
○博多(博多ふ頭)~壱岐(郷ノ浦/芦辺)~対馬(厳原)~対馬(比田勝)、船名:ヴィーナス、ヴィーナス2、 九州郵船
○長崎~中通島(奈良尾)~福江島(福江)、船名:ぺがさす、ぺがさす2、九州商船
○鹿児島(本港区南埠頭)~指宿~種子島(西之表)・屋久島(宮之浦/安房)、船名:トッピー、ロケット、種子屋久高速船
●国内外および日本に近い外国航路
○博多(中央ふ頭)~釜山(国際旅客ターミナル)、船名:ビートル(JR九州高速船)、コビー(未来高速)、 JR九州高速船、未来高速
○香港~マカオ、船名 : 水星、木星、土星、金星、銀星、鐵星、東星、錫星 、天皇星、帝皇星、海皇星、幸運星、帝后星(これら高速旅客船網は総称「TurboJET」(噴射飛航)と呼ばれている)、信徳中旅船務管理
どうでしょうか。お住まいの地域に近いところにも929があるのではないでしょうか。
飛行機の旅も良いですが、お天気の良い日には、ちょっと水中翼船を使って近くの島々を巡るショートトリップに出るのも良いかもしれません。
ここ伊豆でも、熱海から伊豆大島への便があるようです。その高速性を生かして、熱海からわずか45分で着くようです。また、熱海から伊東港経由で行く便も土日限定であるようで、伊東からだとわずか25分!です。
料金は、熱海~大島が大人片道¥4600、伊東~大島が同¥3780です。ちょっといい値段ですが、これはぜひ、行ってみるしかないでしょう!