ネガティブ

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プロ野球も、残る試合は各球団とも30試合を切り、終盤たけなわ、といったところです。

今年はセリーグがどのチームもいまひとつピリッとせず、星を潰し合っていて、そこがまた面白いのですが、わがひいきチームのカープは、まぁ優勝は無理としても、果たしてクライマックスシリーズ進出に向けて、3位以内に入れるでしょうか。

私はスポーツの中では一番野球が好きですが、とはいえ、最近は野球を見るためにわざわざ球場に足を向けるようなこともなくなり、たいていはテレビで観戦しています。おそらく最後に行ったのは、広島カープが優勝した年の1986年だったと思います。最終戦の横浜戦であり、目の前で阿南監督が胴上げするのを見ることができたのは、良い思い出です。

カープはその後1991年にも優勝していますが、それ以来リーグ制覇から、遠ざかっており、今年は黒田や新井が帰ってきたので、さぞかし奮起してくれるだろうと期待していたのですが、打撃陣がいまイチで、なかなか勝率5割に達しません。

それにつけても、最近増えているという「カープ女子」。あれはいったいどういう現象なのだろうと、前から気になっていたので調べてみたところ、きっかけは、2009年に、新本拠地マツダスタジアムのオープンに合わせ、球団が女性ファンの取り込みを強化するために、多彩なグッズ販売などを行ったことだったようです。

その後、11年頃から、当時「カープガールズ」と呼ばれていた女性ファンが増えていることがスポーツ新聞などで報じられ始め、13年に放送されたNHKの「ニュースウオッチ9」の特集で「カープ女子」が特に関東圏で増えていると紹介され、それを契機としてこの言葉が広まり定着していったそうです。

昨年の5月に、球団は「関東カープ女子 野球観戦ツアー」を実施したところ、約150人もの女性が参加したそうで、いまやカープ女子はさらに増殖中のようです。こうした女性ファンが増えた背景には、球団の施策に加え、なんといっても、イケメンが多いことも関係しているでしょう。

菊池や丸、堂林といった男前に加え、ご存知マエケンこと前田健太や野村祐輔、田中広輔などなど、これほどイケメンが集まったのは、球団創設以来のことかもしれません。チームカラーが女性が好む赤であることも関係があるようで、もともと団結力が強いカープファンの仲間として一体感を味わえることも魅力のようです。

しかし、カープに限らず、その他のファンにも熱狂的な人達は多く、中でもやはり有名なのは阪神ファンでしょうか。一説によれば、日本には2000万人以上の阪神ファンが存在するといい、巨人ファンを抜いて両リーグ最多である、といわれているようです。

カープファン以上に、阪神ファンは阪神タイガースに対し強い一体感を持っているとも言われ、球団に対する愛着やファン同士の連帯感が強いことで有名です。巨人の元エースで阪神のコーチも務めた西本聖は、「巨人ファンにとって巨人は趣味の一つ。阪神ファンにとって阪神は生活の一部」と評したそうです。

また、大阪育ちで熱狂的な阪神ファンとして知られる、経済評論家の國定浩一氏は「阪神ファンにとって球場での応援は「観戦」ではなく「参戦」である」とのたまわっているそうです。國定さんの、テレビ出演時の阪神タイガースのロゴをあしらったスーツやネクタイは有名で、なかでも、「阪神優勝」のスーツの裏地は特に有名です。

しかし、その応援は熱狂的になりすぎ、それが高じると対戦相手ファンや選手に対する過激な行動に出ることも少なくないといわれ、ときには、プレーの妨害や、グラウンド内への乱入などが新聞報道されたりもします。

古くは、1973年(昭和48年)10月22日甲子園での対巨人最終戦。勝った方が優勝という試合で、阪神が0-9と大敗。不甲斐ない試合に激高したファンがグラウンドになだれ込み巨人の選手らに暴行を働き、テレビ局の機材を徹底的に破壊。これにより巨人監督の川上哲治の胴上げは中止となり、兵庫県警察の機動隊員が出動する騒ぎとなりました。

また、1985年(昭和60年)10月16日の対ヤクルト戦(神宮)で引き分け、阪神がリーグ優勝を決めたのち、大阪市の繁華街ミナミにある戎橋から多数の阪神ファンが道頓堀川に飛び込んだ話も有名です。この事件以降も阪神が優勝争いや優勝するたびに同じように戎橋から飛び込む行為が発生しています。

さらに、一部の阪神ファンが戎橋近くのケンタッキーフライドチキン道頓堀店に設置されていたカーネル・サンダース像をこの年のMVP・ランディ・バースに見立て胴上げし、道頓堀川に投げ込みました。ちなみに、その後阪神は長らく低迷しましたが、この不調を「カーネル・サンダースの呪い」などと呼ぶジョークが、その後ファンの間で流行しました。

こうした野球ファンによる熱狂騒ぎは何も阪神ファンだけではなく、他チームの一部の熱狂的ファンが大なり小なり起こしており、また、昭和や平成に入ってからのことでだけでなく、明治時代にもかなり過激な騒ぎが多数起っています。

ただし、この時代にはプロ野球はまだ盛んではなく、現在のような職業野球の球団群の人気が出るようになったのは、大正時代以降のことです。それ以前の明治末期に人気があったのは、学生野球であり、その人気は現在のプロ野球以上にすさまじいものでした。

1906年(明治39年)秋の早慶戦は、第1戦が10月末に早大戸塚グラウンドで開かれ、慶應が2:1で勝利。続く第2戦は慶大三田グラウンドで早稲田が3:0で雪辱。そして第3戦は10日後に開催予定でしたが、両校のファンがエキサイトしすぎて双方に脅迫状が届く事態となり、無期延期となりました。

その後、対戦相手を失った早慶両校は渡米したり、逆にアメリカ合衆国からチームを招聘したりするようになっていきます。選手はちやほやされるようになり、味を占めた選手の中には野球を続けるためわざと留年したあげく新任教師より年上という者まで現れました。

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さらに他の学校でも野球は大人気でしたが、行き過ぎた応援が徐々に問題視されるようになり、野球禁止を掲げる学校まででてきたため、賛否両論が巻き起こりました。そんな中で、1911年(明治44年)に朝日新聞(当時の東京朝日新聞)が紙面で「野球害毒論」という野球に対するネガティブ・キャンペーンを展開しました。

1911年(明治44年)8月29日から9月22日までの間に、「野球と其害毒」と題した記事を22回にわたって掲載しましたが、これは著名人の野球を批判する談話、全国の中学校校長を対象に実施されたアンケートの結果などで構成されていました。中でも、当時第一高等学校(現在の東京大学教養学部)の校長だった、新渡戸稲造の談話の内容はこうでした。

「野球という遊戯は悪くいえば巾着切りの遊戯、対手を常にペテンに掛けよう、計略に陥れよう、ベースを盗もうなどと眼を四方八方に配り神経を鋭くしてやる遊びである。故に米人には適するが、英人やドイツ人には決してできない。野球は賤技なり、剛勇の気なし」

また、学習院の院長であった乃木希典大将も、「対外試合のごときは勝負に熱中したり、余り長い時間を費やすなど弊害を伴う」と批判し、金子魁一東京大学医科整形医局長も、「連日の疲労は堆積し、一校の名誉の為に是非勝たなければならぬと云う重い責任の感が日夜選手の脳を圧迫し甚だしく頭に影響するは看易い理である」と医学的に否定しました。

また、松見文平順天中学校校長も、「手の甲へ強い球を受けるため、その振動が脳に伝わって脳の作用を遅鈍にさせる」と医学的な面からの弊害があるとしました。

このほか、磯部検三日本医学校幹事は、「あんなにまでして(渡米試合のこと)野球をやらなければ教育ができぬというなれば、早稲田、慶應義塾はぶっつぶして政府に請願し、適当なる教育機関を起こして貰うがいい。早稲田、慶應の野球万能論のごときは、あたかも妓夫や楼主が廃娼論に反対するがごときもので一顧の価値がない」と一刀両断。

さらに、川田正澂府立第一中校長に至っては、「野球の弊害四ヵ条。一、学生の大切な時間を浪費せしめる。二、疲労の結果勉強を怠る。三、慰労会等の名目の下に牛肉屋、西洋料理等へ上がって堕落の方へ近づいていく。四、体育としても野球は不完全なもので、主に右手で球を投げ、右手に力を入れて球を打つが故に右手のみ発達する」とまで言いました。

このように教育者や医学者といった、この当時の人々に大きな影響を与える立場の人たちがこぞって東京朝日新聞に「野球と其害毒」を展開したことで、この問題のなりゆきは、世間にも注目されました。が、結局こうしたネガティブ・キャンペーンの実施にもかかわらず、野球人気は一向に衰える気配はありませんでした。

そればかりか、東京日日新聞等の他紙は、野球害毒論に反対する論陣を真っ向から張り、たとえば読売新聞は、1911年(明治44年)9月に「野球問題演説会」を開催し、安部磯雄(早大野球部創設者。日本における野球の発展に貢献し「日本野球の父」と呼ばれる)や押川春浪(人気SF作家。弟が早大野球部キャプテン)らが野球擁護の熱弁をふるいました。

しかし、もともと東京朝日新聞がこうしたキャンペーンを張ったのは、ライバルの大阪毎日新聞(現毎日新聞)の東京進出が原因とされ、同社が自らの存在をアピールするため、当時国民的人気を誇っていた野球を利用したのでは、ともいわれています。実際、「野球と其害毒」が連載されたこの年、大阪毎日は東京日日を買収して東京進出を果たしています。

なお、大阪朝日新聞は、このキャンペーンに関してはとくに否定的な記事は掲載せず、逆に、キャンペーン終了直後には野球に好意的な特集記事を組みました。さらに「野球と其害毒」連載から4年後の1915年(大正4年)、大阪朝日新聞は社会部長長谷川如是閑主導の下、全国中等学校野球大会(現全国高等学校野球選手権大会)を実施しました。

当時の社説には「攻防の備え整然として、一糸乱れず、腕力脚力の全運動に加うるに、作戦計画に知能を絞り、間一髪の機知を要するとともに、最も慎重なる警戒を要し、而も加うるに協力的努力を養わしむるは、吾人ベースボール競技をもってその最たるものと為す」と、野球に対して好意的なコメントが出されました。

その後も野球人気は衰えず、現在に至っています。ただ、1991年には、この当時まだ朝日新聞記者だった、ジャーナリストの本多勝一が「野球と其害毒」の記事に倣って、「新版“野球とその害毒”」を、朝日の週刊誌「朝日ジャーナル」に連載しました。

実は、本多さんは、野球嫌いで知られており、朝日新聞社では新人は必ずやらされる高校野球の取材も、「野球は嫌いだ。甲子園は愚劣だ」と言い続け、ついにその機会は無かったといいます。その後この記事は単行本にもなり、その中でも野球害毒論を加筆しています。

本多さんは、野球の守備位置による運動量の差、とくに投手の運動量が圧倒的に多いことなどを挙げ、「野球は二流スポーツ」と断じました。また、高校野球の過密スケジュールによる選手の酷使についても取り上げていました。

プロ野球も嫌悪しており、特に江川事件などを理由にアンチ巨人派であり、またアンチ西武です。その理由はよくわかりませんが、西武鉄道の元親会社「コクド」のオーナーの堤義明氏が、インサイダー取引疑惑で有罪判決を受けたことがあるからでしょう。

また、広島ファンの筑紫哲也が巨人の金満補強を嘆いて「週刊金曜日」に「野球自体への興味が薄れつつある」と書くと、こう感想を述べたそうです。

「結構なことだなあ。巨人がもっともっと大選手をかき集めて、毎年ひとり勝ちになって、巨人ファン以外はだれも職業野球になど関心を失って、球場が赤字つづきになる。すばらしいことではなかろうか。不正が敗北するわけだから。どうか巨人「軍」よ、来年も再来年も勝ちつづけてくれ。」

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このように、新聞や雑誌などにおいて、特定の人物・団体をおとしめ、ひいては別の人物・団体に利益をもたらす、ネガティブ・キャンペーンは、元々は、誹謗中傷により対立候補をおとしめる選挙戦術の一つでした。

相手の政策上の欠点や人格上の問題点を批判して信頼を失わせる選挙戦術で用いられたこの手法は、最近ではあらゆる分野で使われるようになり、マスメディアを中心により人物や組織などに対してあら探しをして攻撃が行われます。

しかし、根拠の無い中傷である場合も多く、事実を基にした歪曲もネガティブ・キャンペーンの範疇に含まれます。それでも相手の信用を失わせることで、自分を相対的に高めることができる有効な手立てといえ、手段を選ばない、ダーティな戦略とみなされつつも利用されることが多くなっています。

あえて自分にとって不利になる話題を取り上げて、自分への注目を集めるタイプのネガティブ・キャンペーンが打たれることもあり、これはたとえ悪いことでも話題を作りさえすれば、世間に存在を認めてもらえる、という考えからきています。

ただ、ネガティブ・キャンペーンそのものは非合法行為ではありません。環境に即した形で効果的に行えば、大きな成果をあげることができるため、米国では大統領選挙でも盛んに相手陣営に対してネガティブ・キャンペーンを張り、成果を上げた例が多数あります。

中でも有名なのは、「ひなぎくと少女」というキャンペーンで、これは、1964年のアメリカ大統領選挙で使われた有名なCMです。この時の選挙は、民主党の現職のリンドン・ジョンソン、対する共和党はバリー・ゴールドウォーターによる争いでした。

ゴールドウォーターは過激な言動で知られる政治家であり、「ベトナムの密林を焼き払うためには、核兵器の使用もためらってはならない」とまで発言しており、このため、ゴールドウォーターが大統領になったら核戦争が始まるのではないかという危惧を抱く有権者も多かったようです。

これをゴールドウォーター陣営は逆に利用し、「あなたも心の底では、彼が正しいと思っているはずです」等といったテレビCMを放送するなどの戦術で、彼のイメージアップに成功していました。

これに対応を迫られた民主党のジョンソン陣営が放ったのが、「少女とひなぎく」というキャンペーンCMでした(ウィキペディアには「汚いひなぎく」と紹介されていますが、原題は、”Daisy Girl”あるいは、”Peace, Little Girl”であり、明らかにこれは意訳しすぎです。ウィキペディアにはこうした意図的な改変、あるいは誤訳がかなり多いので注意が要です)。

ジョンソン陣営が流したCMは、幼い少女が「1、2、3、…」と、ひなぎくの花を数えているシーンに始まり、それにかぶさるように「…3、2、1、0」とカウントダウンする男性の声とともに、少女の背後で轟音とともに立ち上るキノコ雲が立ち上がるというものです。

そして続くナレーションは、「これは大変な問題です。子供たちが生きる世界を作るか、それとも闇に沈むか。それは選挙にかかっています。互いに愛し合わなければ、私たちは死に絶えます。11月の選挙では必ず投票に行ってください。そして、ジョンソンに投票を。くれぐれも自宅にいる、などという危険を犯さないで下さい。」というものでした。

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しかしこのCMは、なんと9月7日の夜、たった一度だけ放映されただけでした。にもかかわらず、アメリカ国民の心に強い印象を残しました。

それというのも、当時のアメリカ国民にとっては、キューバ危機の記憶もまだ生々しい頃であり、幼い少女の背後でキノコ雲が上がるこのCMは、暗に「ゴールドウォーターが大統領になると必ず核戦争になる」とでも、言いたげでした。

このCMの放映を受け、ゴールドウォーター陣営は直ちに抗議をしました。しかし、CMの中ではひとことも「ゴールドウォーター」の名前は登場していませんでした。ただ、「核兵器の使用は必要なら是である」という日頃の彼の過激な言動は誰もがよく知っており、明らかに人々はこのCMで、核戦争=ゴールドウォーターというイメージを持ちました。

とはいえ、核戦争を想起させるこのCMには、放映直後からホワイトハウスに抗議の電話が殺到しました。また人々に恐怖をもたらしたとして批判されたため、放送を行なったテレビ局ではその後これを流すのを中止しました。しかし、そうしたCMが流されたことがその後ニュースやワイドショーで報道されたこともあり、大きな反響を巻きおこしました。

たまたま見ることができた人も細部まで正確に覚えていたわけではありませんでしたが、そうしたCMがあったことを多くの人がニュースなどで知るようになり、その後人々は何かとこのCMを話題にするようになりました。その過程で、さまざまな解釈や尾ひれが加えられたことは、ゴールドウォーターの共和党には大きな打撃になりました。

民主党陣営は、まさかこのCMがそれほど影響力を持つとは思っていいませんでしたが、予想以上の効果を有権者に与えたことを知ると喜びました。

ジョンソン自身も最初それが信じられず、「いったいどういうことなんだ?」と側近に聞いたといい、このときその一人が「あなたの言いたいことが有権者に伝わったということです」とひとことだけ言い、その答えにジョンソンは非常に満足したといいます。

その結果、大統領選挙の一般投票において、ジョンソンが獲得した票は61.1%。ゴールドウォーターの38.5%に、実に22.6ポイントもの差をつけて圧勝しました。

この例では、当初考えていたネガティブ・キャンペーンが思った以上に、というか思っていたのとは違う意味で成功した例ですが、その後、アメリカではさかんにこうしたキャンペーンが打たれるようになったのは言うまでもありません。

同様に日本でもネガティブ・キャンペーンがさかんに実施されるようになりました。有名な例としては、2007年7月に行われた第21回参議院議員通常選挙において、自民党が勝利し、安倍晋三第一次政権が誕生したときのはなしがあります。

その後安倍政権は、首相の体調不良によりわずか1年弱で終わることになりますが、その辞任時に、朝日新聞が張ったネガティブ・キャンペーンはかなり過激だったようです。

元々朝日新聞は左寄りの論評が多い左翼新聞だ、というのはよく言われることですが、昔から自民党の批判は確かに多く、東海新報(岩手県大船渡市、発行部数約14,000部)は、2007年9月の4日付の記事で、この当時の朝日の安倍政権に対するネガティブ・キャンペーンはすさまじかったと論評しています。

また、産経新聞ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員でもある、ジャーナリストの古森義久氏もかつて、「全国紙がここまで特定の政治家や政権に非難を浴びせ、その打倒を図るという政治的キャンペーンは、日本のジャーナリズムの歴史にも異様な一章として特記されるかもしれない」と批判しています。

総理の就任時にも、社説で「不安いっぱいの船出」と書くなど、安倍政権対して批判的で、その後首相の体調不良がわかると盛んに「辞任の時期」を巡った報道を繰り返し、最終的に安倍さんが国会の所信表明演説直後の9月に辞任した時には、”責任を放棄した”の意で「アベする」と言った言葉が流行している、とまで報道しました。

これを書いた張本人は、同紙に寄稿していたコラムニストの石原壮一郎氏で、安倍晋三の首相辞任に際して「“アタシ、もうアベしちゃおうかな”という言葉があちこちで聞こえる。(中略)そんな大人げない流行語を首相が作ってしまったのがカナシイ」とやりました。

実際にはそれほど流行り言葉になったわけでもないようですが、それを天下の朝日新聞が堂々と流行語だと言い始めたことに反発したのか、これに対してネット上では逆に同紙を批判する動きが出るようになりました。

ネット上の掲示板やブログで「Googleで検索したが「アベする」という流行語はヒットしない」「捏造ではないのか?」「安倍・阿部等の姓をもった人に対していじめなどが起きかねない」との疑問が提示され、批判が続出しました。そしてついには、「アサヒる=捏造すること、事実でないことを事実のようにこしらえること」が以後流行するようになりました。

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このように、ネガティブ・キャンペーンを張った当人が批判の対象になり、批判された側に同情が集まって逆キャンペーンが張られるという、という逆転現象は他にもみられます。

2006年(平成18年)4月に実施された衆議院議員千葉7区補欠選挙において、民主党公認で立候補した太田和美に対して、週刊誌に取り上げられた前歴を自民党が取り上げ、「元キャバクラ嬢」とのネガティブ・キャンペーンを大々的に展開しました。しかし、太田氏は週刊誌記事の内容を認めつつも社会経験のために勤務していたと主張。

このころには、キャバクラ嬢という職業に対して否定的な印象を持つ人が年々少なくなってきていたこともあり、太田氏はこのネガティブ・キャンペーンを逆手にとり自身の庶民性と地域密着をアピールしました。

また、自民党公認候補だった齋藤健氏に対して逆に太田氏の支持者がネガティブ・キャンペーンを行うようになりました。さらに、齋藤氏は、官僚出身であるため自民寄りなのだといわれ、千葉で行われた選挙にもかかわらず埼玉出身だったことから、その土地に地縁、血縁の無い人間が立候補するいわゆる「落下傘候補」とみなされるようになりました。

結果として「水商売で働く女性を蔑視する高慢なエリート」とみなされるようになり、この選挙で齋藤健氏は当初有利といわれながら、太田氏に僅差で敗れました(得票率45.9%に対して45.4%)。

さらに、2008年の大阪府知事選においては、自民党府連推薦の橋下徹氏に対して、民主党推薦の熊谷貞俊陣営が、「こんな人を知事にしていいんですか?」とする批判ビラ300万枚を府内に撒きました。

一方では、共産党推薦の梅田章二陣営が橋下、熊谷両氏を「大型開発で府政を行き詰まらせたオール与党の推薦候補」と批判するビラ約400万枚を撒きました。このように日本では三者三つ巴でネガティブ・キャンペーンが張られる、といったことも珍しくありません。

国際的にネガティブ・キャンペーンが張られることもあり、2020年の夏季オリンピック開催地の決定に向けて日本が候補となった際に、韓国ではディスカウントジャパンとして「放射能がいっぱいで、危ない国・日本」といったキャンペーンが行われました。

開催地決定直前の2013年9月、韓国政府は福島第一原子力発電所の汚染水問題を理由に、福島県、宮城県などは汚染地域であるとして、日本からの水産物の全面禁輸措置を取りました。これも日本でのオリンピック招致を妨害しようとする工作だったといわれ、日本が落選するためのネガティブ・キャンペーンの一環であるとの見方が一般的でした。

東西冷戦時代は、さかんに東側と西側の「誹謗中傷」合戦が行われた。現在も北朝鮮は日本・アメリカ合衆国・大韓民国の政府を、中国は台湾を、台湾は中国を誹謗するネガティブ・キャンペーンを放送などで流しています。

ただ、これらの放送で「誹謗中傷」する対象はあくまでも相手側の政府であり、相手側の国民ではないわけで、相手国側の一般市民に対し、その政府がいかに非道であるかを伝え、体制変革を呼びかける、というスタンスです。とはいえ褒められた好意とはいえず、唯一こうした行為を行っていないのが、我が日本であることは誇りに思えます。

しかし、その日本においても、インターネットが普及した昨今では、ネガティブ・キャンペーンが飛び交い、誹謗中傷合戦が深刻化しているといいます。

ネット上での書き込みは、自分の意見を発することのハードルが他のメディアに比べ格段に低く、また対話する相手の生の感情を読み取る材料が少ないため、相手の事を配慮せず、安易に掲示板やホームページで書き込む人物が数多く存在します。しかし、これらは情報が誤りの場合はもとより、真実であっても名誉毀損が成立しかねない行動でもあります。

電子掲示板では、その場のエチケットを平然と無視して好き勝手な書き込みを行う者も存在し、時には事実無根のデマ、恐喝・犯罪・殺害予告まで書き込まれるため、名誉毀損の旨等で訴訟が多数起こっている他、業務妨害による逮捕者も出ています。

ネット上の誹謗中傷について日本の警察に寄せられた被害相談件数は、2001年には2267件、2006年にはその3.5倍の8037件に膨れ上がり、現在ではそうした被害はもっと多いでしょう。被害者の中には精神的苦痛で自殺・自殺未遂をする者もいるようですが、多くのケースでは発信者を特定できずにいるようです。

誹謗中傷に終わらず、「荒らし」に発展するものもあります。これは、ウェブサイト内の掲示板に無意味かつ長大な文字の羅列を何度も貼り付ける、掲示板の趣旨とはそぐわない内容の議論をいつまでも続ける、管理人やその他の利用者を中傷する、といった行為です。

その他の嫌がらせとしては、不正なプログラムの散布が挙げられます。その効果は千差万別で、中にはコンピュータに深刻な不具合をもたらすものもあります。メールボムという嫌がらせもあり、これはターゲットのメルアドを無断で出会い系サイトやメルマガに登録したり、ターゲットに大量のメールを送りつける嫌がらせです。

これらの行為は、特定の人物への私怨や嫌悪感から行われることもあれば、相手を選ばず面白半分で行われることもあり、ブログにおける炎上も嫌がらせの一つです。最近では、ネット右翼というのまであります。ネット上で右翼的発言をする人物で、略称はネトウヨ。

定義は様々で、保守的、国粋主義的な意見を発表する人々をネット右翼とする場合もあれば、自分たちの生活状況への落胆を外国人排斥へと繋げている青年をネット右翼と捉えているものもあり、くだんの朝日新聞は「自分と相いれない考えに、投稿や書き込みを繰り返す人々」をネット右翼と定義しました。

同紙によれば、彼らの意見が概ね右翼的であるためそう呼ばれているのだとしています。が、根拠があいまいですし、公論を吐くべき同社が右翼を定義するのがそもそもおかしいし、左翼が右翼のことを言えるのか、といった批判も聞こえてきそうです。

が、こうしたネットユーザーが「右傾化」する現象はたしかにあるようで、インターネットの大衆化によって、平等性や匿名性が高まり、発言の自由度が高まると、意思決定が極性化(極端化)しやすい、ということは言われているようです。

ただ、ネトウヨの顕在化は、反マスメディア、ある種の市民によるマスメディア監視と言えなくもないという意見もあり、ネトウヨ的なものがいるということは、日本のメディアの民主的な状況が保たれるということで、健全と言えなくもない、という人もいます。

原子力政策についてはネット右翼の相当部分は反原発派であるとしており、その根底には、エリートが支配している大ジャーナリズムこそが、マスコミであり、彼等は相対的に原発推進派である、という固定観念があるようです。そうしたマスコミへの反発から、ネトウヨたちは、彼等のことを「マスゴミ」と呼んでいるようです。

福島原発事故以後は、「山河を守れ」「国土を汚すな」といった脱原発の主張がこうしたネトウヨの間で広まっています。対する「保守言論層」の多くは核エネルギー政策について全廃慎重派ないしは継続推進派であり、ネット右翼の恰好の標的になっているようです。

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実際にどのくらいこうしたネトウヨ層があるのかわかっていませんが、一般的なネット利用者のうち、「韓国・中国の両者に親しみを感じない」が36.8%、「靖国公式参拝・憲法改正等に賛成」が6.4%、「政治・社会問題についてネット上で書きこみや議論をした」が15.2%であり、その全ての該当者を「ネット右翼層」とすればその比率は1.3%になるそうです。

1億3千万人がすべてネット利用をしているとは思いませんが、仮にその半数の6500万人だとすると、その総数は85万人にもなり、決して無視できない数字となります。また「ネット右翼の矛盾・憂国が招く亡国」の著者の一人でもある山本一郎氏(人気ブロガーとして著名なライター)は、予備軍も含めると最大120万人はいると推定しています。

堀江貴文氏は、自民党が徴兵制を検討していることについて自身のブログにて「憲法9条を持つ国として普通にあり得ないことだと思うが、ネトウヨが幅を利かせていて意外にも賛成派が多い」と、ネット右翼が一定の影響力を持っていることを示唆しています。

「親韓」だとして抗議された企業の売り上げは落ち、大量の電話による抗議に悩まされた企業もあり、その影響力は無視できないところまで拡大しているとも言われます。2014年東京都知事選挙において、立候補した元航空幕僚長の田母神俊雄氏が61万票もの票を集めえたのもネトウヨのおかげだと噂されています。

1980年代には明らかに差別用語であった「オタク」が世紀をまたぐ頃には市民権を得たように、「ネトウヨ」もいずれは市民権を得る時代に入っているのかもしれません。

かつて、東京都の副知事だった猪瀬直樹氏は、性的描写の漫画やアニメの販売を規制する青少年健全育成条例改正案を推進しており、そんな中、「ネトウヨは財政破綻した夕張を助けに行け。雪かきして来い。それならインタビューうけよう。」とツイートしたといいます。

なぜ夕張なのかよくわかりませんが、この時アダルト漫画家の浦嶋嶺至氏という人が、猪瀬氏秘書を通じて「雪かきしたら会う」との言質をとると、実際に夕張に行って独居老人宅の雪かきをしました。これは全国的に報じられ、数日後に対談が実現。面白いことにその後二人は意気投合し、互いのツイッターをフォローすると共にメル友になったそうです。

が、ご存知のとおり、その後知事に就任した同氏は医療団体の徳洲会から献金を貰ったとする疑惑で失脚しました。実はこれは、この事件をきっかけに敵に回したネトウヨたちが、この問題をリークした、ということが、まことしやかにささやかれているようです。

このように日本でのネトウヨはかなり活躍?していますが、中国や韓国、ドイツなどでもネトウヨは増殖中とのことで、こちらは必ずしも日本のためにばかりなるとはいえません。

韓国の民間組織「Voluntary Agency Network of Korea(VANK)」は、その活動内容から、ネット右翼として扱われており、会員数10万人を超え、政府からも支援金を得ています。

彼等は、竹島問題、日本海呼称問題、慰安婦問題などについて、世界中の公的機関、民間機関に自分たちの主張に沿った記述をさせるための宣伝・抗議活動をインターネット上で展開しており、日本の「ネット右翼」から敵視されているようです。

英国ではスコットランドの独立投票をめぐりサイバーナット(Cybernat)と呼ばれるスコットランド独立派のネトウヨが反対派をネット上で差別的に罵倒し、問題となりました。

スコットランド独立を訴えるスコットランド国民党党首のニコラ・スタージョンは2015年6月に声明文を発表し、「私たちの政治ディベートのレベルを、暴力的な脅しやミソジニー、ホモフォビア、性差別、レイシズム、障害者差別などの低みにまで下げることは是認できません」とサイバーナットを非難しました。

いまや、国を超えてネトウヨ対ネトウヨの構図ができつつあり、ネガティブ・キャンペーン、誹謗中傷合戦、荒らし行為の増殖はグローバルなトレンドになりつつあるようです。

が、とどのつまりは、「嫌がらせ」にすぎません。他者に精神的苦痛や物質的損失を与える結果となる行為であり、「言葉の暴力」でもあります。精神的暴力の一つであり、立場や力の差などにより反抗できない弱い相手に対し行われる肉体的・物理的な暴力同様、言葉であっても反抗する事ができない弱い相手に心因的・精神的な苦痛を与えます。

言い勝ったつもりでも言葉による暴力を振るった可能性は大であり、「力で勝てないから言葉で」「言葉で勝てないから力で」相手をねじ伏せただけのことです。

ただ、肉体的・物理的な暴力に対しては、防いだり反撃したりすることは社会的・法律的に広く認められていますが、言葉の暴力については、その存在と程度が明確には分かりづらいため、被暴力者がどう防御・対処すればいいのか判別出来ないことが難点です。

一方では、心理学・カウンセリングといった分野・制度や“言葉の暴力”という概念の社会への浸透にしたがって、心理的暴力も物理的暴力と同様に、その行使者は傷害の罪などに問われる場合もありうる時代になってきています。

2010年10月、東京労働局の、墨田区の向島労働基準監督署は、言葉の暴力による体調不良と自殺を労災と認定しました。これはパワハラにおける暴言が原因での自殺に対するジャッジメントだったようです。このように、最近は言葉の暴力を法律的に裁こうとする動きも加速しているようです。

ネガティブな波動を言葉で人に送ることはやめましょう。そして、このブログにもけっしてネガティブ・キャンペーンを張らないよう、お願いしたいと思います。

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