アメリカのトイザラスが、国内全店舗を閉鎖、というニュースが飛び込んできました。
債務総額は、昨年4月末時点で52億ドル(約5800億円)にも達していたといい、その背景には、Amazon.comをはじめとするインターネット通販の台頭や、ウォルマート・ストアーズなど、大型量販店の安値攻勢があるようです。
業績不振を受け、既に昨年の9月、連邦倒産法の申請を出していたとのことで、これは日本の民事再生法に相当します。以後、店舗およびネットを通じての営業は続けていましたが、ここへ来てどうやら持ちこたえられなくなったようです。
アメリカでのネーミング、「TOYSЯUS」または、「TOYS“Я”US」であり、ほかのお店とはちょっと違うのよ、といったアピールが受けたようです。日本法人のトイザラスの商標も「トイザらス」と一文字だけをひらがなにする、といったさりげない?アピールがあり、初めて見たときには、なかなかうまい商標だな、と思ったものです。
1948年、アメリカ・ワシントンで子供家具・洋品店「Children’s Bargain Town」を創業した、チャールズ・ラザラスという人が、玩具専門コーナーを設けたことに始まります。トイザラスの“ザラス”は、無論この人の本名から採ったものでしょう。
その後世界各地に店舗を誘致するようになり、イメージキャラクターとして採用した「ジェフリー」というキリンも世界中で人気者になりました。
2005年、米投資会社コールスバーグ・クラビス・ロバーツに買収されましたが、どうやらこのころからおかしくなっていたようです。2012年には、全米で子供向けタブレットの「タビオ」を発売しましたが、発売前、開発に関わった関連会社から企業秘密を盗んだとして訴えられるなど最初からつまづき、その後も販売は伸びていません。
日本トイザらスは?
日本への進出は、1991年のことであり、同年12月20日に茨城県稲敷郡阿見町に1号店となる荒川沖店が開設されました。牛久大仏のある牛久の近くにある街で、なんでこんなところに、と思うのですが、近くには柏市や成田市、つくば市といった大都市もあり、とくに、関東東部、北部の住民の潜在需要がある、と考えたのでしょう。
折りしも当時は日米貿易摩擦の最中でもあり、大きな話題となりました。2号店である奈良県橿原市の橿原店の1992年1月のオープンに際しては、当時のアメリカ合衆国大統領、ジョージ・H・W・ブッシュまでもが視察に訪れました。
この当時、アメリカからみれば、トイザらスは日本が課している高い関税の障壁打破の目玉的存在とみなされていたわけです。
以来、日本各地に、独立店舗だけでなく、スーパー・百貨店・ショッピングセンターのテナント、といった形で次々と出店し、2000年11月には100店舗目(としまえん店)が開店。現時点(2018年3月時点)では、姉妹店であるベビーザらスを加えると162店舗を展開しています。
その出店傾向をみると、とくに関東や関西などの人口集中地域では、郊外や再開発地域に出店し、店舗面積を確保しているのが特徴で、ここ伊豆においても、トイザらス・ベビーザらス 長泉店(駿東郡長泉町)があって、ここは近年都心からの移住者が増えている土地柄です。
しかし、日本トイザらスのほうの業績も思わしくないようで、2010年には、納入業者への不当な値引きや返品の強要による独占禁止法違反の疑いで、本社や物流センターなど数か所で公正取引委員会の立ち入り検査を受けています。日本での創業以後、閉店した店舗も多く、筆者のカウントした限りでは33店舗にのぼります(移転を含む)。
アメリカ本社の営業悪化の影響も受けたのか、昨年7月には上場廃止しており、このとき米トイザラスが日本トイザらスの株を買い付けて完全子会社化した、という経緯もあり、米本社の倒産を受け、今後ともまったく影響がない、というわけにはいかないでしょう。
経済の専門家ではないので、あまりエラそうなことは書けませんが、いずれはどこかの大手の企業に吸収合併、といったことになるのではないでしょうか。日本トイザらスは、1994年より写真館チェーンのスタジオアリスと提携しており、多くの店舗でスタジオアリス店と店舗面積を同居していますから、可能性はあるかもしれません。
このほか、玩具メーカーのタカラトミーとは、「リカちゃん人形」を通じて提携、任天堂も、日本トイザらス限定のゲームボーイカラーなどをリリースしていることから、こうした会社の傘下に入ることもあるのかもしれません。また、デンマークの玩具メーカー、「レゴ」も 多数の限定発売商品をリリースしており、こちらの可能性もあるのでしょう。
一時期は、「おもちゃ業界の黒船」と騒がれ、一世を風靡した感のある会社ですが、今後の去就が注目されるところです。
玩具店よ、どこへ行く
それにしても、日本のおもちゃ屋の数がここのところ激減しています。無論、このトイザらスの日本進出の影響が大きいわけですが、それだけでなく、トイザらスが1991年 に日本一号店を出店して以後は、他社の店も含め 90 年代以降大型店が急速に増加し、これらの大規模店舗に玩具売り場が併設されたのが原因と考えられます。
「玩具・娯楽用品小売業」の商店数は70年代まではうなぎのぼりで、 1979 年には 17,812 店と過去最多を誇っていましたが、90 年代半ば以降になり、一転してその数を急減させています。
無論、トイザらスをはじめとする大型店が増えたことが原因です。1985 年には、日本国内において、売場面積 1,000 ㎡以上の大型店はわずか11 店しかなかったものが、97 年になると 103 店(85 年比 92 店増)に増加し、なかでも売場面積が 3,000 ㎡を超える大型店が 85 年の 0 店から一気に 41 店に増加しました
2000 年以降も大型店の増加は続き、とくに2000 年には、大型店の出店を規制していた大店法が大店立地法に代わりました。これにより、 1,000 ㎡未満の店が規制対象から外れたこともあって、1997~2002 年の間には特に 500~1000 ㎡未満クラスの商店数が大幅に増加。2000年代後半以後も 3,000㎡以上の店を中心に大型店はさらに増加しています。
こうした大型店の増加は多くの中小小売店の減少をもたらすことになり、ピーク時には約 1万5千店あった中小小売店は次々と廃業し、2007 年には 1 万店を割りました。
かつて「おもちゃのハローマック」というお店が日本中にあったのをご記憶かと思います。城をイメージし、ピンクのラインが入った白い外壁にギザギザがある建物をあちこちでよく見かけたと思いますが、2008年に撤退しており、同系列の会社が運営して現在も残っているものは、だいたいが靴屋になっています。
以後も玩具店の減少は続き、2014年の経済産業省のデータによれば、中小玩具店の数は6364軒となっており、2007年のレベルをさらに割り込んでいます。
同じ統計によれば、人口10万人あたりの店舗数は、和歌山県が最も多くて6.69軒ですが、県内にあるおもちゃ屋さんの数はわずか65軒しかなく、最も多い東京都の798軒の1割以下です(東京は10万人あたり5.96軒で9位)。また、最下位の宮崎県にいたっては、30軒しかなく、10万人あたり2.69軒という寂しさです。
2位以下は愛媛県、岡山県、栃木県、鳥取県と続いており、傾向としては、関東から中国・四国地方にかけておもちゃ屋が多いようです。全国平均では人口10万人あたり5.01軒となっており、関東でいえば伊勢原市、関西でいえば池田市あたりが人口ほぼ10万人ですから、これだけの規模のある町に5軒ほどしかおもちゃ屋がないことになります。
ちなみに、同じく減少傾向にある書店は人口10万人あたり全国平均が7.03店、スポーツ用品店が11.07店、文房具店が6.07店ですから、おもちゃ屋の数がいかに少ないかがこれらとの比較でもわかります(私の好物、ラーメン店は全国平均で25.17軒です(^_^;))。
大人のおもちゃ
こうした中小規模の玩具店が激減したそもそもの原因が、トイザらスの日本進出だったとしたなら、それが仮に今後消えてしまうとして、その更なる復活はあるのでしょうか?
少子化が進む中、なかなか難しいと思うわけですが、しかし、おもちゃを使うのは子供とは限りません。最近は「大人のおもちゃ」というのもかなり増えてきており、おもちゃ業界の復権にあたっては、大人も遊べるおもちゃの新たなる開発というところが鍵になると考えられます。
近年は、子供向けだけでなく、大人向けの玩具がずいぶん増えてきており、あるいはその走りは、ジグソーパズルやルービックキューブだったかもしれません。他のパズルやゲーム類でも大人が楽しく遊べるものが増えており、近年ではハイテク化が進み、癒しを与えるロボットなども玩具の一種として重宝される時代になってきました。
ソニーの犬型ロボットAIBOが12年ぶりに復活した、というニュースを見た方も多いでしょう。また、かつてタカラトミーから発売されて好評を博したバウリンガルなどは、いまやiphone用があるそうで、ワンちゃんがあなたの気持ちを代わりにツイッターでつぶやいてくれる、といった機能まであるとか。
かつて、我々50代や60代の憧れの的だったラジコン飛行機は、いまはドローンというハイテクおもちゃに姿を変え、より安価に楽しめるものになっており、かつて「テレビゲーム」と呼ばれたコンピュータゲームは、高年齢層までも取り込んだ幅広い支持層を獲得しつつあります。
さらにはVRという略称で広まりつつあるバーチャルリアリティに至っては、人工知能を駆使して仮想空間を生み出す「近未来型玩具」であり、単なる玩具としてだけではなく、セキュリティ、訓練、医療、芸術など生活に密着した領域における補助用具として、その機能は加速しつつあります。
一方では、昔ながらの蒐集(しゅうしゅう)の対象として、「おもちゃ集め」を楽しむ向きも増えてきています。「なんでも鑑定団」のようなテレビ番組を見て集めはじめた人も多く、中には転売目的で集める人もいるようですが、昔からある骨董集めの延長線上で玩具集めを楽しむ人も増えてきているようです。
「おもちゃの文化史」などの著作があり、アメリカ映画「マリー・アントワネット(2006年公開)」の原作者としても知られるイギリスの小説家、アントニア・フレイザー女史は、玩具を「成長後も子供時代を懐かしく思うもの」と述べ、大人でも楽しめるものであるし、また、集めることができるのは大人の特権だ、といった意味のことを書いています。
近年、女性向きには、16世紀に始まったと言われるドールハウス、フランス人形といった分野に愛好家が多いようですが、男性ではレトロなおもちゃ、ソフビ人形、超合金、カードといったものが人気を集めています。
無論、古いものばかりではなく、新しく出たおもちゃを収集して楽しむ、といった向きもあるようで、各種フィギアなどがその代表例であって、こうしたものを展示販売する「ホビーショップ」も増えており、年期の入った「オタク」さんたちも増えてきました。
こうした蒐集目的の玩具集めは、明治時代からあり、「おもちゃ番付」といったものが作られたりもしていたそうです。また、人形蒐集家の集まりが「大供会」を結成して機関紙の発行なども行っていたといい、この「大供」とは「子供」と対を成す造語です。
こうした活動の現代版ともいえるものが「おもちゃショー」といった玩具メーカーのイベントでしょうか。毎年東京のビッグサイトで行われる催しに参加するのは子供よりもむしろ大人の方が多いようです。
未来のおもちゃ
このように、最近おもちゃは大人向けに拡散する傾向が強いようですが、一方では、少子化が進んでいるとはいえ、「ハイテク玩具」として子供向けにリリースされるものも増えています。
とくに、メディアミックスを用いて漫画やアニメーション、インターネットなどと関連させ市場への訴求力を高めた玩具が販売されおり、従来型の「手で持って遊ぶ」タイプの玩具を製造販売する企業の市場を脅かしています。
こうしたハイテクおもちゃに長年の市場を奪われていることに対抗し、昔からの玩具をテレビゲーム化してインターネットで対戦できるような分野に進出してその販売力を高めている企業もあります。さらには、日本国内がダメなら海外進出もある、ということで積極的に世界進出している玩具メーカーも増えています。
世界の玩具市場は、現在のところ推計で年700億ドル以上とされており、これは日本円では8兆円規模の市場になります。
世界的な人口増加に比例して、毎年5~6%の伸びがあるといい、日本を除くアジアやアフリカ、ラテンアメリカそしてロシアでは今後も伸びが期待されているようです。こうした市場を前に、玩具を大量生産で提供する多くの企業が、コスト削減のために低賃金の地区に工場を構えており、たとえばアメリカで流通する玩具の75%が中国製です。
さらに、世界をリードする最先端技術がこうした次世代の玩具とコラボする時代もそこまで来ているようです。
マテル社と並んでアメリカを代表する世界規模の玩具メーカーで、ロードアイランド州ポータケットに本拠を置く玩具メーカー、ハスブロ社は、先日、3Dプリントメーカーとタイアップしておもちゃを販売することを発表し、おもちゃ用の3Dスキャンの特許を取得した、と発表しました。
スマホをセットしてハンドルを回すとおもちゃの3Dデータが作れる、といったシステムらしく、「簡易3Dスキャン」のようなもののようです。取得した3Dデータはアバター(自分の分身となるキャラクターのこと)やゲームの素材として使用したりすることは無論、将来的には3Dプリンターでコピーし、現物で使えるようになるかもしれません。
遅かれ早かれスマホに3Dスキャンの機能が搭載される時代が来るのは目に見えており、そうした時代が来れば、仮想現実だけで終わるわけはなく、現物を3Dコピー機で手に入れたい、とする向きも増えるでしょう。
誰でも簡単手軽に物をデータにしてネットで配布したり、改変できるようになってしまう時代がくるかもしれず、そうした未来の子供は、自分のおもちゃすらも3Dプリンターで作り、新たなおもちゃを創りだすようになっているのかもしれません。
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