テラフォーミング

8月末から雨の降る日が多くなってきました。修善寺はおとといの夜、かなり激しい雨が降りましたが、昨夜も雨で、今日も夕方からは雨の予報です。さすが「長月」というかんじですが、これからは雨ととともにだんだんと涼しくなっていくのでしょう。

暑かった夏も終わり……とはいえ、今年はこの立地のおかげでずいぶんと暑さをしのぐことができ、助かりました。来年の夏以降も同じであってほしいものです。

バイキング

さて、今日は、1976年にバイキング2号が火星に着陸した日だそうです。バイキング計画は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が1970年代に行った火星探査計画で、バイキング1号とバイキング2号の2機の火星探査機が火星への着陸に成功しました。

この2機は、ほぼ同じ型をした双子機で、母船である「オービタ」と着陸船の「ランダー」によって構成されていました。火星の上空まで、オービタとランダーはくっついた状態で運ばれていき、着陸予定地点付近の火星軌道上でランダーはオービタから切り離され、地表に着陸します。

ランダーのほうは、地上の観測をする一方で、母船のオービタはそのまま火星軌道上に残って、火星を空から撮影するとともに、いろんな装置を使って火星を観測し、地球に数々の貴重なデータを送ってきました。

バイキング1、2号とも当初は、着陸後90日間の探査を計画していましたが、ランダー、オービタ共に設計寿命を大幅に越えて稼動し、火星探査を続けました。バイキング1号は1975年8月20日に打ち上げられ、1976年7月20日に着陸。人類が初めて目にした火星の映像では、火星の空は本来のピンク色ではなく水色でしたが、これは送られてきた画像の波長を適切に補正していなかったことがあとからわかりました。

その後、着陸した北緯23度付近にある、クリュセ平原と名付けられた付近を走り回り、1982年11月13日までのなんと、6年あまり、2245日間も働き続け、後続のバイキング1号の稼働期間を2年以上も上回る活躍をしました。

一方、バイキング2号は1975年9月9日に打ち上げられ、1976年9月3日、バイキング1号よりもかなり北寄りの北緯48度付近にある、「ユートピア平原」に着陸。私が、まだ高校生のころのことですが、新聞一面に赤茶けた平原の写真が掲載されたのをみて、すごい!と驚いたのを覚えています。
このバイキング2号のランダーも予想を超えて、1980年4月までの1281日間働き続け、1980年4月11日に機能を停止しました。

バイキング1号、2号があげた成果は、その後のアメリカを中心とする火星探査計画のために大きな利益をもたらし、その後も実施され続けた、マーズ・グローバル・サーベイヤー、マーズ・パスファインダー、2001マーズ・オデッセイなどの火星探査計画へつながる貴重な基礎データを蓄積することに成功しました。

火星の水

そして、現在、アメリカで進行中の最新の火星探査計画は、「マーズ・サイエンス・ラボラトリー(Mars Science Laboratory、略称:MSL)」です。ついこの間終了した、ロンドンオリンピックが開催されている真っ最中の8月6日、その地上探査機「キュリオシティ」が北緯47度地点にある、「ゲールクレーター」の中にある高さ3マイル、直径96マイルの山のふもとに着陸したのは記憶に新しいところです。

キュリオシティは、2004年に火星に降り立った地上探査機マーズ・エクスプロレーション・ローバーの5倍の重量があり、10倍の重量の科学探査機器を搭載しています。火星に着陸後、キュリオシティは火星表面の土と岩石をすくい取り、内部を解析する予定で、最低でも、1火星年(2.2地球年)は活動することができるそうです。

これまでの地上探査機よりも、より広い範囲を探索し、過去と現在の火星における、生命の存在の発見に期待がかかっています。

こうした、火星探査は、アメリカによって行われてきただけでなく、ソ連やヨーロッパ、日本によって、これまでにも多くの軌道探査機、固定着陸機、自走探査機が火星に送り込まれてきています。

しかし、火星を目指した探査機のうち、約三分の二がミッション完了前に、またはミッション開始直後に何らかの失敗を起こしており、その失敗の原因は、多くが技術上の問題によるものと考えられます。しかし、特に考えられる原因がないまま失敗したり交信が途絶えたりしたものも多く、研究者の中には地球と火星間の間に「バミューダトライアングル」があると言う人もあり、火星探査機を食べて暮らしている宇宙悪霊がいるといったジョークもあるようです。

しかし、これまでで最も成功したミッションといわれているのは、なんといっても、1996年11月7日の探査機打ち上げで始まった、マーズ・グローバル・サーベイヤーで、これは、同時期に打ち上げられ軟着陸を行ったマーズ・パスファインダーと同じく、アメリカが 20年ぶりに再開した火星探査計画です。

サーベイヤーの初期ミッションは2001年1月に完了し、その後も延長ミッションを続けましたが、3度目の延長ミッション中の2006年11月に通信を絶ったため翌年ミッションは終了しています。

マーズ・グローバル・サーベイヤー計画によるその観測では、火星内上でもとくに特徴的な地形である峡谷や土石流のあとと思われる場所などが探索されましたが、それらを撮影した写真の中に、その昔、液体の水が流れる水源があったのではないかと思われる地形が発見されました。火星の地表または地表近くに水が存在している可能性がはじめて発見されたわけで、この発見は、世界中にセンセーションをひきおこしました。

さらにその後の2001マーズ・オデッセイでは、火星の南緯60度以南の南極地方の地下約3m以内の表土には大量の水の氷が堆積していることを発見。先の発見に次ぎ、世紀の大発見といわれました。

この「火星上にある水」の発見は、2003年に欧州宇宙機関(ESA)が送った探査機、マーズ・エクスプレス・オービタによっても確認されました。火星軌道上を回る、マーズ・エクスプレス・オービタが、その観測により火星の南極に水と二酸化炭素の氷が存在することを確認したのです。

NASAもそれ以前に北極について、同様の氷が存在することを確認していましたが、2003年にスピリット、オポチュニティと命名された2機のマーズ・エクスプロレーション・ローバー(地上探査機)を送り込み、2機とも2004年1月に無事に着陸に成功。そして、両方の着陸地点で過去のある時期に、明らかに液体の水が存在した証拠を発見しました。

こうして、火星には過去に少なくとも水があった、あるいは現在もあるかもしれない、という事実が次々と明らかになるにつれ、これまでは夢物語とされていた火星への有人探査や、その先にある「火星への移住」が視野に入ってきたといわれます。

テラフォーム

しかし、火星への移住?そんなの無理じゃないの~。どうせ僕らが生きている間には実現しっこないよ~という人が多いようですが、移住はともかく、案外と火星へ人間が行けるのはそう遠い将来ではない、というのが専門家のもっぱらの観測のようです。

それにしても、地球から最大で4億km弱もあるという星まで、まずどうやって行くの?というお話ですが、まず、現在実用化されている技術では、太陽の周りの楕円軌道を回っている火星が地球に最も近付いたとき(約5400km)を狙えば、現在の化学燃料ロケットを使って2年で到着することが可能といいます。

この場合、その間の食糧は?水は?空気は?というところは、やっぱり一番心配なところですが、これらの問題については日々の研究でだんだんクリアーになってきているところです。しかし実際で最も大きな問題は、こうした人間が生きるために摂取するものの確保ではなく、この片道2年、往復4年にも及ぶミッションの間のクルーの精神的安定や、クルー同士の感情のぶつかり合いの可能姓などが問題なのだそうです。

そりゃあそうですよね。逃げ場のない狭い空間に片道だけでも2年間も押し込められて精神がいかれちゃわない人って、よほど強靭な精神力を持った人でないとだめでしょう。また、クルー同士が、男性同士でも問題ありますが、男性と女性の組み合わせにもいろいろありそうで、なんだか、考えただけでもうんざりしそう。へんな話、SEXの問題とかどうするんでしょう。

しかし、化学燃料ロケットもその改良により、飛行時間を数ヶ月程度まで短縮が可能ではないかといわれており、また、新技術として、「比推力可変型プラズマ推進機」や原子力ロケットの開発などが成功すれば、2週間程度まで短縮することが出来るのだそうです。

原子力ロケットはわかるけど、なんちゃらプラズマ推進機って何だ?ということなんですが、私も詳しいことはよくわかりません。しかし、ちょっと調べてみたところ、どうやらロケット燃料にもなる、推進剤を電気によって分解し(電離)てできるプラズマを利用する技術みたいです。燃料を電離して、全体的に温度が低い「プラズマ」の状態になったものに、さらに放電を加えることによって、より高いエネルギーを持ったプラズマができるらしく、これを推進力にして、ロケットを加速させようという技術のようです。

「プラズマ」というのは、「プラズマテレビ」のほか「プラズマクラスター」なんてのもあるようで、聞いたことのある人も多いと思いますが、固体・液体・気体につづく物質の第四の状態の名称であって、「電気によって分解された気体」と考えればわかりやすいでしょう。また、こども向けの科学館などで、落雷の実験をみたことがある人もいるでしょう。実験室内での真空放電で再現することもでき、これをオブジェにした「プラズマボール」なんてのも見たことのある人がいるかもしれません。

1950年代以降にエネルギー源としての原子核融合や、宇宙物理学、さまざまな工学的応用などに使えるのではないかとしてその研究が進展し、いまや宇宙ロケットへの応用もさかんに研究されていますから、我々が生きている間には実用化するかもしれません。

しかし、火星までなんとか短時間で行けるようになったとして、そこにどうやって住むの?ということですが、この方面の研究も最近かなり活発になっているようです。

テラフォーミング(Terraforming)という言葉を聞いたことがある人もいるかと思います。これは、火星などの地球に似た星の環境を、人間を含めたさまざまな生物がそのまま居住可能なように改造することです。

火星の一日(自転周期)は地球と同じくほぼ24時間であり、赤道傾斜角が25度と地球の角度と近いため四季も存在します。これらのことから、火星は最も地球に近い惑星であるとされていて、その環境を人間が住みやすいようにするのは、案外と簡単かもしれない、という見方があるのです。

太陽との距離がより大きい火星を地球のような惑星に作り変えるためには、まず、火星の希薄な大気を、ある程度厚くして気温を上昇させることが重要になります。具体的な方法としては、以下のようなものが提案されています。

・メタンなどの、温室効果を発生させる炭化水素の気体を直接散布する。

・火星の軌道上に、ポリエチレンでできたフィルムにアルミニウムを蒸着した巨大なミラーを浮かばせ、太陽光を火星の南極や北極に当てる。これにより、火星の極冠にあるドライアイスと氷が溶け、気温が上昇すれば、大気中に二酸化炭素と水蒸気が放出され、気温の上昇が速まる。

・黒い藻類を繁殖させる、黒い炭素物質の粉を地表に散布するなどして、火星の外部からの入射光に対する、反射光を増幅させる。これにより、平均表面温度は-43℃、最低温度は-140℃という地表面温度をあげる。

このほか、火星の地下には永久凍土として水が埋もれているという説が有力なので、これが溶けて海ができれば、雲ができ、雨が降り川も流れ、地球とよく似た惑星となりうるといわれます。

ほんとにそんなことができるの?ということですが、これに対して疑問符を投げかける学者さんもたくさんいて、その中でも説得力のある意見としては、火星の引力が小さいため(火星の表面重力は地球の1/3)、居住可能な大気を維持し続けるのは困難であるという意見。また、火星は地球のように強い地磁気を持っていなので、火星表面に到達する宇宙放射線を十分に防ぐことができないのでは、という意見もあります。

これまでの研究によると、火星周回軌道上は国際宇宙ステーションと比べて放射線のレベルが2.5倍も高いそうで、3年間このレベルの放射線に晒された場合、現在NASAが採用している安全基準の限界付近まで到達するのだとか。

ただし、現在薄い大気しかない火星表面でより分厚い大気ができるようになれば、これによって放射線レベルは多少低くなるだろうといわれており、地表に設置される住居や作業場は火星の土を使って保護することができ、屋内で過ごしている間は被曝を大きく減らすことができるのではないかともいわれています。

また、火星の大気は薄いけれども、主成分は二酸化炭素のため、火星表面でのCO2の分圧は地球の52倍にもなります。しかし、これが幸いして火星上で植物は生育可能かもしれないとも言われており、もし十分な水があり、植物が二酸化炭素を吸収して酸素を大量に放出してくれるようになればしめたものです。

それにしても、火星の環境は、灼熱の水星や金星、極低温の木星、さらに遠い軌道を回っている土星や冥王星に比べればはるかに地球に近く、もっとも地球に近い天体である真空の月や小惑星などに比べてもはるかに住みやすい環境を持っています。

現在、我々が暮らしている地球上には、火星と似たような自然環境も存在しており、南極の最低気温はマイナス90度ほどであり、火星の平均気温よりも少し低いくらいです。また、地球の砂漠も火星の地形と類似しているそうで、このほか、有人気球が到達した最高高度は、34,668mですが(1961年5月に記録)、この高度での気圧は火星表面と同じぐらいということです。

こういうふうに考えてくると、我々の世代ではちょっと難しいかもしれないけれども、次の世代か次の次の世代くらいまでには、火星へちょっと旅行へ行って、「地球見」をしながら、火星で育ったおいしい果物を食べて帰ってくる、なーんてことも可能になっているのかも。

火星の植民地化による、「惑星の汚染」なるものを気の早いひとは心配しはじめているようですが、その前に、まずは、有人火星探査によって、そこに生命がほんとうにいるかどうか、というところをしっかり確認してほしいもの。もし生命がいた場合には、その痕跡を地球に持ち込むことで、逆に地球が汚染されてしまう可能性もあるのですから。

そうそう、そういえばバイキング1号が撮った写真に「火星の人面石」なるものがありましたっけ。その後、マーズ・グローバル・サーベイヤーのミッションで、ただの岩山であることが確認されましたが、もしかしたら、ほかにも「人工」の遺跡があるかも。そしてその遺跡は、映画エイリアンのような凶悪な火星人の住処のあとだったりして……

火星への移住は私が生きている間には実現しそうもありませんが、もしかしたら月旅行ぐらいは生きている間に行けるかも。今月末には再び満月の夜があるようですから、お団子を食べながら、その妄想にふけることにしましょう。まだまだ遠い火星ですが、もしかしたら火星人は我々に先んじて、既に月あたりまで来ているかもしれません……