細野高原へ ~東伊豆町

太平洋を進んでいる台風の影響でしょうか。昨夜は結構な量の雨が降り、今日の午前中は雨はやんでいましたが、午後からはまた時折激しい雨が降っています。こんな天気だと、ついおととい行った細野高原の爽やかさが懐かしくなります。

その細野高原について今日はその訪問記を綴っていきましょう。

まずその場所ですが、東伊豆町の「稲取温泉」という場所の山の手のほうになります。伊豆東急線に、「伊豆稲取駅」という駅がありますが、この駅よりほんの少し南へ下ったところにある「稲取文化公園」付近にこの高原へ登っていくための入口があります。

「東伊豆町観光協会」さんのHPによれば、この入口付近の135号線に案内看板が出ている、ということだったのですが、河津方面から北上してきた我々には案内看板がよくわかりませんでした。もしかしたら、一本手前の道を入ったのかもしれません。

この135号は通常でも交通量が多く、気を付けていないと見落としてしまうかもしれませんので、もし伊東方面からアクセスされる方は注意して入口をみつけてください。

この入口から細野高原へは延々とクルマで登っていきます。ふもとに近い部分は両側に民家が迫っている細い道で、クルマ二台がすれ違うのもやっとという場所や、明らかにクルマ一台しか通れない部分もあって注意が必要です。

この細い道のまわりにある民家ですが、どこの家も、きれーいに組まれた石垣の上に整地された土地にたっていて、この石垣がまたどちらのお宅も見事な出来栄えなのです。

おそらく、東伊豆ということもあり、台風などの嵐が来たときにはかなりの強風が吹くための対策だと思われますが、こんなにきれいな石垣をみたのは、昔沖縄へ行ったとき以来かもしれません。

沖縄も台風がよく通過するところであり、ここ東伊豆もそれは同じなのでしょう。災害の多いところに住んできた先人からの知恵のたまものなのでしょうが、それにしても見事な石垣だと、妙に感心しながら上へ上へと登っていきました。

そんな石垣もだんだんと高度を稼いでいくと徐々にみられなくなっていき、かなり標高を稼いだなと感じたころからは全く民家はなくなり、路の両脇は生い茂った杉林や雑木林になります。

その後はひたすらこの林間の間の道を上っていくのですが、ふもとの民家の間を上っているとき以上にこの道は細く、時折、既に上の高原訪問を済ませて下ってきたクルマともすれ違いましたが、場所によってはすれ違うことのできないような場所もあり、ガードレールもなく、運転には気を遣います。

おそらくはこのアクセスの悪さが細野高原の知名度が上がらない原因なのだと思いますが、仮にもっと知名度が高くなって、この道に乗用車がひしめいたら、事故が起こるのではないかと心配になってしまいます。

我々が行ったのは平日だったためそこそこの車の量で済みましたが、週末の土日などにはもっとたくさんの車であふれかえっているのかもしれません。これからもし週末に行かれる方があれば、ご注意ください。

さて、延々と林間の道を上り続けることおよそ10分ほどでしょうか。突然、視界が開け、その先には駐車場のようなものが見えてきました。この駐車場、まだできたばかりのようでかなり真新しく、そこには「イベント会場」の看板があり、東伊豆町の観光協会の方らしい人が空いている駐車場を指示してくださいました。

あとで知ったことなのですが、クルマで来た人はここまでが限度で、このあとさらに上に楽して登りたい人は、観光協会の用意する乗り合いタクシーに乗って、さらなる上の「三筋山」まで直下まで行けるのだとか。ススキのシーズンである10月末までこの措置が取られるようで、やはり週末などに観光客が殺到するためかと思われました。

ただし、観光協会の方がこの駐車場を管理されているのは、午後3時までだそうで、そのあと、頂上の三筋山までクルマで行く人は、「自己責任」をとれる方ならば入山してもかまわない、ということになっているそうです。

既に書き忘れていますが、そもそもここ細野高原とは、天城山の一部である三筋山(みすじやま)、大峰山(おおみねやま)、浅間山(せんげんさん)などを三方に囲まれた標高400~500mの山の上にある草原地帯です。

ススキの原として最も観光スポットとなっている細野高原からはさらに上の三筋山まで乗用車で乗り入れができる道路が造られていて風光明媚な場所なのですが、知る人ぞ知るで、あまり一般の観光客は来ないようです。

これだけの高所にクルマで上がってこれるのに、あまり観光客が来ないのはやはり途中のアクセス道路が狭いためでしょう。我々が訪問したときのような秋のススキのイベントがないときには、さらに制限なく標高800m超の三筋山頂上直下までクルマで行けるわけですから、もっと人気が出てもよさそうなものです。

おそらく伊豆稲取という場所も、伊豆高原や下田の間にあってマイナーなため、あまり人に知られてこなかったのでしょう。

この三筋山頂上ですが、ここは、パラグライダーの基地にもなっていて、そこから眼下にみえる相模湾に向かってダイブ!ができるようです。、高所恐怖症の私などは聞いただけでも足元がぞわぞわしそうなスポーツですが、こういうことが好きな人にはたまらないレジャースポットになっているようで、これも知る人ぞ知る、らしいです。

我々が行ったこの日にはパラグライダーで飛んでいる人はいませんでしたが、おそらく休日にはこちらの方面の方々でも賑わうのでしょう。このパラグライダー客のためか、草原のあちこちに風向・風速がわかるようにと、目印を兼ねた吹き流しが立ててありました。

さて、駐車場に車を止めて、いざ入山しようとしたところ、どうやら入山のためには「入山簿」に記入をしなければならないようです。協会の人たちが建てたプレハブの前にはその入山簿が並べてあり、係の方からそこに記入をするよう促されました。

駐車場のすぐそばにある看板によると、この入口の駐車場がある付近だけでも400m近い標高があるようで、三筋山の頂上の標高は前述のとおり800m以上もあります。この日のように天気の良い日ばかりではなく、天候の悪い日もあり、この頂上ではこれから10月も下旬に入ればさらに頂上の気温は下がります。

その頂上付近までクルマでアクセスできることもあり、観光客の多くは気軽に平服で登ってきますが、この入山簿への記入は、こうした観光客が天候の悪い日に遭難しないとも限らない、という配慮からなのでしょう。わかる気もします。

ということで、おとなしく言われたままに住所と電話番号を記入し、いざ「入山」です。といっても、我々も薄着の長そでとジーパンに町歩きの普通の靴を履いての登山ですから、おのずと登れる距離は知れています。

協会の方から渡されたパンフには、三筋山の頂上まで登って帰ってくるロングコースと、細野高原の周りをぐるりと回ってくるミドルコース、そして細野高原を横断して、主だったところを見るショートコースの三つが書いてありました。

前述したように、三筋山の頂上までは協会さんが用意した乗り合いタクシーで行けるのですが、協会の係の方からの詳しい説明を聞きそびれたため我々はそのことを知らず、時間的にも午後2時近くになっていたことから、中間のミドルコースをとることにしました。

中間のミドルコースとはいえ、最高標は600mくらいになるようです。駐車場から見上げると上のほうにその到達地点らしい東屋のようなものも見えます。

さっそく駐車場脇の手続き場所から一歩高原のほうへ足を踏み出しましたが、そこだけでももう別世界!でした。行く手の三筋山のほうを見上げると、その頂上までのほとんどの部分が薄い緑色の草原地帯となっていてその直下のあたりから、白く光るススキの原が広がり、それが盛り上がり下がりしながら、なだらかに連なりながら今我々が立っているレベルまで降りてきます。

三筋山からやや左手の南側へ目を向けると、そこには三筋山から流降りる優雅なスロープがあり、ここもススキで覆われた草原地帯になっています。ところによりそのスロープに針葉樹林帯が残されていて、太陽のシルエットとなって影のように立ち並んでいます。逆光の太陽に照らされた目の前のススキの原とこの黒々とした針葉樹林は絶妙のバランスをみせており、なかなか絵になります。

そして、すぐ自分たちの立っている間近の足元に目を落とすと、その平面は見渡す限り、ほぼ100%ススキの原であり、強い逆光の中、ときおり強い風に揺られて一斉になびくその様子は、映画でみた「風の谷のナウシカ」のラストシーンのようです。

振り返って、今まで登ってきたふもとのほうを見ると、眼下にはぼんやりと青い色の海がみえます。相模湾です。左手のほうには、この相模湾からの強い風を受けることで発電をしようとするのでしょう、大きな白い風車も見えます。

さらに北側には、青々と連なる山々も見えます。大昔この細野高原や三筋山を形成した、天城火山の名残の山塊です。こちらの方向にはススキの原は多くはありませんが、青々とした天城山塊とその前に連なる針葉樹林帯、そして手前にみえる若干のススキの原はこれはこれで絶妙な組み合わせです。

この細野高原の全体の広さは、東京ドーム26個分ほどもあるそうで、箱根の仙石原にも広大なスススキの原がありますが、それと比べても7倍の広さがあるとか。

こうしてその夢のような世界をゆっくりゆっくりと歩いて堪能し、二時間ほども歩きましたでしょうか。まあどこもかしこも絵になること甚だしく、気がつくと写真を300枚ほども撮っていました。

この細野高原の生い立ちなのですが、そもそも数十万年前このあたりは、天城山が噴火を繰り返して流れ出た溶岩で埋め尽くされた場所であり、原始の天城山塊の一部でした。

その後長い間をかけて、この原始天城山は浸食を受け続け、また断層の活動変化を受けることで、その中から三筋山・大峰山・浅間山などの高まりが「洗い出され」ます。そして、これら三つの山々の間には、凹地や緩傾斜地が形成され、それが現在の細野高原になったそうです。

もともとが火山由来なため、この高原地帯は大雨が降ったときには火山灰や火山土が雨と混じって泥水になって山を下り、これが「稲取泥流」と呼ばれるものです。この泥流はやがて各所に堆積し、それが土石流堆積物で覆われた今の広い高原を形成しました。

この堆積物中には泥質分が多くて水はけが悪いため、地表に湿原がつくられて水辺の植物が生育し、そしてその中でもススキが卓越種となり、現在のようなのススキで覆われた「細野湿原」が誕生しました。

確かに、草原のあちこちには沢水が流れていて、確かに「草原」ではあるのですが、「湿原」でもあることがわかります。ススキのような水辺を好む植物が大繁殖したのもその水はけの悪さゆえんのことのようです。

細野湿原は県内の湿原の中でも自然状態が最もよく残されているそうで、「タヌキモ」や「ミミカキグサ」などの食虫植物のほか、多くのラン科の植物や絶滅が危惧される貴重種も数多く生育しているとか。オオタカやハイタカなどのタカ類の狩場ともなっているそうで、こうした猛禽類が捕食する小動物もかなり多そうです。

昭和54年7月に、東伊豆町指定文化財(天然記念物)となり、保護・保全されてきましたが、その希少性が評価され、平成8年3月12日には静岡県指定の文化財となりました。

我々が訪問したこの日は、夕方まで上天気で、しかも時間帯が日暮れ近いこともあって、風になびくススキの原が夕日の逆光にあたって映える絶景が数多く撮影できました。その全部はご紹介できませんが、一部をこのブログでも紹介してみましたのでご笑覧ください。

これを見て、細野高原へ行ってみたいと思った方は今がおすすめです。10月末までいろんなイベントもやっているようですから。ぜひ行ってみてください。まさに「知られざる観光スポット」だと思います。

以下に東伊豆町観光協会のHPからの抜粋をそのまま掲載しておくのでご参考ください。なお、私自身は観光協会さんから一銭も宣伝費を頂戴しているわけではありませんので、ご承知おきを。

開催期間:平成24年10月1日(月)~10月31日(水)

■開催時間:9時~15時(雨天中止)

■イベント詳細:
稲取細野高原の大自然を楽しんでいただけます。イベント広場ではすすき狩り、マウンテンバイクの貸出、すすきソリすべりなどご用意いたしております。また、希望者にはイベント広場から絶景が眺められるポイントの三筋下駐車場までタクシーが運行しております。(片道10分)(環境保全協力金として1名200円の協力金のご負担をお願いいたします。)

■交通手段:
伊豆稲取駅から稲取細野高原イベント広場行きの無料ピストンバスが出ます。帰りの便は稲取文化公園を経由します。なお、バスは先着順となり、予約制ではありませんのでご了承ください。バスに乗りきれなかった場合はお手数ですが有料タクシーにてご来場ください。

■細野高原イベント広場駐車場:
乗用車37台、身障車1台、マイクロ(中)3台 (トイレあり)お車でお越しの場合、伊豆稲取駅より車で約15分です。

*イベント開催期間中は細野高原イベント広場より先はお車の通行ができませんので、イベント広場駐車場にてお車を駐車してください。