787

先日修善寺に降った雪は、ふもとの温泉街ではその日のうちに消えてしまいましたが、山の上にあり、北側斜面に建つ我が家では、寝雪になって残っていました。

その雪も、昨夜から降り始めた比較的暖かい雨で融け出し、家の前の公園に植えてある桜の木々がその雨に濡れています。ほんのりとピンク色に見えるのは、早くもつぼみを蓄えているからでしょう。伊豆に春がやってくるのもそう遠くなさそうです。

さて、最近テレビ等で、ボーイング社の最新型旅客機が頻繁に事故を起こしたことに関するニュースが頻繁に流れていますが、このボーイング787という飛行機については薄々は知っていたものの、実際にはどんな飛行機なのか詳しく知りたくなり、調べてみました。

まず、従来機との比較ですが、従来型の中型機のボーイング757や767比べると、その機体幅をかなり広げたワイドボディ機で、特に改良の第一目標となった767より、航続距離や巡航速度は大幅に上回るとともに、燃費も向上しています。

ちなみに、787のひとつ前に開発されたボーイング777は、翼幅、胴体長ともジャンボジェットと呼ばれた747よりも大きく、双発機としては世界最大であり、787はこれよりも一回り小さくなります。

しかし、787では、航続距離や巡航速度の大幅な改善をめざして開発が進められ、中型機としては従来のものよりもはるかに長い航続距離を得ることとなり、今までは747や777などの大型機でないと飛行できなかった距離もこの機を使うことにより直行が可能になりました。

より具体的には、従来の中型機ではアメリカ西海岸あたりまでしか行けなかったものが、この飛行機では東海岸のボストンあたりまで飛んで行けるようになります。

中型機ながら乗客数も大型機並みになり、飛行距離も伸びたことから、従来では飛行距離の大きい大型機しか飛ばせなかった場所へより小さい容量の飛行機を飛ばせることができるようになったことは画期的です。

なぜなら、従来は高い乗客率がのぞめない遠くの場所には、燃料がたくさん積める大型機しか飛ばせなかったものが、今後は思うように客を集められない場合でも、より燃料消費量の少ない中型機ならこうした遠地へ飛ばすことができるようになります。

これにより乗客が多いときには大型機を、少ないときには中型機をと言った具合に、手持ちの飛行機の効率的な運用ができるようになるためです。

これにより、これまでは需要があまり多くなく大型機では採算ベースに乗りにくかった長距離航空路線の開設も容易となりました。

燃料の消費率も少ないというメリットも含めると、この機は従来型よりもはるかにコストパフォーマンスが高く、日本ではANAやJALが新たな国際線への参入を予定しているほか、他国でもこの機の購入を予定している航空会社が多く、これらによる新たなる国際線の開発に向けて大きな期待が寄せられています。

この787は従来型に比べて大きく軽量化を図ることに成功しており、これは炭素繊維を使用した強化プラスチックカーボンなどの複合材料を多用しているためです。

その使用比率は全体の約50%にもおよび、残り半分は、複合材料にすることのできないエンジン等の金属部品なので、実質、機体のほぼ100パーセントは複合材料化されているといえるようです。

ワイドボディとしたため、客室の座席配列は、767やまたヨーロッパ製のエアバスA300クラスよりも広くなり、従来型ではエコノミークラスで2-4-2の8座席が多いのに対し、3-3-3の9座席も可能となり、ジャンボジェットの747のエコノミークラスとほぼ同等の座席幅を確保できるようです。

また、この太い胴体のため、床下貨物大き目のコンテナを2個並列に搭載可能であるといい、客室も従来より天井が20cm高くなりました。従来比1.6倍の大型の窓が採用され、窓側でなくとも外の景色を見ることができるそうです。

窓にはシェードがなく、代わりにエレクトロクロミズムを使った電子カーテンを使用し、乗客各自が窓の透過光量を調節することができる!とか、従来機のボーイング777ではコックピットのみへのオプション装備だった加湿器が、初めてキャビンに標準搭載されており、最新技術を使った空気清浄器も搭載されています。

またトイレには、TOTOと共同開発した、世界初の航空機用の温水洗浄便座がオプション採用されており、ANAでは国際線に導入されているということです。

確かに、高い航空運賃を払わされているのに、トイレだけは旧来のままだよなーと私もかねがね思っていましたので、これを機会に他の航空機における機内環境においても、大いなる変革をはかっていってほしいものです。

ちなみに、新幹線も2014年開業予定の北陸新幹線からは温水洗浄便座が入れられる予定ということで、空のみならず、地上の交通手段におけるアメニティーの向上にも期待したいところです。

このほか、我々が見る機会はまずないといってよいでしょうが、コックピットにも最新技術が導入されていて、777でも採用されていたLCDを多用したグラスコックピットをさらに進化させ、ヘッドアップディスプレイ(HUD)もついているほか、エレクトロニック・フライトバッグ(EFB)と呼ばれる装備も標準装備となりました。

これは、従来操縦士が持ち込んでいた紙に書かれたマニュアル類やチャートなどを電子化し、画面上に表示するものであり、離着陸性能の計算をしたり、地上では空港の地図と自機の位置を表示することもできる最新鋭の装備だそうです。

この787の機体性能ですが、巡航速度はマッハ0.85となり、767のマッハ0.80、やA330、A340のマッハ0.83を上回り、長距離路線では、より所要時間の短縮が可能になりました。

航続距離は最大で8500海里(15,700km)であり、これは前述のように、アメリカ東部のボストンやニューヨークからの東京路線をカバーするのに十分であり、このほかロサンゼルスからロンドン、あるいは、東京からヨハネスブルグへノンストップで飛ぶことも可能だといいます。

炭素性素材を多用するなどして軽量化を図った結果、ボーイング767と比較すると燃費は20%も向上したそうで、これは空力性能の改善にも寄るところが大きいようで、またエンジンも最新の技術が導入されて燃費効率も高まっており、これらの相乗効果によるものです。さらには、軽量化できることによって最大旅客数も若干増加したといいます。

このエンジンは、ロールス・ロイス社製のものとゼネラル・エレクトリックのものの二種類が用意されているそうで、電気接続のインターフェースを標準化したため、これら2種類のエンジンの交換が可能とされており、将来の技術進歩によりさらに高性能エンジンが開発されたときには、異なるメーカーのエンジンと取り替えることが可能になりました。

残念ながらこのエンジンの開発に日本は加わることができなかったようですが、実際のエンジンの製造では、ロールスロイス製のほうに三菱重工と川崎重工が、ゼネラル・エレクトリック製の製造にはIHI(石川島播磨重工)が参加しています。

一方、機体のほうも、その70%近くを日本を含めた海外メーカー、約70社で国際共同開発され、これによって開発費を分散して負担できるとともに、世界中の最高技術を結集した機体にすることが可能となりました。

参加企業は下請けを含めると世界で900社に及ぶそうで、イタリア、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリア、韓国、中国といった国々が分担生産に参加しており、日本からも前述の三菱重工業などの重工各社をはじめとして数十社が参加しています。

日本企業の担当比率は合計で35%と過去最大であり、これは767のときの15%、777のときの20%を上回っており、この35%という数字はボーイング社自身の担当割合と同じということです。日本の航空機産業への参入もついにここまできたかというかんじです。

ただ、先日のあるニュース番組で、コメンテーターのひとりが指摘されていましたが、これら参加企業が持ち寄った技術は各国の最先端技術であり、それらの部品の中にはある部分がブラックボックスになっているものもあるということで、これらを統合した787を「システム」として運用する場合には、そのブラックボックス部分が大いに問題になります。

システムを統合する側のボーイング社自身がシステムの個々の部分のすべて把握できなくなる可能性があるからです。

787はANAを初めとする導入に手をあげた航空会社への導入が、3年以上も遅れました。このため、ボーイング社としては納入を焦っていたようであり、こうしたシステムとしての統合性の確認をどこか怠っていたのではないかと、このコメンテーターさんは指摘されていました。

また、飛行機のフラップなどを動かす動力系統を、従来機では「油圧」などを用いた機械制御にしていたものを、787からはこれらの動力をすべて「電気」にしたということであり、このため蓄電容量の大きく性能の高いことで定評のあった日本製のユアサのバッテリーを使ったということですが、そのあたりに今回の事故の原因はあるのかもしれません。

このほかにも国産の部品が多数使われているということもあり、国内メーカーはそれぞれ気が気ではないでしょう。

このようにボーイング社外の各国メーカーに部品の提供を依頼している関係から、アメリカ以外の国で製造された部品やエンジン等を最終組立工場に搬送するためには、ボーイング社の専用の輸送機が用いられているということです。

日本で787の製造に参加したメーカーの部品は、その多くの生産工場が名古屋近郊にある関係から、中部国際空港を拠点としてこの輸送機が定期的に飛来しているそうです。

787の製造に参画している重工各社のうち、三菱重工業はジャンボジェットの747が計画された2000年5月にボーイングとの包括提携を実現しており、他社よりも機体製造における優位性を持っているようで、この787の開発においてもすでに1994年には重要部分を三菱が担当することが決定しており、海外企業としてボーイングの主翼を担当するのはこの三菱が初めてでした。

ちなみに、三菱が開発した炭素繊維複合材料は、国産の支援戦闘機である、F-2戦闘機の開発をアメリカと一緒におこなっていたときに開発されたもので、これが炭素繊維複合材料が航空機に初めて採用されたケースだということです。

炭素繊維複合材料の研究開発は、アメリカ側でも従来から行って来ていましたが、F-2の開発の最終段階では、三菱側が開発した複合材の方が優秀であるとアメリカ側が評価し、結果的に三菱が主翼の製造の権利を勝ち取りました。

従って、787の主翼の開発においても、この三菱の世界最先端の戦闘機開発で培われた技術が使われており、いまやこうした国産の最先端技術が、世界を飛ぶ航空機にまで応用される時代になったといえます。

一方、胴体の製造では、川崎重工業が前方胴体・主翼固定後縁・主脚格納庫を担当し、富士重工業が中央翼・主脚格納庫の組立てと中央翼との結合を担当しており、三菱が担当する主翼も含めると、機体重量比の半分以上にこれら各社が得意分野とする炭素繊維複合材料が使用されています。

1機あたり炭素繊維複合材料で35t以上、炭素繊維で23t以上も採用されているそうで、世界最大の炭素繊維材の製造メーカーである東レは、ボーイングと一次構造材料向けに2006年から2021年までの16年間の長期供給契約に調印し、使用される炭素繊維材料の全量を供給する予定ということです。

長く経済の不況にあえぐ日本ですが、日本を代表する重工業各社やエレクトロニクス関連企業がこうしたボーイング社の世界最先端の航空機製造技術を持つメーカーの生産に携わるようになっただけではなく、今年はMRJのような我が国独自の技術を投入した「純国産機」も空を飛ぶ予定であり、JAXAの宇宙ロケットのほうも、今後本格的に民用移管が進むようです。

2010年代は、日本では航空・宇宙産業の花開く時代になることはまちがいなく、他の産業のけん引役となっていってほしいものですが、その矢先に起こった今回の事故だけに、一日も早い原因究明が待たれます。