不老不死のはなし

今日は啓蟄だそうです。

暖かくなったため、あちこちから虫やら蛇やらが這い出してくるということで、想像するとあまり気色のいいかんじはしませんが、寒かった今年の冬もそろそろ終わりということで、歓迎する向きも多いことでしょう。

私といえば、この時期になるといつも齢を重ねざるをえない、ということもあり、あまり歓迎ムードではありません。どちらかといえば寒いほうが好きで、ある程度暖かくなるのは歓迎するとしても、その先にある暑い夏を想像すると、そんなもんが来るくらいなら、ずっと冬のままのほうがありがたいくらいです。

いっそのこと冬のまんま、年をとらずにいられたら……とも思うのですが、現代科学では不老不死はまだまだ夢の話のようです。もっとも、そんなに長生きしたいとは思いませんが……

中国では古くは始皇帝が不老不死を求め、実際に家来に外国へいって不老不死をもたらすという仙薬を持ってくるようにと命じた、ということが「史記」に書かれているそうです。

もちろん家来たちがそれを探し出すことなどできなかったため、始皇帝は不老不死の薬を作るために今度は、「練丹術」なるものを部下たちに研究させますが、その無謀な命令を受けた結果、彼らが最終的に作りだしたのは「辰砂(しんしゃ)」でした。

この辰砂、実は不老不死の薬でもなんでもなく、水銀などを原料とした毒薬であり、家来たちはこれを使って無理難題ばかり押し付ける皇帝を暗殺しようとしたのでした。そして、不老不死の薬ができました、と家来たちから手元で薬を渡され、大喜びでこれを飲んだ始皇帝は、その猛毒によってもだえ苦しんで死んでいったといいます。

これが史実なのかどうかはよくわかりませんが、始皇帝の死はそのように取りざたされています。皇帝が死んだのは、熱い砂漠を移動する中であったため、始皇帝の死体はすぐに腐臭を放ち始めたそうです。が、家来たちは自分が葬った皇帝の死が発覚するのを恐れ、皇帝の死体を腐った魚が入った箱の中に入れたなどという話も残っています。

ま、毒殺されようが病気にかかろうが、いずれにせよいつか始皇帝は死んでいたでしょうが、生物学的な見地からみても、多細胞生物である我々は再生能力の限界に伴い必然的に老化し、最後には死を迎えます。

その代わり、一定期間の間生きて、子孫となる個体を作るという方式で生命を繋ぐわけで、種の保存という意味では死というものはありません。滅んだ肉体に宿っていた魂だけはその後も転生していく、というのはたびたびこのブログでも紹介しているスピリチュアル的な考え方ですが、このことは今日はちょっと脇に置いておきましょう。

多細胞生物であっても、いったん個体が老化したのちに若返りができる「ベニクラゲ」などという不老不死の生物もいるにはいるようですが、これは例外中の例外です。ただし、多細胞動物の一部の細胞を取り出して培養した場合はこの細胞が不死化する場合があり、人間においてもがん化した細胞が不死株として培養され続けている例があるそうです。

最近のIPS細胞の研究は、いつかは不死身の体を手に入れる日がくるかもしれません。現代の医学においても老化の防止は重要な課題であり、実際、「抗老化医学」なる学問分野もあるそうです。

一方、病気としての「不老症」というものは確認されていないそうです。ところが、驚くなかれ、アメリカのメリーランド州ボルチモアには、赤ん坊の姿のまま成長が止まっている事例があるということです。

テレビのバラエティ番組などで紹介されているので、ご存知の方も多いかもしれませんが、奇跡の遺伝子を持つかもしれないと、この「赤ちゃん」は世界の医学界から注目を集めています。

ブルック・グリーンバーグという女性で、1993年1月8日生まれということですから、今年でもうは20歳です。昨年の段階で、身長76cm、体重7.7kgということで、現在もまだご存命中のようです。が、まだおむつが必要で、食事は胃に直接栄養を入れるという方法をとっているようです。

医師は彼女の染色体異常を疑いましたが、手足の指の屈曲、耳の位置が低いなどの発達遅延障害の症状が若干みられるものの、検査の結果、染色体に異常は見つからなかったということです。

生まれてから現在まで、1年間でわずか100gくらいづつしか体重が増えないそうで、いろんな検査が行われましたが成長しない理由はいまだに分かっていません。3、4歳になったときに、脳に腫瘍が見つかりましたが、その腫瘍も数日で自然に消えたということで、その驚異的な治癒力が成長しない体と何か関係があるのかもしれません。

全米の医師たちが彼女の体を調べることを申し出ているということで、医学に関しては世界最先端の技術を持っているアメリカのことですから、そのうちその原因が解明され、本当に不老不死の方法が割り出される日も近いのかもしれません。

この子はもしかしたら神が我々に与えてくれた「福音」なのではないか、と早くもキリストの再来のような扱いをする宗教団体もあるようで、私的にはそれはどうかとは思うのですが、案外と彼女は、今後の人類に「希望」を与えるために霊界から「贈り」だされた使者なのかもしれません。

しかし、彼女の研究が進んだとしても、実際に我々が使えるような不老不死の薬が開発されるまでにはまだまだ長い時間がかかりそうです。

不老不死は無理としても「アンチエイジング」は可能だろうということで、これまでも色々な研究がなされてきています。それらの研究の成果から、ヒトの老化現象には、染色体の末端にあって、染色体を保護する構造物である「テロメア」というものが関わっていることも分かっています。

テロメアは細胞が分裂するたびに短くなっていくということで、ヒトの線維芽細胞(コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸といった真皮の成分を作り出す細胞)を培養すると、およそ50回の分裂で増殖が止まってしまうということです。

つまり、テロメアが短くなりすぎて、染色体を保護できなくなるということは、細胞が死ぬ、すなわち老化が進むというわけです。

無限に分裂を繰り返すがん細胞や、生殖細胞などにはテロメラーゼ(telomerase)という酵素があり、テロメアの短縮を防いでいるため、これらの細胞は長いテロメアを持っているということです。

つまり、テロメアは人間の生体に悪い作用も良い作用も及ぼしているということが最近の研究でわかってきており、その研究がさらに進むことで、今後はアンチエイジングの特効薬ができるのではないかと期待されています。

ハーバード大学ではテロメアを長くする実験が行われ、その結果、アンチエイジングのひとつの方法が確立されたそうです。

人間の体の中には絶えず分裂している細胞があって、この分裂細胞のテロメアの中には長いものも短いものもありますが、若い人には当然長いものが多いわけです。

ところが、老化が進んでいる高齢者の幹細胞にも長いテロメアが残っていて、これを試験管の中で増やしてあげてから体に返してあげるという方法が実用化されていて、これによって数か月くらいはエイジングを防げるということです。

細胞の培養に一回150~200万円もかかるということですが、半年は若さを保っていられるなら安いと考える向きもあり、アメリカなどでは結構な人気になっているそうです。

これもまあお金がある人はできますが、我々?のような貧乏人にはこれはちときつい出費でしょう。ただ、テロメアの長さには食べ物も関係しているということで、我々も食生活にも気を付けることでそれが短くなるのを防ぐことができるようです。

長野県の高山村は、りんごやぶどう、赤ワインなどの産地として有名ですが、この地に住む人の中には高齢者が多いことでも有名で、医療費も全国平均に比べて著しく低いことで知られています。

高山村は山の裾野なので坂が多く、高齢になっても運動量も多いから若さを保っていられるのだとも言われていますが、研究者の多くは食べ物との因果関係のほうが強いと考えているようです。

新鮮な野菜や果物をふんだんに食べることのできるため、高山村の人は健康で長生きできるのではないかということが研究結果からわかってきており、実際にこれとテロメアの長さとの因果関係が確認されているそうです。

逆に野菜の質が下がったり、カロリーだけ増えて栄養素密度が下がるとテロメアが減る率が高くなるそうで、ジャンクフードなどはカロリーばかり高くて栄養素が足りない食べもの代表選手であり、アンチエイジングをしようと考えている人にとっては最悪の食べ物ということになります。

このほか最近着目されているのが、発酵食品だそうで、これを従来の塩や砂糖に置き換えていくのも効果があるということです。砂糖の代わりに麹、塩の代わりには塩麹というあんばいに食生活を変えていくと、食事全体が天然に近づき、体全体がテロメアを保護するような体質になっていくのだそうです。

「塩麹」は最近のブームですが、なかなか理にかなった健康食品ということになります。

実はこのテロメア、放射能にも弱いそうです。放射能に一番弱い細胞が幹細胞だそうで、幹細胞は人間の成長には欠かせない細胞であり、かつテロメアも長く、この長いテロメアの幹細胞をたくさん持っている若い人ほど放射能の影響は大きいようです。

同じく長い細胞を持っている癌細胞も放射能に弱いということで、癌にかかった場合の放射能治療というのは、その性質を利用したものだそうです。

逆にテロメアの短い細胞をたくさん持っている高齢者は放射能にも強い、ということになり、つまり、私のような半老人はゴジラのような肉体を持っているということになります。

そうか~、放射能に強いのか~。それなら歳をとるのも悪くないな~ と、何か勘違いしているような気もするのですが、年をとるのも悪いことばかりではなさそうです。

齢を重ねたら重ねたで、人生経験も豊富になり、若いころには見えなかったことが見えてくるということもあります。ボキャボラリーも豊かになり、今こうして書いているブログでさえも、若かったころには考えられないような速度で綴っていられたりします。

無論、体力は落ちてきますので、早く走ったり跳んだりはできなくなってきていますが、それでもまだまだ体力のない最近の若い人には負けないつもりです。もっとも、運動量が多いとそれだけエイジングも進むというお話もあるので、あまり動き続けるのも痛しかゆしです。

最近ジョギングをするのも昔ほどスピードを出さず、ゆっくりと走るようにしているのはそのためです。そのほうが回りの景色もよく見えますし……

さて、暖かくなってきたので、河津の桜もそろそろ満開のようです。アンチエイジングのために食事に気を付けるのもさることながら、こうしたきれいな景色をみるのもまた老化防止になるのではないか、とも思う次第。

今日明日はお天気もよさそうなので、ひさびさに下田方面に出かけてみようかと思っています。みなさんの町の桜はどうでしょう。そろそろつぼみ赤らんできたのではないでしょうか。