ディーゼルって、なぁに?

ゴールデンウィークも今日で終わりです。

連休中の伊豆は、どこもかしこも他県ナンバーがひしめいていて、やはり交通量はふだんより倍増しています。人ごみが大っ嫌いな私は、この連休中はなりをひそめ、家に引きこもろうと考えていたわけですが、あまりにも連日お天気が良く、とうとうあきらめて?、昨日は松崎まで行ってきました。

町内を流れる那賀川沿いのサクラのレポートを先月したばかりですが、この桜並木のすぐ脇にある休耕田に、地元の有志によって植えられているお花畑が、昨日5日限りで閉鎖になり、今日からは本来の目的である田んぼに供するために、お花が刈り取られます。

その最後の日には、毎年、自由に植えられたこのお花を切り取ってもらってかまわない、というサービスがあり、これをネットでみつけたタエさんが、行きたそーにヨダレを流していたので、しょうがないなー、じゃあ行くか、としぶしぶ腰を上げたのでした。

そのレポートを今日しようかとも思ったのですが、まだ写真の整理がつかないのでまた今度にしようと思います。お花畑から摘み取ってきた、矢車草やポピーなどの大量の花の束が、洗面所のバケツに生けられている、とだけ今日は書いておきましょう。

さて、先日の日経新聞に、こんな記事がありました。

“マツダや欧州の自動車大手は日本国内でディーゼルエンジン車の市場を本格的に開拓する。マツダは2014年に全面改良する「デミオ」に同エンジンを搭載、他の車種と合わせ年間10万台の販売をめざす。 欧州勢を含め、今後2年間に5種以上のディーゼル車が発売される見通しで、年間販売台数は、国内市場の1割に近くに達する可能性がある。”

クルマ好きの私は、本屋に行くと、必ずこれからどんな車が出るかを見るために、各モーター誌をざっとぜんぶ拾い読みするほどですが、新聞でもこんな記事をみると、あぁこれからはいよいよディーゼルエンジン車か……と思ったりもします。

トヨタのプリウスの成功以来、ホンダを始め、自動車メーカー各社ともハイブリッド車の開発に力を入れていますが、ここへ来て、ディーゼル車ががぜん注目を集めはじめているようです。

日本ではまだまだ普通乗用車にディーゼルエンジンを積んでいるモデルはあまり多くありませんが、ヨーロッパでは既にかなりのシェアを占めています。

西ヨーロッパ全体では、新車乗用車販売に占めるディーゼル車のシェアは2007年に53.3%にも達したそうで、ベンツなどを輸出する自動車大国のドイツでも、1995年のシェアはわずか15%だったものが、2005年には、42.7%に急上昇、その後も拡大を続けています。

ほかにも、イギリス 36.7%、イタリア 58.4%、スペイン 68.4%、フランス 69.1%など、先進国の多くではディーゼルエンジンが主流を占めています。

それにしても、ディーゼルエンジンというのは、よく聞く名前ではありますが、そもそもガソリンエンジンと何が違うのか、なぜこれまでは乗用車にはあまり積まれてこなかったのか、ということに疑問を抱いている人は多いのではないでしょうか。

私もディーゼルといえば、軽油や重油を使い、やけにうるさいエンジン、というぐらいの知識しかなく、ガソリンエンジンとの違いもはっきりとは理解していなかったため、改めてスタディしてみることにしました。

ディーゼルエンジン (diesel engine)とは、ディーゼル機関とも呼ばれ、ドイツの技術者ルドルフ・ディーゼルが発明した内燃機関です。1892年に発明され、その翌年にディーゼルはこの技術で特許を取得しています。

ピストンによって円筒形の筒(シリンダー)の中の気体を圧縮し、燃料となる軽油などと混ぜて着火、その爆発力でピストンを回す仕組みなのですが、ガソリンエンジンでは、シリンダーの中に最初から空気とガソリンを混ぜた混合気体を入れて圧縮するのに対し、ディーゼルエンジンでは、はじめに空気だけを圧縮します。

そしてシリンダー内の空気が圧縮されてかなり高温になったところで、あとからここに燃料を噴射して一気に燃焼させる、というところがガソリンエンジンと根本的に違います。

その利点は後述しますが、このしくみにより、ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンなど、他の実用的な内燃機関と比べても、もっとも熱効率に優れる種類のエンジンとなり、また、ディーゼルエンジンには軽油や重油しか使えないと思っている人が多いようですが、普通のガソリンなどの他にも、さまざまな種類の液体燃料の使用が可能となります。

こうした汎用性の高さから、これが開発されて以来、小型高速機関から巨大な船舶用低速機関までさまざまなバリエーションが作られるようになり、またたくまに世界中で使われるようになりました。

「ディーゼル」の名は、無論、発明者にちなむものですが、日本語表記では一般に普及した「ディーゼル」のほか、かつては「ヂーゼル」「ジーゼル」とも表記されたようです。

日本の自動車整備士の国家試験では、いまだに正式名称を「ジーゼルエンジン」としているそうで、商標としても「ヂーゼル機器」「○○デイゼル工業」などとしているメーカーもあるようです。

ディーゼルエンジンは内燃機関の中で最も優れているといわれるその最大の理由は、さきほども述べたように最初に空気だけを圧縮するという点です。はじめから燃料を加えて圧縮しないため、燃料消費量を少なく抑えることができ、つまりは熱効率に優れ、しかもあとから加える燃料も低精製のものでOKです。

しかし、圧縮によって吸気を高温にする、というのはかなり高い技術が必要であり、とくに高圧縮比(シリンダ内の最初の容積と圧縮後のシリンダ内容積の比)が要求されます。高い圧縮比を求めようとすれば、当然機械的にも高い強度が必要です。

部品を丈夫にしようとすれば嵩ばるだけではなく、また、エンジンを動かす各部の部品の重量も重くなり、機械的損失も大きくなりますし、コストもかかります。

デトネーションとノッキング

しかし、吸入した空気を圧縮し、その中に燃料を噴射して自分で発火させる「圧縮着火方式」であるため、空気をチャージする、これを「過給」といいますが、過給を行なってもガソリンエンジンで問題となるノッキングやデトネーションがディーゼルエンジンでは起こりません。

ガソリンエンジンでは、燃焼前のシリンダーに混合気を吸入し圧縮するため、過給に伴うデトネーションが避けられず、その対策として圧縮比を下げることなどの対策が必要になりますが、ディーゼルエンジンでは空気だけの圧縮のためこうした問題がほとんどありません。

ノッキング(knoking)やデトネーション(detonation)というのは、ガソリンと空気を一緒にし、霧状にした気体を圧縮する際に異常燃焼が起きることで生じるガソリンエンジン特有の現象です。

ガソリンエンジンの圧縮行程では、高温になった空気+ガソリンの混合気が予定していた点火前に自然発火してしまうことがあり、これは主として燃料のムラなどからシリンダー内に非常に高速な、いってみればプラズマのような高温の火炎が生じてしまう異常燃焼現象が起きることがあります。これがデトネーションです。

古い車を運転したことがある人は経験があると思いますが、デトネーションが起きると、エンジンは小刻みな「小振るい」をしはじめ、ついには止まってしまうか、あるいはガクッガクッと、まるでクルマ全体がロデオにでものっているような「しゃっくり」をはじめます。これが「ノッキング」といわれる状態であり、その原因がデトネーションです。

その原因は、空気と燃料の混合気における燃料の薄すぎなどによる燃料ムラなどのほか、圧縮比が高すぎた場合、エンジンと相性の悪いガソリンを使用したことなどの原因で発生します。

こうした異常燃焼が発生すると、ピストンが溶けるなどエンジンに致命的損傷を受けることすらあり、古いガソリンエンジンではこうしたトラブルがしょっちゅう発生していました。最近の車ではほとんどなくなりましたが、経験された方も多いのではないでしょうか。

デトネーションを避けるためには、燃料のムラを解消し、エンジンにあったガソリンを選ぶなどの対策が必要であるほか、その場しのぎでは圧縮比を下げるという対策も有効です。

最近は技術の向上により、燃料ムラは解消され、また、ガソリンの種類を選ばずにエンジンがこれに対応できるようになったため、ほとんどこうした現象はみられなくなりましたが。

これに対して、ディーゼルエンジンでは、空気を圧縮したあとにガソリンを注入して即座に着火する方式なので、デトネーションを起こしません。圧縮するのも空気だけなので、これを圧縮する過給機にも異常が起こりにくく、このため「過給」というプロセスとも相性がよいといわれます。

過給器とは

ここで、過給機についても説明を加えておきましょう。

前述のとおり、過給機とは、エンジンのシリンダー内へ空気を強制的に送り込む装置です。ジェットエンジンなどにも同じものが圧縮機として用いられますが、こちらは、過給機そのものがエンジンといってよく、クルマのエンジンについているものとは少し違います。

違いますが、空気を圧縮するための装置という意味では原理は同じです。過給機は英語では、“super charger”と書きます。その響きからも、すごい圧力で空気を「チャージする」機械だということが伝わってくるでしょう。

その圧縮の方法は基本的には二つあります。そのひとつは、いわゆる「タービン」を用いたもので、「排気タービン式過給機」または、「エキゾーストタービンスーパーチャージャー(Exhaust turbine super charger)」と呼びます。

またもうひとつは、砂時計のような形の「カム」などの機械部品を組み合わせて駆動させる、機械駆動式の過給機であり、こちらは、「メカニカルスーパーチャージャー(Mechanical super charger)」と呼ばれます。

一般的には、前者は、ターボチャージャー(turbo charger)、と呼ばれ、後者がスーパーチャージャー(Super charger)と呼ばれます。

機械式のほうが最初に発明されたため、「スーパーチャージャー」を過給機全体の呼称として使われることが多くなっていますが、もともとはこの過給機のひとつである、機械式のものをスーパーチャージャーと呼んでいたのです。

スーパーチャージャー(機械式)は、エンジンの燃焼室で空気を圧縮するピストンに付いている「クランクシャフト」の動きを利用して動かされ、このクランクシャフトからベルトなどを介して取り出した動力によって圧縮機(コンプレッサー)を駆動し、空気を圧縮するしくみになっています。

元々は溶鉱炉などの「送風機」として開発された方式で、初期のものは砂時計、あるいはヒョウタンのような形の二つのローターがかみ合うことで送風する形式でした。最初は、二葉式でしたが、次第にねじれた三葉式のものが用いられるようになるなど次第に複雑化し、近年では四葉のものも開発されています。

実際にモノを見てみないとわかりにくいでしょうが、それほど複雑なものではなく、このことからも想像できるように、高圧過給には向いていません。このため、過給圧を高めるため、同じ過給機を二つ使った二段式の過給式などが作られ、これらはレース用のエンジンなどにも使用されました。

一方のターボチャージャー(turbo charger)はタービン(turbine)を用いた過給機です。タービンとは、よく聞く名前ですが、飛行機に乗ったときに、そのエンジンをみたことがある人も多いでしょう。薄い羽根が同心円状にぐるりと取り付けられていて、エンジンが始動しはじめると、これがクルクルと回り始めます。

これは、空気のような流体の運動エネルギーを、機械の回転運動のエネルギーへ変換するための仕組みです。流体の多くは気体ですが、このタービン翼(羽根車)を回すためには、別に液体でも良いわけであり、その代表的なものは、ダムなどの水力発電で使われているものがそれです。

これがなぜ過給機になりうるかは、ちょっと考えればすぐにわかります。羽根車は、風が吹くと回ります。それは空気の流によって回るのであって、その逆に羽根車のほうを何等かの動力で動かしてやれば空気の流れ、すなわち風が起こります。扇風機とおなじです。

タービン翼の回転運動から、空気の流体の流れを生み出すことができ、これを密室の中で行ってやれば、空気は逃げ場を失うことになり、圧縮されていきます。つまり、タービンを用いたターボチャージャーの仕組みはこれだけです。もっとも、飛行機などもそうですが、羽根車は一枚だけは圧縮効果が薄いので、何枚も重ねられて使われます。

ちなみに、「蒸気タービン」というのがありますが、これは、石油や石炭などの燃料で水を沸騰させて蒸気を発生させ、この蒸気の力でタービンエンジンを回して動力を得るものです。このようにエンジンの外で燃料を燃やすエンジンなどを「外燃機関」といいます。

これに対して、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンは、エンジンそのものの内部で燃料を燃やして動力を得るために「内燃機関」と呼びます。こういうことは、中学校あたりで習っているはずですが、多くの人が忘れているかもしれません。よく思い出してみましょう。

飛行機に用いられるジェットエンジン(engine)とは、外部から取り込んだ空気に燃料を燃やした熱エネルギーを与えることで噴流(ジェット)を生み、その反作用で飛行機の推力を得るものであり、ガスタービンエンジンともいわれます。

こちらも内部で燃料を燃やし、タービン翼を回す内燃機関であり、同じ内燃機関である自動車のエンジンと共通する部分も多く、このため、飛行機のエンジンを作っている会社の中には、かつて自動車のエンジンメーカーだったころの流れを組むものも多いのです。ロールスロイス社などがそれです。

騒音と振動の原因

さて、この自動車用のタービン過給器、すなわち、ターボチャージャーは、内燃機関から捨てられる排気ガスのエネルギーを利用して動かします。

前述の機械式過給機がクランクシャフトの動力を用いて作動するのと同じく、エンジンの動作というものはこのように、すべからく無駄が生まれないよう、できるだけある部分で生まれた動力を他の部分でも使えるように合理的に設計されたものが多いのです。

しかし、ディーゼルエンジンでは過給機を普通に使いますが、ガソリンエンジンでは過給機を備えていいないものもあります。シリンダー内に空気とガソリンを混ぜた混合気体を注入するため、低い圧縮率でも燃料に着火させることができるためです。

しかし、最初に空気を圧縮して使う、ディーゼルエンジンでは、かなり高圧にしないとあとで混ぜた燃料に火がつかないので、ほぼ100%過給器と組み合わせて使われます。

ディーゼルエンジンではシリンダー内の高温高圧になった空気中に、液状の燃料が高圧で噴射されます。ただ、この燃料噴射によってシリンダー内に入ったガソリンが入れてすぐに瞬間的に自発発火するわけではなく、注入されたガソリンが圧縮された空気と混合して燃えやすい状態へと変わった後に、発火することになります。

この注入から発火までの時間には微妙なズレがあり、この遅れ時間を「着火遅れ」と呼びます。着火遅れの間、シリンダー内は静かです。しかし、遅れて火が付くときには、一気に爆発的な燃焼が起こります。

このため、シリンダー内が急激に高温、高圧となりますが、このように、「遅れ」「爆発」「遅れ」「爆発」の繰り返しが、あのディーゼルエンジン特有の騒音と振動の原因を生み出します。よく、信号待ちなどのときに、隣に大型のトラックなどが止まり、その騒音をうるさく感じた人も多いと思いますが、あれがディーゼル特有の騒音です。

しかし、最近の技術開発により、このディーゼルエンジン特有の騒音や振動はかなり抑えられるようになっています。

また、従来のディーゼルエンジンでは、注入された燃料がシリンダー内に広がり切る前に自発発火することも多く、これが燃料の無駄を生んでいましたが、1990年代の後半あたりからは、この燃料噴射を電子制御でコントロールする技術が開発されるようになり、燃料を超高圧で自由なタイミング、かつ自由な回数噴射できるようになりました。

この燃料のシリンダーへの注入も、その昔はエンジンの駆動力の損失を引き起こしやすい「機械式噴射ポンプ」が用いられていましたが、近年はこれに代わって、「コモンレール」と呼ばれる、金属製の頑丈なパイプ(レール)に高圧燃料を蓄えて、電子制御の噴射を行う)方式などが使われるようになり、いまや燃料噴射は完全に電子制御化されています。

このようなシステムを用いることで、ディーゼルエンジンでも非常に高度な燃焼制御が可能となり、ディーゼルエンジンの燃費や出力は飛躍的に向上するとともに、騒音や振動なども低くなり、かつ排出されるNOxなどのエミッションも低く抑えられるなど環境対策に関してもかなりの改善が加えられるようになりました。

なぜ軽油?

それにしても、先般、ディーゼルエンジンの燃料は多様なものが使用できると書きましたが、実際にはガソリンなどが使われることはほとんどなく、一般的には軽油や重油が使われるようですが、これは何故なのでしょうか。

軽油は、主要成分が200~350℃での沸点を持つのに対して、ガソリンエンジンで使用されるガソリンは30~220℃程度のより低い沸点を持っています。沸点というのは、液体が気体に変わるときの温度です。

このことから、ガソリンは軽油に比べて揮発しやすくより危険なものであることがわかり、ガソリンが揮発し、火がつきやすくなる温度、すなわち「引火点」もまたガソリンのほうが低く、軽油の方が高くなります。

「引火点」とは、物質が揮発して空気と可燃性の混合物を作ることができる最低温度です。この温度で燃焼が始まるためには点火源(火花など)が必要です。しかし、引火点ぎりぎりでは、いったん引火しても点火源がなくなれば火は消えてしまいます。

燃焼が継続するためにはさらに数度高い温度が必要で、これを「燃焼点」といいますが、さらに高温になると点火源が無くとも自発的に燃料が燃え出して燃焼が始まります。この温度を「発火点」といいます。

ところが、軽油での発火点は、引火点とは逆にガソリンより低いのです。このことから、ガソリンは揮発しやすいので、火に近づけるだけで危険ですが、発火点は高く、なかなかみずからは燃えはじめません。逆に、軽油はかなり温度が高くならないと揮発せず、引火点が高いので火を近づけてもすぐには燃えませんが、ガソリンよりも低い温度で自発的に燃え始めます。

ということは、もし、火がない環境でこれら2つの温度を上げてゆくと、先に自ら火が着くのは軽油であり、つまり、軽油は、給油などの際には揮発しにくく火がつきにくい性質を持ちますが、実際にエンジンなどで燃焼させて使う際には自発的に火がつきやすい、ということになります。

この軽油の引火点の高さ、発火点の低さがディーゼルエンジンでの使用を容易にしている最大の理由です。

前述のように、ディーゼルエンジンでは、空気を圧縮して高温にし、これに燃料を混ぜて発火させますが、燃料を混ぜて高い発火点で回すガソリンエンジンに比べ、もし仮に同じ燃料を使う場合にはより高い圧縮を行わなければなりません。

が、より低い発火点を持つ軽油を使うことで、比較的低い圧縮率でエンジンを回すことができるのです。つまり、軽油を用いることで、圧縮工程の負担をかなり低減できるわけです。

これが、ディーゼルエンジンでは軽油や重油が主に使われる理由です。重油も軽油と同じく、ガソリンよりも低い発火点と高い引火点を持っています。

ただし、戦車や装甲車など軍用のディーゼルエンジン搭載車両では、敵の攻撃などによって被弾したときのことを考え、その安全性からガソリン同様に発火点の高くした特殊な軽油ともいうべき、「ジェット燃料」が使われています。

ガソリンエンジンとの比較

さて、そんなディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと比べて勝っているのでしょうか、それとも劣っているのでしょうか。

結論としては、エンジンとそれを搭載する乗り物が大型であればあるほど、ディーゼルエンジンの長所が目立ち、短所が目立たなくなる傾向があります。これはすなわち小型軽量の自動車のような乗り物では、その短所が目立ちガソリンエンジンが有利になるということです。

このため、小型車はガソリンを用い、大型車はディーゼルになることが多く、船舶や鉄道など大型機関を搭載した大量長距離輸送手段はディーゼルの独擅場になっています。

それにもかかわらず、冒頭で述べたように最近、ヨーロッパを中心としてディーゼルエンジンの乗用車がもてはやされているのは何故でしょうか。

その理由のひとつは、ディーゼルエンジンで用いられる軽油はガソリンに比べ単位質量あたりの熱量が高く、同じ体積から取り出せる熱エネルギーが2割以上も大きいことがあげられます。

熱効率が高いため、燃料消費率が低く、同じ仕事に対する二酸化炭素の排出量が少なく、つまり端的にいえば、燃費は良くなります。これがヨーロッパでのディーゼルシフトの最大の要因です。

しかし、一方では、軽油を用いているがゆえに、高い圧縮比でエンジンを回す、つまり高回転での運転には不適であり、同排気量あたりのガソリンエンジンと比較しても表示上の最高出力は低くなります。

低い圧縮比でガソリンと同じ出力を得ようとすれば、当然シリンダーなどの直径を大きくする必要があり、エンジンは重く大きくなります。大きくなればなるほど、熱効率はよくなり、ついにはガソリンエンジンの性能を凌駕します。これが、大型であればあるほど、ディーゼルエンジンの長所が目立ち、短所が目立たなくなると書いた理由です。

しかし、普段我々が車を使うことが多いのは街中であり、いつも高速道路を走っているわけではありません。

こうした日常車を使うときのような低速での利用、すなわち実用利用では、低い回転数でも高いトルクが得やすいディーゼルエンジンのほうがガソリンエンジンよりも有利です。また、実用回転域が低いということは、機械的な損失も少なくて済むということであり、これがまた燃費の向上にも寄与します。

このことはいったん脇に置いておくとして、ところで、トルクとはなんでしょうか。これは分かりやすくいえば、クルマのタイヤを回すための力です。感覚的に分かり易くするため自転車を例にあげると、トルクとはペダルを押す力です。

トルクが大きいというのは、ペダルを押す力が強いという事です。ではペダルを押す力が強いと、どうなるでしょう?そうです、自転車の出だしがよくなる。すなわち加速が良くなります。また登り坂でも軽々進む事ができます。

一方、トルクとは別に「馬力」というものがあります。その違いは何でしょうか。

トルクはあくまでも瞬間的な力なので、その力を持続する事によってどの程度の仕事を行なえるのかを表すために考えられ指標(ものさし)が馬力です。より正確に言うと、ある決められた時間内に、どれだけ重い荷物を、どれだけ遠くまでに運べるかを、馬何頭分に当たるかで表示したのが馬力というわけです。

自転車の場合、ペダルを踏む力に、ペダルの回転数をかければ馬力は簡単に計算できます。馬力=回転数×トルクです。

最近の車にはたいてタコメーターがついていますが、そのタコメーターの単位はrpmで、これは“revolution per minute”または“rotation per minute”であり、これはすなわちエンジンの回転数を示しています。エンジンが1分間に回る回数であり、ディーゼルエンジンならばこのメーターを指す針の値が小さくても高いトルクが得られます。

自転車において、ペダルを強く踏んで、なお且つ一生懸命回すとどうなるでしょう?そうです、スピードが速くなります。もし自転車、または馬に荷物を乗せていたとすると、人が担いで運ぶより短時間で遠くに運べますので、これが馬の力=馬力になります。

つまり、トルクとは瞬間的な力であり、大きければ大きいほど出だしの速度、つまり「加速」が良くなります。一方、馬力とは継続的な力であり、大きければ大きいほどスピードが出て、荷物を早く遠くへ運ぶ事ができます。

一般的に馬力が大きいクルマほど加速いいいと思われていますが、加速に影響するのはトルクの方だというのは、この自転車の例からわかるかと思います。もっと感覚的に例えると、トルクは短距離走に必要な瞬発力のようなものであり、馬力とはマラソンの時に必要な持久力のようなものです。

クルマの運転においては、アクセルを踏むと加速します。この加速感がトルクになり、達した最高速度が馬力の結果になります。自分のクルマのトルクがアップした場合の体感方法ですが、例えば一般道を走っていて、長めの下り坂に差し掛かったとします。

そうするとクルマはゆっくり加速しますが、更にアクセルを踏むと平らな道より軽々と加速するのが体感できると思います。これこそがまさにトルクアップの効果で、どんなに重いクルマであってもトルクが大きければ軽々と進める、つまり加速できることが実感できます。

これを逆に言うと、どんなに軽いクルマであっても、トルクが無ければ気持ち良く加速できません。馬力=トルク×回転数ですから、もし回転数が一定であれば、トルクが上がれば馬力も自動的に上がります。

以上のことから、ガソリンエンジンよりも低い回転数でのトルクの大きいディーゼルのほうが、街中などでの実用域での回転数での馬力が大きくて使いやすい、ということがご理解いただけるのではないでしょうか。しかも燃費がいいというのが、近年原油価格が高騰しているなかで、ディーゼルエンジン車がヨーロッパでもてはやされる理由です。

しかもディーゼルエンジンは、デトネーションやこれを起因とするノッキングの発生なども予混合気を使用したガソリンエンジンと比べてほとんどなく、また、全回転域で高い排気圧を得られることから、この排気圧を利用して作動させるターボチャージャーとの相性も良好です。

さらに、ガソリンエンジンには、シリンダーの中でガソリンと空気を混合させて燃やす方式であることから、常に爆発的なエネルギーを繰り返し発生させることになり、強度の面からもシリンダーの直径をあまり大きくできません。

しかし、ディーゼルエンジンは基本的には空気を圧縮したあとの一瞬だけ点火する方式であるため耐久性が高く、ある程度シリンダーなどを大型化しても大丈夫です。

圧縮後に燃料を混ぜて発火させますが、瞬間的なものであり、またガソリンエンジンよりも低い圧縮率で爆発させるためにシリンダーへの負荷も小さく済むわけです。

また、ガソリンエンジンでは、シリンダーを大きくできないため、その数を増やす、これを「多気筒化」といいますが、これによって排気量を確保して高トルクを得るか、または、高回転化で出力を上げなければならないのに対し、ディーゼルエンジンでは1シリンダーあたりの大容積化が可能であり、全体でみればより構造が単純化できます。

余計なシリンダーを減らすことができるために、全体的な機械部品の摩耗の増加も抑えられ、また、大型化することでより熱効率が高まり、低い圧縮比でも馬力が出せ、さらにシステム全体の効率が良くなります。

ディーゼルエンジンは大型化すればするほど、長所が多くなるというのは、こうした意味もあるわけです。

しかも、燃料に使う軽油や重油はガソリンに比べて安全性の高いものであるため、爆発・火災事故に対する余裕も大きく、さきほども書きましたが、この点では被弾することを前提とした軍用車両ではとくにこのメリットが大きいため、近年での軍用車両のエンジンはほとんどがディーゼルです。

ただし、燃料はより安定性が高く有害成分の少ないJP-8とよばれるジェットエンジン用のものが多用されています。これも先般書きました。

ディーゼルエンジンの短所

ところが、このように長所ばかりかと思われるディーゼルエンジンにも欠点があります。

それはその構造上、堅牢性が求められることによる経済的なデメリットと、その発火システムに伴う騒音や振動、そして排出物の問題です。

ディーゼルエンジンは、大型化に伴い、シリンダーヘッド、シリンダーブロック、ピストン、コネクティングロッド、クランクシャフトなどなどの各部品に高い強度と剛性が求められ、噴射ポンプや過給機などが加わることで重量が嵩みます。

さらに、燃料噴射システムに高精度・高耐久性が求められ、コスト高となります。しかも、エンジンが重くなれば重量出力比が悪くなるため、軽量化を要求される航空機ではほとんど採用されていません。

自己着火に必要な高温を高圧縮で作り、これを一気に燃料と共に「爆発」させるため、振動や騒音が大きくなったり、乗用車のような小排気量エンジンの場合はとくにエネルギーロスも多く、吸排気系の振動や騒音が大きくなります。

さらに、燃焼室内は、その発火システムのために窒素過多になることが多く、このため窒素酸化物が発生しやすく、燃料を後から加えて拡散させる燃焼方式なので均一燃焼が難しく、黒煙や粒状物質 (PM) も発生しやすくなります。

従来の噴射量や噴射時期制御システムでは、ガソリンエンジンより有害排出物が多く、欧州メーカーのディーゼル車の中には、NOx値の規制が厳しい現在の日本や米国の排出ガス規制を満たしていないものもあります。

ただし、欧州で主流とされる北海産の石油は硫黄含有量が少なく、精製された軽油による排ガスも比較的きれいであるため規制面では有利であるという裏事情もあり、これが不純物の多い中東産の石油を使うことの多い日米に比べ、欧州の車にディーゼルが多いもうひとつの理由でもあります。

振り返って日本国内をみると、特に大都市周辺での大気汚染への関心が高く、ディーゼル車は好感されないことも多く、東京都などでは前石原知事の音頭取りで、日本一厳しい窒素廃棄物抑制基準が課されたことは記憶に新しいところでしょう。

ヨーロッパでディーゼル車が多いのは、前述のように硫黄分の少ない軽油が使用されているせいもありますが、こうした排出物を低減するための酸化触媒技術が卓越していることや、優れたフィルターが普及しているためでもあります。

また欧州の各自動車メーカーでは、超低PM排出ディーゼル車や、スーパークリーンディーゼル車といわれるような、技術革新により音の低減や煤煙、有害な排気ガスを著しく軽減したディーゼル車を開発してきています。

もともとは経済性での有利からシェアを伸ばした西ヨーロッパでのディーゼル車ですが、近年は日本の自動車メーカーが得意とするハイブリッド車に対峙する選択肢としての低公害車として宣伝されるようにもなってきています。

ところが、アメリカでは車の燃料と言えばガソリンで、ディーゼル車はトラックなどの商用車以外ではほとんど普及していません。ガソリン価格が日本の二分の一以下と安いことがその理由ですが、一方では、アメリカでは軽油の価格はガソリン価格のおよそ2割ほども高くなっています。日本ではその逆ですよね。

このように、ディーゼル車の普及の状況は、ヨーロッパとアメリカ、そして日本ではそれぞれ全く異なったものとなっています。

特に日本では、まだディーゼル車といえば、黒い煤煙を吐きだしながら走るクルマという印象が強く、軽油は安いので興味はあるけれども、今はまだ音もうるさいし、環境に優しくない、というイメージが定着してしまっています。

ディーゼルの未来

しかし、現在では、ガソリンエンジンにも、直噴式エンジンが登場するようになっています。あらかじめ燃料と空気を混合させてシリンダー内に送り込む従来式のものではなく、シリンダー内に直接ガソリンを吹き込む形式のエンジンであり、これにより、燃費などがかなり軽減されます。

そうなると、ディーゼルとどこが違うのか、ということになってくるのですが、そのとおりです。

この両者の区分けは技術上はかなりあいまいになってきており、最近のディーゼルエンジンのほうも、過給器や吸気バルブの開閉タイミング操作なども電子制御化され、従来に比べて格段にエンジン出力を調整しやすくなり、混合気体を扱うため、こうした面で調整がやりやすいガソリンエンジンとほとんど同じではないかというものも出きています。

さらには、なんと軽油に「水」を添加することで、ディーゼルエンジンの欠点のひとつであった窒素酸化物の排出を抑え、NOx値を下げることのできるデュエット・バーン・システムと呼ばれる装置なども開発されており、こうした技術の開発により、将来的には燃料の違いによる区分けすらも必要なくなるのではないかとまでいわれています。

しかし、現在のディーゼルエンジンとガソリンエンジンが同じ燃料を使い、同様のものになるにはまだまだかなり時間がかかりそうです。最近話題になっているシェールガスやメタンハイドレードの実用化が難航しているのをみればわかるように、燃料そのものの性質を統合し、その供給システムすらも変えるのはそうそう容易ではないからです。

現在でのディーゼルエンジンの最大の問題点、すなわち、エンジン製造コストがガソリンのそれに比べて高いというデメリットもまだ当分解消されそうもありません。

高くなる要因は、エンジン自体の重量がガソリンエンジンと比べて一般に重くなりやすいことと、この問題をクリアーしつつ厳しい日本の排出ガス規制をクリアーするための技術開発がなかなか進まないことなどがあげられます。こうした問題を解決する過程では当然、そのコストは嵩み、エンジン価格はどんどん高くなっていきます。

しかし、ディーゼルエンジンの小型化は年々進歩しており、また、もうひとつのネックの排気のクリーン化も進んできています。

ディーゼルエンジンは、少ない燃料で運転する必要性があることから、常に酸素過多の状態(リーンバーン)で運転される必要性があり、このためガソリンエンジンのような比較的簡単な有害排出ガス抑制システムが使えず、熱効率を追求し完全燃焼させると排気ガス中の窒素酸化物 (NOx) が増えるという難点があります。

しかし、これらがディーゼル自動車の決定的な欠点とは言いにくく、軽量化を進め、排気をきれいにする努力は各メーカーで進められており、冒頭で述べたマツダ以外で、現在ハイブリット車を中心としたクルマ開発を行っているトヨタやホンダなどの各メーカーも規制に対応したディーゼル乗用車の開発を進めています。

2008年(平成20年)9月、日産自動車は、新長期規制を飛び越し、ポスト新長期規制をもクリアするエクストレイルの「クリーンディーゼル車」を発表。それ以前には、国土交通省の厳しい規制によって、長らくなりをひそめていた、日本のディーゼル乗用車もついに復活を遂げました。

2008年(平成20年)10月には三菱自動車も現行の新長期規制に対応したディーゼルエンジンのパジェロを発売しており、2012年2月、マツダは、後処理装置を使用せず、ポスト新長期規制に適合できるエンジンを搭載したCX-5を発売しました。その後のマツダにおけるディーゼルエンジンへの意気込みは、冒頭の記事でもわかるとおりです。

日本は窒素化合物を有害視するのに対して、ヨーロッパでは二酸化炭素の排出量を重要視しています。

ディーゼルのほうが混合した燃料の燃焼効率が悪いと書きましたが、乗用車用のガソリンエンジンとディーゼルエンジンを比較した場合では、小型では不利といわれるディーゼル車でも、同じ排気量ならばその燃焼効率が良くなるため、リッターあたり走れる距離数が多く、また二酸化炭素の排出量が少ないという利点があります。

このため、ヨーロッパでの燃料価格はガソリンと軽油とでは同一、もしくは軽油の方が高い、という状況ではありながらも、車両価格のリセール・ヴァリューは、ディーゼルの方が人気が高いといいます。

また、ヨーロッパでは多くの人が年間2万キロはあたりまえに乗用車に乗るため、低燃費ならば元がとりやすい事、低速からのトルクが太く日常使用では乗りやすいこと、といった使用環境上の理由からもディーゼル車の購入層が増えているようです。

こうしたヨーロッパでのディーゼル乗用車の好調ぶりをみると、次世代排出物規制の問題や騒音・震動などの問題をクリアーした新型エンジンを積んだ日本のディーゼル車の未来は、ヨーロッパに比べて軽油価格も安く、かなり明るいように見えます。

ただ、価格面の問題は依然残り、これをどこまで安くしていけるかにかかっているようです。ガソリン車に比べて高出力が得られない、排気ガスもきたなくうるさい、といった従来の間違った印象をどうやって払拭していくかも大きな課題です。

ハイブリット車では出遅れたマツダや三菱などのメーカーがHVで先行するトヨタやホンダにディーゼル車の投入によってどこまでこれを追従していけるかによって、日本におけるディーゼル車の未来は大きく変わってきそうです。

日本の自動車界も面白くなりそうで、楽しみです。今後ともディーゼル自動車の開発と販売の状況からは目が離せそうもありません。

さて、今日は、ゴールデンウィーク特集のつもりで、いつもより少々長く書いてしまいました。明日からは、多くの人が通常の生活に戻っていくのでしょうが、連休中になりをひそめていた我々は、そろそろ行動を開始しようかな、というところです。

普段は人が多くてあまり行く気がしなかったところへも行ってみたいと思っています。また良い経験ができたら、このブログでも公表しましょう。