基礎と束柱の間に楔が・・・!
保養所は、なかなかのものでした。しかし、我々二人にとっては、次に見せてもらう物件こそが、その日のメインイベント。Mさんの長いおしゃべり(家にまつわる色々なお話が中心なのだが、大半はぜんぜん関係のないおしゃべり)を聞きながら、家のあちこちを見せてもらい、この物件のよさもわかったけれども、心はもう既に、次の物件へ。ながいながい・・・おはなし・・・は、これはこれで色々ためになる内容も多かったのですが、少々ここに長居しすぎた感じもあるので、ここはもういいから、次に行きましょうと促したところ、ようやくMさんも思い腰を上げてくれました。
そしていよいよ、心ときめかせながら、次の物件へ・・・ その物件は、S別荘地の中でも最も東寄りにある立地で、その先は崖。つまり、そこからは眺望がきくらしく、狩野川と富士山が見えるということでした。HPで見る限りは建物のコンディションもよさそうで、広さといい間取りといい、なかなかよさそう、という印象。
車を降り、早速敷地内へ。駐車場からは十数段の石の階段を上ってさらに高所へ。そこから先はゆるやかに傾斜した土地で、その傾斜地の一番高いところに物件は建っていました。まず、物件の「売り」である眺望を確認すべく、東側の庭先へ。そして、そこから先には、確かに狩野川が見える・・・ただ、手前にブッシュがあってやや眺望を損ねているほか、北に見えるはずの富士山もみえんじゃないか・・・どうも庭先からの眺めはさほどでもなさそうだな・・・
そして建物の外観をチェック。すると・・・まず目にとまったのは、外壁の傷み。とくに軒板や破風の傷みがひどく、あちこちで腐って朽ちてる。一箇所だけかな、と思って建物を一周すると、やはり同様の傷みがあちこちにみられ、外回りのおおがかりな補修と塗装が必要そうでした。
外壁の治しだけでも結構おかねがかかるな・・・と思いつつ、気を取り直して、玄関から中へ。玄関回りにはかなり大きな松の木があり、ほかにも雑木がかなり密生い茂っていて、これらの伐採も必要なかんじ。さらに・・・玄関から中へ入ると、少しカビ臭いにおいが・・・うーん?これは??
家の中の造りはなかなかしゃれていて、けっして私の好みではないけれども調度品などにもお金がかかっているご様子。聞くと、東北かどこかの鉄道会社の社長さんが持ち主だそうで、その社長さんが使っていたと思われる書斎もありました。そこからは狩野川が良く見えるが、あいかわらず富士山が見えないのが気になる。
あちこち見せてもらい、なるほどバブルのころにお金持ちが建てた家、というのはわかったのだけれども、何か、どこか様子が変で腑に落ちないところが・・・
ひとつには、長いこと放置されていて、掃除が行き届いていない、というところ。これはまあしょうがないことでしょうが、それ以外にも何かある・・・
・・・と、しばらくあちこち歩き回っているうちに、ようやくどこが変なのかがわかりました。
遊園地なんかにあるミステリーハウスってわかりますか? 本当は自分より背の高い人が、隣りに立つと低く見えたり、天地が逆転しているように感じたり。要は人の平衡感覚を失わせるような仕掛けがしてある施設なのですが、そこに入ったような感じといったらわかるでしょうか。
そのミステリーハウスの仕掛けのひとつの中に、平たい床なのに傾いているように感じさせるというやつがあります。普通の部屋と思ったら、中へ足を踏み入れたとたん、おっとっととと、部屋の隅のほうに転がっていってしまうというあれです。
それと同じ感覚が一階のリビングにある・・・普通に立って歩いているのに、左右の足にかかる体重に差がある・・・
そこで、キッチンの床にある床下収納庫をあけ、そこから床下をのぞいてみることに。
この家は、平成になってから建てられた家。建築基準法改正前の家なので、基礎はべた基礎ではないだろう、と予測していましたが、予想に違わず、収納庫の下は素の土面のまま。そして・・・目を転じて、束柱とその下のコンクリート基礎の間に目を向けたところ、アッとびっくり!
基礎と柱の間に木製の「楔」のようなものが挟んであるではありませんか。そしてあちこちの、束柱をみると、どれもみんな、柱と床、あるいは柱と基礎の間にできた隙間を埋めるようにして、楔、あるいはスペーサー?のような材木が挟んである!
これは何を意味するのか・・・家を建てたときからこうなっていたのか、家が建ってからこうしたのか・・・どちらかはよくわかりません。が、いずれにせよ、この家が傾いているために、その傾きを修正するためにスペーサーを入れたとしか考えようがない。
おそらくは土地の地盤条件が悪く、土地全体が傾斜しているにもかかわらず十分な深さの基礎を造らなかったのでしょう。このため、家を建てている途中なのか、家を建てたあとなのかはわかりませんが、束柱と基礎や床との間にスペーサーを入れて家の傾きを修正しようとしたのに違いありません。
床下収納庫を元に戻し、あらためてリビングに帰って、近くにあったゴムボールを床に転がすと、ボールはみるみると庭のある東のほうに転がっていきます。
むむむ・・・これで売り主が500万円も値下げをした理由がわかりました。Mさんも、この家が傾いていたのまでは気がついていなかったようで、少々ばつが悪そうでしたが、こんなことを話てくれました。
それは、こういうふうに放置された別荘の「根っこ」が傷んでいるケースはときどきあるとのこと。しかし、立地条件や眺望に惹かれた人はこうした家でも買い、お金をかけてでも修繕して住むケースのほうがむしろ多いのだとか。
さらにMさんによれば、今のように全国的に地価がどんどん下がっている時には、土地そのものよりも家のほうに資産価値があり、どんなに傷んでいる家でも、新しく建てるよりも修繕して住むほうがお金も手間もかからない、と考える人も多い、とのこと。どんなに古い家でも修繕しさえすれば住める。今は土地よりも家のほうが価値がある・・・
なるほど・・・そういう考え方もあるか・・・とも思いました。しかし、実際に傾いている家を目の前にしながら、これを買おう、という気持ちにはどうしてもなれませんでした。
ここへ来るまでは、良い物件ならば、その日のうちに手付金でも払って手に入れよう!と意気込んでいたのですが、急激に風船がしぼむように、私の気持ちもしぼんでしまいました。
そのあと、同じ別荘地内のいくつかの物件を見せていただきましたが、結局はあまりぱっとしたものがなかったので、最後にもう一度、最初に見た保養所案件を拝見みせてもらうことに・・・
夕方5時を回っていましたが、その日はまだまだ明るく、保養所の2階の廊下には西日が入り込んで、むっとしています。しかし、東側に配置されたリビングやその他の部屋はひんやりとしていて涼しく、快適なかんじ。他の別荘のように、カビ臭い臭いなど一切ありません。
その理由の答えは・・・キッチンにありました。
さきほど見た家のように、家というものは、床上に問題はなくとも、床下に大きな問題を抱えていることが多いもの。その原因は、基礎の下の地盤の湿気を建物が吸ってしまうことです。
多くの場合、家の基礎の状態は、キッチンに備えてある床下収納庫をはずせば見ることができます。この家にも床下収納庫があり、これを外せば、床下が見れるはず。最初にこの家を訪問したとき、早速、キッチンへ行き、床下収納庫をはずして、おそるおそる下をのぞいたところ・・・ナント!この家の基礎も全面べた基礎になっていたのです!
べた基礎にする理由は無論、防湿効果を高めるためでもありますが、そのほかにも建物全体の耐震性能を高める効果や、建物の温度調節の効果もあります。床下を全面コンクリートにするため、コンクリートが防熱・防寒の蓄熱層の役割をしてくれるのです。つまり、床下に敷いた断熱材、ということです。べた基礎にした家は、夏は涼しく、冬は暖かいといいます。この家が涼しく、カビ臭くないのはどうやらそのためのようです。
このべた基礎といい、その広さといい、加えて富士山ビューもあるこの家は、私にとっては大きな魅力に映りましたが、しかし、マイナス点もありました。それは、家が北向き斜面に建っていることに加え、元保養所であったことから間取りが単調なこと。1階はまあよしとして、2階は同じような造りの部屋が一列に4つも並んでいて、しかもすべて和室。加えて・・・トイレが多すぎる!。保養所として使う以上、小部屋がたくさん必要だったのでしょうし、多数の人間の寝起きすることも考え、トイレを多めに造ったのだと考えられます。
それにしても、1階に男子用トイレと和式トイレがひとつづつ、ニ階にも男子用トイレがひとつと和式トイレがふたつ、それに洋式トイレがひとつ、合計6つものトイレがある。多すぎ!Mさんは、「トイレがたくさんあって、楽しくていいじゃないですか」とおっしゃいます・・・が、色々違うトイレを使っても、楽しいどころか、落ち着かんだけじゃないか。お酒はぬるめの燗がいい。トイレは二つもあればいい!
この家には他にも欠点がありました。それは、南側にある高さ7~8mのコンクリート製の擁壁。この土地は、もともと傾斜地にあるため、県の条例により一定の傾斜以上の土地には基礎として擁壁を立てること、という規制があります。このため北側にある隣家も多額の費用を投じて擁壁を造ったようです。しかし、その南側に住まう側としては、日照や視界を妨げることになり、これも大いに気になるところ。
しかし、そうした欠点を補っても余りある多くの長所から、私の目にはなかなかの物件と映りました。しかし、隣りにいるタエさんはというと・・・そういう欠点が目につくのかあんまり気のりではなさそうなご様子・・・
期待していた物件が空振りに終わり、その代わりに全く考えてもいなかったような別の物件が登場して、複雑な心境でしたが、その日も色々な物件を見て頭が飽和状態でもあり、朝早くからの伊豆行きで疲れも出て来ていました。まだまだおしゃべりがしたそうなMさんでしたが、そろそろ終わりにしたいと告げ、後日また、この物件も含めて再度この地を訪問し、色々案内していただきたい、とお願いしました。