パラレルワールド

2014-5292デロリアン(De Lorean )というクルマをご存知でしょうか。そう、世界的にヒットした映画「バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズ」に登場した、あのタイムマシンのベースとなったクルマです。かつてアメリカ合衆国にかつて存在した自動車製造会社の名前でもあり、同社で唯一製造された自動車「DMC-12」こそが、このデロリアンです。

1975年、当時ゼネラルモーターズの副社長であった、ジョン・ザッカリー・デロリアンが、理想の車を作るためにGMを辞職し独立して自ら設立したのがデロリアン・モーター・カンパニー(Delorean Motor Company Ltd. DMC)です。

本社はミシガン州デトロイトに、製造工場はイギリス・北アイルランドのベルファスト郊外、アントリム州ダンマリー村にありました。長い開発期間を経て1981年に登場した「DMC-12」は、デザインをかの有名なジョルジェット・ジウジアーロがデザインし、メカニカル設計はロータス・カーズが請け負いました。

バックボーンフレーム上にFRPボディーを載せる構造はロータスが得意とした手法ですが、メンテナンスフリーをも狙って外部全体を無塗装ステンレスで覆いました。エンジンはプジョー・ルノー・ボルボの3社が乗用車用に共同開発したV型6気筒SOHC・2849ccエンジンで、フランスで製造され、これを後部に搭載するリアエンジンレイアウトでした。

エンジンは当初V型8気筒として設計されていましたが、1973年のオイルショックの影響で出力よりも経済性を重視せざるを得なくなり、2気筒を切り落とした実用型として開発され、前宣伝の効果も手伝って、多くのバックオーダーをかかえる中でのスタートとなり、初年度は約6,500台を販売するなど売り上げは好調でした。

しかし、発売価格が2万5,000ドルもし、これは現在の価値換算では6000万円相当であり、当時の為替レートで計算しても約1600万円と高額であったことが災いし、大量のキャンセルなどから、翌年以降はたちまち売り上げ不振に陥りました。

また北アイルランドへの工場誘致の条件として交付されていたイギリス政府からの補助金停止されたほか、会計監査役が社の資金を社長ジョン・デロリアンが私的に流用するなどしたことを黙認していたことがマスメディアの調査などで明らかになるなど、その会社運営の内情は無茶苦茶でした。

さらに1982年に、社長のジョン・デロリアンがコカイン所持容疑で逮捕されるスキャンダルが発生したことにより、たちまち会社は資金繰りが立ち行かなくなり、ついに倒産の憂き目を見ることになりました。

ジョン・デロリアンは、その後、麻薬売買に関わった容疑で逮捕されたものの、のちに裁判の末、無罪となりました。その後も、再び新たな高性能車を創造するプランを抱いていたそうですが、新モデルの開発、発売を果たすことなく、2005年3月19日に死去しました。

最終生産車が作られたのは工場閉鎖後のことで、工場に残っていたパーツ等で1982年12月24日に作られた4台が一般向け生産の最後となりました。最終的に8,583台が製造されたと見られていますが、500台が調整用として確保されたため実質8,083台と思われます。なお、日本にも何台か流通し、その一台は愛知県長久手のトヨタ博物館展示されています。

このように生産会社が消失したとはいえ人気の高かったデロリアン・DMC-12は、多くの逸話・スキャンダルを伴った希少性と、生産終了後に映画「バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズ」で採用されたことによって、1980年代を代表する著名なカルトカーとなり、現代でも多くの自動車マニアのコレクション対象となっています。

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ところが、このデロリアン・モーター・カンパニーの倒産後、そのイギリス工場で使われていた設備一式を買い求めた人物がおり、これはスティーブン・ワイン(Stephen Wynne
という人物で、現在、旧来のデロリアンの名前を継承し、そのままDeLorean Motor Co.として会社化し、その社長に就任しています。

現在もDMC-12のオーナーに修理用パーツを供給し続けており、1台丸ごと新車を組み立てることも可能です。また、ワイン氏は2007年8月、DMC-12を再生産することを明らかにしています。

ただ、近年の衝突安全基準や排出ガス規制等に合わせて設計を変更することは困難であり、再生産車では車検に適応し一般道を走らせることはほぼ不可能なため、展示用や富裕層のコレクターズアイテム的な目的で出荷されているそうです。

とはいえ、アメリカのテキサス州ヒューストン郊外に約3700m²の工場を建設し、そこで新DMC-12を再生産することが計画されているといい、オリジナルのDMC-12には電装系や配線などにトラブルがありましたが、ここで生産される新バージョンではそれらは改善される予定だといいます。

生産台数は月20台の予定だそうで、当初のデロリアン社時代と比べて減るものの、ファンからの期待は高いようです。また、現在、全ての補給部品と現行品による新車もこの会社に注文できるそうで、整備、中古車の売買の仲介等も行なっているということです。

皆さんも一台いかがでしょうか。数千万するようですが……

さらに、2011年、ワイン氏はベンチャーEVメーカー・Epic EVと協力し、DMC-12を2013年までにEV化して生産する計画を発表しています。このクルマは、交流240V電源による3.5時間充電で、約100マイルの市街地走行が可能とされ、バッテリーの予想寿命は7年もしくは10万マイルとされています。

最高速度201km/hと発表されており、既存のデロリアンをハンドメイドでEV化するものとは異なり、当初からEVとして設計製作して販売されるようです。

映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のほうも人気が高かったことから、続編が作られるという噂が何度が立っているようですが、もしこれが実現するようなら、その中に登場するタイムマシンは、この新生EVデロリアンになるのかもしれません。

大ヒットしたこの映画では、このタイムマシンを作ったのはエメット・ブラウン博士なる人物であり、演じたのは個性派俳優のクリストファー・ロイドでした。この劇中、博士は、なぜそのベースとなるクルマにDMC-12を使ったのかについて、「ステンレスボディーがタイムマシンにとって好都合」なことと「見た目のかっこ良さ」を理由をあげています。

また、デロリアンは、1985年10月26日に最初のタイムトラベルに成功したとされ、最後のタイムトラベルで1985年10月27日であり、最後は貨物列車と衝突し大破しました。従って、スタート時点の時間軸から見れば、完成から2日程しか存在しなかったことになります。

一方、デロリアンから見た時間軸では、長い間廃坑に隠されていたという設定になっており、この期間は1885年から1955年までということになり、70年以上ここに放置されていた、ということになります。

このデロリアンのタイムマシンとしての動作原理は不明です。が、「次元転移装置」なるものの働きによって時間を飛び越えるものとされており、ただ、タイムトラベルの際には時間的な移動しか出来ないようで、過去または未来の、空間的には常に出発点と同じ地点に移動せざるを得ません。

このため、過去には存在した、あるいは未来には存在する建造物や道路のある場所でタイムトラベルした場合、それらに衝突するなどのトラブルに見舞われることもあります。

タイムトラベルの際は88マイル毎時(約140km/h)まで加速する必要があるため、長めの直線道路が必要になります。しかし、第3作目では飛行機能を取り付けられたことでこの問題は解決しました。が、いずれの場合もタイムトラベルの瞬間、デロリアンは閃光を放ち、地上または空中に炎のタイヤ跡を残して未来または過去へ突入します。

目的地における目標時間への突入時には多少の衝撃を伴います。また、タイムトラベル先の時間に出現する際には、3度の閃光とソニックブーム音を伴います。当初のデロリアンは、タイムトラベル直後に素手で触れられないほどの超低温となりましたが、後に改良され、少々低温になる程度となりました……

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……とまあ、これが映画の中でのこのタイムマシンのあらましです。

この映画の制作当初、実は、タイムマシンはクルマではなく、冷蔵庫を改造したものになる予定だったそうです。が、映画を見た子供が真似をして冷蔵庫の中に閉じ込められてしまうことを懸念し、取り止められたそうで、その後、監督が DMC-12 のガルウイングドアを見て車型タイムマシンを思いついたといいます。

撮影用に用意された DMC-12 は3台、映画3部作を通して最終的には計7台が使用されました。それらは撮影目的ごとに外装または内装のみが使われ、カメラを入れる為に天井を切り取られる場合もありました。撮影終了後、1台はスティーヴン・スピルバーグが、別の1台はイギリスのバンド「バステッド」のメンバーが所有しているといいます。

デロリアンが列車と衝突してバラバラになるシーンは、衝突専用のDMC-12が用意され、分解しやすいように車体のボルトをすべて外したり内部に切れ込みを入れ、衝突時には車内から爆発させて撮影されました。その際、列車が脱線しないように内部のエンジン等の重機材は外されたそうです。

日本での人気も高く、アオシマからプラモデル、太陽工業のラジコンにも採用されました。ミニカーではバンダイが販売代理権を獲得していた頃にホットウィールの「キャラウィール」シリーズとして発売され、USJ特注モデルとしてトミカが発売したこともあります。

SFにおける乗り物としてのタイムマシンには、このように自動車タイプのものや、宇宙船タイプ、鉄道車両の者が多く、移動機能、飛行機能が備えられている場合が多いようです。
「仮面ライダー電王」には、デンライナーというタイムマシンが登場し、これは移動機能も有し、異次元空間を移動しタイムトラベルを行います。

また「ドラえもん」に登場するタイムマシンも空を飛ぶことができ、「スタートレックIV」の宇宙戦艦バウンティ号も時空を超えます。ただ、H・G・ウェルズの「タイム・マシン」は、動力車タイプではありませんでした。

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このタイムマシンは、架空のもの、として扱われているわけであり、無論、実現したとされる人物はいません。ところが、2000年11月2日、米国の大手ネット掲示板に、2036年からこのタイムマシンに乗ってやってきたと自称する男性が書き込みを行いはじめました。

男性はジョン・タイター(John Titor)と名乗り、複数の掲示板やチャットでのやりとりを通じて、タイムトラベルの理論や自身のいた未来に関する状況、未来人である証拠などを提示していきました。その過程でアップロードされた資料は、現在も閲覧可能のようです。が、無論英語です。http://www.johntitor.com/

タイターは、最初の書き込みから約4か月後の2001年3月に「予定の任務を完了した」との言葉を残し書き込みをやめ、現在は消息を絶っています。が、2003年にアメリカで発行された、タイターの発言ログをまとめた書籍「Jhon Titor a Time Traveler’s Tale(時間旅行者ジョン・タイターの物語)」が発刊されています。

この本には、タイターの母親を名乗る人物から寄せられた手紙や、彼女からタイターに関する全資料を受け取った弁護士の話などが掲載されているそうで、母親を名乗るこの人物は、ジョン・タイターが自分の息子であることは否定していないものの、平穏な生活を送りたいとの理由から彼との関係の一切を断ちたいと語っているといいます。

ジョン・タイターは、2036年からやってきたとされていますが、生まれたのは1998年だと主張していました。タイターの説明によれば、彼の使用したタイムマシンは、上述のようないわゆる乗り物ではなく、一種の「重力制御装置」だということです。

このタイムマシンは2034年に欧州原子核研究機構 (CERN) により試作1号機が実用化されたといい、タイターが使用したものは正式名称「C204型重力歪曲時間転移装置」だそうで、開発はゼネラル・エレクトリック社が行ったといいます。

そのタイムトラベルの方法とは、まずタイムマシンに目的の年月日時刻の座標を入力し、始動させます。すると重力場が形成され、搭乗者の身体を包み、搭乗者にはエレベーターの上昇中のような感覚が生じます。装置が加速するにつれて周囲の光が屈曲し、一定まで達すると紫外線が爆発的に放射されます。

このため時間旅行のためにはサングラスが必須になるそうで、その後、周囲が次第に暗くなっていき、完全に真っ暗になり、やがて景色が元に戻り、タイムトラベルが完了する、といいます。

フルパワー駆動で約10年間飛ぶのに、およそ1時間程かかるとされ、タイムトラベルが可能な範囲は、タイターの使用したタイムマシンでは約60年であり、それ以上の過去や未来に行こうとすると、「世界線」のズレが大きすぎて全く異なる世界にたどり着いてしまうといいます。

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ちなみに、この「世界線(World line)」とは実際にある用語です。一般相対性理論や特殊相対性理論でよく使われる言葉で、四次元空間の中で粒子が動く経路のことであり、提唱者はアインシュタインです。一次元、二次元の物体が動いた経路は世界面 (world sheet)、世界体積 (world volume) と呼ばれ、ようするに我々が住むこの世界のことです。

この「世界線」のズレが大きくて異なる世界にたどり着くということはつまり、我々が知る歴史とはかけ離れた歴史を持った世界へ到着してしまうということになります。また、60年以内の移動であっても誤差といえる程度の世界線のずれが生じるためタイムトラベルのたびに「限りなく似通ったパラレルワールド」に移動している、ということになります。

さらには、銀河系も太陽系もかなりの速度で宇宙空間を移動しているため、たとえ30年前の過去へタイムトラベルが成功したとしても、そこには地球はなく、宇宙空間に投げ出されてしまうということにもなります。

この疑問について、タイターは技術的に最も困難な部分であると語っていたといい、この問題については、現在地における重力の正確な測定を行うことによって、地球上での空間座標を特定していると説明しました。

その空間座標はタイムトラベル中、「VGL(可変重力ロック)」という装置によって一定に保たれており、セシウム時計4個の発信周波数を基に、Bordaと呼ばれるエラー修正プロトコルを用いて制御されていると述べています。

しかし、前述のように、60年間のタイムトラベルが限界で、それ以上はVGLを使用しても異なる空間座標に到着する可能性が高くなります

また、これによるタイムトラベルでは、それを客観的に観測している人間にとっては、一瞬のうちに終わっているように見えます。つまり、タイムトラベラーがタイムマシンを作動させた瞬間にもとの世界に戻ってきているように見えます。これは、たとえタイターがこの世界線において2年もの月日を過ごしていたとしても変わりません。

しかしこれは、あくまでこのタイムトラベルにおいて、マシンを積んだ乗り物を移動させず、同じ空間座標で行った場合です。タイムトラベル後、元の世界線へと戻るときにマシンを作動させた空間座標が最初の座標と違う場合、観測者には、その場にあったタイムマシンが一瞬にして消え、別の場所に一瞬にして現れるという風に見えるといいます。

タイターはまた、パラレルワールドを否定していません。彼によるこの多世界の解釈では、多世界とは、それぞれ時間系列の異なる別々の「世界線」であり、「恐らく無限に存在する」ということです。これにより、タイムトラベルの結果生じる矛盾、いわゆるタイムパラドックスの問題が解決されるとしています。

タイムパラドックスというのは、タイムトラベルにおいていわゆる「親殺し」をした場合などに、自分が消えてしまうのか、といった矛盾です。

彼の説明によればこの「世界線」というのは、いわゆるパラレルワールドと同義だそうで、タイターはこの説明を行うとき、「時間線」と合わせて三種類の用語を使用したといいます。そしてタイターは、それらの異なる世界線を移動することにより、タイムトラベルは行われると説明しています。

従って、例えば、過去にやってきたタイムトラベラーが自分の親を殺しても、自分がいた世界とは別の世界の自分の親を殺したことになるので、そのタイムトラベラーが消滅することはないといいます。同じように、違う世界線の自分自身を殺してしまっても、世界線が分岐するだけなので何ら問題は起きないとも語っています。

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タイター自身のタイムトラベルでは、まず2036年から1975年にタイムトラベルし、そこから自分が生まれた1998年に飛び、ここで我々と出会って2000年まで滞在したといいます。そしてこの場合の1975年の世界線は、2036年の世界線と約2%ズレていたといいます。

従ってズレていなければ、我々とタイターは遭遇しなかったことになります。そして、1975年から未来の1998年へ遡行した際、そこにもズレが生じていたとすれば、タイターが訪れた1975年から飛んだ先の1998年は、元々の1975年の延長上にある未来ではなく、別の世界線上の未来ということになります。

また、そうであるとすると、我々が現在住んでいる世界線の過去の1975年には、そこに訪れていたというタイターはいなかったことになります。

つまり、2036年をAとすれば、1975年の世界線はBであり、さらに、タイムトラベルしたタイターがいるために世界は分岐してCの1975年になります。そこからさらに、1998年へ飛んだのでこの世界線はDということになり、タイムトラベルするたびにズレが生じ、そのたびに違う世界線上に降り立つ、ということになります。

さらにいえば、AからBへのトラベルの際のズレが2%であり、さらにCおよびDを経る際にもズレが生じたとすれば、Aから起算すれば、そのズレはさらに大きくなっているはずです。

これらの問題についてタイターは、タイムトラベルを行うことに起因して世界線が分岐するのか、あるいはタイムトラベルをする以前からそうしたパラレルワールドが存在していたのか、という問題がタイターのいた世界でも議論になっている、と説明したそうです。

タイターが「我々の世界」に初めてやってきたのは1998年ですが、その時タイターは、この世界における自分の親たちの一家を訪問し、「2000年問題によって引き起こされる災害や混乱から逃れるため」引っ越しを促したといい、実際に一家は引越しをしたといいます。

しかし、タイターの予想に反して我々の世界においては、実際には2000年問題は大きな騒ぎとはなりませんでした。

この原因として、タイターは、自分が任務のために最初に赴いた1975年の行動が影響している可能性がある、と話していました。さらに、タイターの説明では、2000年問題の混乱が、後の核戦争に繋がっているということで、タイターのいた世界線と我々の世界線では、まったく違う未来を持っている、ということが考えられます。

さらにタイターは、未来に返る方法についても言及していました。タイターが元いた世界線に帰還するためには、タイムマシンが往路にて収集した重力の測定データをさかのぼって帰還するとしており、また、自分がもといた未来の世界線へ少ない誤差で帰還するためには、一度自分がやってきた時間・場所に戻る必要がある、と語ったといいます。

何故いったん元来た道を辿らなければならないのか、ここのところが私にもよくわからないのですが、タイターは、これに関連して、潮汐力が地球の重力に影響を与えている都合上、帰還するタイミングは一年に2回ほどしかない旨の説明をしていました。

おそらくは、そうしたタイミングにおいてだけ、過去に辿ってきた正確なルート計算ができるということなのかもしれません。

そのため、タイターが自分のいた未来へ帰るには、そのタイミングにおいてまず1998年に戻り、そこからさらに1975年に戻ってから、やってきた世界線に沿って時空をさかのぼる必要があるということになります。

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しかし、どんなに正確な計算をしても全く同一の世界へ帰還できるわけではありません。誤差は非常に小さいものの、そこは「良く似た別の世界」であることに変わりはないといいます。

世界線は無限に存在し、そのどれかにピンポイントで移動する方法が現在のところ見つかっていないといい、これを実現するためには光速を超えたトラベルを行うことしかなく、それは不可能であるともタイターは語っています。

もっとも、確率的にはありえないほど低いものの、自分の望む世界にたどり着く余地はあり、タイターの世界では、ズレのない世界、つまり自分の世界と全く同一の時間軸上にある世界にたどり着いたタイムトラベラーも存在している、といいます。

彼がタイムマシンで1975年に向かったとき、まず最初に、自分の父方の祖父と会ったそうです。その後1998年に飛び自分の両親と生後2ヶ月の自分自身に会い、それから2年ほど4人で奇妙な同居生活をしたと語っています。

タイターが去って2年が経過したとされる、2003年1月には、タイターの両親を名乗る夫婦が5歳の幼児を連れてフロリダの弁護士事務所に訪れたことが確認されているといいます。夫婦は匿名を条件にタイターの存在を証言し、二人が連れていた5歳の幼児がジョン・タイターである、と語りました。

夫婦はインターネットで交わされたタイターと質問者たちとの質疑応答の全記録、タイターの話を裏付ける証拠物件を弁護士に預託したと言いますが、その中には、タイターの語った彼の住む未来世界、および彼が生きてきた世界で起きたことも含まれていました。

実際に彼が自分の目で見てきた、我々とは違うパラレルワールドのことが書かれている、ということになります。ただ彼は自分が未来に関する出来事を書き込んだ時点でそこから未来が変わってしまうために、自身が見てきたものとさらにこれは変わってくる可能性がある、と前置きした上でこれを語っています。

タイターが住んでいた2036年の世界線と、我々のいる2000年当時の世界線ではおよそ2%のズレがあるわけですが、さらにこの世界でタイターは掲示板に自分が未来人である旨ほほか色々の書き込みをしたため、そのズレはさらに広がっている可能性があるというわけです。

つまり、タイターは、自分のいた未来において起きた出来事を語っただけで、パラレルワールドがもし存在するならば、それは必ずしも我々の世界でこれから起こることの予言というわけではなく、実際に起きることもあれば、起きない場合もあるということになります。

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さて、気になるそのタイターの世界で起こった出来事ですが、この話はアメリカでは人気があるようで、実際に彼が語ったとされる記述に、のちに別人が手を加えたと思わるものも多数あるといわれています。なので、そうした部分は削除して、純粋に彼が語ったとされるものだけ、以下にこれを掲載します。

・2000年問題によって起きた災害や混乱が、後の内戦の火種となる。例えば、アメリカ国内では狂牛病が発生する。のちに、欧州原子核研究機構 (CERN)が2001年近辺にタイムトラベルの基礎理論を発見し、研究を開始する。

・2001年以降に中国が宇宙に進出する。これ以降に新しいローマ教皇が誕生し、ペルーで地震が発生(実際、書き込みから4ヶ月後にペルー地震発生)。世界オリンピックは2004年度の大会が最後となり、2040年度にようやく復活する。

・2005年にアメリカが内戦状態になり、内部抗争が発生し、2011年、内戦が原因でアメリカ合衆国が解体されるが、翌年にはアメリカ連邦帝国が建国される。2015年、ロシア連邦が反乱部隊の援助という名目でこのアメリカに核爆弾を投下。核戦争となり、第三次世界大戦へと発展する。

・その後、アメリカの外交権麻痺に乗じて、中華人民共和国が覇権主義を強化。台湾、日本、韓国を強引に併合する。後にオーストラリアが中国を撃退するが、ロシアの攻撃により半壊滅状態になる。ヨーロッパ諸国もロシアによりほぼ壊滅するもアメリカが撃退し、ロシア連邦が崩壊する。

・2017年、30億人の死者を出した末、世界大戦はロシアの勝利に終わる。2020年、アメリカにおいても、都市部の勝利により内戦が終わる。そしてロシアの援助によって、新たな連邦政府が成立する。このときアメリカの地方区分は、現在の州ではなくなり、分裂したときの5勢力で構成され、社会主義国家に近くなる。

・内戦後の生存者は図書館や大学の周りに集結してコミュニティを形成している。新たな連邦政府は首都を現在のネブラスカ州・オマハに置いている。アメリカ以外のほとんどの国も社会主義国家のような体制になっていく。

・タイターのいた2036年から4年後の2040年頃、オリンピックが復活する予定であり、彼の個人的な予想では2045年頃、タイムマシンが一般利用できるようになるであろうと思われる。

また、タイターがもともと住んでいた2036年は、以下のような状況だったといいます。

・テレビと電話はインターネットにより提供されている。タイムマシンが実用化されて既に2年が経過しているものの、その存在を信じていない人々も大勢いる。タイムマシンは世界の幾つかの国が複数台所有しているが、一般市民が使用できるわけではない。

・無線のインターネット接続がどこででも可能になっている。核戦争後の荒廃で物理的アクセスに制約があるため、コミュニケーションツールとして重宝されている。一般的にデジタルカメラが主流で、フィルムカメラは主に専門家などが使用している。

・宇宙人は見つかっていない(現在UFOとされているものはタイターの時代よりもっと未来からのトラベラーなのでは、とタイターは語っている)。飲料水や淡水の確保が大きな問題となっているが、地球温暖化は、さほど問題になっていない。また、出生率は低く、エイズと癌の治療薬は発見されていない。

・核戦争による汚染がひどい。核戦争の後、人類は戦争に疲れ果て、それぞれの国が孤立化した状態になっている。現在のような活発な外交関係は無くなる。他国への航空便などは存在するが、本数は今よりも格段に少なくなる。しかし、核兵器や大量破壊兵器が完全に消滅したわけではなく、世界中にはまだ多数の兵器が存在している。

・人間の平均寿命が60歳に満たなくなっている。また、警察国家を信奉する勢力を壊滅させたとはいえ、完全に消滅したわけではない。そうした勢力が、タイターらの住むコミュニティの外に密かに存在している。そうした集団との戦争は続いている。

・信仰は2036年の人々の生活の中でも大きな存在であり、タイター自身もキリスト教徒であるが、宗教自体が現在のような一様な価値観からもっと個人的なものに移り変わっている。また、お祈りの日も日曜日ではなく土曜日になっている。

・善悪についての考え方が大きく変わった。これは一人の人間がとるあらゆる行動は、どこかの世界線につながっている、という世界観が広まったためである。

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ジョン・タイターはまた、IBM 5100の入手が、過去へ来た目的であると語っています。タイターがこの任務を任された理由については、「祖父がIBM 5100の開発に携わっていたため」と書きこんでいます。

IBM 5100には、マニュアルにはないコンピュータ言語の翻訳機能があることが2036年にわかったといい、彼の使命は、2年後に迫っている「2038年問題」に対応するためのものであり、過去から受け継いだコンピュータプログラムをデバッグするためにIBM5100が必要なのだとも語りました。

この「2038年問題」というのは、実際にそうした問題が発生する可能性があるといわれており、正確な日時は、2038年1月19日3時14分7秒であり、これを過ぎると、コンピュータが誤動作する可能性があるとされています。

細かい説明は避けますが、コンピュータ上の時刻の表現として「UNIX時間」というのがあり、これは「1970年1月1日0時0分0秒」からの経過秒数として計算され、これを実際に使用している多数のコンピュータ等のシステムがあります。

この起点の時刻は、最初にUNIXにそのような機能が実装された時にキリがよかった過去の時刻であり、たまたまそう決めたというだけのものに過ぎませんが、問題はこれを前提として作成されたプログラムの「終了時間」が、1970年1月1日0時0分0秒から2,147,483,647秒を経過した、2038年1月19日3時14分7秒とされたことです。

これを過ぎると、この値がオーバーフローし負と扱われるため、時刻を正しく扱えていることを前提としたコードを使っているコンピュータならば、誤作動する可能性があるということです。

また、彼が探しに来たというIBM 5100には、実際にこうしたプログラム上のエラーをデバッグできる機能があるそうで、このことは、コンピュータ工学者でアメリカで多数の賞を受賞し、実存するA. D. Falkoffという人もまたその自著でそのことをを語っているといいます。

しかし、我々の世界線においては、2000年問題への対策を通じて2038年問題を解決する方法も既に明らかになっており、システムメンテナンスによって大きな問題は起こらないと考えられています。

ただ、タイターの世界ではこのIBM 5100を持ちかえることで何等かの重要な問題が解決されるようであり、タイターはまた、彼が訪れた1975年の世界である人物に会い、このことについて語り合うことも目的の一つであった旨を語ったといいます。

未来からタイムマシンに乗ってやってきた、というのは荒唐無稽な話のようにも思えますが、このようにみてくると、彼が語った話というのは、「もしかしてだけど~♪」とも思えてきてしまいます。

ただ、こうした彼の未来予測に関するこれらの記述には、明らかに矛盾点があるといいます。例えば、彼が住んでいたという未来世界においては、世界情勢や混乱しているアメリカ以外の情勢への言及が少なく、あったとしても説明不足な点が多いという指摘があります。

また、中国が覇権主義を進めるきっかけとなった出来事や、ロシアが中国やヨーロッパ諸国を攻撃した理由がまったく語られていない点も疑問視されています。さらにタイターは未来でもドル紙幣が使われていると語っていますが、アメリカは内戦で既存政府が崩壊したという話と整合性が取れていません。

さらには、アメリカは第三次世界大戦に参加したといいますが、もし国内が内戦状態になっているならば、敵国と戦う余裕があるのか疑問です。

未来でもクレジットカードを使う人がいると語っていますが、中央集権的な銀行は全て崩壊したという話と整合性が取れていないといったこともあります。ただ、タイターは「コンピューター管理の全国規模の銀行は無いが、地域ベースの小規模銀行があり、貨幣やクレジットカードが使われている」とも述べています。

つまりこれは、現在の我々の世界に存在する地方信金のようなものであり、全国ベースのVisa・Master・Amexなどと違って、地元銀行カードのようなシステムが使われているというふうに考えることもできます。

しかし、一番問題なのは、このタイターが語ったとされる「事実」が、アメリカ国内でのアメリカ人同士のチャット内容という形でだけでしか残されていないということです。ジョーク好きのアメリカ人が飛ばした、究極のジョークとも受け取れることもでき、人を信じ込ませるために捏造された物語、と考えられなくもありません。

が、詐欺を行ったというわけでもなく、この話によって誰かが傷ついたり、名誉を失ったり、はたまた多額の金が動いたといったこともないようであり、かなり高尚なジョークと捉え、これによって多くの人を楽しませたのであれば、それはそれで許されるような気もします。

上述したように、タイターは、2001年3月に「予定の任務を完了した」との言葉を残し書き込みをやめ、現在は消息を絶っているといいます。

タイターが去った数年後に第三者がJohn Titor Foundationという団体を作り2003年10月27日に彼の残した記述内容を著作権登録しているといい、この話を真実だと信じている人は少なくないようです。

このタイターなる人物が実存するかどうかを信じるかどうかはあなた次第です。荒唐無稽な話しと思うかもしれませんが、案外とパラレルワールドなるものがあり、その世界における私、いや私とほんの少し違った人間が、狂った世界によって独裁者になっているかもしれません。

あるいは金融王になっているやもしれず、はたまた冒険家となって宇宙旅行をしているかもしれず、そういう想像をするのも案外と楽しいものです。秋の夜長にあなたもまた別の次元の自分探しをしてみる、というのはいかがでしょうか。

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