学校では入学式や始業式が終わり、今日から本格始動という新入生も多いことでしょう。
また、会社組織では、入社式が終わって、フレッシュマンにそろそろ初仕事を任せるというところも多いかと思います。
新たにスタートする集団生活の中で揉まれ、社会という荒波の中であえぎながら、それぞれに成長していくわけですが、慣れない人間関係や仕事に精神を擦り減らし、5月になるころにはもう会社なんか行くのイヤ!というふうになる新人さんも増えてきます。
いわゆる5月病というヤツで、ゴールデンウィーク明け頃からこうした人が急に増えるためにこの名称があるわけです。
医学的な診断名としては、「うつ病」もしくは「適応障害」というそうで、れっきとした病気でもあります。なので、病院なんて……と思わず、少々おかしいなと周囲が気付いたら、本人に勧めるぐらいが本当はいいのでしょう。
しかし、誰しもが通る道であり、そうして悩むことが人生経験につながるんだ、という「根性論」がまかり通りやすい国です。少々のことは歯を食いしばって頑張っていれば、いずれは事態が好転すると考え、たいていの人は会社通いを続けます。
性格が真面目で責任感があり、忍耐強い人ほどその傾向が強く、そうこうしているうちに適応障害がもとでもっと深刻な身体的な異常が出始め、自律神経失調症や心身症ともよばれるような病気に発展していくこともあります。
人間不信、情緒不安定、不安感やイライラ、被害妄想などの症状が現れはじめ、やがては、動悸がする、朝起きられない、耳鳴りがするといった身体的な症状も出始め、ひどい人などは、吐き気や頭痛を感じたり、過呼吸になったりもします。
実は私もかつて大学を卒業して就職したてのころは、自律神経失調症気味になったことがあります。このころはまだ会社の寮にいたのですが、ここへ毎日夕方帰るとぐったりと疲れ、放心状態になる、といったことを繰り返しており、同僚からはお前大丈夫か、と励ましの声をかけて貰ったりしていました。
街を歩いていても、右手と右足が同時に出る、という感覚に襲われるなど、今考えると確かに「適応障害」だったな、と思います。毎日会社に行くのがイヤで、どうやったら行かない理由ができるだろう、などと真剣に思い悩むほどで、その頃通っていた小田急線の電車のホームからじっと線路をみつめていたことなどを思い出します。
思い余った末、色々な本などを読んだりしたのですが、人生訓のようなものは何の役にも立たず、結局のところ辿りついたのが「自律訓練法」に関する本でした。
自己催眠法といわれるものの一種であり、ストレス緩和、心身症、神経症などに効果があるとされるものです。その方法を紹介していたのがどんな本だったのかは忘れたのですが、この治療法は、ドイツの精神科医のシュルツという博士によって創始されたとされ、どの本を読んでもほぼ同じ方法が書いてあるはずです。
最も一般的な自律訓練法は、次の基礎公式によって行います。
まず、静かな部屋で気持ちを落ちつけ、仰向けになって横になり、目を閉じます。そして「気持ちがとても落ち着いている」と自分に言い聞かせながら、最初に左足が重い、左足が重い、と念じます。するとしばらくすると、本当に左足が重くなっていくように感じます。
そうなったら、次は右足が重い重い重い……と念じます。すると今度は右足が重くなります。こうして両方の足が重いと感じるようになったら、今度は、両足とも重い重い重い……と続けます。
同じく、両手についても片手ごとに重くなることを確認でき、両手でも重みを感じとることができるようになったら、最後に両手両足が重い重い……とやり、すべての四肢の重さを感じれるようにトライします。
ここまでが第1公式です。この場合、手と足の順はどちらでもよく、手が重い重い……を最初に試し、その後に足に行っても大丈夫です。
次いでの第2公式では、今度は、「手足が暖かい」です。第1公式と同様に手か足の右左どちらかから始め、最後にすべての四肢が暖かみを感じるかどうかを確認します。
ここまでの公式を試している間にたいていの人は眠くなりますが、そのまま眠ってしまっても大丈夫です。眠りにつけるということはそれだけ精神が安定してきたということであり、治療の効果があったということです。
しかしそれでも眠りにつかない人は、次の第3公式、第4公式へと進みます。第3公式は「心臓が静かに打っている」であり、第4公式は「呼吸が楽になっている」です。さらに第5公式「お腹が暖かい」となり、第6公式「額が涼しい」まで行って、はじめてワンセットの治療が終わります。
これらの公式を順に心の中で繰り返し唱え、自己催眠状態になっていくわけですが、この自律訓練法では、めまい、脱力感などが生じることもあるため、眠りにつかなかった場合などでは、次の「消去動作」を行うと良いとされています。
下記の運動により特有の生理的変化や意識状態が取り消されます。
1 両手の開閉運動
2 両肘の屈伸運動
3 大きく背のび
4 深呼吸
この訓練法を試す時は、気が散らないように、静かで快適な温度の場所を選びます。また衣服はゆったりとしたものをつけ、身体を締め付けるベルトやネクタイは外したほうが良いようです。また、椅子に座った姿勢でもOKですが、やはり目は閉じます。
1日に2~4回程度が適量と言われているそうですが、私の場合には一日2回程度で十分だったように思います。ただ、心臓、呼吸器、消化器、脳に疾患のある場合は、行なうべきではないとされているようです。
私自身の経験では、この自律神経法を試すことによって、日常で左足と左手が同時に出る、といったようなこともなくなり、確かに精神が安定していったように覚えています。日々の通勤がそれほど苦にならなくなり、物事に対する集中力も高まっていったように記憶しています。
仕事にヤル気がでてくるようになり、このころから会社だけでなく、積極的に外のサークルなどにも参加するようになり、英会話学校などにも通い始めました。これがのちの留学にもつながるわけですが、すべてはこの自律神経治療法から始まったといってもよいくらいです。
また、後で気が付いたのですが、この方法は花粉症対策にも有効なようです。私も春先になると、ぐすんぐすんと鼻水が出ることが多く、いつも鼻を詰まらせていたのですが、この訓練法を試すと、すーっと鼻が抜けていくことに気が付きました。
自律神経失調症は、自律神経である交換神経と副交感神経のバランスが崩れることが原因とされています。このうちの副交換神経は、鼻水の分泌を促す、経鼻腔腺の機能をコントロールしていることから、根拠のないことではありません。
この二つの神経系は、このほかにも、目の瞳孔の収縮や、唾液腺の分泌、涙腺のコントロールのほか、心臓や動脈、気道・肺、胃や腸、すい臓といったありとあらゆる臓器に関連しているため、こうした部分に疾患がある人にとっても有効とされているようです。
膀胱や生殖器などにも関連しているようで、このほか、汗腺にも関わっていることから、そのバランスをうまく取れるようになれば、本当にありとあらゆる体の部分を癒してくれるはずです。
自律神経の中枢は脳の視床下部というところにあり、この場所は情緒、不安や怒り等の中枢とされる辺縁系と相互連絡していることから、こころの問題も関わってくるとされています。であるがゆえにこれを鍛えるということは、精神的にも強くなれるということを意味します。
この方法を開発した、シュルツ博士というのは、ベルリン大学の教授だったそうです。博士は、ある日、催眠状態に入って心身共にリラックスした人では手足を中心とした温かい感じが起こることに気づきます。
やがて手足が温かく感じられるような状態を自分で作ることができれば、催眠状態の場合のように他人の力を借りなくても自分で心身がリラックスした状態に入れると考えるようになりました。そして、リラックスした姿勢で座っている人に自己暗示によって、手足の温感・ひたいの涼しい感じなどを起こす自発的な訓練を行う方法を1932年に考案しました。
ただ、まったくのオリジナルというわけでもなく、もともと同じドイツの大脳生理学者でフォクトという人が、その原型となる治療法を1926年に論文発表していたものを参考にしたようです。
日本には、第二次世界大戦後、心身医学とともにアメリカから流入し、自律訓練法が初めて紹介されたのは1950年代に入ってからのことです。これを日本人向きに「いつでも・どこでも・だれでも」実践できるように改良したのが、池見酉次郎(ゆうじろう)という精神科医です。
戦後、アメリカの医学が日本に流入した際、心身医学の存在を知り、九州帝国大学医学部を卒業後、アメリカミネソタ州のメイヨー・クリニックに留学し、帰国後、現在104歳のおじいちゃん先生として知られる日野原重明博士らとともに昭和35年に「日本心身医学会」を設立し、初代理事長になりました。
翌年には九州大学に国内最初に設立された精神身体医学研究施設(現在の心療内科に当たる)教授に就任し、内科疾患を中心に、心と体の相関関係に注目した診療方法を体系化、実用化に尽力した人です。
従って、医学的にも実績のある確かな精神療法であるといえ、私自身も確かに効果があったと自覚しており、これから5月を迎え、こうした症状にお悩みの方はぜひ試して欲しいと思います。また、催眠療法士という肩書を持って、こうした治療を行っているところも多くなっていますので、症状が出たら、迷わずその門を叩きましょう。
こうした催眠療法をいかがわしいと思う向きもあるでしょうが、欧米では、催眠療法家が協会を結成し、催眠療法士を認定する仕組みが一般的になっており、米国催眠士協会(NGH)は、100時間のトレーニングを受けた人に「ヒプノセラピスト」の資格を発行して、催眠療法家として認証しています。
また、米国催眠療法協会(ABH)は、45時間のトレーニングに対してヒプノセラピスト資格(初級レベル)を、90時間のトレーニングに対して、マスター・ヒプノティスト資格(上級レベル)を発行しています。
また、米国には催眠療法の博士号もあります。日本ではこうした学位は存在しませんが、資格としては、日本催眠医学心理学会認定の「催眠技能士」等があります。ただし催眠療法自体は危険なものではないという理由から、日本では国家資格にはなっていません。誰でも試せるようなものは国家資格に値しないというわけです。
こうした催眠療法の中には、「前世療法」というものもあります。「退行催眠」と呼ばれる催眠により患者の記憶を本人の出産以前まで誘導し、心的外傷等を取り除くとされるもので、アメリカ合衆国の精神科医であるブライアン・L・ワイス博士によって提唱され、1986年に出版された”Life Between Life”という本で世に広く知られるようになりました。
このワイス博士の話はこのブログでも再三書いてきているので、愛読者の方は、またか、と思われるかもしれません。
なので詳しくは書きませんが、「前世」があるということを前提にした治療であるため、基本的には輪廻転生を信じていない人にとっては「眉唾物」というふうに映るようです。
かつて催眠によりありもしない記憶が作られた例が多くあったこともあったようで、「過去性の記憶」と実際の歴史との符号を確認するきちんとした調査が行われていない、などがその批判の理由のようです。
しかし、ワイス博士らの試験により、「前世」を想起することで、被験者の現在の心理的疾患が実際に治癒されるケースもあり、疾患の治癒は前世の記憶と関係が深いと認める学者も最近では増えてきています。
退行催眠により現れた記憶を「前世」のものと仮定することで、子供が生まれながらに持つ言語的なまりや恐怖症、癖や異様な性癖などの特徴が発生した原因を矛盾なく説明できるとする学者もいるようです。
退行睡眠で思い出した過去の記憶がみごとに史実と一致し、かつ本人の知るはずの無い正確な記憶を話す事例も数多く存在します。
例えば1990年にはシカゴ在住の女性が、16世紀のスペイン女性の生涯を詳細に物語るというケースがありましたが、後のスペインの公文書館に所蔵されている資料による調査が行われ、彼女の記憶は正確なものであることが判っています。
また別のケースでは、ある被験者が過去の時代の歴史的背景について、不気味なほど正確な描写をし、自身が全く知らないとする言語を話す、といった例がいくつも報告されています。
例として、ある35歳の科学者が無意識に発した言語は古代スカンジナビア語であったことが言語学的に確認されたそうで、この被験者は既に絶滅した言語となった紀元前メソポタミアのササニド・パーラディ語を無意識下で書くこともできたといいます。
その一方で、前世記憶について、それを思い出す人の前世は大抵、国王や貴族など高貴な身分であり、召使などの低い身分のものであることはない、といった批判もあります。要は史実として記録されているような出来事に関係した人ばかりが前世として現れるのは、その退行催眠から導き出された結果自体が捏造だ、というわけです。
しかし、退行催眠を行った多数の被験者において、その90%が小作人や労働者、農民や狩猟採集民である過去生を思い起こしていたという統計データもあり、現代ではこうした批判に答えるだけのデータはかなり蓄積されているようです。
こうした退行催眠と前述までの自己催眠は、「催眠」という点で共通しているわけですが、退行催眠を行うことで、前世の自分を思い出し、それまで生じていたいろいろな症状が改善する、という点では自律神経の失調の治療法である自己催眠と似たところがあります。
私は退行催眠も受けたことがあるのですが、リラックスして自分の中に入っていく、といいう感覚はほぼ同じであり、多少手法は違えども原理は同じなのではないかと思います。
そこで、改めてこの「催眠」の定義は何かを調べたところ、これは、「暗示を受けやすい変性意識状態のひとつ」だそうです。変性意識状態ってなによ、ということですが、これは日常的な意識状態「以外」の意識状態のことだそうで、ますますわからなくなりますが、要は電車の中でうたた寝をしているような状態のことを指すようです。
我々の意識の構成には「清明度」、「質的」、「広がり」という3つの要素があります。「清明度」というのは意識がはっきりしているかしていないか、の尺度であり、これが低下するということは一般に意識障害を示します。昏睡、失神といった状態がこれです。
また、「質的」というのは、意識の「内容」のことであり、その内容が日常的でないということは、意識混濁に加えて幻覚や錯覚が見られるような状態、すなわち「せん妄」や「もうろう」といった状態です。こちらは酸素の欠乏や気温の低下、ドラッグの使用などで引き起こされます。
そして、最後の「広がり」というのは、通常我々が「意識している範疇」です。これは無限に広がっていますが、この「広がり」が低下した状態であり、これを「意識の狭窄」といいます。人間の意識に顕在意識と潜在意識の2つがありますが、このうちの潜在意識は意識のうちの9割を占めており、健在意識は1割にすぎません。
覚醒時に論理的に思考するのが、この顕在意識ですが、催眠とは、この顕在意識を制限して、つまりは、「意識を狭窄させる」「その広がりを制限する」ことによって、潜在意識レベルに誘導すること、ということのようです。
潜在意識というのは、言い換えれば「無意識」ということです。日常でも、無意識にペンを取っていた、とか無意識に箸を置いていた、といったことがあるわけですが、この状態にもっていくというのが催眠の本質のようです。
これがすなわち「暗示を受けやすい変性意識状態」ということで、この状態になると、顕在意識がないので、なんでも人に言われた指示通りのことをしてしまいます。よく催眠マジックショーとしてテレビなどでやっているあの状態です。
この状態は、ヨガや座禅といった瞑想や薬物の使用などによってもたらされますが、非常にリラックスした状態を意識的に生み出すことによってももたらされます。ときには「宇宙」との一体感、全知全能感、強い至福感などを伴い、そうした体験は、時に人の世界観を一変させるほどの強烈なものになるともいわれます。
トランス状態とも、入神状態、あるいは脱魂状態や恍惚状態など、いろいろな呼び方があるようですが、催眠による場合は、表層的意識が消失して心の内部の自律的な思考や感情が現れるとされます。
そうして現れた無意識というものが、過去生から来るものなのか、現生における生身の体の奥底に澱(おり)のように「溜まっている」ようなものから出てくるのか、によって退行催眠と呼ぶのか自己催眠と呼ぶのかが違ってくる、というのが私の解釈です。そしてそれはもしかしたら同じものかも。間違っているかもしれませんが。
しかし、そうした無意識の状態というものを否定する人はおそらくいないと思います。日常的に無意識何かをやる、というのは誰しもが経験することだからです。
ただ、それを前世の記憶とするのか、あるいは超心理学的な状態と考えるか、はたまたまったく科学的に説明できる状態と考えるかは別です。それぞれ正しいと思う解釈で、治療方法として利用するなり、瞑想法として使うなりして催眠療法を活用すればそれでいいと思います。
だんだんと話が散漫になってきたのでそろそろやめようと思いますが、ともかくもどんな形であれ「催眠療法」というものが社会的に認知されている現状では、その効果が限定的である、とかいって否定する人も少なくなってきているように思います。
前半で述べた自律神経治療法も、おそらくは提唱されたころには多くの批判が集まったのではないかと推察されますが、いまでは多くの人が実践するようになっています。さすれば、前世療法もいずれは社会的な認知を経て、多くの人が試すような時代が来るのではないかと思う次第です。
とまれ、現時点で輪廻転生も前世療法も信じない、という人でも、上で示した自律神経治療法は確かに効果があると思いますので実践してみてください。
その中であなたの前世が見えるかもしれません。そして「もしかして……」と思ったら、それが事実であるかどうかを自分自身の心の中で検証してみていただきたいと思います。