最近の朝のジョギングで、別荘地に隣接している「修善寺自然公園」内まで行くこともあります。大正13年に旧修善寺町の町制が施行された記念として整備された公園で、約1ヘクタールに1000本くらいのモミジが植えられています。例年だと11月中旬から12月上旬が見ごろだということですが、今年は暑かったせいか、少し遅れているようです。
しかし、既にもう何本かのモミジは真っ赤になっていて、ジョギング中の目を楽しませてくれます。公園内の一番高いところには展望台があって、ここからの富士山もなかなかきれいです。
この修善寺自然公園のすぐ隣には「修善寺虹の郷」があります。これまでも何度か訪問し、このブログでもレポートしてきました。その修善寺虹の郷でもそろそろ紅葉が見ごろになりはじめていて、11月22日から12月2日までは、紅葉の夜間ライトアップも行われるそうです。
この期間中の入場料は夜間割引になって600円で入れるようです(通常は1000円)。また、駐車場もタダになるようです(通常昼間は300円)。なので、伊豆へ来られる方はぜひ訪れて見てください。とはいえ、我々もまだこの夜間ライトアップは見たことがありません。ぜひ期間中に訪れて、その結果をまたレポートしたいと思います。
さて、昨日は、先々週行った城山から葛城山のトレッキングを話題にしましたが、先週は、伊東にある「大室山」にタエさんと登ってきました。
大室山(おおむろやま)は、伊東市の南8~9kmくらいの場所にある標高580mの山です。伊豆東部火山群国に属するれっきとした「火山」だそうですが、今は冷え切っていて当面火山の噴火のおそれはないということです。
約4000年くらい前に噴火してできた単成火山で、マグマが噴き上がってできた多孔質の岩石が積み重なってできた山で、こういうでき方をした火山を「スコリア丘」というのだとか。
「スコリア」というのは地質用語です。日本語では「岩滓」と書くそうで、マグマが地上に吹き上げられて飛散冷却してできる岩塊のことで、穴がいっぱいあいていて黒っぽい色をしています。火口の周りに降り積もり、小高い山を形成するので「噴石丘」とも呼ばれていて、日本ではめずらしいみたいです。
積み上がった噴石の山の中央にはマグマが溜まります。このマグマの密度は回りの噴石よりも大きいので、マグマは噴石とその下の基盤の間から徐々に染み出して抜けてしまいます。こうして丘の真ん中にぽっかり穴の開いた「スコリア丘」という独特の火山ができました。
これと同じようなものをどっかで見たな~と思ったら、阿蘇の草千里の下にある「米塚」も同じ成因できたようです。ご存知でしょうか。
米塚には伝説があり、健磐龍命という神様が収穫した米を積み上げて作ったとされ、貧しい人達に米を分け与えたために、頂上にくぼみができ、それで米塚と呼ばれるようになりました。後述しますが、大室山にもこうした日本神話にまつわる伝説があります。
この大室山ですが、こうした珍しい成因のため、2010年(平成22年)8月5日には、国の天然記念物に指定されたそうです。2010年といえばついこの間です。おそらくは伊豆が世界登録を目指している「ジオパーク構想」の一環として地元自治体が国に働きかけて決定されたのでしょう。
このあたりでは一番高い山であり、毎年、山焼きが行われ、一年生植物で覆われるために遠方からでも非常によく目立ちます。天然記念物というだけでなく、山体は「富士箱根伊豆国立公園」にも指定されているそうです。
さて、先週この大室山に我々も登ってきたのですが、正直言って期待以上でした。その昔、「オペル」というドイツの自動車会社が日本のヤナセの販売網下に入ったとき、その知名度を上げるために、テレビで、「想像以上のオペルです」というキャッチフレーズが使われて流行りましたが、この大室山も「想像以上の大室山」でした。
大室山は、中央に直径およそ300m、周囲約1kmの火口があり、その深さは山頂からの標高差でおよそ70mあります。南側の山腹には直径およそ100m、深さ10mほどの側火口がみられるそうですが、山の頂上からはこれはよく見えません。
その北側のふもとに、大きな駐車場があり(無料)、ここで車を降りて、そこから頂上までは有料リフトで登ります。ひとり往復500円ですから、まあリーズナブルなほうでしょうか。もっと高い入場料を取るところもあるので、良心的だと思います。
ただ、歩いて登れるのかと思ったら、そういう登山道はわざと整備されていないみたいです。頂上に登る人全員をこのリフトで登らせて観光収入を得ようという魂胆なのかと思ったのですが、実は昔は徒歩でも登れたのだそうです。
登山道により山腹が荒れるために、禁止にしたのだそうで、環境に配慮してのことのようです。大きな産業のない伊東市にとっては大事な収入源にもなっているのでしょうし、二人で1000円の料金は「環境整備費」として寄付したのだと思えばあまり腹もたちません。
山腹のほとんどは低い笹原とススキなどで覆われていますが、毎年2月の第2日曜日には山焼きが行われるそうで、このときには多くの観光客で賑わいます。有料ながら先着順で観光客が山焼きの着火に参加することもできるそうです。
また、お正月にはここから初日の出を見る観光客のために早朝からリフトが営業されているとか。ちょっと変わった初日の出を見たい方は出かけてみてはいかがでしょうか。
頂上まではおよそ5分ほどの空中遊泳です。リフト乗り場のすぐ隣には、「伊豆シャボテン公園」が隣接していて、高度を上げるにつれ、この敷地がどんどん小さくなっていきます。
東側の青い相模湾がだんだんと広がりをもっていき、北西にみえる伊東市街が遠くに立体的に見えてきます。そしてさらに高度を上げると伊豆大島らしい島も見えてきます。これだけでも既に絶景です。
山体の最高点は火口の南側にあります。リフト降り場はほぼこの真反対側の北側にあって、ここからぐるりと一周できる遊歩道が整備されており「お鉢周り」ができます。
左右どちら回り歩こうが自由です。火口の底は観光アーチェリー場として利用されています。何でアーチェリー?と思ってしまうのは私だけでしょうか。子供向けにアスレチックでも作ればいいのに。
山頂からの眺めですが、これはもう、素晴らしいの一言に尽きます。東側には眼下に城ヶ崎海岸とその手前の伊豆高原が広がり、これを中心として伊豆半島東岸の180度の大パノラマが広がります。その先の水平線のほうに目を転じれば、すぐ間近には伊豆大島がみえ、さらにその向こうには利島、新島などの伊豆七島も見通せます。
この日は上天気だったのですが、遠くのほうはややかすんでいました。もっと気象条件が良ければ、北には南アルプスまで見えるということでしたが、これは確認できず、富士山も少し雲がかかっていて麓の方しか見えませんでした。しかし、箱根の山々ははっきりみえ、遠くには三浦半島から房総半島に至る陸地まで望むことができました。
東京スカイツリーも見えるということで、双眼鏡で何度も確認したのですが、残念ながらこちらは見えませんでした。ただ、横浜ランドマークタワーを見ることができました。
頂上には二カ所ほど、お地蔵さんが置かれており、このうち東側に置かれている「八ヶ岳地蔵尊」は、近隣沿岸の漁師さんたちの海上安全、海難防止祈願のために設置されたそうです。
このお地蔵さんは比較的新しいもののようでしたが、頂上の西側に安置されている五体の「北五智如来地蔵尊」は、およそ300年も昔に据えられたものだそうです。
その昔、相州岩村(現神奈川県足柄下郡)の地頭の「朝倉清兵衛」という人の娘さんが9歳で身ごもり、その安産を大室山浅間神社に祈願したところ無事安産したのでお礼に安置したということでした。古いものだけに大室山の歴史を感じさせる風情がありました。
頂上には小一時間ほどもいました。あまりにも景色が雄大なので、あちこち写真をとったりしながらゆっくりと歩いて「お鉢回り」をしたためです。これでもう少し空気がすっきりしていたら富士山も含めてもっと良い眺めだったのでしょうが、またもう少し空気がきれいになる冬に来てみても良いと思いました。
この大室山の火口北側の中腹には「浅間神社」があります。今回我々は時間がなかったのでお詣りしませんでしたが、その祭神は磐長姫(いわながひめ)だそうです。
以前、8月の終わりころにこのブログで「花と岩」というタイトルでこの神様のことを書きました。「花」とは富士山の神様で、木花開耶姫(このはなさくやひめ)のことで、「岩」とはそのお姉さんの磐長姫命のことです。
この姉妹のお父さんは、オオヤマツミ(大山津見神)という国津神(地上の神様)で、山と海の両方を司る神様でした。あるとき、高天原(天上)からやってきた天津神(天上の神様)であるニニギノミコトという神様にこのコノハナサクヤヒメが一目ぼれし、求婚します。
お父さんのオオヤマツミはこれをたいそう喜んだのですが、この際売れ残っていたイワナガヒメも一緒に嫁に出してしまえ、と思ったのか、ニニギノミコトに二人とも嫁にもらってくれと頼みます。
ところが、ニニギノミコトは美人の妹コノハナサクヤヒメからの求婚はまんざらでもなかったものの、「おまけ」のイワナガヒメがブスだったことから、「エーッ!?、聞いてないよ~」ということで、イワナガヒメとの結婚は拒み、コノハナノサクヤヒメとだけ結婚してしまいます。
これを聞いたオオヤマツミは怒りまくり、「二人を一緒にもらってくれと言ったのは、イワナガヒメを妻にすればミコトの命は「岩」のように永遠のものとなり、コノハナノサクヤヒメを妻にすれば「花」が咲くように繁栄するだろうと思ったからじゃ。コノハナノサクヤヒメだけと結婚するんなら、お前は早死にしてしまうぞ!」とニニギノミコトに告げたといいます。
実は、このニニギノミコトは歴代の天皇の祖先でした。そしてイワナガヒメを拒否したことで、その後、ニニギノミコトとコノハナサクヤヒメの子孫である歴代の天皇の寿命は、神々ほど長くなくなってしまった、というのが「花と岩」のストーリーでした。
ニニギノミコトと結婚したコノハナノサクヤヒメは、その後三人の子を無事出産し、この三人兄弟の一人、「ホオリ」の孫が、のちの世の神武天皇になります。
そして、その子を産んだコノハナサクヤヒメは、「無事に天津神の子を産んであっぱれであった」とオオヤマツミから称賛を受け、「火の神」を名乗るように許され、同時に褒美として、火山である日本一の秀峰「富士山」を譲り受けたというわけです。
ところが、ニニギノミコトに嫁ぐことができなかった、イワナガヒメのその後については、これにまつわるお話は日本書紀や古事記などにはまったく記されていません。
ところが、この大室山にある浅間神社の社伝では「磐長姫命が、父の計らいで妹と共に天孫である瓊々杵命(ににぎのみこと)に嫁いだが、彼女が瓊々杵命(ニニギノミコト)の子を身籠ったものの大山祇神(オオヤマツミ)の許へ返されてしまったため、当所に産殿を設けて無事に出産した」という伝承が残されているそうです。
日本書紀や古事記などでは、彼女が身籠ったことや産殿の場所については言及がないことから、地元で創作された神話ということなのでしょう。伊東からは大室山も富士山も良く見え、二つの山はそれぞれ姉妹のように見えることから、こうした伝承が生まれてきたのでしょう。
磐長姫命は「岩」のように永遠の命を司る神であることから、これを祭神とする浅間神社は、不老長寿や安産、さらには海上安全や家内安全、学問や縁結びの神として奉られるようになっているといいます。
しかし、地元伊東では、イワナガヒメの化身である大室山に登ってコノハナサクヤヒメの化身である富士山を褒めたたえると、怪我をするとか不漁になるなどの俗信があるそうです。醜いためにニニギノミコトに遠ざけられたイワナガヒメは、美しいコンハナサクヤエを嫉妬しているはずだからというわけです。
なので、もし大室山に登って、きれいな富士山が見えたとしても、「わあ、きれい!」というのはやめたほうがよいかもしれません。帰りのリフトから落っこちたり、自動車事故に遭うかもしれません。
大室山に登ったら、「わあ、大室山ってきれい!」と叫びましょう。きっとこれに気を良くしたイワナガヒメが素敵な恋人を見つけてくれるに違いありません。さらに結婚したらきっと安産で丈夫な子供が生まれて来るでしょう。そのときはもう一度大室山に来て、お礼を言いましょう。今度はきっと長生きを授けてくれるに違いありません……