その名はありか?

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今年の梅雨は長引きそうな感じがします。

東海地方の梅雨明けの平年値は、7月21日ごろで、去年はどんぴしゃこの日でした。しかし一昨年は七夕の7月7日、4年前の2011年も7月8日ごろでしたから、今週末あたり明けてもよさそうなものです。

が、日本近海には台風が3つも来ており、その関係もあってまだまだ梅雨はあとをひきそうです。今年は台風の襲来が早く、そもそも3月の時点で台風が4つ発生しており、さらに、4月上旬に台風5号が、5月に6・7号、6月に8号がそれぞれ発生するなど平年の台風発生数の3倍近いペースで推移しています。

気象の専門家は、フィリピンの東の海で海面水温が平年より1度前後高いために台風が発生しやすくなっているとみているようで、5・6月の時点でこのように台風が多く発生する年は、一年を通しても数が増える傾向があるので注意が必要だ、と呼び掛けています。

ご存知のとおり、日本では、台風が発生した順に台風番号を付けています。気象庁が毎年1月1日を区切りとして番号を振りはじめ、当年12月31日までに発生した台風がその年の連番台風です。翌年1月1日以降に発生した台風については、前年の12月31日までに発生した台風がまだ残っている場合でもリセットして1号から付番することになっています。

これとは別に、2000年からは北西太平洋領域に発生する台風については、「アジア名」がつけられるようになり、台風の国際的な呼称として使用されています。これは、米国とアジア各国で構成された台風委員会によって定められたもので、全部で140個あります。

1番目の「ダムレイ」に始まり、140番目の「サオラー」まで使用されるワンセットからなっており、このリストはアメリカ海洋大気庁NOAAの大西洋海洋気象研究所(AOML)のサイトなどで見ることができます。最後まで行くと最初に戻ります。2012年の台風第10号より3周目に入っており、現在日本近海に来ている台風は、以下のようになります。

9号 →76番目 国際名 Cham-hom(チャンホン:木の名前) 命名国ラオス
10号 →77番目 国際名 Linfa(リンファ:蓮の意) 命名国 マカオ
11号 →78番目 Nangka(ナンカー:果物の名前)命名国 マレーシア

次に発生するであろう、79番目の台風12号は、ミクロネシアが命名したSoudelor(ソウデロア)だそうで、これは「伝説上の酋長」だそうです。このように、○○号といった、味気ない連番ではなく、意味のある愛称で台風を呼ぶというのは、親しみやすくてなかなか良いアイデアかもしれません。

ただ、日本人には馴染のない言葉ばかりであり、ナンカーとか言われても、そりゃあいったい、「何か~」と言われるのがオチです。が、この140個の中には日本が命名したものもあり、例えば今年6月に発生した台風8号は、75番目で、「クジラ」でした。

日本の命名はなぜかすべて星座の名前であり、ほかには、テンビン(5番目)、ヤギ(19番目)、ウサギ(33番目)、カジキ(47番目)、カンムリ(61番目)、コップ(89番目)、コンパス(103番目)、トカゲ(117番目)、ワシ(131番目)など全部で10個があります。

チャンホンだのリンファだのよりも、これならば多少親しみは沸きます。ただ、どういった基準でこの星座名を選んだのかよくわかりません。またヤギやウサギはともかく、コップやコンパスがやってきた、といわれてもピンときません。ほかにもっといい名前はなかったのでしょうか。選んだのは気象庁の職員でしょうが、少々センスが疑われます。

ただ、これらのアジア名も未来永劫続く、というわけでもなく、台風が甚大な被害をもたらした場合には、加盟国の要請に基づく台風委員会の決定によって名称が変更されることがあります。

たとえば、2002年に朝鮮半島に大きな被害を与えた台風15号のアジア名Rusa(シカ)は、次回はNuri(オウム)に変更になることが決まっています。また、2003年にRusaと同様に朝鮮半島に大きな被害を与えた台風14号のアジア名Maemi(セミ)も、次回はMujigae(虹)に変更になることが決まっています。

また、甚大な被害以外の理由でも、発音が誤解を生む可能性がある場合や宗教上の問題で反対する国がある場合などには変更が可能になるそうです。

ほかにも、加盟国が思い直して再提出した場合でも再審議になるようで、実際、台風の被害が甚大だったという理由だけではなく、その他の理由での変更も含めて、これまで10個が既に変更されています。なので、日本でも上の星座名がヘンだ、と国民が拒否すれば、替えてもらえる可能性があります。

どうせなら、偉人の名前とか、もっと親しみやすい名前を付けてもらいたいと思います。ユーミン、タモリとかでもいいし、なでしこ、サムライでもいいでしょう。ただ、個人的にはモエモエとかゴレライとかいうのはやめて欲しいと思いますが……

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なお、東経180度以東で発生したハリケーン等の熱帯低気圧が東経180度以西に進んで台風となったものには、アジア名は命名されず、発生地点で命名された名称がそのまま使用されます。アメリカ合衆国では、このハリケーンにA、B、C順にあらかじめ用意してある名前を付けています。

戦後まだ日本がアメリカの統治下にあったころには、まだ日本も台風に英名をつけて呼んでいました。また、大きな被害を出したカスリーン台風やジェーン台風に代表されるようなハリケーンについては、上述のアジア名と同じく、未来永劫名前リストから削除され、「引退」とするよう決められました。

次回以降から別の国際名が使用されるようになっており、カスリーンとジェーンはもう使われていません。ほかにも2004年にカリブ海の国々やアメリカ合衆国に顕著な影響を与えたハリケーン、アイバン(Ivan)は、この年で「引退」し、次回の2010年にはイゴール(Igor)という国際名が使用されることが決まっています。

ただ、このように大きな被害を出さない場合は、変更手続きがなければいつまでたっても同じ名前が繰り返されることになるわけで、たとえば、アーレーン(Arlene)というハリケーンの国際名は過去に9回も使用されています。が、これまで大きな被害がないため現在のところは「引退」扱いとなっていません。

また、日本に深刻な被害をもたらした、1959年の伊勢湾台風(昭和34年台風第15号)の国際名はベラ(Vera)ですが、これは変更の手続きがされていないため「引退」扱いになっておらず、以降も何度か使用されています。

アメリカは1999年までは北西太平洋領域に発生する台風にも英語名をつけていました。このため、この伊勢湾台風も、東経162度20分に位置するエニウェトク環礁で発生しているのに英名のハリケーン名Veraをつけました。

アメリカは、西太平洋にはサイパンやグアムという自国領土を持っているため、ここに影響があるためでもあるでしょう。ただ、伊勢湾台風はこれらの島々には被害を及ぼさず、実際に顕著な影響があったのは日本だけだったため、変更の手続がなされなかったようです。

現在、アメリカはハリケーンの命名法には男女の名前を用いていますが、かつては女性名のみをつかっていました。このため、日本に襲来する台風にハリケーン名をつけていた当時の命名もすべて女性名であり、上述のカスリーン台風、ジェーン台風が女性名なのはそのためです。1953年の台風2号(ジュディ台風)まで女性名が使用されていました。

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このようにハリケーンを女性名で呼ぶ慣行は、ジョージ・リッピー・スチュワートという小説家の1941年の小説「Storm」において、その主人公が「マリア」というハリケーンであったことに由来します。1940年代から気象学者たちがハリケーン名に女性名をつけるようになりました。

ただし、当初は女性名を正式に使うように決めたのはアメリカ海軍だけで、これは1945年から始められました。これに対してアメリカ気象局(現・アメリカ国立気象局)が女性名をつけるようになったのは1953年からです。

その後この命名法は男女同権に反しており性差別につながるなどとして、世界気象機関(WMO)から改善の要求があり、1979年に男女の名前を交互につける方法に改められました。

なお、アメリカは国土が広く、太平洋と大西洋の両方に面しています。このため、それぞれの海域で別々に命名リストが用意されており、さらに太平洋で発生したものが越境して大西洋に行った場合にはそちらの命名法に従う、といったかなり細かなルールが定められています。

また、北太平洋中部や東部で発生したハリケーンが一定の強度を保ったまま180度以西に到達した場合は台風となりますが、国際名としては発生当時のハリケーンのものがそのまま使用されます。

たとえば、1986年に太平洋北東部で発生したジョーゼット(Georgette)はその国際名を持ちつつ台風11号となりました。また1997年に太平洋北中部で発生したオリワ(Oliwa)は台風19号となりました。

このように台風やハリケーンの命名には細かい国際的な規定が定められているわけですが、これはこうした自然現象を擬人化する、という昔ながらの人類の風習といえます。人間以外のものを人物に例えてその性質・特徴を与えることでそれをより身近に感じることができます。その歴史はかなり古く、古代ギリシャの擬人法(Prosopopoeia)にまで遡ります。

我々普段の生活でも、「鉛筆が手から飛んだ」、「木が飛び跳ねた」、「凶悪な嵐が」などなど幅広く使われ、詩やその他の芸術ではもっと込み入った表現がよく使われます。

一方では、その逆に人の名前に人間以外のものの名を与えて呼ぶ、ということも古くから行われています。擬人化の反対語はないようですが具象化とでもいうのでしょうか。人の名前に花や木の名前、その他自然現象の名を使うことは多く、地名由来のものも多くは自然の具象化です。これについては枚挙のいとまがなく、それだけで本が書けてしまいます。

人の名前のつけかたのルールについても、国々によって異なり、これにもひとくくりには語れません。が、人名をめぐる習慣や制度は一般的に、文化的・社会的事象と結び付いている傾向にあり、個人・家族・帰属についての価値観に左右されることが多いようです。

日本の場合は、民法により氏+名という組み合わせとすることが決められています。明治維新によって新政府が近代国家として国民を直接把握する体制となると、新たに戸籍を編纂し、旧来の氏(姓)と家名(苗字)の別、および旧来の名前に相当する「諱」と「通称」の別を廃して、全ての人が国民としての姓名を公式に名乗るようになりました。

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このうちの名字(姓)は、江戸時代には支配階級である武士や、武士名を名乗ることを許された者のみが持つ特権的な表徴でした。百姓や町人身分の者は姓がありませんでしたが、村や町の自治領内では個々の「家」に属しており、これらの自治体名を自分の姓にして届け出た人も多かったようです。このとき今まで自由だった改名の習慣も禁止されました。

一方の名前のほうは、それまでと変わりなく、明治以降の日本人の戸籍人名は、氏は家名や所属自治体の系譜を受け継いでいますが、名は「諱(いみな」」と「通称」の双方の系譜を引きつぎました。

諱は、本来は、「忌み名」とも書き、古代に貴人や死者を本名で呼ぶことを避ける習慣があったことからこう呼んだのですが、時代が下がると、転じて人の本名(名)のことを指すようになったものです。

身分の高い者だけが使っていい名前であり、これ以外に目下の者が使う「字(あざな)」というのがあり、これと「通称」はほぼ同格です。分かりやすい例で言うと、野口英世の英世は諱の系列であり、夏目漱石の本名、房之介は通称系列ということになります。

さらに時代が下ると、この諱系列と通称系列はもうごったごたになり、現在ではどちらがどちらと区別できないようになりました。

現在では、この名の付け方に法的な制限はないため、漢字表記と読み仮名に全く関連がないものや当て字なども許容されます。たとえば「風」と書いて「ういんど」、太陽と書いて「サン」などというのもありなわけであり、このためそのネーミングを巡っては、最近、日本では奇妙な名前もよくみられるようになりましたす。

「キラキラネーム」なるものがそれで、これは自分の子供に他人とは絶対異なる、変わった名前をつけようとする若い世代の間での流行です。こうしたネーミングを別の呼び方では、DQNネーム(ドキュンネーム)ということもあり、これは、「戸籍上の人名」、つまり「本名」に対して、一般常識に著しく反する「珍しい名前」をつけることを意味します。

DQNとは、もともとは、蔑称・誹謗中傷の意味であり、どちらかといえば蔑視的あるいは自虐的に用いられていた、インターネットスラングです。2000年代以降に急増したといわれており、最近では「キラキラ」のほうが一般的になってきました。

「変名」や「ペンネーム」ではなく、これが本名として使われるところが衝撃的であり、「キラキラネーム」の発祥は、一説にはベネッセコーポレーション発行の育児雑誌だといわれているようです。「たまごクラブ」「ひよこクラブ」がそれで、かつてその増刊号に「名づけ特集」というものがあり、ここから出てきたということが言われているようです。

一部の「命名研究家」は(ほんとうにそういう専門分野があるのかどうか知りませんが)、「DQNドキュンネーム」「キラキラネーム」よりも、「珍奇ネーム」という呼称のほうが妥当だと主張しているようですが、いずれにせよ、「ヘンな名前」であるには違いありません。

ただ、最近の流行かといえばそうでもなく、こうしたキラキラネームは昔からときたまみられました。例えば、落語の「寿限無」に代表されるように、この噺の主人公である赤ん坊に付けられる「名前」は、次のような長いものです。

寿限無、寿限無
五劫の擦り切れ
海砂利水魚の
水行末 雲来末 風来末
食う寝る処に住む処
藪ら柑子の藪柑子
パイポパイポ パイポのシューリンガン
シューリンガンのグーリンダイ
グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの
長久命の長助

「長い」ということがひとつの特徴であるわけですが、無論、このまま役所へ登録した人がいるわけではなく、現在本名として戸籍登録されているものでもここまで長いものはありません。実在が確認されている日本人の人名としては、奈良県在住の男性が名字・名前含めて漢字で11文字という例があるようです。

この寿限無という小噺の発祥がいつかは知りませんが、それにしてもかなり古いようで、少なくとも明治時代には遡るようです。従ってかなり昔から、こうしたヘンは名前を考案しようという風潮はあったのでしょう。江戸時代の国学者、本居宣長はその随筆「玉勝間(たまがつま)」において、子供に珍しい名前がつけられる現象に言及しています。

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江戸時代以前にもヘンな名前がつけられた事例があります。たとえば織田信長の嫡男、信忠の幼名は、その名も「奇妙丸」でした。また、次男、信雄の幼名は茶筅丸(ちゃせんまる)、信高→小洞(ごぼう)と言った具合であり、信吉→酌(しゃく)などは母のお鍋の方の「鍋」になぞらえて付けられたといいます。

また、秀吉も我が子秀頼の幼名に「拾い」(拾丸)とつけています。これはなかなか子供に恵まれなかった秀吉がこれは「拾いものだ」と思った、という説と魔除けの意味合いを持たせたという説のふたつがあるようです。

その昔は、名前自体に「捨て子」「拾い子」を表することは多かったといい、安土桃山時代以前から、「捨て子は強い子に育つ」という言い伝えがあって、わざわざ生まれた子供を路傍に捨て、それを誰か知り合いに拾ってもらって届けてもらう、という風習があったようです。

戦前には、日本でも地方へ行くとこの風習は残っていたところが多く、どこだか忘れましたが、その捨て場所もYの字になっている三叉路の真ん中、と決められていた田舎もあるようです。Yの字の真ん中とはすなわち、子宮のある場所、という意味です。

このように子供の名前にヘンな名前をつける、というのは最近に限ったことではないわけですが、その時代時代の常識・トレンドも時代とともにそのネーミング方法も変化してきています。

現在のキラキラネームがタブーかといえばそんなことはありませんが、DQN(ドキュン)ネームと評されるようなものについては、一般には「一般常識に著しく反する」名前とみなされることが多いようです。

どのような名前や読みが「DQNネーム」にあたるのかは各個人の主観により、人によっても定義は異なりますが、多くの人がみて聞いて首をかしげるようなものはやはりDQNなのでしょう。

たとえば、アニメ全盛の中で育った親たちの中には、光宙(ぴかちゅう)、姫星(きてぃ)、今鹿(なうしか)、黄熊(ぷう)といった名前をつける人がいるようですが、この程度ならば一般常識を逸脱しているかどうかは判断が難しいところです。

その一方で、いったいどういう理由でそれよ、というのもあり、ビス湖(びすこ)美依羅(みいら)鳳晏(ぽあ)美望(にゃも)本気(まじ)などは、ちょっと首をかしげてしまいます。また、亜菜瑠(あなる)麻楽(まら)といった、本人たちはカッコいいと思ったのでしょうが、一歩間違うと下ネタになりかねないようなものもあります。

そのほかにもよく考えたほうがいいのでは、と思えるようなものも多数ありますが、その一方では、澄海(すかい)、七音(どれみ)、希星(きらら)といったなかなか良く考えたなというのもあり、親が子に求める個性の表現方法としてなかなか奥深いものを感じます。

古くは、文豪、森鴎外が世界に通用する名にしたいという思いから、孫や5人の子にドイツ語やフランス語に基づく命名をしたというのは有名な話です。

これは、真章(Max マックス)、富(Tom トム)、礼於(Leo レオ)、樊須(Hansハンス)、常治(George ジョージ)の5人ですが、現在のキラキラネームの元祖ともいえるようなネーミングであり、こちらもなかなか洒落ています。

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こうした名前は、変わってはいるものの、DQNネームと批判する人はいないでしょう。むしろこれからの日本文化の方向性を表しているようなネーミングだと思うわけですが、その一方で、一般常識を逸脱しているというよりは非常識な名前も増えているのは確かです。

ちょっと昔に世間を騒がせた「悪魔」といった名前などは、多くの人が眉をひそめまました。この「悪魔ちゃん命名騒動」は親側と戸籍を受理する側の昭島市との裁判沙汰にまでなり、家裁は「命名権の乱用で戸籍法違反であるが、手続き論的立場から受理を認める」として、親側の勝訴の判断を下しました。が、市側は東京高裁に即時抗告しました。

その後親側が類似の音の名前を届け出て、市がこれを受理したため、時抗告審は未決のまま終局となりましたが、以後こうした変わった名前が是か非かという議論は長く続きました。ある意味、現在のキラキラネームブームの火付け役となる事件だったかもしれません。

その後現在に至るまでに急激にキラキラネームあるいは、DQNネームが増殖したような印象がありますが、これらの中にも悪魔君と同じように裁判沙汰になったものがあり、侮辱・誹謗中傷であると認めた判例が既に数例あるということです。

その名を聞いて、人が精神的苦痛を感じるようなひどい名前である場合や、逆に本名があるのにその人を「DQNドキュンネーム」で連呼してその人の社会的評価を低下させるような場合には、一定の条件を満たせば傷害罪・侮辱罪・名誉毀損罪が成立します。

ただ、日本の戸籍法においては、子供の名前に使用できるのは「常用漢字」および「人名用漢字」としているだけで、戸籍では読み方にまで言及していないため、使用可能な漢字を用いる限り、どのような読みの名前であれ一応、法的に厳格な制限や問題はありません。

ただし、「親と同一の名前」を子につけようとしたケースでは、「難解、卑猥、使用の著しい不便、識別の困難」などの理由で命名することができない」として、役所側の出生届の不受理が認められた例があります。とくに日本では上述の悪魔君の判例以降、社会通念に照らして一般の常識から著しく逸脱した名前は、戸籍法上使用を許されなくなりました。

では、海外ではどうかといえば、たとえば、メキシコ北部ソノラ州の州法では、「侮辱的・差別的で意味が欠如」している、とされる61個の名前は「賛否あるが、子供をいじめから守るため」使えないそうです。

具体的にはYahoo!やバーガーキングなどの企業名や、ハリー・ポッターやジェームズ・ボンドなどの架空の人物、Jack the Ripper(切り裂きジャック)やkiller clown(殺人ピエロ)などの殺人鬼、アガリアレプトなどの悪魔、ヒトラーなど独裁者の名がそれです。

また、ニュージーランドでは子どもが公的な称号や階級を持っていると思われかねない名前(「キング(King)」や「デューク(Duke、公爵)」、「プリンセス(Princess)」など)が禁止されているほか、ルシファー(堕天使)やジャスティスといった名前は裁判で却下されています。ジャスティスは正義の意ですが、法廷用語ということで否定されたようです。

これに対して、スウェーデンのように、こうした命名への政府介入を規制した法律がある国もあり、命名規制そのものに反対する国はわりと多いようです。自由の国といわれるアメリカがそうであり、イギリスもそうです。名前についての規制をもたない国・州・自治体は大多数といえ、日本以外の国でも珍しい名前は増える傾向にあるようです。

なので、日本でもDQNなどと誹謗せずにもっと自由に名前をつけてもいいわけですが、しかし、親はよくてもヘンな名前を付けられた子供のほうはたまったものではありません。長じてから周りから奇異な目で見られ、ときにはいじめの対象にさえなったりもします。

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では、こうしたヘンな名前は変えられるのか?ということですが、結論からいうと、日本では、名前の変更届が認められているようです。

ただし、戸籍上の氏名のうち、「名」のほうだけで「姓」のほうはまず変えられません。よほどの理由がないと認められていないのが現状です。とても奇妙な姓や、難解でとても読むことができないために、社会的に支障が生じる場合や、長期間使っていた通称があり、戸籍上の氏(姓)では生活上支障が生じる場合などだけです。

名前の方も同様なのですが、姓の場合は、族全ての姓が変更となるため、家族全員の同意が必要となるのに対し、名前のほうは個人のものなので、比較的可能性はあるようです。

手続根拠は戸籍法に規定されており、「正当な事由」によって名を変更しようとする人は、家庭裁判所の許可を得れば名前を変えることができます。ただし、「正当な事由」があるかどうかは、当該事件について家庭裁判所の家事審判官(裁判官)が判定することになるので、なんでもかんでも改名がOKというわけにはいきません。

また、15歳以上であれば自分で申請可能ですが、15歳未満の場合は法定代理人(親権者等)が本人に代わって申立てを行う必要があります。

問題はこの「正当な事由」ですが、具体的には、例えば代々の当主が世襲名を名乗っている場合のこの世襲への改名があります。よくわかりませんが、世襲名に変えたほうが何等かのメリットがあるようです。納める税金が少なくなるのかもしれません。このほか、もとの名が神官や僧侶のものあった場合、還俗するといえば認められる場合があります。

さらに、出生届時の誤りや、姓と同じように難解や難読な名前である場合や親族や近隣に同姓同名がいて混乱をきたす場合などがあります。例えば、渡辺とか佐藤とか言った名前は非常に多いため、婚姻や養子縁組によって姓を改めた結果、配偶者や姻族、養家族と同姓同名になってしまった場合混乱を来たすため、改名が認められることが多いようです。

人名用漢字の追加により、「本来使用したかった文字」への変更もOKです。永年使用していた「通称」を戸籍上での本名にしたい、といった場合もあるでしょう。実例として「妹尾河童」さんは元の名は肇ですが、改名が認められました。参議院議員の「はたともこ」さんも元は漢字表記で「秦知子」でした。大川隆法も「中川隆」から改めた名前です。

このほか、帰化した際に日本風の名に改める必要がある場合、異性とまぎらわしい場合、性転換した場合で本人の外見と名前の性別が食い違って不便な場合などがあります。ただし、性同一性障害が理由で名の変更を申し立てる場合、医師が書いた診断書が必要です。

上の悪魔君のように、いじめや差別を助長する珍奇な名前、モンスターペアレントまたはそれに類する親類によって名付けられたDQNネーム、キラキラネームも認められる場合があります。親が好意でつけたとしても、それは「親権者がほしいままに個人的な好みを入れて恣意的に命名」した、と判断されるためです。

このほか、同姓同名の犯罪者がいて、差別や中傷などの風評被害を被っている場合は認められます。さらには、名前そのものに問題はないものの、過去の経緯から著しい精神的苦痛を想起し、日常生活に支障を及ぼすといった場合もあります。

たとえば幼少時に近親者から虐待を受けており、当時を思い出す戸籍名の使用が心的外傷に悪影響を与えるとか、親の愛人と同じ名だったことが結婚後にわかり、円満な家庭環境を害する恐れが強い場合などがそれです。

実際に改名を考えている場合は、まず、家庭裁判所の家事受付・家事相談窓口などと書かれた窓口に行き、事情を説明すれば、必要な資料等について助言してもらえるそうです。その後に申立書および添付資料を用意して申立てすればいいので、真剣に改名を考えている人はお近くの家庭裁判所を探した上で、まず相談してみてください。

ちなみに私自身は自分の名前を気に入っている、というほどではないにせよ、戸籍名を変えようとまで思ったことはありません。もっとも犯罪でも犯せば名前を変えてあちこち潜伏しなければならなくなるかもしれませんが、いまのところ、そういう悪いヤツとはみなされていないようです。

改名したければ、ペンネームを持つこともできるわけであり、これならばその気になれば何度でも変名ができます。キラキラでもDQNであっても自分の責任においてなら、自由なわけで、非常識なヤツ、というそしりを受けても堂々としていられるでしょう。

みなさんも、自分の名前が気に入らなかったら、ちょっとペンネームを考えてみてはどうでしょうか。

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