今日は、トーマス・エジソンが白熱電球を完成させた日だそうです。
日本産の竹の繊維を使ったフィラメントで熱電球を完成させ、1879年の今日、アメリカ・ニュージャージー州で初めて一般に公開しました。
が、エジソンの発明した電球は寿命が短すぎ実用に供するのは難しかったようです。その2年後の1881年、イギリスのジョゼフ・ウィルスン・スワンという物理学者が、このエジソンの電球を改良し、セルロース製フィラメントを用いて販売したものが実用化第一号といわれます。
しかし、スワンはその販売を独占せず、電球の発明者エジソンとともに1883 年、「エジソン & スワン連合電灯会社」を創設して、その普及に貢献しました。その後このフィラメントには、タングステンが使われるようになって飛躍的に寿命が延び、これによって、さらに白熱電球は世界中に広まりました。
ちなみに、エジソンが、白熱電球に使用した竹は、京都男山の石清水八幡宮にあったものだそうです。その境内には、現在彼の記念碑があります。また、嵐山の法輪寺にも記念碑がありますが、こちらはこの寺域内に、電気・電波・コンピュータの守護神として崇敬を集めている「電電宮」というお社があるためです。
がしかし、ご存知のとおり、現在では白熱電球はLED電球に取って代わられ、その存在は風前の灯です。
日本では既に大手メーカー各社が白熱電球の製造を中止しています。地球温暖化防止・環境保護として、白熱電球の生産・販売を終了し、蛍光灯やLED電球への切替を消費者やメーカーに促す動きは世界的に広がっており、早晩白熱電球は過去のものになるでしょう。
ただ、エジソンの発明したものは電球だけでなく、蓄音器、白熱電球、活動写真などなど数えきれないほどのものがあり、傑出した発明家として知られています。生涯におよそ1,300もの発明を行った人物であり、人々の生活を一変させるような重要な発明を数多く残したことで知られる立志伝中の人物です。
その中でも、最も大きな功績は、発電から送電までを含む「電力システム」の事業化に成功したこと、とよくいわれます。エジソンは世界有数の巨大企業「エジソン・ゼネラル・エレクトリック会社」の設立者でもあり、資産家のJ・Pモルガンから巨額の出資・援助をしてもらい、その指揮下で電力システムの開発・普及に努力しました。
しかし、発電から送電までを含む電力システムの事業化にあたっては、直流のほうが有利である、として送電方法について交流を推進するニコラ・テスラおよび彼を支援するウェスティングハウス・エレクトリック社と激しく対立しました。
その結果としては、テスラが勝利しましたが、その理由は、交流の利点は、変圧器を用いた電圧の変換が容易である事、送電において直流よりもより遠方に電気を送ることが可能であったことなどです。また直流が必須である電気器具を使用する場合も、交流から直流への変換は容易ですが、逆に直流から交流への変換は困難であることなどもその理由です。
エジソンはアメリカ生まれですが、このテスラはオーストリア生まれです。1884年にアメリカに渡り、エジソンの会社・エジソン電灯に採用されました。当時、直流電流による電力事業を展開していた社内にあって、テスラは交流電流による電力事業を提案。これによりエジソンと対立し、1年ほどで職を失いました。
1887年、独立したテスラは、「テスラ電灯社」を設立し、独自に交流電流による電力事業を推進。同年に交流電源に関する特許を得ます。この特許を使用した交流発電機はウェスティングハウス・エレクトリック社の技師、ベンジャミン・G・ランムの設計によってナイアガラの滝のエドワード・ディーン・アダムズ発電所に世界で初めて取り付けられました。
この発電機は、「テスラタービン」と呼ばれ、その性能の高さと安定した電力の供給能力は高く評価され、その後またたくまに世界中で使われるようになりました。現在においても、送配電システムは交流がおおよそ主流となっているのは、このテスラの功績によるところが大きいようです。
テスラは、1915年、エジソンとともにノーベル物理学賞受賞候補となりましたが、共に受賞できませんでした。双方が同時受賞を嫌ったためとも言われています。2人は生涯に渡って仲が悪く、直流か交流か、といった論争による「電流戦争」はそれほどまでに深いいしこりを残しました。
その後、テスラは1930年代にも受賞候補に選ばれましたが、やはり受賞できませんでした。しかし、1916年、米国電気工学協会エジソン勲章の授与対象になり一度は断るものの、再考して1917年にこれを受けました。
考え直した理由はよくわかりませんが、二人ともこのころにはかなり高齢になっており、そろそろ許し合おうか、という気分にもなっていたと考えられます。またこの受賞の3年前にエジソンは自前の研究所を火事で全焼し約200万ドルの損害を蒙っており、それに対する同情めいた気持ちなどがあったのかもしれません。
エジソンは、1931年に84歳で死去。また、対するテスラは、その12年後の1943年に83歳で亡くなりました。2人は生涯いがみ合っていましたが、エジソンが典型的な実験科学者であったのに対して、テスラは理論科学者であったことから、その研究手法は水と油ほどの違いがあり、そうしたことが不仲の原因ではなかったか、とはよくいわれることです。
死後、エジソンの名は、「エジソン・ゼネラル・エレクトリック会社」に残されましたが、同社はその後「エジソン」の名をとりさって、現在は「ゼネラル・エレクトリック社」になっています。従って、エジソンの直系の会社で彼の名を冠している会社はありません。
しかし、アメリカ国内の電力・配電会社の社名でエジソンの名前を冠しているところは少なくなく、コンソリデイテッド・エジソン(ニューヨーク)、サザンカルフォルニア・エジソン(ロサンゼルス)、コモンウエルズ・エジソン(シカゴ)などが挙げられます。
対するテスラの直系の会社もありません。ただ、彼は旧オーストリア帝国の出身であり、これは現在のクロアチア西部、セルビアにあたることから、セルビアの首都、ベオグラードにある国際空港は、彼の名にちなみ、ベオグラード・ニコラ・テスラ空港と呼ばれています。
また、アメリカには、彼の名前を冠した「テスラ・モーターズ」という自動車会社があります。シリコンバレーのパロアルトを拠点に、バッテリー式電気自動車と電気自動車関連商品を開発・製造・販売している会社であり、昨今急速に拡大している会社です。
社名は無論、ニコラ・テスラにちなむものであり、製造しているクルマの発動機は、「三相交流誘導電動機」といい交流電力を利用したものであり、同じく交流誘導電動機や多相交流の送電システムを考案・設計したテスラにあやかってのことのようです。
創業者の、イーロン・マスクは、南アフリカ共和国・プレトリア出身のアメリカの起業家であり、現在では同社から離れ、NASAからも宇宙船の設計開発を委託されるほどのアメリカ屈指の有力企業に成長した「スペースX社」の共同設立者およびCEOです。
電子メールアカウントとインターネットを利用した決済サービスを提供するPayPal社の前身であるX.com社を1999年に設立した人物でもあります。絵に描いたような「アメリカン・ドリーム」を体現した人ですが、元々はアメリカ人ではなく、南アフリカ人の技術者の父親とカナダ人の母親との間に南アフリカで生まれました。
10歳のときにコンピュータを買い、プログラミングを独学したといい、12歳のときに最初の商業ソフトウェアであるBlasterを販売しています。17歳のとき、親の援助なしに家から独立し、南アフリカでの徴兵を拒否してアメリカへ移住を決意しました。
母親はカナダの生まれであったため、当初はカナダに移住し、カナダ中南部のサスカチュワン州の小麦農場で働き、穀物貯蔵所の清掃をしたり野菜畑で働いたり、製材所でのボイラーの清掃やチェーンソーで丸木を切る仕事などもしていました。トロントへ引っ越して、クイーンズ大学を入学後、米ペンシルベニア大学から奨学金を受け、同校で学位を取得。
高エネルギー物理学を学ぶためスタンフォード大学の大学院へ進みましたが、2日在籍しただけで退学し、弟とともに、オンラインコンテンツ出版ソフトを提供するZip2社を起業。この会社はのちに大手コンピュータメーカー、コンパック社に買収され、マスクは3億700万USドルの現金と、ストックオプションで3400万ドルを手にいれました。
ストックオプションとは、所属する会社から自社株式を購入できる権利で、株価が上がれば上がるほど利益も大きくなるため、アメリカでは業績に貢献した役員らのボーナス(賞与)としてよく利用されるシステムです。
この成功により、PayPal社やテスラモーター社を育てあげましたが、現在ではスペースX社における宇宙開発のほか、太陽光発電会社「ソーラーシティ社」なども立ち上げ、同社の会長に就任しています。2013年には時速約800マイル(約1287キロ)の輸送機関ハイパーループ構想を明らかにしました。
これは、100pa程度に減圧された「チューブ」の中を空中浮上(非接触)させた列車を走らせるというもので、車両前面からチューブ内のエアを搭載したファンで吸い込み、底面から圧縮排出して車体を浮上させます。
区間はロサンゼルスとサンフランシスコ間(全長610km)での施行を予定しており、これを最高時速1,220kmの速度で30分で結ぶ計画です。建設には、20年以上かかると見積もられており、全体建設費用は75億ドル(9,000億円)を見込むといい、車体の開発費も含めると合計で10億ドル(120億円)に上ると予想されています。
そんなもの本当に実現するんかいな、と懐疑的になってしまいますが、日本だって夢の夢といわれたリニアモーターカーを実現しようとしており、可能性がないわけではないでしょう。彼が立ち上げた、テスラ・モーターズ社のクルマを見れば、それもあるのかな、とつい思ってしまいます。
日本ではまだ馴染のないこの会社の販売している車は、アメリカでは高い評価を得ています。最新型の「モデルS」は、セダンタイプの電気自動車であり、テスラ・ロードスターに続いて同社としては2車種目で、そのパワートレインには、新規開発された9インチの液冷式モーターを採用しています。
最高航続距離は最高300マイル(約483km)を誇り、充電可能な電圧は110V、220V、440Vに対応。220Vなら4時間、440Vなら最短45分で充電可能とされています。
最高速度は200km/hといわれますが、これは安全のため制限されている速度です。また、0~100km/hの加速は4秒を切るそうで、この性能は30万ドルのスーパーカーにも劣らない驚異的な加速性能だといいます。
年費もトヨタ・プリウスのおよそ2倍で、370km走っても電気代が500円程度で済むといい、その後さらに、モデルXというクロスオーバーSUVタイプの電気自動車も発売を予定しているといいます。
電気自動車(EV)は、ガソリン車やハイブリッド車に比べても必要なメンテナンスは極めて少なく、オイル交換は不要です。またブレーキのメンテナンス等も電気制動によるブレーキングシステムのために少なく済みます。ミッションオイル、ブレーキフルード、および冷却水の交換も不要であるため、水素自動車に次ぐエコカーとして日本でも注目されています。
トヨタ自動車は、2010年にまだイーロン・マスクがCEOだったときにカリフォルニア州で記者会見を行い、EVそのものや部品の開発も含めての業務・資本提携にテスラ社と合意したと発表しています。
同年には、テスラ東京青山ショールームがオープンしており、この時に合わせ、ロサンゼルス郊外の港で日本向け車両12台が報道関係者に公開されました。それに伴い日本語版ウェブサイトも開発され、ロードスターの予約が開始されたといい、初出荷分は売約済みで、価格は1,810万円だったそうです。
最新型のモデルSの推定価格は60,000米ドルとされており、これは現在のレートでは700万円強であり、かなりお求めやすくなっています。新車を購入のご予定の方、検討されてはいかがでしょうか。
さて、余談がすぎましたが、このテスラ・モーターズの名前の由来となった、ニコラ・テスラは、その晩年には霊界との通信装置の開発に乗り出すなど、かなりオカルト色い研究を行っていたようです。このことは、変人といわれたテスラの名を一層胡散臭いものとして響かせる原因ともなっており、彼への正当な評価を余計に難しくさせています。
もっとも、晩年の研究においてオカルト色が強まったのはエジソンも同様であり、エジソンもまた、超自然的、オカルト的なものに魅せられていたといい、来世を信じていたといいます。降霊術を信じていて、近代神智学を創唱した人物として知られる、ブラヴァツキー夫人の開く神智学会に出席したこともあります。
神智学というのは、通常の人間的な認識能力を超えた神秘体験や神秘的直観、神もしくは天使の啓示によって、神を体験・認識しようとするもので、現在スピリチュアリズの源流とされているものです。
仲の悪かったエジソンもテスラは、まるで示し合わせたように、その晩年に死者と交信する電信装置(Spirit Phone) を研究しており、こうした研究から人々からかなり変人扱いされました。
ただ、テスラもエジソンも、社会とうまくやっていく能力にほんの少々欠けていただけであり、自分が不思議と思うことに対する純粋な探究心からこうしたオカルト的な研究に没頭していたとも考えられます。
研究テーマが風変わりであるだけに、世間からは色眼鏡で見られることも多かったものの、彼等は真剣そのものでした。とくにエジソンは、「人間の魂もエネルギーである」と考え、「宇宙のエネルギーの一部である」と考えていました。
「エネルギーは不変なので、魂というエネルギーは人間の死後も存在し、このエネルギーの蓄積こそが記憶なのだ」と考えており、エジソンの言によれば、自分の頭で発明をしたのではなく、自分自身は自然界のメッセージの受信機で、「宇宙という大きな存在からメッセージを受け取ってそれを記録することで発明としていたに過ぎない」のだといいます。
また、エジソンは合理主義者を自負しており、1920年代を通じて常に「自由思想家協会」という組織を支持していました。「自由思想家」というのは、教会や聖書の権威にとらわれず、理性的見地から神を考察することを信条としている人々で、一般には、権威や教条に拘束されず自由に考える思想家のことをさします。
こうした概念や考え方は近年では「セレンディピティ」と表現されることもあります。これは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見することであり、また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけることです。平たく言うと、「ふとした偶然をきっかけに幸運をつかみ取ること」でもあります。
「serendipity」という言葉は、イギリスの政治家にして小説家であるホレス・ウォルポールが1754年に生み出した造語であり、彼が子供のときに読んだ「セレンディップの3人の王子(The Three Princes of Serendip)」という童話にちなんだものだそうです。
セレンディップとは現在のスリランカのことであり、このためこれは「スリランカの3人の王子」という意味になります。ウォルポールがこの言葉を初めて用いたのは、友人に宛てた書簡においてであり、この手紙のなかで、自分がみつけたほんのちょっとした発見について説明しています。その書簡の原文も残っているといいます。
その中には、彼が生み出した「セレンディピティ」という言葉に関する説明もあり、「セレンディップの3人の王子」という童話の中に登場する王子たちが、旅の途中、いつも意外な出来事と遭遇し、彼らの聡明さによって、彼らがもともと探していなかった何かを発見する、といったことを綴っています。
たとえば、王子の一人は、自分が進んでいる道を少し前に片目のロバが歩いていたことを発見します。なぜ分かったかというと、道の左側の草だけが食べられていたためであり、現象を注意深く観察していれば、予想外の発見ができる、それが「セレンディピティ」だというわけです。
日本語では、この「セレンディピティ」を「偶察力」などと訳される場合もあるようですが、確固とした訳語は定まってはいないようです。統合失調症の治療法の第一人者である、神戸大学名誉教授の中井久夫さんという精神科医は、これを「徴候的知」と呼びました。
「微候」というのは、物事の起こる前触れ、きざし、るし、気配のことで、「インフレの微候がみられる」という風に使います。類義語に「前兆」がありますが、「前兆」はある出来事が起こる以前にその出現を知らせるもので、これに対して「徴候」または「兆候」はある出来事が起こりかけているという気配をいいます。
ほんのちょっとのしるしで、何かを知ることができる能力というわけですが、セレンディピティは、失敗してもそこから見落としせずに学び取ることができれば成功に結びつくという、一種のサクセスストーリー的なエピソードとして語られることが多いようです。
また科学的な大発見をより身近なものとして説明するためのエピソードの一つとして語られることが多いようです。ワクチンによる予防接種を開発し、狂犬病ワクチンなどを生み出したフランスの生化学者、ルイ・パスツールによれば、「構えのある心」(the prepared mind)がセレンディピティのポイントなのだといい、次のような言葉を残しています。
「観察の領域において、偶然は構えのある心にしか恵まれない」
セレンディピティが見出せる代表例としては、アルフレッド・ノーベルによる、ダイナマイトの発明(1866年・ニトログリセリンを珪藻土にしみ込ませて安全化することを偶然発見)、ヴィルヘルム・レントゲンによる、X線の発見(1895年・電磁波の研究から偶然発見)、キュリー夫妻による、ラジウムの発見(1898年X線の研究から偶然発見)などがあります。
また、アレクサンダー・フレミングによる、リゾチームとペニシリンの発見(1922年と1928年)は、フレミングが培養実験の際に誤って、雑菌であるアオカビを混入させたことが、のちに世界中の人々を感染症から救うことになる抗生物質発見のきっかけになりました。
カーボンナノチューブを開発した、日本の飯島澄男(当時NEC筑波研究所研究員、名城大学終身教授)も、フラーレンという特殊素材を作っている際に、偶然カーボンナノチューブを発見しました。
この発見は、と同時にこの研究のために開発していたTEM(透過電子顕微鏡)の発達を加速させ、これにより電子顕微鏡の技術開発においても日本は世界にリードするほどの高度な技術を得るところとなりました。
このセレンディピティによく似た意味のことばに、シンクロニシティ(synchronicity)というのもあります。「意味のある偶然の一致」のことで、日本語訳では「共時性(きょうじせい)」「同時性」「同時発生」とも言います。
これは、たとえば、同時発生的に離れた場所で起きた二つの事象が、そのときには何も関係がないと思っていたにもかかわらず、後になって客観的に考えてみると、シンクロ的に起きたのだと確信できるようになる、といったことです。
例えば、会いたいと思っていた人にバッタリと出会う、とか、タクシーをさがしていると、目の前で客が降りる、といったことであり、あとで考えてみると、どう考えても偶然ではなかったと思えたりするわけです。また、買おうと思っていたものを突然プレゼントされる、といったこともシンクロニシティです。
心理学者のユングもこうした事象は、「偶然」によって起きているのではなく、何等かの理由があり、必然的に同時に起こった(co-inciding)ものとみなせる、ということを書いています。
スピリチュアル的にも、何かのサインや呼び寄せた偶然、いわゆる「虫の知らせ」だということもあります。第六感(sixth sense)である、ともいわれ、これは五感以外のもので五感を超えるものを指しており、理屈では説明しがたい、鋭くものごとの本質をつかむ心の働きのことです。
自身や家族等の生命に危険が迫った際に「虫の知らせが起きた」と認識されたり、電話がかかってくる前に予知したり、その電話が誰から掛かって来るかを予知したという主張がなされる場合があります。数百キロ離れた水場に向かって迷わず移動するある種の動物は、人間より遥かに優れた嗅覚で水の匂いを嗅ぎ当てているとされます。
また、人間においての「嫌な予感」というものは、人間に備わっている野性的な本能からきているといわれ、機械の部品の変形による微かな摩擦音やコンロのガスの臭いが若干違うなど「いつもと違う」ということを無意識のうちに感じ取っている、とされます。
チェルノブイリ原発の爆発事故では、この事故の2日前から、一部の作業員が「何か落ち着かないと自覚していた」と、その後のインタビューに答えています。
こうした能力はまた、予知能力だともいわれます。時系列的にみて、その時点では発生していない事柄について予め知ることであり、経験則や情報による確定的な予測と異なり、超能力や啓示などの超越的感覚によるものを指すことが多いものです。
現代科学においては、こうした超越的感覚をなんとか実現できないか、といった試みも行われるようになっています。例えば、地震予知や火山噴火の予知であり、このほか、事故の発生の確率の危険予知、設備等の不全の事前予知保全などがあります。
そのために開発されているのが、人工知能(artificial intelligence、AI)であり、人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現させようという試みです。
日本だけでなく、いまや世界中で無人戦闘機や、無人自動車ロボットカーの開発をしています。がしかし、いまだに完全な自動化には至っていません。ロボット向け人工知能も研究も進んでいますが、環境から学習する従来型の行動型システムから脱却しておらず、「我思う、故に我あり」といった人工知能が開発されるのはまだまだ先とみなされています。
しかし、2045年には人工知能が知識・知能の点で人間を超越し、科学技術の進歩を担う技術的特異点(シンギュラリティ)が訪れるとする向きもあり、早くも「2045年問題」を唱える学者もいます。技術的特異点とは、科学技術が十分意発達し、この時点で人類を支配するのは人工知能やポストヒューマンである、という時期です。
この時点ではこれまでの人類の傾向に基づいた人類技術の進歩予測は通用しなくなると考えられており、こうした未来においては十分に複雑なコンピュータネットワークが群知能を作り出すかもしれません。将来にわたって改良された計算資源によってAI研究者が知性を持つのに十分な大きさのニューラルネットワークを作成している可能性もあります。
こうした巨大ネットワークを別名、巨大知(Organic Intelligence)といい、人類が技術的特異点に達するころにはこれも実現しているのではないかといわれます。
これは、環境を観測するセンサーや各種コンテンツ配信システムがインターネットへ接続され、地球全体で情報が統合処理される結果として成立する地球規模の知性です。端的には、地球全体を覆うコラボレーション関係の成立とも説明できます。
楽天技術研究所が2007年に提唱を開始した「サード・リアリティ」という概念を説明する文章の中では、都市や国家単位の規模で成立する集合知同士がインターネットで相互接続され、統合して処理が行えるようになる結果として、地球全体として成立しつつある知性として、この巨大知が説明されています。
それによれば、環境を観測するセンサーや各種コンテンツ配信システムのインターネットへの接続により、産業、医療、気象、交通、農業、芸術作品等の様々な情報がインターネット上に蓄積され、不特定多数の人間により改変が行われることで、人類が得た多様な知識が地球全体で統合処理されるようになります。
その結果として、地球全体を覆う程に巨大かつ高度な知性が成立します。そしてこの巨大知の成立の結果として、従来は思いつきもしなかったような新しい発想が生まれやすくなり、文明の進歩も大幅に加速されることになります。
現時点においても、2010年以降は、急激に向上した計算機の性能を活かし、インターネット上に蓄積されたビッグデータの解析により様々な知識の抽出を行うことが一般化しました。その知識を利用して、学術研究やビジネスを行うことが可能になり、例えば、Twitterのビッグデータのトレンドがテレビ番組で頻繁に紹介されるようになりました。
東北大震災では、この災害時にスマホでツイッターで情報を上げた人の動向を分析した研究者がおり、その結果、被災直後に津波が来ることを予想して、多くの人が家族の安否を気遣って自宅に戻ろうとしていた、といったことが彼等が使用したスマホのGPS分析などからわかっています。
このようにビッグデータを巨大知の卵と考え、これを逆に利用して人工知能を開発しようとする研究も盛んに行われるようになっており、「ビックデータ」ということば自体の成立から10年ほどが経過した2015年以降も、インターネット上への知識の蓄積と通信速度の向上に伴い、巨大知の更なる高度化が進行していると考えられます。
2010年代中盤においてはさらに、IoTの普及が進行しているといわれます。IoTとは、モノのインターネット(Internet of Things、IoT)のことで、一般的には、識別可能な「もの」がインターネット/クラウドに接続され、情報交換することにより機器相互が制御しあう、あるいは情報が流通する仕組みです。
わかりにくい概念ですが、数多くの情報が含まれているスマートフォンや、ID情報を埋め込んだタグのように、IPアドレスを持った機器からはそこに格納されている「コンテンツ」をインターネットを使って自由に売り買いできる時代になっています。これをIT業界では「サービスのモノ化が進んでいる」と表現しており、これがIoTです。
近年では、ものすごく膨大な量の情報をゴマ粒のような小さなワンチップのIC (集積回路)に集約してIoTを実現できるようになりつつあり、インターネットを対象とする研究者らは、こうしたICタグと種々のセンサーを合体させ、これによって収集された実世界に関する精緻な情報をインターネット上で統合処理できるようになると予測しています。
動物や人間などのレベルだけでなく、細菌レベルでもこうした情報が収集できるようになると考えられており、そうした精緻な情報を世界的に集合させることによって、「集団的知性(Collective Intelligence、CI)」と呼ばれるようなものまで、仮想現実の中で模倣できるようになるのではないか、とまでいわれています。
集団的知性の好例は政党です。政治的方針を形成するために多数の人々を集め、候補者を選別し、選挙活動に資金提供しますが、その根本とは、「法律」や「顧客」による制限がなくても任意の状況に適切に対応する能力を有することです。
政党というのは、一つのポリシーを持つ人々を集めた集団であり、自分たちの目的によっては勝手に法律を作り変えることができるわけであり、その目的いかんによっては非常に単純な思考集団とみなせなくもありません。先日、戦争法の通過を許した、アジアのどこかの国の第一党与党も、その傾向にあります。
そう考えれば、軍隊、労働組合、企業も、政党と同じように特定の目的に特化した組織であり、集団的知性の本質の一部を備えているといわれます。
これを模倣した人工的に作られた集団知性は、それ自体に知能、精神が存在するかのように見える「知性体」でもあり、将来的には、政党や軍隊、企業が持っているのと同等の「コミュニティ能力」をも持っているものになる可能性もある、というわけです。
だんだんと、SF的になってきたのでもうやめますが、一方では、哲学・思想的な側面から、こうした人工的な集合知を実現させることは許されない、とする立場の学者も当然います。
それはそうです。そうした人工知能によって政治やら軍隊が動かされるような時代になったとすれば、各個人の思考・行動においては、自己の裁量が介入する余地が殆ど無くなっている可能性があるわけです。
すべてコンピュータがやってくれる、という世界では、人間の行動パターンの変化が無くなり、環境変化への柔軟性が損なわれてしまう可能性もあり、将来的にやってくるかもしれない氷河期には人類は滅亡しており、後の世界は機械が支配していた、なんてこともあるわけです。
機械に支配された将来の人類、というパターンのSF映画が数多くつくられていますが、巨大知、集団知が実現した世界では、人類は自分では何も考えない、考えられないような生物になっている可能性もあるわけであり、科学の発達がすべて正しい、と考えるのは早計なようです。
さて、今日は話題もりだくさんで、しかも最後のほう、結構お堅い内容になりましたが、ご理解いただけたでしょうか。
今晩は、オリオン座流星群がピークだそうです。これを読んで疲れた方は、夜半、東の空を眺めて、気を取り直してください。