ここのところ、毎週のように北朝鮮がミサイルを打ち上げており、この暴走国家をどう裁いていくか各国の度量が試されている、といった状況です。
北朝鮮は、このミサイルとは別に、先日は過去最大級の核実験も行っており、開発に成功したとされているのが水素爆弾(hydrogen bomb)です。
わかった気にはなっているものの、いったいどういうものなのかは理解していなかったので、今日はひとつ、忘備録としてこれを整理してみることにしました。
そもそも原爆とは何が違うのか、という点ですが、ひとくちに言うと、原子爆弾は「核分裂」であり、水素爆弾は「核融合」です。
まず、核分裂のほうですが、物理学者であるアインシュタインは、相対性理論によって、物質はその質量分だけエネルギーを持っているという事実を明らかにしました。例えば広島に投下された原子爆弾に使われていたウラン235という物質は、中性子を強制的にあててやると複数に「分裂」し、そのときエネルギーを発する、という性質を持っています。
ここで中性子とは何か、ですが、地球上の物質の多くは細かく分けていくと分子になります。分子はその物質の化学的な性質を保った最小の単位で、原子の組合わせでできており、この原子は100種類以上あります。
原子は電子と原子核でできており、ほとんどの原子核は陽子と中性子でできています(水素原子のほとんどは陽子のみ)。陽子は正の電荷を持った素粒子で、中性子は電荷ゼロ(中性)の素粒子です。ややこしいですが、ここまでを単純にまとめると、
分子→原子→(電子+原子核(→(陽子+中性子))
いうことになります。
ここで、原子核を構成する陽子、中性子の組み合わせは多数あるため、いろいろな原子ができますが、この原子核の種類を「核種」といいます。核種によってはその量子力学的バランスの不釣り合いから、「放射線(α線、β線、γ線など)」を放出するものがあります。
この放出を「放射性崩壊」と呼び崩壊現象を起こして他の核種に変化します。そしてこのような放射線を放出して放射性崩壊を起こす性質のことを放射能 (radioactivity) と呼びます。
一般的には放射線のことを放射能と呼ぶことが多いわけですが、もともとは「放射する能力」のことを指しているわけです。
ここで、「崩壊」と「分裂」の違いですが、この2つは似てはいますが別の現象です。「分裂」は原子核がその不安定さゆえに「割れる」ことで、中性子を当てるなどして無理やり分裂させることです。
一方、「崩壊」は原子核がその不安定さゆえに「欠ける」ことで、何もしないでも普通自然に起こる現象です。そして崩壊の段階でα、β、γなどの放射線が、「欠けた原子核の片割れ」として放出されます。
さて、通常の物質陽子と中性子は互いにπ(パイ)中間子を交換しながら安定な結合をしています(このパイ中間子こそが、当時大阪大学の講師であった湯川秀樹が、その存在を予言し、のちに確認されたものです)。が、他の物質に比べて不安定な放射性物質であるウランなどではここに余分な中性子を当てるとさらに不安定になって分裂が促進されます。
いくつかあるウランの種類はみんな不安定ですが、そのひとつ、ウラン235はそれがとくに著しい、つまり分裂速度が速く、原子核が中性子を吸収すると2つに分裂し、また、この際に2個ないし3個の中性子を出し、それによってさらに反応が続く…といったふうに加速していきます。
ちなみにウランは、地球上では安定して存在し続けられない元素であることが知られており、だんだんとエネルギー、つまり放射能を放出しながら崩壊して小さくなっていきます。その時間を半減期といいますが、ウラン238の半減期は約44億6800万年もあるのに対し、ウラン235の半減期は約7億380万年です。
このように半減期の長い放射能性物質はウランに限らず、ほかにもいくつか地球上に存在していますが、ウランの場合、現在の地球に天然に存在しているのは、ウラン238(地球上のウランの約99.274%を占める)、ウラン235(同0.7204%)、ウラン234(0.0054%)の3種だけです。
ウランと同じくよく耳にするのがプルトニウムですが、ウラン鉱石中にわずかに含まれており、天然ではウラン以上に希少です。原発の原子炉において、ウランが崩壊する過程でプルトニウムができるので、まあ言ってみれば姉妹の放射性物質といっていいでしょう。
ウラン238、238、234などはこれらは原子番号は等しいものの、質量数が異なる原子なので、「同位体」といいます。また、プルトニウムもプルトニウム239、プルトニウム241その他いくつかの同位体が存在しています。ちなみにプルトニウムはウランよりもかなり不安定な物質のため、原爆の開発の段階で危険とみなされてあまり利用されなくなりました。
強制的に当てた中性子を吸収し、分裂後に生成された物質をすべて足し合わせたウランの質量は、当初よりごくわずかに軽くなっています。足し合わせたのになぜ軽くなるか、ですが、その質量分が実はエネルギーとして外部に放出されているわけです。
通常は長~い時間をかけて「崩壊」しながら放出されるわけですが、無理やり「分裂」というやり方で放出を促進すると、このわずかな差分が、瞬時に途方もないエネルギーとして外部に放出されることになります。これを応用したものが、これすなわち原子爆弾です。
ウランやプルトニウムの分裂が瞬間的に進むように設計したものですが、分裂の速度があまりにも速いので結果として「爆発」という現象になります。
ちなみに、こうしたウランやプルトニウムは微量なエネルギーを何億年もかけて放出しますが、このエネルギーを生活に必要な程度に、かつ人類の時間感覚に合うようなスパンでゆっくり取り出すように設計されたのが、「原子力発電所」ということになります。
核分裂を利用した原爆の説明、ここまではよろしいでしょうか。
さて一方の水素爆弾のほうです。冒頭で述べたとおり、原子爆弾のような核分裂反応ではなく「核融合」反応を用います。
この核融合に用いる原子はウランではなく、「水素」です。水素をある条件で4つ組み合わせるとヘリウムという物質に変化しますが、水素4つの質量とヘリウムの質量を比較すると、足し合わせたのにも関わらず、ごくわずかにヘリウムの方が軽くなっています。このときわずかな質量変化ではありますが、膨大なエネルギーが出ます。
中性子を吸収したのに軽くなり、このとき大きなエネルギーが出す、といったところが核分裂と似ています。しかし、核分裂のように原子を「分裂」させるのではなく、逆に複数の物質を併せて「融合」させ、質量の差分をエネルギーとして取り出すのが核融合反応です。似たところはあるものの、その原理はまったく逆の発想から来ています。
このアイデアの発見は、そもそもは、「なぜ、太陽は何十億年も輝き続けられるのか?」という疑問から始まりました。「決して物が燃えているのではない、物が燃えているのであれば、数十年で燃え尽きるはずだ」という疑問から始まり、「太陽の中心部では、水素同士が融合してエネルギーを発しているにちがいない」という結論にたどりつきました。
そして研究が進み、太陽は基本的にその構成要素の73%を占める水素と水素同士を結合(融合)させ、その結果として膨大なエネルギーを生み出しているということがわかりました。
上で少し触れましたが、水素の原子核は中性子を持っておらず、陽子のみからなる原子核11個と電子1個からできており、非常に単純な構造であるとともに、この世で最も軽い元素です。
もっとも、水素のなかには、中性子が1個存在する「重水素」と、2個存在する「三重水素」という同位体があり、水爆の原料にはこの重水素や三重水素、あるいはリチウムなどを用います。が、説明がややこしくなるので、ここではこれらを説明しません。
で、何が言いたいかと言えば、水素原子は1個の陽子しか持っていない単純構造のため、原子核どうしが引き付けあう力(核力という)が元素の中では最も小さく、融合し易い元素です。宇宙が誕生した時は水素しかなく、そのうち水素が核融合して陽子2個のヘリウムが誕生したと言われていますが、その単純さがこの世界を生み出したわけです。
ここで疑問が生じます。それだけ融合し易い元素なら、地球上にある水素は絶えず融合して、いつもエネルギーを出せるようになるじゃないか、と誰もが思うでしょう。が、そうはなりません。水素核が融合するためには大きな条件が必要であり、それは「熱」と「圧力」です。
水素核を融合させるには、水素ガスの温度を1億℃以上、または圧力を地球の大気圧の1千億倍にしなければならないといわれています。これに比べれば鉄が溶ける温度はわずか 1500~1600度であり、通常の火薬を爆発させても1億℃というような超高温にはなりません。1億℃といえば、溶鉱炉の温度の6万倍もの温度になります。
そんな超高温は、普通では考えられないし、地球上の自然ではつくることもできませんから、水素核は融合することはない。従って、水素核が融合してエネルギーを放出する、といったことは、我々の周囲で日常的には起こらないのです。ちなみに宇宙の始まりのビッグバンの時には信じられない規模の高温高圧があり、大量の物質融合が進んだとされます。
この宇宙の形成過程においては、時間が経つにつれて、ほとんど一様に分布している物質の中でわずかに密度の高い部分が重力によってそばの物質を引き寄せてより高い密度に成長し、ガス雲や恒星、銀河、その他の今日見られる天文学的な構造を形作りました。
そしてその名残のひとつが太陽です。太陽の中心部には、この高温・高圧があります。太陽は地球よりも遥かに大きな星であり、その中心部ではとてつもなく大きな圧力が生じています。圧力が大きくなれば温度が上がるのはごく自然のことです。太陽の中心部では水素核を融合させるだけの温度と圧力があり、ゆえに核融合反応が生じているのです。
で、地球上で核融合を起こさせるためにはどうすればいいか。それなら太陽と同じような条件で高温高圧の状態を作り出せばいい、ということになります。ただ、普通のやり方ではそんな非日常の状態を生み出すことはできません。
もうおわかりでしょうが、そこで使用されるのが、「原子爆弾」です。水素核を融合させるために、原子爆弾の核分裂反応から生じる高温・高圧を利用します。
まず、原子爆弾を爆発(核分裂)させ、その爆発によって生じる高温と高圧によって水素が核融合を起こすほどのエネルギーが発生します。そして次々と水素核の核融合の連鎖反応を生じさせることによって、大きなエネルギーを生み出すのです。
つまり、核分裂爆弾が水素爆弾の起爆装置になっており、水爆とは原子爆弾を起爆装置とした複合爆弾ということになります。
ただ、そうしたアイデアは同じであるものの、各国で作っている水爆の構造形式は違っていると考えられています。ただ、それがどの程度違うのかはよくわかっていません。なぜかといえば、水爆の構造は重要な軍事機密であるため公式には公表されていないためです。
とはいえ、各国ともこうした爆弾に詳しい軍事アナリストがいて、その機密をある程度は解き明かしているようです。それによれば、どの水爆も、構造的には、3段階のプロセスを経て、最大限の力を出させようとするようになっているらしいことがわかっています。
まずは、一端が丸い円筒形や回転楕円体をした二つの容器が用意されます。ひとつの容器の中には核分裂速度の速いウラン235を用いた核分裂爆弾、つまり原子爆弾が置かれ、もう一方の容器の外層には核分裂反応の弱いウラン238などが使用されます。
そしてその内部には、核融合物質としての重水素化リチウム、更なる熱源として中心にはプルトニウム239などが置かれ、水素爆弾の核とされます。まるで具が二重三重に入ったおにぎりのような重厚さです。
この二つの容器はくっつけて瓢箪型のような形状にされる場合もあるし、また別の形になっている場合もあるようです。最近テレビで公開された北朝鮮のものは前者のもののようです。こうした形にされるのは円筒形であるミサイルに搭載しやすいからであり、ミサイルでない場合は別の形状でも良いわけです。
実際の核爆発においては、第1段階で、原子爆弾が起爆され、その核反応により放出された強力なX線とガンマ線、中性子線が直接に、または弾殻の球面に反射して爆発が起こります。第2段階ではこれに誘発された水素融合によって中心部で水素爆発が起き、最後の第3段階で、一番起爆しずらい外郭のウラン238の核爆発が起こります。
合計3回の爆発が生じることになりますが、これら3回の爆発は1秒の何万分の一という瞬時に発生しますから、ほとんど同時に爆発することになり、原爆の数百から数千倍もの破壊力を持ちます。
ウランなどを使った核分裂反応は物理的特性上、爆発力に上限がありますが、水爆の場合には、おにぎりの具である反応物質を、大量に投入すればするだけ、大きな核融合を誘発でき爆発力を増やすことができます。このため、広島、長崎に投下された原爆の何百倍、何千倍もの爆発力を持つ爆弾も理論的には製造可能となります。
もっとも、ここまではできるだけ説明を簡単にするために述べた構造であって、核融合反応を起こすための仕組みは原子爆弾よりも難易度が高く、はるかに複雑です。今回の北朝鮮の実験が本当に水爆なのかはまだ不透明ですが、もし事実であれば、彼の国の核開発技術はアメリカなど核先進国のものにかなり近い段階に進んだとみてよいでしょう。
こうした核実験は、1945年から約半世紀の間に2379回も各国で行われており、その内大気圏内は502回です。大気圏や水中核実験は環境への放射能汚染が著しいため最近は行われていません。
1998年にパキスタンが行った地下核実験(原爆)以降は、北朝鮮以外の国で実験を行った国はありません(アメリカは“Zマシン”という室内核融合実験装置で2010年に実験を行ったとされる)が、その北朝鮮による実験は今回のもので8回目にもなります。
回数を重ねるごとに規模が大きくなってきており、完成度も高まっているのではないかと指摘されているようですが、はたしてこれで最後かどうかといえば、現時点では判断できる材料は何もないようです。
地下核実験の場合、核爆発が完全に地中で収束した場合には、放射性降下物は殆ど発生しません。しかし爆発によって地面に穴が空いてしまった場合には、そこから大量の放射性物質が噴出してしまう可能性もあります。
技術レベルが未知な国がやる核実験でその可能性がないとはいえず、万が一そうした事態になれば、ほぼ隣国といえる我が国においては深刻な事態が発生しないとは限りません。
国連ならびに関連諸国の共闘により、今後実験を行わせない方向性に持っていくことが最善であることは言うまでもありません。