陽射しを浴びて


12月の日々が一日、また一日と過ぎていきます。

この時期の日本は広く太平洋高気圧に恵まれ、青く晴れ渡った空の下、ぽかぽかとした陽射しに恵まれて、なんとなく幸せな気分になります。

自然の太陽光や風や自然に触れてリラックスすることを目的として日向ぼっこをする人も多いと思います。例えばテラスやバルコニー、縁側などの陽のよく当たる場所に腰かけて、庭木を見たり、音楽を聴いたり、軽食を楽しむのは、秋から冬にかけてのこの時期のとびっきりの贅沢という気もします。

医学的にみてもひなたぼっこは意味があるようです。日光を浴びることで紫外線の働きで血中のコレステロールがビタミンDに変わります。ビタミンDは骨や歯の形成に不可欠であり、欠乏すると「くる病」などの障害をもたらします。

ビタミンD不足は日照量が少ない地域の風土病といえ、欧州人が白い肌をもつに至った原因です。このため、ヨーロッパでは日光浴が推奨され、習慣となっています。

動物にもひなたぼっこを好むものが多いようです。例えば鳩は冬場に集団で固まってひなたぼっこする傾向があり、またカメやワニも甲羅干しをします。

こうした爬虫類は変温動物であるためにひなたぼっこをしないで体温が下がると動けなくなってしまうためです。また、水中より体力を温存出来るのでえさが多くなる時間帯まで陸上で待つことや、カメの場合、甲羅についた寄生虫やカビや細菌を死滅させることも目的としているようです。

一方、多くの哺乳類や鳥類では、毛皮や羽根が紫外線の皮膚への到達を妨げています。ただし、皮膚から毛皮や羽根に皮脂を分泌し毛繕いすることによって口からビタミンDを摂取していることはよく知られています。

猫もまた、皮膚から毛皮や羽根に皮脂を分泌し毛づくろいすることによって口からビタミンDを摂取しているとの説があります。我が家のテンちゃんを見ていると、晴れた日には陽射しを浴びながら、まぁなんともきれいに体の隅から隅までていねいに舐めています。

この猫の目の色も日光に影響されてその色が決まってきたそうです。

ネコの虹彩は、目の大きさの中でかなり大きな割合を占めており、人間でいう「白目」(球結膜)は通常見られません。ネコの眼の色、といった場合、普通は虹彩の色を指します。この虹彩の色は、色の濃淡などの違いがあるものの、おおむね、カッパー(銅)、ヘーゼル(薄茶)、緑、青4種類に分けられます。

青い眼は白猫とシャム系のネコに多いようです。白猫の場合はオッドアイと言われ、高い割合で聴覚障害を持っているそうです。左右の眼の色が違う場合も多く、この場合、青い眼の側の耳に聴覚障害を抱えることがあるといいます。

一方が黄色で、もう一方が黄味のない淡銀灰色、あるいは淡青色というオッドアイの白ニャんは、日本では「金目銀目」と呼ばれ、縁起が良いものとして珍重されてきました。

これらの眼の色の違いは、虹彩におけるメラニン色素の量で決まり、色素が多い順にカッパー、ヘーゼル、緑、青となるようです。人間など他の哺乳類の眼もこの傾向は同様だといいます。メラニンの少ない欧米人は青や緑色の目をしています。

この色素の量の違いは、元々生息していた地域の日光量の違いに由来すると言われ、日光量が多い地域では色素が多くなります。が、長い間の交雑の結果、現在では地域による違いはほとんどなくなっています。ただ、シャムネコの青い眼は北アジア由来と言われ、熱帯のタイが原産らしく、それが現在まで受け継がれている稀なケースです。

生まれて間もない仔猫の場合、品種に関わらず、虹彩に色素が沈着していない場合が多く、青目に見えることが多いものですが、これは「キトゥン・ブルー(Kitten Blue)」といい、その意味は「仔猫の青」です。生後7週間くらいから虹彩に色素がつき始め、徐々に本来の眼の色になっていきます。

ちなみにウチのテンチャンは、子供のころから薄い緑色の目をしています。目が青かったような記憶はありません。が、気が付かなかっただけかも。今、脇のイスの上で気持ちよさそうに日向ぼっこをしていますが、そのつぶらな目を閉じて気持ちよさそうです。

このように、太陽光は動物とっては身体の成長や代謝に必要な物質の合成を行うとともに、身体的な特徴を形作る上で大切なものです。また、植物にとってもそれ以上に光合成の上などでも非常に重要な意味を持ちます。

しかし、太陽光を浴びるのは紫外線を照射されるので夏場はやめておいたほうが良いということもよくいわれます。ただ、夏場に日光を浴びて汗をかくことで、新陳代謝や体温調節といった機能を活発にさせるという良い面もあるようです。前述のようにビタミンDの生成といった重要な意味もあります。

日焼けしないようにうまく太陽光を浴びるには、午前10時から午後3時の日光で、週に2回程度、時間も5分から30分の間だけ浴びるようにします。この程度なら日焼け止めクリームは必要ないそうで、顔、手足、背中への日光浴で十分な量のビタミンDが体内で生合成され、紫外線の影響は少ないそうです。

さらには、日光を受ける事は、体内時計の調整を行う働きもあり、リラックス以上に体内機能の保持に必要な面もあります。自律神経の失調症などでも、適度な日光浴が勧められており、病院での不眠症治療では戸外活動で定期的に日光浴を勧められる場合もあるようです。

適度な日光浴は健康維持の上で有効であり、精神衛生上も好ましい影響も見られるため、健康法の中にも適度な日光浴を勧める専門家も多いとのことです。

とはいえ、冬の間は雪に閉ざされてしまう日本海側ではそういうわけにもいかず、また梅雨時には太陽光が不足がちです。こうしたことから、人工的に日光浴をするための方法も開発され、最近は日焼けサロンなどのように特別な紫外線照射装置によって発生した人工日光を浴びる施設も存在します。

こと緯度の高い地域では長い冬の期間という気候条件の関係もあり、北欧などでは極めて積極的に日光浴を行う文化・習慣・風俗も見られるほか、日焼けマシンの売り上げなども上々のようです。

しかし、機械によるものだけでなく、太陽光も含めて過度の日照を受けることはやはり危険です。体温の過剰な上昇から熱中症を引き起こし、また日焼けも度を過ぎれば熱傷となり皮膚炎を引き起こすほか、紫外線の過剰照射は皮膚ガンを引き起こし、そこまで行かなくてもシミや皺など肌の加齢に伴う劣化と同様のトラブルを招きます。

紫外線は破壊力が強く人体の細胞を破壊したり変質させたりするためであり、これを避けるためには上述のように時間を決めて急激な日焼けを避ける事や、日差しの強い日は日光浴を避けることなどが肝要です。

直射日光を目に受けると、視力が低下する場合もあるといいます。特に目の色素が少ない青い目の白人などは、日本の5月頃の日差しでも目を傷める場合もあるそうです。このため、サングラスなどで目を保護する必要があり、これが欧米人がサングラスをよくしている理由です。

日本人でも夏場には直射日光を避けるためにはサングラスをすることには意味があります。子供たちが我慢くらべで太陽を凝視したりすることなどもあろうかと思いますが、危険ですから絶対にやらせないようにしましょう。

さて、この太陽光は地球における生物の営みや自然に多大な影響を与えてきており、とくに人類は、太陽の恵みとも言われる日の光の恩恵を享受してきました。

太陽光の発生のメカニズムはこうです。まず、太陽中心部における水素の核融合により、ガンマ線が発生します。ガンマ線は、1500万Kという高温のために固定されずに飛び交っている電子や陽子により直進を阻害されます。直進を阻害されたガンマ線は、近くのガスに吸収され、このときガス雲からはエックス線が放出されます。

このエックス線もまた、ガスへの吸収と放出を繰り返しながら太陽中心部から表面に向かい、そして太陽外縁部に到達した頃には、周波数が下がり可視光線や赤外線、紫外線となります。そして太陽の外側部からは可視光線とともに赤外線、紫外線などが太陽光として放射されるのです。

太陽光が太陽から放たれて地上に到達するまでの時間は、およそ8分17~19秒だそうで、これは太陽と地球の半径、光速から計算できるそうです。

地球に到達した太陽光線の1時間あたりの総エネルギー量は20世紀後半の世界の1年間で消費されるエネルギーに匹敵するほど膨大なもので、そのエネルギーの地上での内訳は、地上で熱に変わってしまうエネルギーが約45%、海中に蓄えられるエネルギーが20数%であり、その大半を占めます。

このほか風や波を動かす原動力へ変わるエネルギーは0.2%程度と少なく、さらには光合成に使われるエネルギーは0.02%程度にすぎません。これ以外の30%ほどは、地球に届いても宇宙へ反射してしまうそうで、可視光や赤外線などの電磁波として宇宙へ再放射されていきます。

こうした太陽光からもたらされ変換された熱エネルギーは、気象現象の駆動力として働き、地球上のさまざまな場所に雨や風をもたらすことに寄与しています。また、植物や植物プランクトンは光合成によって必要な酸素やエネルギーを産生し、この青い地球の維持に努めています。

上で書いたように動物もまたその様々な恩恵を受け、太陽光を浴びることによって直接的に体温維持を行っているものもいます。また、日射量の変化つまり昼夜の移り変わりは、生物の活動に多大な影響を与えています。

とくに人間は太陽光によって地上に到達したエネルギーを活用しており、直接的、間接的を問わずその生活には欠かせないものです。古代における利用法としては、物を乾かす、干す、濡れた衣類を乾かす事や、土器を乾かして作る、乾かして殺菌する、食物を干してつくる乾物への利用などでした。

また、太陽光は長い間農耕と牧畜に寄与してきており、穀物を乾かすためにも使われてきました。人類は、その初期のころに太陽光を使って火を起ことを発見し、これは現在におけるオリンピックの聖火の点火にも受け継がれています。

人類における数々の発明にも寄与してきました。日時計は、太陽の傾きを太陽光を利用して時刻として利用したものであり、これが現在我々が使っている時間という観念を生み出しました。鏡もまた、身体を映し出すだけでなく、太陽光を採光することで合図、伝言目的で使用され、これが色々な信号に変わっていきました。

さらには、カメラやレンズ、望遠鏡、顕微鏡など光学機械を産みだしたのも太陽光であり、近代において忘れてはならないのが「発電」への寄与です。

最近クリーンなエネルギーとして見直されてきている、太陽光発電・太陽熱発電は、太陽光のエネルギーを、太陽電池やタービンを用いて電力に変えるものです。

古くから使われてきた水力発電もまた、河川の流れは太陽光によって温められた雨雲が降らせた雨によってもたらされと考えれば太陽からの恩恵を受けたものです。太陽光が暖めた空気の流れである風によって羽根を動かして発電する風力発電もまたしかりです。

現段階では実用化にはまだ遠いようですが、波力発電もまた海面の上下は太陽によって引き起こされた風に煽られた波のうねりを利用しています。海流発電もまた、太陽に温められた海水の循環を利用しているわけです。ちなみに、潮力発電だけは太陽ではなく月の引力を利用しているので太陽光とは無関係です。

近年着目されているのが、バイオマス発電です。植物は、太陽光のエネルギーを用いて光合成を行い成長しますが、この植物由来の生産物である穀物や木材などを利用した発電法です。

旧来の薪や炭などの利用に加え、バイオマスエタノール、バイオディーゼルなど各種のバイオマス燃料の利用も拡大しています。バイオマスエタノールとは、サトウキビやトウモロコシなどのバイオマスを発酵させ、蒸留して生産されるエタノールを指します。

また、バイオディーゼルとは、バイオディーゼルフューエルの略で、植物・生物由来の油から作られるディーゼルエンジン用燃料(BDF、Bio Diesel Fuel)の総称です。

ディーゼルエンジンは、元々は落花生油を燃料とし、圧縮熱で燃料に点火するエンジンとして19世紀末に発明されたものであり、バイオディーゼルを燃料として使用することを想定していたということは意外と知られていません。

しかし落花生の生産は天候に左右され供給が不安定であったこと、当時ルーマニアなどで油田が発見され軽油や重油などの鉱物油が本格的に入手できるようになったことなどから、ディーゼルエンジンの燃料はバイオディーゼルから化石燃料へシフトしていきました。

近年、地球温暖化対策として再びこのバイオディーゼル燃料が注目されています。

原料としては、菜種油、パーム油、オリーブ油、ひまわり油、大豆油、コメ油、ヘンプ・オイル(大麻油)などの植物油に加え、魚油や豚脂、牛脂などの獣脂及び廃食用油(いわゆる天ぷら油等)など、様々な油脂がバイオディーゼル燃料の原料となりえます。

欧州では菜種油、中国ではオウレンボク等、北米及び中南米では大豆油、東南アジアではアブラヤシやココヤシ、ナンヨウアブラギリから得られる油が利用されており、軽油に混合しない状態での性状を欧州規格として規定しています。

日本においては、従前、バイオディーゼル燃料についての規格が存在していませんでしたが、近年これを一般自動車用の燃料として使用する動きがあることから、欧州規格を参考としつつ規格化が検討され、BDF混合軽油を一般のディーゼル車に用いる場合の法律が改正され平成19年から施行されています(揮発油等の品質の確保等に関する法律施行規則)。

しかし、バイオディーゼルは、確かに化石燃料に代わるものとして着目はされてはいますが、これを純度100%か、または軽油と一定割合で混合して使用すると、低温では粘度が高くなり、特に冬季にバイオディーゼル100%で使用すると、燃料経路内で固まってしまうなどの問題があります。

このほか、原料となる油脂はそれぞれ性状が異なり、菜種油、ひまわり油などは酸化しやすいなどの性状があります。このほか廃食用油は様々な油脂が含まれうるものであることから、小規模での製造では製品の品質が極めて不安定なものになりやすく、品質を安定させるためには一定程度大規模なプラントで製造を行う必要があります。

このため、上記法律ではこうして精製販売される混合軽油について満たすべき基準が設けられており、軽油販売業者はこの基準を満たさないものを自動車の燃料用として消費者に販売してはならないことになっています。

また、バイオディーゼル燃料を軽油等と混和して販売したり、自動車の使用者自らがバイオディーゼル燃料を購入又は製造して軽油等と混和して使用する場合、「軽油引取税」の課税対象となります。

しかし、そんなものにまで税金をかけていたのでは、化石燃料に代わる植物由来の燃料の普及を妨げてしまいます。

現行の日本の税法に抵触することなく、非課税でバイオディーゼル燃料を自動車に使用するためには、軽油等を混和させずに100%バイオディーゼル燃料でエンジンを作動させる必要があります。

ただこの場合、軽油とバイオディーゼル燃料の両方を使用可能な車両では、燃料タンクを分離させ、エンジンへの配管途中で弁による切り替えを可能として、燃料の混合を防止させなければなりません。

そんな七面倒くさいことをすれば自動車製造のコスト高になるというわけで、日本の自動車メーカーがこれを後押ししないのはこのためです。

せっかくいい燃料があるのに、冬場にBDFを使った自動車の故障による渋滞が増えることを恐れるお役人が課した制限が、自動車メーカーにその開発にあたっての二の足を踏ませているのは馬鹿げています。

さらに法律を改正してこうしたバイオ燃料には一切税金がかからなくするとともに、化学メーカーには安定したバイオ燃料を開発できるよう政府資金援助を与え、さらには冬でもスタックしない優れた植物燃料車の開発を自動車メーカーにさせるべきだと私は思います。

一方では、気候変動枠組条約に基づき地球温暖化防止のため策定された京都議定書では、生物・植物由来となる燃料については二酸化炭素の排出量が計上されないこととなっています。

すなわち、化石燃料を燃焼させることは、それに含まれる炭素を二酸化炭素として大気中に新たに追加させることになりますが、バイオディーゼルはその原料となる動植物、とくに植物が光合成により大気中の二酸化炭素を吸収していることから、これらから作られる燃料を燃焼させても元来大気内に存在した以上の二酸化炭素を発生させることはありません。

こうした考え方を「カーボンニュートラル」といい、これによれば、バイオディーゼル燃料は太陽光や風力などと同じく、再生可能エネルギーに位置づけられることになります。

が、通商産業省などは、原料として日本が大量に輸入することになるパーム椰子の原産国であるマレーシアやインドネシアにおいて、ヤシ畑開発のために森林破壊が進行してしまい、引いてはこれが環境破壊を進行させてしまう、と言っているようです。

確かに、ブラジルなどではより収益率の高いバイオ燃料生産のためオレンジ生産などが転換され、それによる果実、穀物の供給不足、高騰が起こっており、食料を燃料として消費する事に対する疑念、批判も起こっているのは確かです。

しかし、そこはなんとか解決するのが世界最先端の環境技術を持っているといわれる日本の技術力と外交力です。新たな環境破壊を起こさないような別の植物資源の開発によるバイオ燃料生産の推進と、よりクリーンな自動車の創造を両立させてみせることによって、日本の底力を世界にみせていくべきでしょう。

ただ、こうした規制はあるものの、近年バイオディーゼルの利用は拡大しつつあります。京都市など一部の自治体では既に、車両改造や定期的なメンテナンスを行うなどの対策を講じた上で、ゴミ収集車や市営バスなどの燃料としてバイオディーゼル燃料を使用しています。

ほかにも愛知県東栄町で、町内で発生した廃食用油から作ったバイオディーゼルを2004年から公用車に使用しており、各地でバイオディーゼル燃料を使った路線バスが運用されています。近江鉄道バスや、京都市交通局の京都市営バス、東京都交通局の都営バスなどがそれです。ほかにも北海道、大阪、山梨、山口などでも事例があるようです。

さて、日本はこの太陽光の利用を世界に先駆けて宇宙開発にも向けています。日本の宇宙開発機関JAXAが、2010年7月に小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」において、史上初の「太陽帆航行」を成功させたというニュースはご存知の方も多いでしょう。

太陽帆はソーラー帆、ソーラーセイルとも呼ばれ、薄膜鏡を巨大な帆として、太陽などの恒星から発せられる光やイオンなどを反射することで宇宙船の推力に変える器具のことです。これを主な推進装置として用いる宇宙機は太陽帆船、宇宙ヨットなどと呼ばれます。

化学ロケットや電気推進と比べ発生する推力は小さいものの、燃料を消費せずに加速が得られるという利点があります。将来的には惑星間などの超長距離の移動が容易になると期待されており、また、将来的な構想として、出発地から照射された強力なレーザーを帆に当てて推進力とする宇宙船も考案されています。

その原理は、太陽からの「太陽風」なるものによって推進しているといった報道がなされ、太陽から何やら風のようなものが吹いていると誤解している人も多いようです。が、この説明は正確には正しくなく、実は光子の反射によって生じる反作用によるものです。

光の粒子が太陽帆を形成する薄膜に当たり反射すると、宇宙空間では薄膜には光の入射方向と逆向きの力が発生します。この力は、セイルの面積と光圧力に比例します。船舶で使用される帆とは異なり、宇宙空間では流体力学的に発する揚力は発生しないため、帆に発する力は帆に反射する光の圧力のみとなります。

空気のある地球ではこうした作用反作用は風を引き起こす要因となりますが、大きな物理粒子がなくほぼ真空の宇宙空間では太陽光からの光粒子の力は、セイルでの反射によって単に宇宙船を動かす力に置き換わるのです。宇宙船を動かす力としては非常に微小ではありますが、受けた光をほぼ100%推進力に利用できるので非常に効率の良い方法といえます。

しかも、最初はほんの少しのスピードしか出なくても、宇宙空間にはその進行を妨げる空気がないので、宇宙船は太陽光を受けてどんどん加速していきます。これを「光子加速」といいます。加速をさらにどんどん増やしていけば、理論的には最後には光の速度と同じ速度で宇宙を旅することができます。

従って、遠い将来には惑星間の宇宙旅行や太陽系外への宇宙への飛行などにも使えるようになるのではないかといわれています。

ただ、実際に宇宙船の推力源として太陽帆を利用するためには、極めて軽量かつ極めて広い面積を保持できる薄膜鏡が必要であり、長らくは夢物語に過ぎませんでした。

初期にはアルミニウムの薄膜などが太陽帆の素材として候補になっていましたが、あまりにも強度が不足しており、特に巨大な帆を宇宙空間で広げる際に帆を壊さずに広げる技術の開発が難しかったようです。

しかし21世紀になって炭素繊維など素材の研究開発が進み、太陽帆に使用可能な薄膜の生成に実現性が帯びてきました。

JAXAは、2004年には太陽帆実現を目的とした、直径10m、厚さ7.5μmのポリイミドフィルム製の大型薄膜の宇宙空間での展開実験に成功しました。また、太陽光圧の力だけでの推進・姿勢制御は難しいので、セイルに薄膜太陽電池をつけ、イオンエンジンとソーラーセイルの併用する「ソーラー電力セイル」を開発しました。

こうして完成した「IKAROS(イカロス)」の帆は一辺約14mの正方形で、厚さ7.5μmのポリイミド樹脂膜にアルミを蒸着したもので、これに約200m2の10%に薄膜太陽電池が貼られています。

直径1.6m、長さ1m、重さ300kgの本体を中心にX字形に畳んでおき、打ち上げ後、船体を一時的に高速回転させ、帆を遠心力で展開させ、その後ゆっくり回転させて帆の形を維持させるというものです。

このイカロスは、2010年5月21日、JH-IIAロケット17号機により、金星探査機「あかつき」との相乗りで打ち上げられました。6月3日からセイルの展開を開始し、10日に地球からの距離約770万kmにおいて、セイルの展張、及びセイルに配置されている薄膜太陽電池からの発電を確認しました。

7月初頭からは光子加速実証フェーズへと移行し、7月9日、ついにイカロスが光子加速を行っていることを確認。12月8日には、以下ロスは金星から80800kmの地点を通過し、金星スイングバイを成功させています。スイングバイとは、天体の万有引力を利用して宇宙機の運動方向を変更する技術で、宇宙船を増速あるいは減速することができます。

ソーラーセイルによる光子加速を実証し、ソーラーセイルで他の惑星まで飛行したのは、いずれも世界初の快挙でした。

現在までに当初予定していたミッションはすべて完了しており、イカロスは2012年の11月22日に、発生電力低下による搭載機器シャットダウン状態のいわゆる「冬眠状態」に陥り、その後の復旧のめどもたたないことから、翌2013年3月28日にプロジェクトチームの解散が発表されました。

ただ、JAXAでは今後も飛行中光子加速やセイル運用、薄型太陽電池の実証・研究が行っていくようです。

ソーラーセイルは、SF作家のアーサー・C・クラークや、小松左京の作品などにも登場しました。そのころには、まだまだ夢の世界の話とおもっていたら、ここへきてその夢が実現した格好です。海と帆船の伝統が長かった欧米のSF作品にも過去、太陽帆船が多く登場していますが、誰もがその実現は遠い先のことだと思っていたでしょう。

このほか、太陽からの光は数百万の陽子や電子を含んでおり、陽子や電子などの荷電粒子が、磁場を磁力線に垂直に通過して移動することがわかっており(電磁誘導、フレミングの法則)、これを利用したマグネティックセイル (magnetic sail) というものも技術的には開発可能だといわれているようです。

マグセイル (magsail)、磁気帆や磁気セイルとも呼ばれ、この宇宙船は質量に対する推力の効率的な運用がソーラーセイルよりもさらに高いため、未来の宇宙船としてもより魅力的な推進技術だと考えられているそうです。

将来的にはこうした装置を使い、太陽光を浴びて、我々も悠々と宇宙旅行をする、そんな時代が来るかもしれません。

それまで私は生きているでしょうか。生きてはいないかもしれませんが、もし死んでいたら、「幽霊粒子」になって、宇宙を旅していたいものです。