なんで、「牛」という文字のてっぺんがない文字を「ウマ」と読ませるのかなと、調べてみると、これはもともと牛とは関係なく、「忤」、すなわち「きね」から来ているそうで、長い間に左側のりっしんべんが取れて使われるようになったためのようです。
じゃあなんで、きねなのよ、ということですが、きねなんて最近の日本では餅つきのときぐらいしかほとんど見たことがない、という人も多いでしょう。
その形は、上下に対称であり、持ちやすいように真ん中あたりがえぐれています。砂時計と似た形、といったほうがわかりやすいかもしれません。
現在の十二進法では、一日の前半を「午」の文字を使って「午前」と書き、後半は、「午後」です。そのちょうど中間は「正午」といいますが、お察しのとおり、つまりこれは杵の真ん中という意味です。
一日の経過をさす用語として、日常品で左右対称のものを探したところ、その昔はどこの家庭にもあった杵が選ばれたということのようですが、これが奇しくも時を測る用具である砂時計と同じ形であった、というのは面白いところです。
ではこの「午」をなぜウマと読むか、です。
この「午」には、別途「つきあたる」「さからう」の意味があります。草木の成長が極限を過ぎ、衰えの兆しを見せ始めた状態を表しています。
従って、午年というのは、十二年周期の干支のちょうど真ん中を過ぎて、物事が成熟期に入ったころ、という意味があり、これは上で書いた一日の中間を正午と呼ぶのと同じ感覚です。一日の中でもお昼ごろというのは、朝起きてひと仕事して、一段落する時間帯でもあります。
従って今年のウマ年というのは、何事につけ、一休み、小休止をするのにはもってこいの一年、ということになります。
じゃあなんで、午を「ウマ」と読ませるのよ、ということなのですが、これは十二支を覚え易くするために、鼠、牛、寅……から始まる12の動物名を決めたとき、たまたまこの「午」の年に「ウマ」を割りあてただけです。
とはいえ、誰がこの干支の動物を決めたのかはわかりませんし、また、なぜウマでなければならなかったのかは定かではないそうです。
従って、「午」と書いて「ネコ」でもよかったわけです。兎、龍、蛇ときて、猫、羊、猿、鳥……でもゴロは合っています。なので、ペットとしてイヌの双璧にあるネコを採用し、今年からはウマ年あらためて、ネコ年にしても良いわけです。
ネコ好きの私は大賛成なのですが、みなさんはいがかでしょうか。
が、今からではカレンダーを差し替えるわけもいかず、第一、既に来てしまっている年賀状にもほとんどがすべてに馬の絵が描いてあるのでこれを消すわけにもいきません。
なので、今年に限っては我慢することにしましょう。が、十二年後には「午年を猫年にする党」を結成して国会議員に立候補しようと思いますので、皆さまのご支援をぜひ頂きたいと思います。
それにしても、現代社会においては、このウマという動物ほど、我々が普段目にしないものはないのではないでしょうか。
北海道あたりでは別ですが、都内でウマを見るということは、皇居の馬車を曳くウマが、外国人の来賓を迎えるときに登場するのを目にするぐらいのもので、あとは、わざわざ大井競馬場にでも出向かなければ見ることはできません。
それを言えばトラなども同じで、こちらは絶滅危惧種なので最近では動物園でも見ることはできませんし、龍に至っては想像上の動物なので、見たことがある、という人がいたとしたら精神病院行きが関の山です。
考えてみれば十二支の動物のうち、普段目にすることが多いのはイヌとトリぐらいのもので、ほとんどが都会では見なくなった動物ばかりです。ネズミなんて最近は目にしたこともありません。
ウマもまたそれほどではないにせよ、あまり現代人が普段目にするものではないのは確かであり、たまにダービーなどがあれば、ニュースでその勝敗が放映されることはあるので目にはしますが、普通に外で見る機会はまずないでしょう。
従って、今年が午年だからといわれても、午年生まれの人には大変恐縮なのですが、だからなんなのよ、という気持ちになるのは私だけでしょうか。
去年のヘビ年は、蛇はお金儲けの神様なので、今年こそは金持ちになれるかも、という期待感があるものの、今年のウマ年に至っては、ものごとが「ウマく行く」などというダジャレぐらいしか思い浮かびません。
このウマというヤツは、紀元前4000年ごろに、ロバとともに家畜化され、どうやら労働力として使われ、場合によっては食用にされていたようです。
ところが、紀元前3500年ごろに、メソポタミア文明で「車」が発明されてからは、これを曳くための「馬車」が発明され、さらに紀元前2000年ごろにスポークが発明されて車輪が軽く頑丈になり、馬車を疾走させることができるようになってからは瞬く間に世界中に馬車を走らせる「馬力」として普及していきました。
やがて、ヨーロッパや北アフリカ、地中海世界といった西洋社会から黄河流域の中国までの東洋においても広く使われるようになりました。
これらの地域に栄えた古代文明の都市国家群では、馬車は陸上輸送の要であるだけではなく、「戦車」として軍隊の主力となり、また、ウマの普及は、これを利用して耕作を行う「馬耕」という農法を生むきっかけにもなりました。
その後、長きに渡り、ウマは主には戦争や農業の道具として飼われ続けてきましたが、20世紀に至り、2度の大戦を経て軍事革新が進むとともに、農業機械の発達によって馬の重要性は急速に失われていきました。
従って、軍隊、警察において使われていたウマなども、儀典の場で活躍しているだけとなっています。しかし、競馬や乗馬などの娯楽、スポーツを楽しむ手段としてはいまだ親しまれており、世界では現在も数多くの馬が飼育されています。
とはいいながら、日本ではやはり馴染の少ない動物のひとつであることには違いなく、終戦直後の昭和25年(1950年)に飼育されていたウマは農用馬だけで100万頭を超していましたが、農業の機械化に伴って需要は急減していき、昭和40年代初頭には30万頭に、昭和50年(1975年)には僅か42000頭まで減りました。
平成13年(2001年)の統計では、国内で生産されるウマは約10万頭で、そのうち約6万頭が競走馬で、農用馬は18000頭にすぎません。
また、日本が原産の日本在来馬はわずか8種に過ぎないそうで、平成17年(2005年)現在ではこれらすべてを合わせても約2000頭のみだそうです。
このように、日本では普段ほとんど我々が目にすることのない動物になってしまった感がありますが、こと食べモノとしては、「馬肉」としての愛好家も多いようです。ちなみに日本では食肉用に肥育されるウマは、別名「肥育馬」ともいい、ウシやブタと同じく農業生産物とみなされています。
ところが、ヨーロッパなどの西洋人の間では、ウマは歴史的に農耕や馬車の牽引、乗用に使用され、家畜であると共に狩猟や戦場における足ともなり、人々とともに生きてきたという経緯があり、このことから、肉食に供することに嫌悪感や抵抗感を持つ人も多いようです。
とくにアメリカ、イギリスでは馬肉食をタブー視する傾向が強く、ウマを食う日本人の習慣は、動物愛護の観点からはトンデモナイということで毛嫌いされています。
と、いいながらも実はイギリスでは、食用馬肉の屠畜と消費は法律で禁じられていません。18世紀から19世紀にかけてはペットフード用の肉を扱う猫肉屋が馬肉も用いていたそうで、複雑に入り組んだヨーロッパの食品流通経路により、イギリスの食卓にも長年、馬肉が使用されてきていたという経緯があります。
ところが、昨年2013年の1月、アイルランドの食品基準監督当局により、イギリス・アイルランドの大手スーパーマーケットで販売されている牛肉に、最大で100%の馬肉が使用されているという食品偽装事件が発覚したそうです。
この事件は、イギリスでは一大スキャンダルとなり、今なおヨーロッパ全体でこのニュースが話題になっているそうです。
おそらくアメリカではそういうことはないと思うのですが、そもそも英語で「馬を食べる」“eat a horse”という比喩は、「ウマを丸々一頭食べられるほど空腹である」という意味で、それほど欧米人の間でも馬肉を食らうことは普通であったわけです。
そこで前々から気になっていたのですが、競馬や乗馬で使われていたウマの末路はいったいどうなっているのでしょうか。とくに北海道に行くとよくわかるのですが、道南から道東へ行くとここもあそこもというぐらいに競走馬を飼っている牧場がありますが、あの全部が全部、競走馬になるとはとても思えません。
これらの一部は駿馬となり、ダービーなどにも出るのでしょうが、あとは種馬や労働力として使われる以外、その行く末はどうなっているのだろう、と北海道へ行くたびに気になっていました。
そこで、ちょっと調べてみたのですが、いわゆる「競馬雑誌」と言われるものを見ると、その中には競走馬の「異動欄」というのがあるのだとか。ここには現役を引退する馬の異動先が記されていて、例えば地方競馬への場合、引退後のその移籍先や種牡馬・繁殖入りの他に乗馬になるなどの「用途変更」の内容が記載されているそうです。
ところが、この「用途変更」欄には移籍先や種牡馬・繁殖入りなどと記載されているだけでなく、単に「用途変更」とだけ書かれてその内容が記載されていないものが多いそうで、この「用途変更」という名称だけで、姿を消す馬が相当数いるということです。
そして、これは必ずしも明らかにはなっていませんが、その「用途」の中には食用もあるといわれているようです。実際に、過去に廃止された、山形県上山市にあった上山競馬場や、大分県中津市の中津競馬場に在籍していた競走馬の末路は食肉処分だったことが明らかにされているそうです。
また、北海道で行われている「ばんえい競馬」では、競走に出るための能力試験を突破できなかったり、あるいは満足な競走成績が残せなかったりした競走馬が食肉向けに転用されており、公式サイトでも包み隠すことなくそのことが解説されているそうです。
一般の地方競馬では、こうした能試で運命が分けられるということはないようですが、ばんえいの場合はこうした能試の結果がいわば「生死を分ける」ため、馬主もさることながら、ウマたちも生き残りをかけて必死で実戦を戦うそうです。
このように自分たちのために頑張ってくれているウマたちをかわいそうに思うためか、日本の乗馬及び競馬に携わる人の中には馬肉を食べる事を忌避する人達が少なからずいるといいます。
そりゃーそうでしょう。毎日ブラッシングをかけて可愛がっていた愛馬を次の日に食するというのは、なかなかできることではないでしょう。
しかし、それでもレースに出ることもなく、老いていくウマたちを多数飼っていくことは牧場などの経営をも圧迫するわけで、泣く泣くなのかどうかはわかりませんが、北海道や各競馬場にいるウマさんたちの哀れな行く末のほとんどは、食肉というのが悲しい現実のようです。
そもそも、日本では、獣肉食が宗教上の禁忌とされ、食用の家畜を飼う文化が九州の一部などを除いて、ウマをウマく頂くというのは、一般的ではなかったようです。
しかし、江戸時代の日本本土では、廃用となった役用家畜の肉を食すことは半ば非公然的ではありますが、貴重な獣肉食の機会でもあり、一部の地方では馬肉は400年以上も前から重要な蛋白源として重用されてきたそうです。
その後、明治維新が起こり、日本人は馬肉以外にも牛肉や豚肉などを普通に食するようになりました。ところが、この牛豚肉は当初かなり高価なものだったため、従来からあった馬肉を牛肉の増量材として用い、馬肉と牛肉を混ぜたものが加工食品として販売されるようになりました。
その名残から、現在のように牛豚肉が安価に入手できるようになってからも馬肉を食べる習慣が続いており、主には、熊本県、長野県伊那地方、山梨県、福島県会津地方、山形県置賜地方、青森県南部地方などで郷土料理として定着するようになりました。
とくに「馬刺し」や「桜鍋」用に用いられる生鮮肉は、滋養のある食べ物として現在の日本では広く普及するようになりました。
しかも、今では上述のような競走馬流れのウマなどだけでも足りなくなり、カナダやアメリカなどの北米産や若干の欧州産なども混入されているということです。
とくに熊本県の郷土料理でもある「馬刺し」の消費量は、年間約2万3000トンにも及ぶそうで、現代の日本で流通している馬刺し用肉の多くは輸入物、あるいは生体を輸入して国内肥育したものであり、純国産はわずかだそうです。
こうした馬肉の輸入は、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、アメリカからがほとんどであり、現在そのシェア60%がオーストラリアからの輸入です。
このほか、世界では、およそ主要14カ国で毎年70万トンが生産されており、ウマは世界中で食されています。その生産国は上位から中国、メキシコ、カザフスタン、イタリア、アフガニスタン、モンゴルとなっていることから、主には日本を含むアジア諸国と南米などで食べられているようです。
このうち、日本に入ってくるもののほとんどは馬刺しになるようです。その総需要量のほとんどは外国産で賄われるため、つまり競走馬流れの馬肉というのは全体のうちのほんのわずかの分量になるようです。
従って、普段われわれが口にする馬刺しがダービー流れの競走馬や北海道で悠々と草を食む馬さんたちである確率はかなり低そうです。
そう考えると、馬肉を食らうときの罪悪感は少し和らぐかもしれませんが、外国産にせよ国産にせよ、ウマであることにはかわりはありません。
また、馬肉は安価な食肉として、ソーセージやランチョンミートのつなぎなどの加工食品原料として使われているほか、ペットフード原料にも利用されることもあるそうなので、知らず知らずにウマを食べているかもしれず、もしかしたら、ウチのテンちゃんもウマを食っているのかも。
なので、今年は午年だから馬肉を食べるのはやめようかしら、と思っている人がいたとしたら、食品に表示されている内容表示には気を付けたほうが良いかもしれません。
とはいえ、馬肉は、他の畜肉と比較すると栄養価が高く、滋養強壮、薬膳料理ともされているようです。牛豚鶏などの畜種より、低カロリー、低脂肪、低コレステロール、低飽和脂肪酸、高たんぱく質なだけではなく、アミノ酸も20種類ほども豊富に含まれています。
さらに、ミネラルは牛肉や豚肉の3倍のカルシウム、鉄分はほうれん草・ひじきより多く、豚肉の4倍・鶏肉の10倍も含まれており、ビタミン類も豚肉の3倍、牛肉の20倍も多く、しかも、牛肉の3倍以上のグリコーゲンを含んでいます。
なので、今年こそ元気をつけたい、健康になって何事もウマく事を運びたい、という人はむしろ積極的にウマを食ったほうが良いのかもしれません。
さて、あなたはどうしますか。午年にウマを食って元気になるか、ウマを食うのはやめて動物保護に徹底するか。
私ですか?わたしは、やっぱり馬肉を喰らい、元気になってペガサスのごとく空を飛翔したいと思っています。が、そうウマくいくでしょうか……