音楽会 ~旧修善寺町(伊豆市)

 虹の郷園内でみかけた、「花のような」木 「ハクロニシキ」というそうです

先日の土曜日、タエさんと二人で、我が家から歩いても行けるほどのところにある娯楽施設、「修善寺虹の郷」に行ってきました。わたしは、これまでに息子をつれて、3度ばかり訪れたことがあるのですが、タエさんにとっては初舞台。わたしとしても、行ったことがある、とはいえ、息子を連れていったのは、かれころ10年ほど前になります。なので、園内の様子もさぞかし変わっているかと・・・心配していましたが、思ったほど変わっておらず、昔懐かしいまんまの姿でした。

イギリス村、カナダ村、日本庭園、などの娯楽施設を核とした一種のテーマパークなのですが、ジェットコースターなどのおおがかりなアトラクションがあるわけではなく、村や庭園といったそれぞれのゾーン毎に四季折々の花木を配し、そのところどころに、おもちゃの館やら万華鏡館、駄菓子屋といった小さな施設とお店がところどころに点在する、といったほのぼのとしたもの。そのレトロな感覚が大好きで、伊豆へ来るたびに亡き妻と息子の三人で訪れたものです。園内のあちこちに、皿回しやフラフープ、シャボン玉といった小道具も置いてあって、小さな子供向への配慮もおこたりがありません。

この公園の一番の目玉は、なんといっても、園内を周遊する蒸気機関車や電気機関車。イギリスでその昔実際に使われていたものを輸入しています。イギリスでは、保存運動がおこっていて、国内のあちこちで、同じものが観光用として稼働しているとか。もともと旅客用の大型のものではなく、木材などを運んでいた狭軌道のものなので、少し小ぶりですが、それでも、乗客を乗せた貨車5台ほどをけん引。時速20kmほどののんびりした速度で、汽笛を鳴らしながら、園内の花々の中をゆったりと走ります。

実はこの公園、伊豆市の息のかかった施設で、虹の郷振興公社という第三セクター形式で経営されています。このため、伊豆市民であれば、身分証明書さえみせれば、タダで入園可能。この日も、タエさんとふたりとも無料で入園できました。その日はゴールデンウイーク後の土曜日ということもあって、それほど人も多くありませんでしたが、園内にいくつかあるレストランは、ほぼ満員御礼の状態。お弁当持参で、遠足感覚で来られる人も多いようで、あちこちの芝生の上ではお弁当を広げて昼食をしている人がいます。

が、我々二人はお弁当を持ってきていなかったので、カナダ村のレストランでランチをとることに。店内に入るまでに20分、食べ始めるまでに10分、ほぼ30分待ちの昼食でしたが、味はというと・・・正直言ってイマイチ。市や町といった公的機関が経営する施設内の食事というのは、これまでも値段の割にあまりおいしいものに巡り合ったことがありませんが、修善寺伊豆の郷よ、お前もか・・・要改良を希望・・・です。おそらくは園内のお店の経営者のほとんどは、伊豆市民であり、長年この公園でお店を営んで暮らしてきた人たち。市としては、こうした「既得権益者」への配慮から、あまりその経営内容には口をはさめないのでは・・・と推察。

最近は入園者数も少々下り坂と聞いていますから、できれば食事処については、リピーターが出るくらいの改善を望みたいところです。

しかし、広くて気持ちのいい園内に、四季折々の花々を配し、大型のアトラクションなどではなく、随所に自然を感じさせる数々の工夫によって人を呼び込む形は、最近はやりのアミューズメント施設になじんだ人たちの目には、新鮮なものとして映るに違いありません。その証拠に、初めてここを訪れたタエさんは、すごいねー を連発で、一気に大ファンになったご様子。暑くも寒くもなく、心地よい風の吹く、上々のお天気の中、鼻唄まじりで散策する姿はとても楽しそうです。

ほぼ公園を一周して、入口に近い広場に差しかかったときのことです。その日に行われていたミニコンサートがほぼ終盤にさしかかったところでした。コンサートというよりも、音楽コンテストらしく、5組ほどの若手のミュージシャンたちがその歌声を競っていたようで、地元の音楽家たちが真剣な顔でそれを聞き入り、審査しています。我々が通りがかったときは、ちょうど最後の組が歌い終えようとしたところで、歌が終わると同時に審査員の講評が始まりました。審査員は、6人ほどで、どうも音楽のプロのほかに、地元の有識者などもいるみたい。

どういった人たちなんだろうなーと思っていたら、こういうことにすぐに反応するタエさんが、すぐそばにいたコンサートの係員の人に、審査員の氏素性を聞いちゃってます。こういうところは、まったく感心するほど行動的なタエさん。でもそのおかげで、審査委員長とそのお隣に座っている審査員が、その方の奥さんがどういう人かわかりました。なんでも、審査委員長は、東京でも活躍しているプロのミュージシャンで、最近はここ修善寺温泉内に、「桂座」という音楽組織をつくり、コンサートの開催をするなどの活動をされているとか。奥様もプロの歌手で、ジャズボーカルなどをされているとのことでした。

すべての審査結果は、最後の歌い手さんの講評が終わった後、30分後に行われましたが、その際、主催者の振興公社の社長さん? によりこのコンサートの趣旨などが離されました。それによると、これまで何度も修禅寺温泉内でコンサートが行われており、この夏、修禅寺の本堂内でもコンサートが行われる予定。今回のコンテストの優勝者は、このコンサートで歌う権利が与えられるそうです。

ここ修禅寺では、コンサートの開催だけでなく、地元の若手ミュージシャンの登竜門として、こういった音楽会(コンテスト)がたびたび開催されているようで、我々が出くわした音楽会は、今回で8回目だそうです。
主催者さんによれば、ここ虹の郷で音楽会を行うのは、初めてだそうで、本当は昨年行う予定だったものの、天候の関係か、震災の関係か何かで、中止になり、今年初めて園内開催が実現したとのことでした。

さて、気になる審査の結果ですが、今回はグランプリはなく、準グランプリとして、二組が選ばれました。一組はソロの女性歌手で、地元修善寺出身の人とか。もう一組は女性二人の歌手さんで、「モモリエ」とうグループ名。こちらは県外の人たちみたい。我々が通りがかったときに、ちょうどジャズボーカルを披露していたグループです。通りがかったときに、曲の最後のほうを聞くことができましたが、透き通ったきれいな声は、周りの緑に染み渡るようで、なかなかのものでした。

歌唱後、審査委員長とその奥様が講評を加えられたのですが、その評価はまずまずといったもののよう。ただ、ご両人が口をそろえておっしゃったことが、少しく印象的でした。その歌は、ジャズなので、モモリエさんもこれを英語で歌われたのですが、それは、その発音に関することでした。昨今、英語などの外国語で歌をうたうミュージシャンが増えており、テレビのバラエティー番組などでも、よく歌に自信のある芸人さんやタレントさんが、英語で歌唱するのを目にします。ただ、私自身、その昔英語に慣れ親しんだことがあるので、気になっていたのですが、日本人が英語の歌をうたうとやはりどこかヘン。

歌っているご本人はそれなりに練習を積んでいらっしゃるようで気持ちよく歌われているのですが、イントネーションとか音の区切りとかが、やはりどう聞いても「英語」でない部分があちこちあって、どうしてもそれが気になり、歌の中に入り込めないのです。

このご夫婦審査員さんは、まさにその点をご指摘。審査委員長の男性は、モモリエさんに、これからプロのミュージシャンとしてやっていく上で、英語の歌で勝負していくのかどうかを問われました。が、モモリエさん曰く、まだそこのところで迷っているとのこと。それに対して、委員長さんは、英語で勝負していくとすれば、発音やイントネーションなどのツメがまだまだ甘い。それは聞く人にとっては失礼ことになる、という意味のことをおっしゃいました。

続く奥様の講評も同じような内容でしたが、奥様曰く、外国語で歌をうたうとき、その外国語を母国語とする人がその歌を聞いて、ちょっとでも発音がおかしかったらその歌の中に入っていけなくなる。日本語の歌だって、外国人の人が歌って、少しでも音を外したら、興が覚めるでしょう? プロとしてやっていくとき、もし外国語の歌で勝負をしようとするなら、その外国語を母国語とする人たちの前でも恥じることがないくらい、徹底的に発音やリズムをチェックして臨むべきだ。自分自身、外国語の歌をうたうときは、ネイティブの人に歌詞をチェックしてもらい、おかしいかどうかを十分に確認したうえで、人前で歌うことにしている、という厳しいものでした。

なるほど、プロとしてやっていく以上その唄う歌については、プロとしての責任を持て、ということのようです。確かに、外国語で歌うとなにやらかっこいい、という風潮が確かにあり、若手のミュージシャンもさることながら、テレビで見るタレントさんや芸人さんも好んで英語などで歌を唄いたがります。

でも、本当の歌手とは、歌に命をかけるもの。その歌の内容にいいかげんさが残るようならば、プロとして失格、という審査委員長ご夫妻の姿勢には、ちょっとした驚きというか、感動さえ覚えました。

結局、今回のコンテストではグランプリの該当者はなく、二組が準グランプリになったのですが、その一組のモモリエさんも準グランプリだったのは、そういうことが原因だったようです。ただ、最後に委員長がモモリエさんに対しておっしゃったことは、ちょっとイキでした。曰く、準グランプリにして「あげた」というのもおこがましいが、もしその気があるならばさらに練習しなおして、できれば来年、この場所でこの賞にもう一度チャレンジしてほしい、というものでした。また、もう一人の地元出身の準グランプリシンガーさんに対しても、地元の振興の意味からも、修善寺での活動を続けていってほしい、とおっしゃいました。

これに対して、お二組とも笑顔で快諾。それをもって、彼女たちの長いコンテストの一日が終わったのでした。

時刻は4時すぎ。10時前に入園した私たちも、半日以上をここで過ごしましたが、歩きつかれて足が棒のよう。ミュージシャンたち同様、長い一日でしたが、思いがけなくコンテストも見れて、大満足の一日。園内はいま、バラがみごろということでしたが、まだ少々早く、つぼみのものがほとんど。少々残念でしたが、これから梅雨に入るまでにはまだ時間があるので、また来園しよう、タダだし・・・とちゃっかり。それにしても、これほど内容の濃い公園を無料で満喫できるなんて、なんて幸せなんでしょう。

次回くるときは、バラもさることながら、そろそろアジサイも咲き始めることでしょう。あ、そうそう、コンサートの準グランプリの二組は、この8月5日に修善寺本堂内で開かれる無料コンサートでも歌唱されるようです。もし、その時期に修善寺に足を運ばれることがあれば、ぜひ、その素晴らしい歌声を聴きに行ってあげてください。われわれもぜひ行ってみたいと思います。