厳島は、広島市内中心部から4kmほど西に行った場所の沖合にあります。「宮島」とも言いますが、どちらが正しい、とかいうのはないようです。学術的な文献や行政文書では「厳島」が多く使われ、観光地として指すときには「宮島」が多く使われるみたいですが、地元の人は「宮島」と呼ぶことのほうが多いかな。
私たちがこどものころの運動会では、「宮島さんの神主がぁ、おみくじ引いて申すには~、いーつも○○がぁ、勝ぁち、かーち、かっちかち!」という応援歌をよく歌っていました。○○のところには、紅(あか)か、白(しろ)が入ります。紅組か白組の応援歌としてこれをみんなで歌いながら応援するんです。
たぶん今も広島の小学校や中学校では歌っているんじゃないでしょうか。教師から教え子へ伝えつがれてきた歌です。高校野球の応援合戦のときにもこの曲を演奏しているのを聞いたことがあります。
それほど「宮島さん」といえば子供のころから慣れ親しんだ島。一番最初に行ったのは、たぶん幼稚園の遠足だったと思います。以後、小中高といずれの学年でも遠足の定番といえば宮島で、それ以外のプライベートでの渡島も数えると、おそらくは20回以上は行っているとおもう。広島育ちのわたしにとっては、こころのふるさと、と言っても過言ではない場所です。
そんな場所で結婚式を挙げようという話をタエさんがしたとき、ほんとうにそんなことができるのかしらん、と思ったものです。無論、神社には違いないので、結婚式を挙げる人もいないではなかろう。ただ、世界遺産にまで登録されるようになった今、ほんとにそんなところで結婚式挙げさせてくれるんだろうか、と私が疑ったのも無理もなからんとお思いではないでしょうか。
とはいえ、思い立ったが吉日、ということで、早速ネットで「宮島」「結婚式」と入力して検索してみると―― あるわあるわ、結構いろんな業者さんが「宮島ブライダル」とかなんとか名前をつけて、晴れある結婚式をぜひ、宮島で!と宣伝しているではありませんか。その数は結構多い。が、よく見てみると、結婚披露宴をやる式場を提供しているホテルや結婚仲介業者さんなどが運営しているサイトがほとんどで、さらにいろいろ調べてみると、式の予約などは宗教法人としての厳島神社社務所に直接申し込むということがわかりました。
気になる費用はいくらかな、と思ってみてみると、結婚式の費用として神社に収める玉串料が10万円ほど。これとは別途、式を挙げるときに神様に奉納する舞楽の費用がやはり10万円とのこと。舞楽のほうは、希望があれば、ということで、ようするに10万円払えば誰でも宮島で結婚式が挙げられるらしいのです。
おそらく、中には披露宴なんかいらない、結婚式だけ挙げればいいや、ということで、スーツ姿でシンプルな神前結婚を挙げる若い人も多いだろうと想像します。しかし、アラフィフにさしかかっていた二人としては、それまでの人生で関わった人たちも多く、たとえ自分たちが望まないとしても、そういう人たちへのお披露目という意味においては、きちんとした正装で臨むべきかなと思ったものです。
とはいえ、実はわたし自身は結婚式などにお金をかけるのはばからしい、と思うタイプ。結婚式をプリンスホテルで、とタエさんが提案したときも、即座に快諾したものの、できるだけお金のかからないシンプルなプランを・・・と考えていました。しかも、それでなくても一大観光地の宮島のようなところで式を挙げるということは、どれだけ多くの人の目にふれるんじゃろー(ここのところ広島弁)と、考えるだけでも顔が赤くなる思いでしたし、さらに、そのあとに結婚披露宴となると、例のたきしーど、とかいう洋風のちゃらちゃらしたのを着るんかい、いやじゃのー、と一時はずいぶん気おくれしたものです。
しかし、そうした経験することが、これからの人生の糧にもなるのよ、とわけのわからん理屈でタエさんにも諭されるうちに、えーい、どうせやるならパーッとやるかパーッとという気にだんだんとなっていきました。結婚式も披露宴もやらなければならないならば、ちまちましたものをやるよりは、どーんといいものをやって、記憶に残るものにしよう!と決めたのです。 いよっ、いい男! とタエさんが言ったかどうかはよく覚えていませんが、ともかく、式も披露宴もいっぱしのものをやることにし、次のステップに進むことに。
しかし、それにしても気になるのは、かの宮島での結婚式の予約状況。早速、電話で神社に確認したところ、予約が空いているのは、2ヶ月ほど先の6月とのこと。神社で挙式をする人は最近増えているとのことで、その中でもとくに人気の高い厳島神社だけのことはある。ずいぶん先だなーとは思いましたが、それでも、半年とか1年待ちとかいうわけでもなく、お互い晩婚だし、いまさら焦る必要もないか、とこれまたわけのわからぬ理由から、ともかく予約をすることにしました。
神社のほうで予約が空いている日は複数あったのですが、同じ日に披露宴をやる予定の広島プリンスホテルのほうの予約状況も確認する必要があり、両者に確認。その結果、午前中に宮島で式を挙げ、午後ホテルで披露宴ができるパターンとしては、6月20日の金曜日がよかろう、といことになりました。遠方から来ていただく方にとっては土日のほうが都合が良いのでしょうが、そうなるとかなり予約は先になってしまいます。それなら、できるだけ週末に近いほうにしようということで、金曜日に挙式をすることを決めたのでした。
それからは、「目標」に向かって二人して着々と準備を進めました。まずは、会場の下見とホテル側の担当者さんとの打ち合わせに始まり、宮島とホテルで着る貸衣装の選択と寸法合わせ。式に呼ぶ人のリストの作成と案内状の作成・・・
結婚式をやったことがある人はおそらくみなさん同じような手順を踏まれるだろうと思いますので、そこのところの詳細は割愛しましょう。しかし、とくに印象的で記憶に残っていることは、それらの準備のお手伝いをしてくださった方々のこと。とくにプリンスホテルの式場担当者のOさんは、テキパキと仕事をこなし、キレのよい会話と気配りのできる御嬢さんで、元アナウンサーでタレントの夏目三久にちょっと似た感じのなかなかの美人さん。宮島での式から始まって式最後のお見送りまでのすべてのスケジュールに目をくばり、およそスキのない手配をしてくださいました。
このほか、貸衣装屋さんのコーディネーターのお姉さんもとてもセンスのある人で、タエさんの長所を生かした素敵なウェディングドレスを選択してくれました。私といえば、男性はどちらかといえば「添え物」的な対象なので、ごく普通のタキシードを選択するんかなと思いましたが、案に反して私の年齢に合ったシックな衣装を選択。自分で言うのもなんなのですが、結構おしゃれな「髭男爵」が誕生することになったのです。
もう一人、忘れてはならないのは、式当日のメイクなどをお願いしたYさん。この人はタエさんの昔からの友人で、広島市内でマッサージ店を経営している方ですが、コスチュームコーディネーターやメイクアップアーティストもこなす、ばりばりのキャリアウーマン。式当日は、披露宴会場の裏方として、衣装替えのたびに衣装や髪形を整えたり、メイクを直してくださったりしました。実はスピリチュアル的なことのお話もできる方で、タエさんとは海外旅行にも一緒に行ったことのある親友。この方は、なかなか面白いといっては失礼ですが、いろんなエピソードを持った方なので、いずれまた機会があればそうしたことも詳しく書いてみたいと思います。
結婚式当日の前の夜はここプリンスホテルに宿泊し、あちこちの地方から来られた親戚や友人たちと食事をしたり、お話をしたりで、ふだんはなかなかできない貴重な時間を過ごしました。
・・・そして式の当日。かねてからの予報により、天気は良くないとは知っていたものの、その日は朝からもう少しなんとかならんかいなーというほどの、どしゃ降り。あー、こりゃあ日頃からの行いのせいかなー、とか思ったもんですが、ともかくその日の早朝から私は羽織はかま、タエさんは金襴緞子に着替え、ホテル一階のロビーに向かいました。
広島プリンスホテルは、広島市内中心部から南へ4kmほど離れた「元宇品公園」という半島の先端にあります。もともとは島だったもので、間の海を埋め立てて今は半島になっており、小高い山を中心にしたその島全体が公園になっていて、島を一周する散策道がついています。広島市民のよき散策の場所でもあり、デートスポットでもあるこの場所は、私も子供のころからしょっちゅう遊びに行っていました。そんな場所で結婚式を挙げることになろうとは、不思議な気分・・・
その半島の先端にそびえたつ瀟洒なデザインの広島プリンスホテル。場所が場所だけに、一階のラウンジからも海が見えますが、さらに上の階にいくと、瀬戸内海の島々が見える絶景に恵まれていて、観光客にとても人気があるようです。広島市民も何かとイベントがあるたびにこのホテルを利用しているようで、結婚式の会場としても人気があります。
ここから、宮島までは直線で15kmほど。この日の午前中は、厳島神社本殿で結婚式を挙げる予定だったのですが、では、なぜ宮島から離れたプリンスホテルへ? と思われる方もいるでしょう。実は、我々のプランは、式に参加する方々をここプリンスホテルから宮島まで船で直接送り迎えしようというもの。式には遠方から来られる方も多いので、海から見る宮島を見てもらい、観光客としての気分も味わってもらおう、という配慮もあったのです。
しかし、あいにくのどしゃ降り。船は大丈夫かなーと思いましたが、幸い、雨はすごいものの、波はほとんどなく、予定どおり船は出向できるとのこと。衣裳部屋で、私は紋付袴。タエさんは金襴緞子に着替えて出発です。
ホテルの裏には宮島行きの不定期便の専用桟橋があり、船はここから出ます。降りしきる雨の中を着物の裾をからげて、ホテルスタッフに差し出された傘に守られながら船へと向かう二人。船にはこのほか、親しい友人や親戚が乗りこみ、ほぼ予定時刻に、桟橋を離れました。船から陸のほうをみると、さきほどまで傘を貸していてくれたホテルスタッフさんたちが総出で、傘をあげ、手を振ってくれています。なかなか心のこもったサービスに感激。そして・・・船は宮島へ宮島へと進んでいきます・・・
・・・少々長くなったので、今日のところはここまでにしたいと思います。次はいよいよ結婚式本番について書こうと思います。が、その前に、もしかしたら、二人の奇跡的な出会いについても触れるかも。30年ぶりに出会ってそこからスタートした我々二人が結婚に至るまでに、今思えば本当に不思議なことが数々ありました。そんなスピリチュアルなお話も交え、この項を綴っていくのも面白いかも。修善寺の日常のことなども書いていきたいので、不定期になるかもしれませんが、お時間のある方は、時々のぞいてみてくださいね。それでは今日のところはこれまで。