変身へんしん

2014-1150692お盆に入った一昨日、大学に通っている一人息子君が、学校のある千葉に帰りました。

親元を離れてからも、毎夏、毎冬、きちんと里帰りに帰ってきてくれ、あちらであったことを色々話してくれるのはうれしい限りであり、こちらもそういう気持ちに答えようと、食事やら何やらでそれなりのもてなしをして、返すようにしています。

その一環で、彼が帰ってくるといつも親子三人で、映画を見に行ったりもするのですが、この度も何を見に行こうか、と相談したところ、今回はお互いに既に見てしまった映画も多く、選択肢があまり多くはありませんでした。

なので、あまり気乗りはしなかったのですが、「トランスフォーマー」というVFX作品を見に行くことにしました。VFXとは、Visual Effects(ビジュアル・エフェクツ)の略で、日本語にすると「特撮」ということになるでしょうか。が、CGやアニメを駆使したいわば仮想作品であり、実写の割合は昔の映画に比べてかなり少なくなっています。

このトランスフォーマーですが、今回の作品はシリーズ4作目で、正式には「トランスフォーマー/ロストエイジ」というタイトルになります。最初の作品は、2007年のもので、これは「トランスフォーマー」、2作品目が「トランスフォーマー/リベンジ(2009年)」。3作目が「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン(2011年)」です。

このうちの第1作目も、息子君を連れて三人で見にいっており、このとき彼はまだ中学生でした。子供向けの作品であることを承知での鑑賞でしたが、思いがけず面白く、とくにそのVFX映像にはただただ驚かされるばかりでした。

その後、我々二人は2作品目、3作品目は見ておらず、今回は久々の鑑賞でした。この4作目については新聞の論評で、最新のVFX技術は見るに値すると書いてあり、なのでストーリーはあまり期待せず、その映像美を楽しもうと思っていました。が、ストーリーのまずさばかり気になり、また、映像技術も期待したほどではなく、正直がっかりしました。

実は、この映画、一番最初の作品、「トランスフォーマー」の企画の段階ではスティーブン・スピルバーグが監督する予定でした。ところが、脚本が完成した段階でメガホンを取る時間が割けず、また脚本の内容から「自分よりも若い監督がメガホンを取るべき」とスピルバーグ監督が判断したため、マイケル・ベイに監督に依頼をしたそうです。

このため、スピルバーグは「製作総指揮」という名前だけを貸す、という形とり、以後、4作目まで、すべての映画で、スピルバーグは、「監修者」という形態をとっています。

ただ、スピルバーグは一連の作品にまったく関与していないわけではなく、主に演出面で経費を節約するアドバイスなどを行ったということであり、このため、最初の作品においては、2億ドル以上かかると言われた本作の制作費を1億5千万ドルまで抑えることができたといいます。

マイケル・ベイ監督は、この映画の撮影のオファーの話が来た際、子ども向け玩具を原作とする本作の監督をすることに難色を示していたといます。が、この当時「玩具」として全米で発売されていたトランスフォーマーの製作メーカー、「ハズブロ」に出向いて、資料などを見させてもらっているうちにその精巧さに驚き、考えを改めたそうです。

ハズブロは、1980年代から展開されてきた“変型するロボット”をテーマとする玩具・アニメーションを発売しており、この宣伝のために、コミックシリーズの発売にも関与しており、映画版の「トランスフォーマー」はこのコミックやロボット玩具を売らんがため世伝作品という向きもあります。

当初から、配給会社側はトランスフォーマーを三部作にする事を決定していましたが、ただしこれは、第一作の興行収入が好調であればという条件付きであり、最初から続編の製作が決定していたわけではありません。ところが、この第一作目は、アメリカでの初日興行収入は30億円以上、2週間で240億円以上を記録し、日本でも大ヒットしました。

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ただ、2作目の「トランスフォーマー/リベンジ」の最終興行成績は23.2億円と前作を下回って失速し、マイケル・ベイ監督も今作を失敗作であると認めました。しかし、はじめての3D作品として送り出した、第3作の「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」は、興行収入こそ40億円と1作目を下回ったものの、そこそこヒットしました。

とくに、3D鑑賞者が多く、3Dでの鑑賞率は91%であり、これは「アバター」の数値を上回っています。そこへ来て、今回の4作品目ですが、まだ興行中なので何とも言えませんが、私的には失敗作だと感じており、おそらくはあまり興行収入は伸びないのではないか、と思います。

このトランスフォーマーですが、2007年に最初に映画化の話が持ち上がる以前から何度か実写化は企画されてきたものの、映像面の問題や物語展開が困難などの理由で実写化は不可能とされてきたものでした。

そもそも、こうした「変形ロボ」の元祖は、日本の玩具メーカーである、株式会社タカラ(現:タカラトミー)から発売されていた「ミクロマン」と呼ばれるおもちゃで、1974年から1980年まで発売されていました。全身14箇所可動の身長10cmの小型フィギュアでロボットを変身させると、サイボーグになる、というコンセプトでした。

これが大ヒットしたのち、タカラは今度は、「ダイアクロン」という新たな商品を開発し、これは1980年から1984年まで発売されていました。同じく変形ロボでしたが、他のロボットと「合体」できるところが新しい特徴であり、このため「変形合体ロボ」と呼ばれました。

ネーミングは「ダイヤのように固い友情の、サイクロンのように力強い仲間たち」から来ており、ミクロマンで重視された「可動人形とそれが乗り込む変形メカ」の路線を練り直し、当初は3cmの隊員と複雑な変形合体ロボの取り合わせを基本として展開されました。

ところが、1982年になると、実際の乗り物を精巧にミニチュア化し、自動車や電車がロボットに変形する「カーロボット」をはじめとした「リアル&ロボット」シリーズが主体となっていきました。これをアメリカの市場においては、「トランスフォーマー」の名で出したところ大ヒットし、翌年に日本へ逆輸入され、逆に「ダイアクロン」の名は消えました。

その後、株式会社タカラは、「トミー」と名をあらため、更には現在の「タカラトミー」に変更し、アメリカの玩具企業であるハズブロや、コミック作品で有名なマーベル・コミックとの連携により、新たな展開を行うようになりました。

この「ハスブロ」という会社ですが、マテル社と並んでアメリカを代表する世界規模の玩具メーカーで、規模的にはマテル社に次いで全米第二位です。“Making the World Smile”を企業メッセージとして掲げており、ロゴマークも笑顔をモチーフにしたものです。

ハズブロという名前は聞いたことがなくても、「モノポリー」を作っているメーカーといえば日本人でもあ~あれか、と思い当たるでしょう。こうしたボードゲームとアクションフィギュア等のキャラクター玩具が主力商品で、創業は1923年に遡ります。

ユダヤ系の“Hassenfeld”という兄弟が最初は文具会社からスタートさせた会社であり、ハズブロ(Hasbro)の名は、“Hassenfeld Brothers”から来ています。1940年ころから玩具の製造・販売に乗り出し、以降、多数の関連企業を傘下におさめる巨大グループに成長しました。

その後もデジタルゲームを作る会社を買収するなど、新しい分野の開拓にも積極的で、1992年には、日本の老舗玩具メーカー「野村トーイ」を買収の形で傘下に加え、その社名をハズブロージャパンに変更して日本法人を設立しました。

ところが、1998年、突然経営不振になって、これによりいったん解散しましたが、その後タカラトミーとの業務提携契約を結ぶ形で復活し、現在も同社とは親密な関係にあり、トランスフォーマーを作る技術もタカラから提供を受けている、というわけです。

しかし、北米ではハズブロ以外にも、タカトクトイスやトイボックス、トイコーといった、玩具メーカーがロボット玩具を発売しており、これも「トランスフォーマー」と称して販売しています。が、これを日本に輸入する場合はタカラが保有する権利との関係上、発売できないものも多数あるといいます。

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一方、日本国内ではタカラと同じく、大手の玩具メーカーであるバンダイが、これを「マシンロボ」の名前で販売しており、タカラトミーのトランスフォーマー同様、自動車や新幹線、戦闘機や猛獣などが人型ロボットに変形する商品をメインアイテムとして展開しています。

スピルバーグは、こうした日本の変形ロボを入手し、子供に与えて遊ばせているうちに、自らもこれにはまり込み、いつか実写映画化したいと考えていたそうで、2007年にマイケル・ベイ監督にそれをゆだねることにはなったものの、本当は自分でも作品化したかったようです。

しかし、それ以前は複雑な動きをする変形ロボの撮影技術は未発達であり、それが可能になったのは近年におけるVFX技術の発達のおかげであることは言うまでもありません。
いまや、映画やテレビドラマにおいて、現実には見ることのできない画面効果を実現するために不可欠な技術となっており、VFXで描けないものはないとまで言われています。

SFXと何が違うのか、ということなのですが、SFXとは“special Effects”の略で、これは日本語では「特殊効果」のことです。撮影の現場で直接加える効果のことをSFXと呼ぶのに対し、VFXは撮影したあとに、その映像を加工する段階で付け加えられる効果のことをいいます。このため、日本語では「視覚効果」と訳して「特殊効果」と区分しています。

CG(Computer Graphics)もまたVFXと混同されがちですが、CGはコンピューターを使用して作成されるイメージを指します。イラストレータのようなグラフィックスソフトを使って描かれるイラストや図形などをCGと思っている人も多いかと思いますが、これも本来CGではなく、コンピュータで生成し「レンダリング」したもののみがCGです。

一方でVFXは「CGまたは合成処理によって実写映像を加工すること」とも定義されます。従って、CGはVFXを形成する一つの技術にすぎない、ということになります。

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こうしたVFXは、トランスフォーマーのような子供向けの映画ばかりではなく、従来映像化ができなかった歴史ものや、その中でもとくに古代からの神話の世界を描くのにもよく使われます。

「変身譚(へんしんたん)」というカテゴリが昔からあり、これは人間が異性や、動物や植物などの人間以外のものに変身するという神話・物語・伝説などを指しています。その歴史は古く、古代ギリシアからヘレニズム、ローマ帝国時代にかけて多くの物語が作られており、古代ローマの詩人、オウィディウスの「変身物語」はその集大成であると言えます。

これは15の作品から構成されており、ギリシア・ローマ神話の登場人物たちが、動物、植物、鉱物、更には星座や神、といった様々なものに変身してゆくエピソードを集めた物語です。中世文学やシェイクスピア、そしてグリム童話にも大きな影響を与えました。

有名な話としては、「ナルシスト」の語源ともなったナルキッソスが、呪いにより自己愛に目覚めやがてスイセンになる話などがあり、また、そのナルキッソスを愛するエコーが木霊になる話などがあります。

このほかにも、蝋で固めた翼で空を飛んだイカロスが墜落死する話、アポローンに愛されるもゼピュロスの嫉妬により円盤で殺されたヒュアキントスがヒヤシンスの花になる話など、かなりメジャーな話もこの「変身物語」に収められています。

近代になっても、こうした変身譚は人気があって非常にたくさん作られており、カフカの「変身」はとくに有名です。この話は、ひとりの青年が、ある朝自室のベッドで目覚めると、自分が巨大な毒虫になってしまっていることに気が付く、という話です。

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簡単にあらすじを書くと、主人公の布地の販売員、青年グレーゴル・ザムザは、父親の借金の返済と妹を音楽学校に通わせる学費を稼ぐため、懸命に働いていました。しかし、ある朝自室のベッドで目覚めると、自分が巨大な毒虫になっていることに気がつきます。

彼は家族に、自分が虫になってしまったことを説明しようとしますが、人の言葉を使うことはできず、家族は気味悪がるばかりであり、唯一彼であることを信じたのは妹のグレーテだけでした。グレーテは兄に食事を与えようとしますが、彼の嗜好は人間であったころとは変わってしまい、腐った野菜や残飯などを好むようになっていました。

このため、最初は彼を気遣っていたこの妹も、次第に彼の世話をしなくなっていきます。さらにグレーテは母と一緒になって彼の部屋から彼が使っていた家具をすべて片付けてしまい、グレーゴルは自分が人間だったことの証明が失われるように思い、悲しみます。

空っぽになった部屋でしたが、グレーゴルは自分の醜い姿を人に見られるのを嫌い、部屋からはけっして出ませんでした。ところが、ある日のこと、この家に下宿していた紳士が、グレーテが弾くヴァイオリンの音を聞きつけ、リビングに来て演奏するように言います。

紳士は妹が演奏するのを退屈そうに聞いていましたが、これを聞いたグレーゴルは懐かしく思い、思わず部屋の外へ這い出してしまいます。これに気づいた父親は怒って彼にリンゴを投げつけ、紳士をなだめようとしますが、怒った紳士は即刻この家を引き払い、またこれまでの下宿代も払わないと宣言します。

失望する家族たちの中で、グレーテはもうグレーゴルを見捨てるべきだと言い出し、父もそれに同意します。グレーゴルは部屋に戻りますが、リンゴを投げつけられた怪我が原因となって痩せ衰えていき、やがて家族への愛情を思い返しながらひっそりと息絶えます。

翌日、グレーゴルの死体は手伝い女によってすっかり片付けられました。彼のことで心を痛めていた家族たちは、休養の必要を感じ、ある日のこと、めいめいの勤め口に欠勤届を出し、3人そろって散策に出ます。

そうして家族で散歩をしながら話をしてみると、それまであまり家族の会話はなかったことに気がつき、またどうやら互いの仕事はなかなか恵まれていて、将来の希望も持てるじゃないか、ということを改めて思います。

そして娘のグレーテをみると、長い間の苦労にも関わらずいつの間にか美しく成長していることにも気づいた両親は、そろそろ娘の婿を探してやらなければ、と考えるのでした……

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……という、暗~い話なのですが、実はカフカはこの作品の原稿を友人の前で朗読する際、絶えず笑いを漏らし、時には吹き出しながら読んでいたといいます。また、「変身」の本が刷り上がると、カフカはその文字の大きさや版面のせいで作品が暗く、切迫して見えることに不満を抱いていたそうで、彼にとってはこの話は「喜劇」という感覚だったようです。

かなりの変人と思いきや、この40歳で夭折したチェコ出身の作家は、意外にもジェントルマンだったようです。物静かで目立たない人物ながらも、人の集まる場ではたいてい聞き役に回り、たまに意見を求められるとユーモアを混じえ、時には比喩を借りて話したといい、職場では常に礼儀正しく、上司や同僚にも愛され、敵は誰一人いなかったそうです。

掃除婦に会った際にも挨拶を返すだけでなく、相手の健康や生活を案じるような一言二言を必ず付け加えたといいます。掃除婦の一人はカフカについて「あのかたは、ほかのどの同僚ともちがっていました。まるきり別の人でした」と話しているほどであり、残した作品の不可思議さからはまったく想像できないほどです。

このカフカについては、これらのエピソードだけで片付けてしまっては理解できない人物であり、面白い人物だと思うのでまた別の機会にじっくり書いてみたいと思うのですが、早逝だったせいもあり、その著作は必ずしも多くはなく、死の年までに出版された著作はわずか7冊です。

ただ、多数の短編を残しており、日記および恋人などに宛てた膨大な量の手紙もあって、少なからぬ点数が未完であったことも知られています。その多くが、どこかユーモラスでありながら、そこに孤独感と不安が織り交ぜられ、夢の世界を想起させるような独特の作風であり、「変身」はその代表作とされています。

死後中絶された長編小説の遺稿が友人によって発表されて再発見・再評価をうけ、これら長編に加えて未発表の短編なども発行されて世界的なブームとなりました。現在ではジェイムズ・ジョイス、マルセル・プルーストと並び20世紀の文学を代表する作家と見なされています。

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こうした変身譚は日本にもいくつか有名なものがあります。その代表的なものとしては、中島敦の「山月記」があり、これは戦前の1942年に発表された作品で、最近では文科省認定の高校生向けの教科書にも頻出しています。しかし、「山月記」は、唐の時代に書かれた「人虎」という変身譚のリバイバルです。

簡単にそのあらすじを書くと、この話は唐の時代に秀才といわれた「李徴」という役人が主人公です。李徴は、その身分に満足しきれず、官職を辞し詩人として名を成そうとしますが、うまく行かず、ついに挫折。そのうち発狂して山へ消え、そこで虎に変身してしまいます。

その翌年に、彼の数少ない旧友がこの山を通ったとき、その途中で突然虎に襲われます。しかし、現れたその虎の正体は実は李徴であり、彼が旧友だと知った李徴は人間の姿に戻り、すすり泣きをしながら、これまでのいきさつを語りはじめました。

そして、「昨年、何者かの声に惹かれ、わけがわからぬまま山中に走りこみ、気がついたら虎になっていた。人間の意識に戻る時もあるが、次第に本当の虎として人や獣を襲い、食らう時間の方が長くなっている。」と語ったあと、この友人に、「まだ自分が記憶している数十の詩編を書き記して残してくれないか」と頼みます。

友人はこれを素直に受け入れ、李徴の朗ずる詩を部下に書き取ります。それらは見事な出来ばえでしたが、微妙なところで何か足りないものがあるように感じます。そして、それはおそらく李徴の性格に由来するものと考え、そのことを李徴に語りました。

これを聞いた李徴は、なぜ自分が虎になったのかを悟ります。そして、自分は他人との交流を避け、人はそれを傲慢だと言ったけれども、それは実は臆病な自尊心のために人を避けていたのであって、本当は詩才がないかも知れないのを自ら認めるのを恐れ、人と交わることで苦労して才を磨くことも嫌がっていたことに気がつきます。

そして、その心中の傲慢さが姿を虎に変えたことをようやく理解しますが、そのころもう夜は明けかけていました。別れを惜しむ友人に李徴は、残された自分の妻子の援助を頼み、夜が明けたら自分はもうすぐ虎に戻る、早くここを離れろといい、ただ、しばらく行ったら、ちょっとだけ振り返ってくれ、と友人に頼みました。

友にここから去るように勧めたのは、夜が明ければ、再び醜悪な姿を見せることになり、また振り向かせようとしたのは、その恐ろしい姿を垣間見させ、二度と再びここに来て会おうとの気を起こさせないためでした。

友人は、言われた通りしばらく歩いてから振り返ると、そこには朝明けの空ですっかり光を失った月がひとつ残っており、その下にシルエットとなった1頭の猛虎がいました。虎はそこで月に向かって一声咆哮すると姿を消していきました。そしてそれ以降、二度とその姿を人々に見せる事はなかったといいます……

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この話は、1997年に新潮社から朗読CDも発売されており、このとき読み手は、俳優の江守徹さんだったそうです。その後も何度か読み手を変えて販売されているようなので、ご興味のある方はネットで入手してフルバージョンで楽しまれてはいかがでしょうか。

前述のとおり、この話は中国のものが原作であり、これを中島敦が意訳したものですが、実は日本には、輪廻によって人が動物に生まれ変わる話はあっても、生きながらにして人間が動物その他に変身する話はあまりないようです。

妖怪話のように、変身能力をもった動物の話はたくさんありますが、そういわれてみれば、化け猫もおキツネ様も元は人間ではなく、動物が人間に変身したものです。このほかタヌキ、ムジナ、カワウソの類の話も多く、里見八犬伝もイヌが人間に変身する話であり、確かに人が動物に変身する、という話はあまり聞きません。

ところが、近年になってからは、仮面ライダーに代表されるような、いわゆる「変身ヒーローもの」が一大ブームになっています。特撮映画・テレビドラマ・アニメなどの映像作品に登場する人物が、特殊な能力を持つヒーロー・悪人・怪獣になる、といったもので、変身するときは、「トヤーッ」といった何らかのかけ声と共に「決めポーズ」がとられます。

「変装」ではなく、「着替え」でもなく、あくまで「変身」であり、こう呼ばなければなりません。こうした敵の目の前でポーズを取る変身は極めて日本的な現象だと言われています。アメリカン・コミックスのスパイダーマンやバットマンも奇抜な服装で活躍していますが、それらは日本での「変身」ではなく、どちらかと言えば身元を隠すためのものです。

異装の超人の活躍を楽しむという趣向は同じにもかかわらず、日本のヒーローが、これまではアメコミヒーローほど全世界規模で受容されてこなかった理由のひとつは、この「変身」という概念が障害になっているからだとも言われています。

日本の場合の変身は、仮面と素顔の使い分けではなく「見栄」としての色彩が濃く、これは時代劇の流れを汲んでいることに起因するといわれます。たとえば時代劇に登場する忍者は、「忍法○○の術!」などと自分が使う術の名前をわざわざ先に宣言して、敵に攻撃手段を教えます。

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実際にそんなことをやっていたら、その間に敵の刃にかかってしまうのは目に見えていますが、時代劇でそうしないのは、そうした合理性よりも視聴者への印象づけに重きを置いているためです。

このあたりが、欧米のヒーローと異なり、スーパーマンが、「いざ世界を救わん!」とか言って空に飛んで行ったら間が抜けてしまいます。ところが日本のウルトラマンが飛ぶときには、わざわざ飛んでいく方向を見上げ、「ジュワッチ」とか言いながら飛んでいきますが、これも歌舞伎の見栄のようなものです。

ところが、最近はこの日本の「ヘンシン」もまた、海外で受け入れられつつあるようで、少女向けのアニメ作品、「美少女戦士セーラームーン」や「ふたりはプリキュア」などは海外でも大人気です。ご存知、「月に代わってお仕置きよ!」が決めゼリフのあれです。

アメリカの人気ロックバンド、ヴァン・ヘイレンのデイヴィッド・リー・ロスが日本で製作したショート・フィルム「外人任侠伝〜東京事変」の決めゼリフもこれでした。このほか、「スーパー戦隊シリーズ」や、仮面ライダーをリメイクした「パワーレンジャー」なども海外でドラマ化されており、今や日本の変身モノは世界的ブームになりつつあります。

さらに、高屋良樹の漫画作品「強殖装甲ガイバー」も高校生が宇宙人の残した技術で超人ロボットに変身するというストーリーです。

これは、ハリウッドで「THE GUYVER」および、その続編「GUYVER DARK HERO」のタイトルで2度にわたり実写化されて公開されており、冒頭のトランスフォーマーほどではないものの、これもマニアにはそこそこ受け入れられたようです。

今公開されている、“Godzilla”は変身ものではありませんが、最近こうした日本発のアニメやヒーロー物が世界を席巻し始めている感もあり、変身モノもまた、世界に胸を張って輸出できるようになる時代も来るのかもしれません。

ジョニー・デップが、「へ~んしん、トゥ」、とかいいながら、怪人に変身するのを想像すると楽しくなります。

さて、お盆もたけなわになりつつあります。伊豆は他県からのクルマであふれかえっており、ちょっと外出すると渋滞に巻き込まれそうなので、お盆期間中はおとなしくしていようかと思っています。

いっそのこと毒虫でもなんでもいいから飛べる動物に変身して、どこか遠くへ飛んでいきたいとも思うのですが、変身したあとに元の姿に戻れなくなって、タエさんに捨てられると困ります。

化けるならせいぜいタヌキぐらいにしておいて、狸寝入りを決め込むことにしましょう。

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