伊豆の水は甘いか

2014-4871朝晩の空気が冷えてきて、秋近しの感があります。

空気もそうなのですが、水道の蛇口から出る水も、ひところまでは生ぬるかったものが、ひんやりと感じるようになり、このあたりにも秋の気配を感じます。伊豆市の水は渓流などの表流水と地下水の汲み上げでまかなわれており、このため暑い寒いの季節変化は即、水道水の温度にも現れてきます。

また、水道水、といいながら、都会の水道水にありがちなカルキ臭さはまるでなく、そういえば、電気ポットの内部に溜まりがちな、あの白いカルキの結晶も付着しているのをほとんどみたことがありません。

生で飲んでもいつもおいしく、自然の恵みによって生かされている、と感じることができ、改めてこの地に移り住んできてよかったな~と思う次第です。

このカルキですが、正式名称は、「次亜塩素酸カルシウム」といい、消石灰(水酸化カルシウム)に塩素を吸収させて製造します。次亜塩素酸カルシウムを製品化した粉末は、一般にさらし粉(晒し粉)と呼ばれ、これはドイツ語でクロールカルキ(Chlorkalk)なので、略してカルキ、あるいは訳して塩化石灰ともいいます。

次亜塩素酸カルシウムの消毒薬としての効能は吸わせる塩素の量によって変わり、高含有量の製品が「高度さらし粉」と呼ばれます。この高度さらし粉は、吸湿性が小さく、長期の保存に耐えるなどの利点があり、水に可溶で酸化力が強いという特徴があります。

水道水に用いられるのは、濁った水の漂白や水に含まれている細菌を滅するなどの消毒などにも有効であるためであり、これを固形化したものはプールや、プールの付帯施設の足洗い場、腰洗い槽の消毒などにもよく用いられます。

こうした効能は、ひとえにこれに含まれる塩素のおかげです。塩素の漂白作用は1785年にクロード・ルイ・ベルトレーというフランスの医師により発見されました。

化学者でもあり、化学物質の命名法や名前の体系を決めたことでも知られており、それらは現代の化合物の名称の体系の基礎となっています。フランス元老院の副議長もやった政治家という側面もあり、文理両道の人でした。

ベルトレーは塩素漂白を発見したものの、当初、塩素自体の臭い及び毒性の強さから、漂白剤としての実用化は困難と考えました。しかしその後、塩素を石灰水に溶かすと安全かつ漂白作用を維持できることに気づき、1786年にこのことを友人のジェームズ・ワットに教えました。

ジェームズ・ワットといえば、蒸気機関の発明で有名です。この発明によりイギリスのみならず全世界の産業革命の進展に寄与した人物ですが、ワット自身は塩素消毒の技術をさらに深めることはせず、さらにチャールズ・テナント という人物にこれを伝え、彼が1799年に固体で保存できるさらし粉の原型を完成させました。

さらし粉ことこの次亜塩素酸カルシウムにはその後、強い殺菌効果があることも確かめられました。しかし、殺菌効果があるということの裏返しは、実は強い毒性を持つということです。ベルトレーが塩素の漂白を発見したものの、その実用化にこぎつけなかったのもこの毒性の強さゆえです。

2014-1140907

その証拠に、化学兵器としても使われたことがあります。第一次世界大戦中の1915年4月22日、イープル戦線ではこれが使われ、この時にドイツ軍の化学兵器部隊の司令官を務めていたのは後年(1918年)ノーベル化学賞を受賞するフリッツ・ハーバーです。

この戦争では、塩素だけではなく、その他の各種毒ガス使用の指導的立場にあったことから「化学兵器の父」と呼ばれることもあります。毒ガスの使用は、毒を施した兵器の使用を禁じているハーグ条約に違反するのではないかと問われたフリッツは、毒ガスを使って戦争を早く終わらせることは、多くの人命を救うことにつながると語っていました。

しかし、ドイツの毒ガス作戦は国際的な非難を浴び、また、彼の周囲でも反対意見があり、とくに妻のクララも夫が毒ガス兵器の開発に携わることに強く反対し続けましたが受け入れられず、彼女は抗議のために自ら命を絶っています。

フリッツはクララの死後も毒ガス作戦を継続するとともに、新たな毒ガスの開発を進め、その後ノーベル化学賞を受賞するに至ります。が、この当時、毒ガス兵器を戦争で使用したドイツの科学界に対する国外からの反感は大きく、この受賞に対しても各国からの批判がありました。しかし、ドイツ国内ではなお一層愛国的科学者として名声を受けました。

ところが、彼はユダヤ人だったため、その後ナチスが台頭する第二次世界大戦では、抹殺こそはされなかったものの不遇の日々を起こることとなりました。戦後はイギリスやスイスに渡り研究をし続けましたが、冠状動脈硬化症により65歳で死去しました。

彼はケンブリッジにいた頃、自分の遺灰はクララと一緒に埋めてほしい、そして墓碑銘には「彼は戦時中も平和時も、許される限り祖国に尽くした」とだけ記してほしいと遺言書に記していたそうで、このため彼の遺体は、妻のクララとともにスイス、バーゼルにある墓地に埋葬され、その墓碑にはその通り記されています。

さて、寄り道が過ぎましたが、このように毒ガスに使われるほど塩素は毒性が強いため、吸引するとまず呼吸器に損傷を与えます。空気中を漂う塩素ガスは、皮膚の粘膜を強く刺激し、目や呼吸器の粘膜を刺激して咳や嘔吐を催し、重大な場合には呼吸不全で死に至る場合もあります。また液体塩素の場合には、塩素に直接触れた部分が炎症を起こします。

塩素を浴びてしまった場合、直ちにその場から離れ、着ていた衣服を脱ぎ、毛布に包まるなどして体を温めなければならず、直ちに医療機関での処置が必要です。塩素を吸い込んで呼吸が停止している場合もあり、一刻も早く人工呼吸による蘇生を行わなければなりません。呼吸が苦しい場合には酸素マスクの着用も必要です。

現在においても、一般家庭にある塩素を含む漂白剤とトイレ用の洗剤のような酸性の物質を混合すると、有毒な単体の塩素ガスが発生することがあります。このため、漂白剤や酸性のトイレ用の洗剤には「混ぜるな危険」との大きく目立つ表示があります。

1986年には徳島県で、また1989年には長野県でも、実際に塩素系漂白剤と酸性洗浄剤を混ぜたことにより、塩素ガスが発生し死亡した事故が起こっています。このように人体にはあまりよろしくない物質ですが、安定で、かつ安価に合成でき、その分量さえ間違えなければ、毒性は低く、逆に殺菌効果のように人のためになる効能を入手できます。

このため、現在の日本では上下水道やプールのみならず、温浴施設の殺菌消毒、リネン・おしぼり業での殺菌・漂白、など広くわれわれの生活に浸透しています。コレラなどの病気が日本も含めてほとんどの国で駆逐されたのは塩素を含んだ水道水のおかげでもあります。

2014-1564

しかしその一方で、「塩素神話」とも言えるほどのこの薬品への過信と依存が生まれ、その本性への誤解が、新しい問題を引き起こしています。以下、さらにこのことについて書いていこうと思いますが、「次亜塩素酸カルシウム」のままでは書きづらいので、この項ではその主原料である、「塩素」として話を進めます。

そもそも塩素はどうしてこんなにも使われているのでしょうか。これは、そもそも自然界に豊富に存在するため入手がしやすく価格が安いためです。地球上において、92ある天然元素のうち18番目に多く存在し、鉱物やイオン、気体などとしてマントルに99.6 %、地殻に0.3 %、海水に0.1 %が保有されています。

またこれまでの研究結果からは安全性が高いとされ、食品添加物としても認められています。また、日本は雨水や河川水は豊富にあり、こうした豊富な水には大量の細菌や不純物が含まれており、そのまま飲むと健康を害してしまうため、その消毒にも使われています。

大量にあるこの水を低コストで衛生的、かつ安全に使用するために最適な薬剤として選ばれたものこそが塩素であり、現在では、日本人の生活を支える上においては必要不可欠なものになりました。

塩素注入が行われるようになったのは、日本では1890年代になってからです。従ってすでに120年以上経過していますが、世界的にも現在でも水道水の最も重要な消毒剤として君臨し続けています。塩素系の消毒剤としては上述の高度さらし粉(次亜塩素酸カルシウム)以外にも液体塩素、次亜塩素酸ナトリウム、などがあります。

これら塩素消毒薬の長所としては、以下があげられます。

1.塩素は消毒の効果が大きくて確実であること
2.消毒の効果が後々まで残ること(残留効果がある)
3.大量の水でも容易に消毒できること
4.残留塩素の測定が容易で維持管理が容易なこと

残留効果についてですが、水道のように浄水場から末端の給水栓までの距離が長い場合など、その途中で微生物が再増殖してしまう恐れがあります。このような微生物の再増殖現象をアフターグロースと言いますが、これを防ぐためには塩素のようにその効果が持続する残留効果が必要となります。

塩素を含んだ水道水の殺菌効果には高い継続性があるのです。しかし、良いことばかりのように見えるこの塩素消毒にも大きな問題点があります。

そもそも塩素が導入されるようになったのは、我が国では1960年代頃から産業の急速な進展に伴って自然環境の汚染が進み、河川、湖沼などの表流水や地下水も次第に汚濁が進むようになったためです。

その昔は、原水の質が悪くなれば悪くなるほど、加える塩素は多いほど良いと水道関係者は考えていたようです。なぜかと言えば、水道水の摂取による最大のリスクは細菌による感染症にあるという考え方が主流だったためです。

現在でも開発途上国においてはそれが正しい見解で、すべての病気と死亡者の原因の半数以上は、汚染された水の使用が原因だという報告もあります。日本の場合も塩素が用いられる前には水道水が原因となって赤痢が頻繁に発生していましたが、塩素の投下によって1970年代にはほとんどゼロになりました。

2014-2802

また、現在ではその他の細菌性の病気もまず日本の水道水はどこでも発生することはありえない、とまで言われるようになりました。ところが、近年になって、塩素消毒によって、発ガン性物質が発生する、ということが問題視されるようになってきています。

「トリハロメタン」といい、浄水場での塩素消毒の際に、水中の溶存有機物と反応して生成されます。

有機物は主に動植物の死骸などに由来するものですが、これらは富栄養化した湖沼水やそれを水源とする河川水中に存在し、このほか下水などが混入した河川水中にも含まれます。また自然水中に存在する着色物質であるフミン質などもこの有機物質であり、これらの有機物質と塩素との反応により生成するのが、トリハロメタンです。

トリハロメタンは、一種類だけではなく、代表的なものは7種類ほどありますが、この中には麻酔薬にも使われるクロロホルムなども含まれていて、これらを総称して「総トリハロメタン」と呼びます。

総トリハロメタンは発癌性だけでなく、これの摂取による乳幼児の奇形なども疑われており、最近は、新聞報道などでも水道水中の総トリハロメタンをいわゆる「環境汚染物質」として取り上げることも多くなってきています。このうち、クロロホルムに関してはとくに肝障害や腎障害を引き起こすことが知られています。

とはいえ、日本の厚生労働省の基準は、WHOのガイドラインよりも厳しいものとなっているため、上水道水中のトリハロメタンの数値は、既に厚生労働省基準の数分の1以下もしくは測定レベル以下となっているケースが多く、一般の水道水を飲んですぐに癌になったり、肝臓が悪くなったりといったことはありません。

が、トリハロメタンは、短時間の煮沸でも除去できない、といった間違った報道されたことなどから、最近の環境ばやりにより、逆に短時間の煮沸はトリハロメタンを増加させる、といったデータをあげて危険性を煽り、数十万円の浄水器等を売り込む商法も見受けられます。

このような浄水器の購入を検討する場合には、沸騰直後にはトリハロメタン濃度が一時的に増加するものの、3分以上の沸騰により濃度は半減、10分の沸騰でほとんど消滅するといったことを知っておく必要があります。従って家庭用の電気ポットで除去できないトリハロメタンもガスなどでさらに過熱すれば除去できます。

また、業者が使う検査キットは、厚生労働省の基準をはるかに下回っても危険である可能性もあること、上水道水中のトリハロメタンの数値は、既に厚生労働省基準以下もしくは測定レベル以下となっているケースが多く、煮沸で数倍に増えたところで人体に大きな影響が出るとは考えにくいことなども知っておいたほうが良いでしょう。

2014-2854

さらに、人間が日常的に摂取、被曝している物質の中には、トリハロメタン以外にも発癌性が確認または疑われるものは多数あり、仮にトリハロメタンによるリスクを除去したとしても、それは全体的な健康リスクの一部が減ったことにすぎません。

化学物質による発ガンリスク分配率としては、水道2%、大気6%、その他2%、食品90%といわれています。つまり、水道由来の発ガンリスクはもともと比較的低いわけであり、水道水に含まれるリスクだけを排除してもあまり意味がありません。

これらに比べれば喫煙のリスクのほうがもっと高いといわれています。すべてのガンによる死亡の30%ぐらいが喫煙が原因であり、水道水や大気汚染などの癌リスクとは桁が違います。

ただ、塩素の入った水道水には、少ないとはいえトリハロメタンのような発癌性物質が含まれているのは確かです。しかしこうした発癌性のリスク以上に最近取沙汰されているのが、塩素の入った水道水で炊飯したり料理をすると、特にビタミン類が破壊されてしまうということです。

日本の水道水に含まれている塩素濃度は、病原生物に著しく汚染される恐れがある場合を想定しているところが多く、だいたい塩素が1.5mg/L(1.5ppm)以上のところが多いようです。

埼玉県にある女子栄養大学では、こうした水道水についての食品への影響を調べるため、いろんな塩素濃度の水道水を使ってご飯を炊いて実験をしました。その結果によればご1.5ppmの濃度の水道水で炊いたご飯の中のビタミンB1の残留量を調べたところ、ビタミン残留量は、14%にまで激減したそうです。

また、水道水で、野菜・米・レバーなどの食品を洗うと、ビタミンの10~30%が損失するともいわれており、これは塩素が食品の細胞に入り込み、ビタミンを壊すことが原因です。キャベツの千切りを氷水などにつけるとシャキッとすることは料理のコツとして知られていますが、水道水でなら、実はどんどんとビタミンが破壊されていることになります。

今の野菜は、農薬漬けですから、ただでさえビタミンやミネラルが不足しているのに、その上に水道水で洗浄、調理すれば塩素によるビタミン破壊もあるということになってしまうのです。

なので、出来るだけ水道水に含まれる塩素は少ない方がいいわけです。ところが、日本の水道水質基準では、蛇口での残留塩素の濃度を0.1mg/L(0.1ppm)以上とだけ決められていて、上限が決められていません。

2014-4092

一方では原水の汚染も年々ひどくなる一方で、それに伴って塩素の注入量が増やされています。特に、夏場には食中毒の恐れもあるため多量の塩素を入れる自治体も多いようですが、水道水質基準で上限が決められていないため、野放し状態といっても過言ではありません。

そもそもは感染症予防のために導入された塩素消毒ですが、現在ではこれによって水道水中にできてしまう発癌性物質の摂取や栄養素の破壊のリスクの方が、むしろクローズアップされてきているのです。

トリハロメタンは、含有量は少ないとはいえ、発ガン性が確認されている有害物質ですから、当然「ゼロ」であることが望ましいわけです。が、水道水に塩素を投与する限り、どうしても生成されてしまうのは避けられないわけで、原水がかなり汚染されてきた日本の現状では、必要悪ということになり、非常にもどかしいことではあります。

ちなみに、日本におけるトリハロメタンの基準値は、種類にもよりますが、0.03~0.1ppmです。これに対し、ドイツではわずか0.025ppm程度であり、日本よりもかなり小さくなっています。塩素と結合してトリハロメタンを生成する有機物の除去の方法が今後はさらに模索されるべきでしょうし、あるいは塩素に代わる消毒薬の開発が求められています。

このような状況を背景に、最近は塩素に代わる消毒法、すなわち代替消毒法の研究が急がれるようになりました。このため、最近は、「高度浄水処理」という、オゾンで水道水を殺菌する方法を採用する自治体もあるようです。

ただ、オゾンで殺菌するため、塩素消毒より安全なように思われがちですが、送水中にも消毒殺菌が必要なために、どうしても送水の段階で塩素を注入しなければなりません。従って結局、蛇口から出てくる水道水には、やはり塩素が含まれるということになります。

仮に現在の水道水を飲まないという対策を取るとしても、では安全な水を輸入するのかといったら現実的ではなく、またビタミンを壊してしまうからといって、高価なミネラルウォーターで野菜などを洗う、というのももったいない限りです。

このミネラルウォータにしても、実は発がん性はむしろ高いというデータもあります。発ガン性物質といわれているひ素の含有量が、水道水の場合はかなり厳格な水質基準で規制たれていて低いのに対し、ミネラルウォータは基準値の甘い食品基準で管理されているために高いのです。

さらに、山岳地帯で産出するミネラルウォータも、そこが石灰岩地帯であったら、ひ素含有量は多い可能性があります。ひ素量の多いということは癌になる確率も高く、結局ミネラルウォータのほうが危険ということになり、こちらを避けるほうが賢明ということで必然として水道に頼らざるを得なくなります。

2014-4110

塩素を使わずに、さらに高度処理して安全にする、という方法もなきにしもあらずですが、塩素以上に安価に大量の飲料水を浄化する方法というのは現状ではありえません。またトリハロメタンを除去するために煮沸消毒でもして供給できればいいのですが、エネルギーを相当量消費する高度処理を要求するということは、反持続可能型行為だとも言えます。

とすれば、伊豆のように水のきれいなところから水道をひけばいいのか、となるかもしれませんが、さすがに供給できる水には限りがあり、首都圏はおろか、横浜市だけでも無理です。それにしても、それ以前の問題として、水源が地下水や表層水である伊豆の水道水は100%安全なのでしょうか。

答えは否です。伊豆市が水源としているのは地下水や表流水などの水源にも最近は、有機塩素化合物が混入するようになってきています。

これは、例えば工場などで部品の洗浄につかう溶剤、ドライクリーニングに使用する溶剤なども有機塩素化合物の一種であり、これらが工場排水として排出されて河川水に混入している可能性があるためです。

このほか工業廃水に混入することのあるフェノール類は、極微量でも塩素と反応して強い臭気を持つクロロフェノールとなります。伊豆の水道水にはまったく塩素が入れられていないというわけではないようなので、上述のトリハロメタンの生成の可能性も含めて、こうした有害物質の発生の可能性がゼロ、というわけにはいかないのです。

ただ、伊豆市の表流水の取水の多くは渓流域で行われており、こうした工場はその周辺には少ないため、工場排水に含まれる物質による汚染は少ないと考えられます。が、まったくこうした工場がないわけでもなく、市役所の検査などでも微量なれどもこうした物質が検出されることがあるようです。

このほかではゴルフ場から排出される農薬に汚染された水の渓流域への混入の可能性もあり、ゴルフ場の多いこの周辺ではその可能性は否定できません。従って、伊豆の水道水は都会よりも安全とはいえ、やはりその中に化学物質による脅威が多少なりとも含まれている、と考えるのが妥当です。

さらに、温泉のメッカといわれる伊豆でも最近は、温泉水にも塩素消毒材を入れているところが多いようです。HPなどに掲載されている温泉のレポートやブログなどを拝見すると、「塩素臭い」だとか「カルキ臭がする」などと、塩素を懸念するような記載がされているのを目にすることも多くなりました。

これは近年になってレジオネラ菌などによる温泉の汚染事故が増えているため、温泉旅館などの業者が警戒して、必要以上に塩素を投入していることが原因と考えられます。

ところが、これは意外に知られていないことですが、塩素を温泉や水に入れただけでは通常は塩素臭(カルキ臭)はしません。塩素臭というのは、水中の有機物や病原微生物と塩素が反応して、初めて臭いが発生するのであって、臭いがするというのは、つまりこれらの細菌を塩素が消毒してくれているということにほかなりません。

従って、塩素の臭いがすると言う事は正しく病原微生物などを除去できていると言う事になり、温泉などが塩素臭いと言う事は安全に入浴できると言う事でもあります。

ただ、塩素はアンモニアなどと結合しても塩素臭を出すため、汗のついたタオルや髪の毛に付着しても塩素臭がしますから、必ずしも塩素臭がしたからといって、病原体がいるとは限りません。

また、伊豆は温泉の量が豊富なため、一般にはあまり過剰に温泉の源泉を薄めて使ったりはしません。ところが、不特定多数が入浴する都会の温泉では、「温泉」を称するところは、大なり小なり水道水でこれを薄め、さらには大量の塩素を投入しています。

塩素を使わずに殺菌作用が無い温泉を実現しようとすると、大腸菌や劇症肺炎を引き起こすレジオネラ菌を撃退できないためです。温泉に塩素を使用する、しないは、おおむねその地域を担当する保健所の指導によるものが大半です。都市部ではほとんど塩素投入が義務化されており、当たり前になっています。

塩素が不要なところというのは、湧出量が多く新鮮な湯が大量に注がれている温泉か、近くに民家がなく入浴する人も少ない温泉、殺菌力が強い酸性湯や強塩泉、さもなくば病気になっても責任を負う者がいない、無管理の温泉くらいでしょう。伊豆でもこうした温泉は決して多くはなく、都会ではなおさらでこうした温泉はまずないといっていいでしょう。

2014-4717

しかし、温泉への塩素の投入は確実に細菌による感染を防いでくれます。ただ、塩素臭が生じるほか、塩素は肌に影響を与えることがあり、塩素によりアトピーが悪化することなども考えられます。

いわゆる「温泉アレルギー」と言われるのは大半が塩素によるものと言われており、アレルギー症状が出たら、温泉の効能によるものよりも塩素を疑ったほうが良いかもしれません。

私自身は経験はありませんが、同じ別荘地にいる人が、皮膚病に効くと思って以前近くの共同温泉に入っていたら塩素のために逆に悪化したという話を聞いたこともあります。効能云々よりも、できるものなら塩素がいったいどのくらい入っているかを確認した方が良いと思います。ただ、温泉提供者は簡単には教えてくれないでしょうが。

なお、純度が高いとされる温泉でも、鉄分が多い地層から出てる温泉では、ごくまれに、金属アレルギーが出る場合があり、また海沿いの温泉の場合には塩化物質を多く含んでいる場合もあります。なんでもかんでも温泉が体にいいと思いこまず、まずは成分を確かめることです。

それにしても温泉水は、最近は100%温泉というところはほとんどなく、都会でそれをうたっているところがあれば、むしろ疑ったほうが良いでしょう。現状では大量に利用者を得たい営業が優先され、湧出量が少ないのに大きな浴槽にして、新鮮なお湯が足らなくなり、循環式を採用して消毒しているところも多いようです。

施設によっては、営業停止や印象悪化を恐れて、レジオネラ菌などを心配する余りに、塩素を必要以上に入れている所もあるようで、塩素の量や消毒方法に関しては、改善できる余地があります。

よく、「天然温泉」といいます。が、日本では99%が単なる水であっても、1%が天然温泉水であればそのお風呂は「温泉」と名乗ることができます。こんな人を騙すことが簡単にできるような現行制度も問題だと思います。

温泉水に加水する理由は主に3つあります。ひとつは、湧出量が少なく、温泉を加えるだけでは排出される量に追いつかないので大きな浴槽を満たす為に加水するためであり、2つ目は湧出する温泉がとても熱いので安易に加水して冷ますため、3つ目は、温泉濃度がかなり濃い場合では浴槽や循環装置を痛めてしまうためです。

温泉に加水する理由としては、そのほとんどがこの一番目の湧出量が少ないためであり、都会では特にこれが目立ちます。ジュースなどでは果汁何%と表示があるように、100%温泉でないのであれば、温泉が何パーセントで、水が何パーセントと言う表示がされるべきでしょうが、現行の法律ではそうした表示義務はありません。

一方では、何百年も前より高温の温泉を加水して冷ますのではなく、「自然冷却」や「湯もみ」して冷ますことにより温泉成分を損なわず提供する努力をしてきた温泉も多く、群馬県の草津温泉などがそれです。このように与えられた温泉資源において安全で良質な泉質を提供しようと言う温泉管理こそが今の温泉施設に問われています。

ところで、我が別荘地の温泉はといえば、これは間違いなく100%温泉水であり、塩素は一切入っていません。ただ、とくに冬季を中心に源泉の温度が下がる場合も多く、また別荘地内が広いために、給湯のための配管を通っているうちに温泉の温度が下がってしまいます。

このため、源泉から各家庭への配管の途中に、基地局が設けられていて、ここのボイラーで再加熱してから温泉水を送り出すようにしています。草津温泉のように源泉の温度が高いために冷ましてから、というのができないのが残念ですが、少なくとも塩素の心配はまったくなく、地下数百メートルからくみ上げているので農薬等の混入の心配もありません。

これまでも述べてきたとおり、水道水にもほとんど塩素成分はなく、ここに住んでいる限りは、東京よりも数倍健康的な生活が送っていけそうです。従って、総じてみれば、こと、「水」の問題に関しては、この地の利はかなりあるということが言えると思います。別荘地としてだけでなく、永住地として伊豆を考えていらっしゃる方は、ぜひこうしたことも参考にしてみてください。

2014-1150617