60年ほど前の1953年の今日、東京の銀座で、「銀座チョコレートショップ爆発火災」という事件がありました。
午後1時58分頃、東京都中央区銀の洋菓子店「チョコレートショップ」で爆発が発生。同店と2階にキャバレーが入る木造モルタル造地下1階・地上2階建75坪、延265坪と、かなり大きな建物が全焼。隣接するレストランや、中華料理店、事業所などもそのあおりを喰らって半焼しました。
この事故の際、店には当時店員30人余り・客50人余りがおり、この火災で店員1人が死亡。重傷22人のうち5人が一時危篤になりましたが、命はとりとめ、このほか軽傷56人が出ました。
当時銀座では風船を配布することが流行しており、同店では本件で死亡した店員が中心になって店頭で風船に水素を詰める作業を行っていました。その際に漏れた水素にタバコもしくはストーブの火が引火したことがこの大火災の原因とみられています。
この火災を受け、消防庁はそれまでこうしたイベントの際には普通に使われていた水素ボンベの使用を制限することを決め、届出制とする対策を講じました。銀座にはこのほか大手菓子メーカーの不二家もあり、ここでも風船を配っていたものの水素は使っていませんでした。しかし、本件以降は受け取る人が激減したといいます。
この事件以後、巷で水素入りの飛ばし風船を配布をする様子はほとんど見られなくなり、普通の風船の配布も鳴りを潜めていきました。
そして水素に代わって登場したのがヘリウムです。ヘリウムの宇宙における存在量は水素に次いで2番目に多く、地鉱物やミネラルウォーターの中にも溶け込んでいるほか、天然ガスと共に豊富に産出します。
このため、現在では天然ガスから分離する技術も進み、大量に生産ができるようになって安価になり、水素に代わって気球や小型飛行船の浮揚用ガスとして用いられたり、液体ヘリウムを超伝導用の低温素材としたり、大深度へ潜る際の呼吸ガスとして用いられています。
引火による爆発の危険に少ないことから、特別な事情がない限り風船などにもヘリウムガスが使用さます。またこのおかげで、巷でも飛ばし風船を配る、という風習も復活しました。もっとも最近は環境への影響ということで、自粛傾向にはありますが。
しかしその昔は石炭ガスなどから精製できる水素ガスが安価だったこともあり、これを使った風船のほうが主流でした。ヘリウムガスより水素ガスのほうが浮きやすいという事情もあり、この時代よりも少し前に世界の大空を飛んでいた水素ガスを充填した飛行船は時代の花形でした。
20世紀前半には、大西洋横断航路などに就航していたこともありましたが、1937年に発生した「ヒンデンブルク号」の墜落事故を契機に水素利用の飛行船の信頼性は失墜し、航空輸送の担い手としての役割を終えました。
にもかかわらず、世間一般では水素ガスが安価だという理由だけで使われていたわけですが、世界的にもこの「銀座チョコレートショップ爆発火災」のような爆発事故が相次いだことから、水素ガスを浮遊物のために使う、ということは現在ではまったくといっていいほどなくなりました。
このように、かつては飛行船や身近な風船にも多用された「水素」というヤツですが、学校でも習った通り、原子番号が1 の元素であり、元素記号はHです。ただし、単体では存在しにくく、一般的にはこの水素二つが合体したH2、すなわち「水素ガス」のほうが身近な存在です。
ちなみにヘリウムの原子番号は2であり、いずれも非金属元素の一つで、多々ある元素およびガス状分子の中でも軽いのが特徴です。水素はまた宇宙で最も数多く存在する元素であり、地球上でも水や有機化合物の構成要素として多数存在します。
日本語の「水素」は「水の素」という意味の表現ですが、そもそも発見されたヨーロッパでは、最初に命名されたフランスで「水を生むもの」という意味の表現で呼ばれました。
仏語では 「hydrogèneイドロジェーヌ」といい、これは、ギリシア語の 「ὕδωρ イドロ」(ラテン文字表記:hydôr、=「水」)と 「γννενゲネン」(ラテン文字表記:gennen、=「生む」「作り出す」)を合わせた語です。
水素ガスを自ら初めて分離するのに成功したのは、1766年のヘンリー・キャヴェンディッシュであり、アントワーヌ・ラヴォアジエがこれを1783年に hydrogène と命名しました。
これを英語化したものは、「hydrogen ハイドロジェン」ですが、いずれにしても、水素とは日本語のように「水の素」ではなく、「水を生むもの」という意味の合成語となります。
水素は自然界にはほとんど存在せず、工業的には、炭化水素を「水蒸気改質」することで大量に生産されます。
水蒸気改質とは、水蒸気メタン改質とも呼ばれるもので、天然ガスに水蒸気を加えて質を変える、つまり「改質」することによって水素を取り出す方法です。700〜1100℃という高温化において金属触媒が存在すると、水蒸気はメタンと反応し、一酸化炭素と水素が得られます。
これを化学式で書くと、こうなります。CH4 + H2O → CO + 3 H2
これまでのところ、水素ガスはメタンを主成分とする天然ガスと水から、触媒を用いたこの水蒸気改質によって生産する方法が主流であり、世界の水素生産量は年間約5000億Nm3(ノルマル立方メートルは、0℃、1気圧の条件下での立方メートル示す)と推定されています。
日本では年間150~200億Nm3の需要があり、ほぼ半分が石油精製の目的で使用されています。このほかエネルギー用としては、わずかながら宇宙ロケットの打ち上げ用に液体水素が年間300~500万Nm3程度ほども用いられています。
なお、製鉄、石油精製、エチレン製造プロセスなどで年間100億Nm3以上の水素が副生していますが、大部分は化学製品等の原料やエネルギーとして自家消費されています。
そして、水素といえば、先にトヨタから発売された、燃料電池車、MIRAIはこれを用いた史上初の実用車であり、大きな反響を呼びました。
搭載した燃料電池で水素あるいは改質水素と空気中の酸素を反応させて発電して電動機を動かして走る車であり、水素のみを反応させる場合は走行時にCO2やCO,NOx,SOxなどの有害物質を排出しないとされます。
この発売を契機に、日本国内の各メーカーもまた、この燃料電池車の販売に次々と参入するようで、年内中にはトヨタに続いて、ホンダも燃料電池車を発売する予定だといいます。
今後の水素市場の一つとして期待されるこの燃料電池自動車市場については、燃料電池実用化戦略研究会は、2020年における燃料電池自動車の期待する導入目標を現在からの累積で、500万台としています。
500万台の燃料電池自動車が全て水素を搭載して走行すると仮定した場合、年間40~50億Nm3の水素が必要になると見込まれています。
仮に、燃料電池自動車が将来的にさらに普及し、今日のわが国の乗用車保有台数約5300万台の半数が燃料電池自動車となることを想定すると、さらにその5倍程度の水素が必要になる見込みです。定置型燃料電池などの水素需要も考慮すればその量はさらに増えることになります。
水素ガスの製造工場は国内にも多数あり、鉄鋼系、石油系全部で40工場ほどが稼働しています。当面の需要は、現在あるこれらの主要な工場で水素で賄うことが可能であり、供給形態としては消費地とは離れた場所にある大型設備を有する水素製造工場での生産を行う、「オフサイト型」が先行するものと思われます。
その後、家庭用燃料電池や燃料電池自動車等の普及に伴い、地域性、市場性に応じてオフサイト型に加え、例えば現在のガソリンスタンド等に対応する水素ステーションなどで直接改質を行って水素を取り出す「オンサイト型」ステーションへと展開されるものと予想されます。
このように、いずれは水素エネルギーシステムが本格的に普及すると考えられており、そうした場合の水素需要は、既存の供給能力を大きく超えるものと予想されます。このため今後は、水素供給体制の整備が、水素エネルギーシステムを支える上で一つの重要な課題となります。
改質装置の小型化などそのほかにも課題は数多くあるものの、水素ガスを使ったビジネスは将来的にも有望とみなされています。その一つの理由は、無論、燃料電池車などの自動車に搭載される水素ガスは燃焼しても地球温暖化の原因となる二酸化炭素をまったく排出しない、究極のクリーンエネルギーであるためです。
地球温暖化は、単に気温が上昇するだけでなく、海面の上昇を引きおこし、低地の水没や降水分布・植生の変化など、人間社会に様々な影響を及ぼすことが懸念されています。地球温暖化の原因となっているのが、二酸化炭素やメタンといった温室効果気体の濃度の増加であり、燃料電池車ではこれが抑えられるというのが謳い文句です。
ところが、燃料電池車そのものは水しか排出しませんが、このクルマに搭載される水素ガス自体は、上述のとおり、その製造工程で化石燃料を消費するため、この時点で一酸化炭素が発生します。
また、水蒸気改質により発生する一酸化炭素などのうち化成品に利用されない過剰分や燃料として利用される炭化水素は二酸化炭素として環境中に放出されます。さらには、水素の運搬、保存には低温化、高圧化等のために他の化石燃料以上にエネルギーを消費します。
このように、水素の原料が化石燃料である限りにおいては、水素を化石燃料の代替として利用してもそのまま化石燃料の消費量が削減されたり二酸化炭素の発生が完全に抑えられる、ということにはならないわけです。
また、水蒸気改質によって水素ガスを取り出す際に発生する一酸化炭素、CO自体は温室効果気体ではありませんが、対流圏における「オゾン」を作り出す前の組成物質であると考えられています。大気中に含まれているその他の微量成分の寿命を決定し、オゾンと並んで対流圏大気の酸化能を制御しているといわれています。
このことから、COは「間接温室効果気体」と呼ばれ、温室効果気体の濃度を制御する、極めて重要な物質であると言われています。
ただし、水蒸気改質は化石ベースの燃料以外に、バイオエタノールやバイオディーゼルのようなCO2ニュートラルな液体炭化水素燃料を利用できるため、将来的にはよりグリーンな水素を製造することができる可能性があります。
上でも書いたように、小規模な改質装置が開発され、ガソリンスタンドを水素ステーションに転換するようなこともいずれは行われていることが考えられ、これにより工場での製造、運搬による手間の削減により温室効果ガスの削減が期待されます。
現在では工場で生産した水素ガスを燃料電池車に充填し、これを燃やすという方法が採られているわけですが、これが水素ステーションで行われるようになったあかつきには、さらにその先の延長として、将来的には比較的少量の天然ガスなどの化石燃料をクルマに積み、ここから直接水素を取り出す、といったことも実現するでしょう。
とはいえ、こうした技術は小規模な水素ステーションで実現する上においてもかなり難しいとされており、多くの課題があります。さらには移動するクルマの上でこれを実現しようとすると、まずは、改質反応は高温で起こるため、温度が上がるまでに時間がかかり始動が遅くなること、また、高温に耐えうる材料を必要とすることなどが考えられます。
また、水素ガスを取り出す過程で反応装置から生成される一酸化炭素は上述のとおり、間接的な温室効果気体であるため、これを除去するにこしたことはなく、このため、これに対処するための複雑な一酸化炭素除去装置の組み込みが必要になります。
さらに一酸化炭素は燃料電池を汚染します。燃料電池において水素を発生させるために使用される触媒の白金膜は、一酸化炭素にも非常に敏感で、一酸化炭素によって汚染され、性能が低下します。触媒は非常に高価であるため、頻繁に交換するわけにもいかず、このためにも、一酸化炭素は極力少ない方がよく、その削減は最も重要な課題です。
ただ、繰り返しになりますが、水素ガスを自車生産しながら走るということは、工場で生産した水素ガスの運搬やステーションでの保存や低温化、高圧化などが不必要なり、これによって他の化石燃料以上にエネルギーを消費を削減することもできる、というわけで、現在考えられている中では最高にクリーンなクルマになる可能性があるわけです。
天然ガスやガソリン、ディーゼルのような既存の燃料で動くことができる燃料電池車が現時点では最先端なわけですが、さらに長い目で見ると、この燃料にバイオエタノールやバイオディーゼルのような再生可能な液体燃料を使えば、究極のエコカーが完成します。
とはいえ、当面の目標として、水素ガスの供給ステーションを普及させることだけでも温暖化対策には大きな効果があると考えられています。また、あちこちに水素燃料補給基地ができるということは、これはすなわち災害時などにも近隣の一般家庭に非常用電源を提供する機能をも実現できるということになります。
将来的には、ここからさらに一歩踏み込み、こうした機能をさらにクルマ自体が持てば、一家に一台の燃料電池車を持つことで、災害時の備えは万全といえるほどの体制を日本中に作ることができるでしょう。
このようなことが実現すれば、地球環境に優しい水素はより身近な存在になります。燃やしても水以外の粒子状物質や二酸化炭素などの排気ガスを出さないことから、水素は代替エネルギーとして最も期待されているわけです。
ところが、水素の利用はこうした燃料電池への応用だけにとどまりません。現在ではロケットの燃料にも使用されており、将来に渡る宇宙開発においても重要なものです。
初期のころのロケットには、常温保存が可能なヒドラジンやケロシンといった個体燃料と極低温にした液体酸素などの酸化剤などが用いられましたが、最近はより高い比推力が得られる「液体水素」を燃料とし、これと酸化剤の液体酸素の組み合わせが、各国の基幹ロケットの主流となっています。
アメリカのスペースシャトル、ヨーロッパのアリアン5などのほか、日本の主力ロケットであるH-IIAなどもこの方式であり、これを「液体燃料ロケット」といいます。
実際に液体燃料ロケットとして世に出たのは、ナチス・ドイツがアメリカなどの連合国相手に戦った第二次大戦で「報復兵器」と名づけたV2ロケットです。
ヴェルナー・フォン・ブラウンや、先のヘルマン・オーベルトなどの科学者・技術者が集い製作したこのロケットは、アルコールと液体酸素を燃料にし、ジャイロスコープとアナログコンピューターにより誘導されていました。
また、ロケットエンジンの下にある推力偏向板(ジェットベーン)により向きを変えられるという、現在存在する液体燃料ロケットの原型とも言える構造をしていました。
世界大戦終結後、鹵獲(ろかく、他国の兵器を奪って自前で使うこと)されたV2や多くの科学者・技術者はアメリカとソ連に連行され、それぞれの地でV2と同じような液体燃料ロケットを製作し、冷戦の軍拡競争で作られた弾道ミサイルとしてそのノウハウを広めることとなりました。
こうして実用化された液体燃料ロケットは、燃料を送り出すための高圧ポンプや複雑な配管システムが必要とされるなど、構造が複雑になり、その分高価になるという欠点も持ちます。
が、その反面、それまでの固体燃料ロケットとは違い、推力の制御が容易であること、いったん燃焼を停止させたものを再度点火するのが可能であることなどの長所を持ちます。
また、この液体燃料ロケットの場合も、酸素と水素を化合させるだけなので、排気ガスは有毒物質を一切含まない水蒸気です。このため、燃料電池車と同じく、クリーンなロケットといえます。
スペースシャトルや種子島宇宙センターのロケット打ち上げ時に出る大きな雲状のものは燃焼ガスとともに排出される水と、音響と熱による発射設備の損傷防止用の注水の水であり、ガスと「湯気」が霧状になった混合物です。
打ち上げの写真を注意深く見るとわかるのですが、固体燃料燃焼ガスの茶色い雲と真っ白の水の霧の二種類があるのが確認できるはずです。この水霧の一部は液体酸素-液体水素メインエンジンの燃焼による水蒸気由来のものです。
ただし、実際には、液体水素・液体酸素エンジンだけでは離床時の推力が不十分なので、固体燃料の補助ロケットを使用します。この固体燃料補助ロケットの排気にはオゾン層や環境に悪影響を及ぼすハロゲン化合物が含まれるため、将来的にはこうした補助ロケットを使わないで打ち上げる方法が模索されています。
とはいえ、ロケットの発射本数そのものはクルマの生産台数ほどは多くないため、現在までのところそれほど問題視されていません。
日本では、宇宙ロケットの打ち上げ用の燃料としての液体水素の量は、日本全体での水素ガスの需要の1%にも満たない量ですから、たとえ今後ロケットの需要が増えたとしても他の燃料電池車などへの供給量を阻害する、といった心配もありません。
このほか、液体燃料は一般的に燃焼ガスの平均分子量が小さく、固体燃料に比べて比推力に優れているうえ、推力可変機能、燃焼停止や再着火などの燃焼制御機能を持つことができます。また、エンジン以外のタンク部分は単に燃料を貯蔵しているだけなので、大型のロケットでは非常に構造効率の良いロケットが製作できます。
とくに液体酸素を酸化剤、液体水素を燃料とするロケットは、現在実用されている液体燃料の推進剤の組み合わせでは最高の比推力を持ち、そのために、特に衛星打ち上げロケットの2段目や3段目にこれを用いた場合、他の液体燃料よりもペイロード(対費用的に大きなものを打ち上げられる)を増大させることが出来ます。
スペースシャトルのメインエンジンも1機を打ち上げるには150万リットルの液体水素が使われるといいますが、これによる汚染物質の放出も微々たる量であり、このように、水素を使う液体燃料ロケットはクリーンであるのに加え、将来に渡っても有望な宇宙開発ツールといえ、ここでも、水素が今後の人類の発展の鍵を握っています。
ただし、この方式のロケットは、燃焼室や噴射器、ポンプなどの機構は複雑で小型化が困難なので、小型のロケットでは同規模の固体ロケットに比べて構造効率は悪化します。
また、推進剤の種別によっては、腐食性や毒性を持ち貯蔵が困難であったり、極低温なため断熱や蒸発したガスの管理、蒸発した燃料の補充などで取り扱いに難があるものもあり、これらの課題の克服が将来の発展においては必要となります。
こうした課題をクリアーしつつ、クリーンなロケットを次々と打ち上げて人類がどんどんと宇宙に出て行ったあかつきには、さらに人類は「金属水素(Metallic hydrogen)」を発見し、これをさらに技術の発展につなげていけるようになるかもしれません。
金属水素とは、液体水素がさらに圧縮され固体状態になったものであり、最近の研究では水素もまた高い圧力下において金属化すると考えられています。
実際に1996年にアメリカのカリフォルニア州のローレンス・リバモア国立研究所のグループが、140GPa(約140万気圧)、数千℃という状態で、100万分の1秒以下という短寿命ではあるものの、液体の金属水素を観測したと報告しています。
しかしながら、それ以降、他国の研究者が数百GPaのオーダーで圧力を加える実験を続けてはいますが、こうした固体の金属水素の観測はされていません。従って、金属化そのものが実現しているとはまだいえない状況であり、その実在の真偽は未だ不明です。
ただ、理論的にはありうるとされており、なぜこれが重要視されるかといえば、金属化した水素は室温超伝導を達成するのではないかという予想があるからです。
例えば、現在超伝導が確認されているリチウムでは、48 GPa、20 K程度(絶対零度、-253℃程度)で超電導となりますが、金属水素では、30 GPa程度で超電導となり、しかもこれよりもかなり高い温度で超伝導状態となる可能性が十分あるといわれているようです。
木星、土星や新しく発見された太陽系外惑星の内部では、重力による圧縮により、非常に高い圧力になっており、金属水素が大量に存在すると考えられており、液体金属水素が観測された条件と似ています。
最近増加しているこれら木星型惑星の観測においては、これを構成する最も主要な元素が水素とされています。惑星の磁場にも影響を与えているのではないかといったことも指摘されており、最新の観測データでは、以前に考えられていたよりも多くの金属水素が存在することが示唆されています。
とくに木星では他の惑星よりも金属水素を多数含んでいるのではないかといわれており、木星の磁場が非常に強く、地表面近くにあるのは、金属水素の存在が一因だともいわれています。
しかし、仮に人類が木星に到達し、この金属水素と発見したとしても、30 GPaといった高圧な環境ではその採取は困難です。ただ、その観測などにより、金属水素の存在とその生成過程が確認されれば、その観測結果を持ち帰って地球で再現できる可能性があります。
現在の段階でも、この金属水素を模した「準安定金属水素」というものができるのではないか、とわれており、これによって水を排出するクリーンで効率的な燃料を作ることができると期待されています。
この「準安定金属水素」というものは、通常は液体水素の12倍の密度だといい、分子を再結合すると、酸素中で水素を燃焼させた時の20倍のエネルギーを放出します。
燃焼速度はより速くなり、スペースシャトルで用いられていた液体水素/液体酸素の5倍も効率的な推進剤となりうるということです。上記のローレンス・リバモア国立研究所でも実験が進められているそうですが、現在では燃焼時間が短く、これが「準安定状態」といえるものなのかどうかすら確認できなかったようです。
このほか、水素が金属化すると極めて強力な爆薬になるとの理論計算も行われており、「電子励起爆薬」として研究されています。
爆薬の威力はトリニトロトルエン以来100年以上かけて2倍程度にしか向上しておらず、 現時点で限界に達したと言われています。金属水素を使った新型爆弾は、これを打ち破る技術的ブレイクスルーになる次世代爆薬として期待されているまったく新しい概念の爆薬だそうです。
詳しいことは私もよく理解していないのですが、基本的な概念としては、予め原子の周りのエネルギーを高めた物質、つまり「電子励起状態」の原子を組み合わせて化合物を作ることによって、今までより飛躍的に高いエネルギーを持つ化合物が作れるという発想だそうです。
そのエネルギーは理論上は、いわゆるプラスチック爆弾といわれる強力な爆薬HMXの300倍以上と計算されています。これはTNT換算すれば1トンの爆薬がTNT500トン分の威力を持つことになりこれは、戦術核兵器並、いやそれ以上の通常爆弾が開発できることを意味しています。
ちなみに、TNTとは高性能爆薬の名称であり、ニュースなどでも「A国の原爆BはTNT換算で50キロトンの破壊力」などと表す使い方が一般的に見かけられます。広島に落とされた原子爆弾(リトルボーイ)は、TNT換算で約15キロトンです。それ以上の爆発力を持つ「通常爆弾」ということになり、いかにすさまじいものか想像できます。
この金属水素を使った「電子励起爆薬」は、コンピューターによる電子軌道の計算によって励起状態で安定したまま化合物になる可能性が見つかったことから、実際に製造可能だと言われています。将来的にはこのような研究から金属ヘリウム爆薬と呼べる物ができるのではないかと予想されているようです。
しかし、水素を使った爆弾といえば、人類はすでに「水素爆弾」という核爆弾を完成させています。原爆のように使用された例はまだありませんが、新たな技術の発見はさらに新たな兵器を産み、これが世界に新たな混乱をもたらす、という歴史を繰り返してきました。
水素の利用は今後、燃料電池の普及や宇宙開発などの平和利用に限る、という世界的なルールを作るべきだと思う次第です。