先日、ペット保険を扱っている会社が、2月22日の「猫の日」に先駆け、毎年恒例の「猫の名前ランキング」を発表したといいます。
そして、男の子部門、女の子部門を合計したその結果、総合1位は12年から1位に君臨し続けている「ソラ」君だったそうです。
総合の2位と3位は、それぞれレオ、モモ、であり、男の子だけに限ると、1~3位は、レオ、ソラ、コタロウで、女の子はモモ、ルナ、ハナの順だそうです。
この女の子第2位の「ルナ」というのは、昨年は10位にすぎず、これが急上昇したわけは、作品20周年プロジェクトが行われ近年人気が再燃しているアニメ「美少女戦士セーラームーン」の影響ではないか、とこの保険会社は分析しているようです。
主人公・月野うさぎの飼い猫の名前が「ルナ」であるためのようですが、この「セーラームーン」とは、1990年代少女漫画の金字塔とも言われた作品です。
講談社の少女漫画雑誌に連載されると、同時期にアニメ化され、少女だけでなく大人の女性、さらには男性の間にまで広く人気を博し、単なる少女漫画・アニメの域を遥かに超えたブーム・社会現象となりました。
この作品によって、いわゆる「美少女戦士物」というジャンルが誕生するところとなり、普段アニメや漫画とは無縁の層の間にまで広く知られるようになるとともに、日本国内だけでなく、海外へ日本のアニメを広く知らしめる結果にもつながりました。
また、内外ともにこの美少女戦士のコスプレをして楽しむ若い女性も年々増えているようで、現在におけるコスプレブームの先駆けとも評されています。
これを最初に掲載した講談社の少女漫画雑誌とは、「なかよし」であり、こちらは1954年12月創刊の老舗雑誌であり、いまだに販売が続いています。
セーラームーン以外にも「キャンディ♥キャンディ」。「怪盗セイント・テール」、「カードキャプターさくら」といった夢見る少女たちを虜にするような数多くのヒット作が生み出され、この雑誌を読んで育った、という女性も多いのではないでしょうか。
2014年12月発売の2015年1月号で漫画雑誌初の創刊60周年を達成したため、講談社ではこれに先立つ昨年の8月6日に60周年記念ホームページを開設し、過去から現在に至る作品の情報や企画を展開しました。そして同じくこの年に20周年となった「美少女戦士セーラームーン」の記念プロジェクトも実施された、というわけです。
さらには「カードキャプターさくら」の新作グッズ展開や原画展の開催、10周年となった「プリキュアシリーズ」漫画版の単行本発行、過去の作品の単行本復刊人気投票など、様々な記念施策を展開しているそうで、往年の「なかよしファン」にとってはこうした動きは目が離せないのでしょう。
そんな中でセーラームーンの主人公が飼っていたネコの名前が急上昇してきたわけですが、劇中ではこのネコは額に三日月の模様を持ち、人間の言葉を話す不思議な黒猫、という設定になっています。
また、このルナの額にある三日月のことを主人公たちは、「三日月ハゲ」と呼んでからかうシーンが出てくるそうです。が、ルナ本人はこれをハゲではないと言い張り、これを絆創膏などで隠されると、体力が出ない・話せない・探知機能が鈍るなどの悪影響が出るそうです。
世にあまたいらっしゃる、頭の毛の薄い方も、恥ずかしいからとこれを隠そうとせず、堂々と出していただければ、より光輝けるのではないか、と思う次第です。私も超能力がもらえるなら、頭の一部に三日月ができてもいいかな、と思うくらいです。
このルナという名は、もともとローマ神話に登場する月の女神のことで、ラテン語ではLūnaと書き、本来、発音はルーナのほうが正しいようです。が、日本語では長母音を省略し、ルナ (Luna) と呼ぶことが多くなっています。
後にギリシア神話の「セレーネー」と同一視されるようになり、古代ギリシャでは月経と月との関連から 動植物の性生活・繁殖に影響力を持つとされました。また月が形を変えるように三つの顔を持ち、魔法の女神とも考えられるようにもなりました。
セーラームーンこと、月のうさぎが飼っているのが黒猫であるのも、ヨーロッパのおとぎ話や寓話には、黒猫がしばしば魔女の使い魔として登場することと関係があると思われ、原作者の武内直子さんがこれを知ってクロネコにしたのでしょう。
使い「魔」というぐらいですから、欧米では、かつては不吉の象徴とする迷信があり、魔女狩りが行われた際にはそのあおりをくらって黒猫が殺されることがあったといいます。たとえばベルギーの北西部の町イーペルでは「猫の水曜日」に時計台から黒猫を投げ殺す行事を19世紀初頭まで行なっていたそうです。
このほか、イタリアでは今でも黒ニャンを嫌うことはなはだしいといい、黒猫というだけで年間6万匹もの猫が迷信を信じる市民によって殺害されており、動物愛護団体が署名を募ってこれを防止しようとしているそうです。
かつて行われていた魔女裁判でも、黒猫の飼い主は悪魔崇拝主義者または魔女の証拠とされ、ネコ自身も生まれながら邪悪とみられ、裁判において人間と共に罰せられ、焼き殺されたという哀しい歴史があります。
現在でもこうした欧米諸国では黒猫は不吉な動物とされる場合があり、黒猫をまたぐと不幸がおこる、十三日の金曜日に黒猫を見ると不幸がおこるという迷信が一部で語られています。
なぜそれほどまでに黒猫が疎まれるかといえば、ひとつはその毛並が黒であること。この黒は闇夜の色であり、そこには古来から魔が棲むとされてきました。また、黒猫はその色のゆえに暗闇では人の目に見えにくく、このため暗闇に隠れ留まる能力を持つとされたことも、魔女のパートナーにふさわしいと考えられたのでしょう。
ところが、ヨーロッパの多くの国でこのように黒猫が嫌われるその一方で、イギリスの一部の地域では、これは幸運の象徴ともされています。また、前述のベルギーのイーペルでは昔は公然とネコ殺しを行っていましたが、現在では3年に一度、「猫のパレード」と称するお祭りが開催されるそうです。
このパレードには黒猫装束の人が多数参加し、エンディングでは教会の塔の窓から黒猫のぬいぐるみが投げられるそうで、これをゲットすると幸運になるといわれているそうです。
さらには、近年では往年の魔女が復権し、市民権を得ている、という事情もあり、これとの関連で、黒猫は悪者ではない、とする人も多いようです。そして、この多くの現代の魔女は黒猫をペットとして、聖なるものと見なして飼っているといいます。
この「現代の魔女」ですが、これは往々にして「ウィッカ」」と呼ばれることが多いようです。
20世紀半ばにして魔女禁止令がようやく廃止されたイギリスでは、かつての魔女狩りの際にも生き残った魔女による秘密の宗教集団があるそうです。
こうした集団のひとつに接触しその教えを伝授されたとするのが、「ジェラルド・ガードナー」という人物で、彼は魔女の宗教についての一連の著作を執筆するなどの活動を通じて、「魔女の宗教」を復活させようとしました。
かつての魔女の宗教に関する学説や儀式魔術の儀式様式などを取り入れて創作されたものとも言われているこの魔女宗教は、当初「ウイッチクラフト」と呼ばれていましたが、後にはウイッカと略して呼ばれるようになりました。
ウイッチクラフトとは、英語では”witchcraft”と書きます。魔女(witch)が施す技(craft)という意味の造語であり、魔術(呪術)、まじない、占い、ハーブ(薬草)などの生薬の技術など、魔女と関連付けられる知識・技術・信仰の集合を指します。
単純に和訳し、「魔女術」と呼ばれることもあり、ガードナーによれば「キリスト教以前に存在したヨーロッパの多神教の復活である」とこれを位置づけています。
キリスト教やイスラム教、仏教とも異なる異教であり、しかも近年提唱されたことから、「新異教」とも言われます。が、一応信仰的側面をもっているため、ウイッカ宗、魔女宗とも呼ばれることもあります。
占星術、錬金術、魔術などに端を発し、「神秘学」ともいわれるオカルティズムとは異なり、欧米では認められ始めている宗教の一つとされます。このウイッカを信奉する魔女さんたちは、自らが魔女でありながら、これを指し示す ”ウイッチ(witch)” を差別用語だとして好まず、お互いをウイッカン (wiccan) と呼びます。
彼女たちは自分たち魔女を「キリスト教の悪意によって魔女とされた、キリスト教以前の古き宗教の神々の崇拝者」であるとし、女神や有角神を崇拝します。
有角神というのは、少し前に小ヒットした、「パンズ・ラビリンス」というスペイン映画を見たことがある人は分かると思うのですが、これに出てくるパンこと、「パーン」というギリシア神話に出てくる牧羊神のことで、ローマ神話では「ファウヌス」といいます。
パーンはもともと羊飼いと羊の群れを監視する神でしたが、彼はある日、怪物たちの王テューポーンに襲われます。テューポーンの体は宇宙に到達するほど巨大とされ、地球を焼き払い、天空を破壊し、灼熱の火炎と共に暴れ回って全宇宙を崩壊させるほどの力を持っていました。
その力は神々の王ゼウスに比肩するほどであり、ギリシア神話に登場する怪物の中では最大最強の存在といわれ、そんな大怪獣に急襲されてはひとたまりもない、ということでパーンは上半身が山羊、下半身が魚の姿になり、ほうほうの体で逃げたといわれます。
パーンというのは、もともと古代ギリシア語では「全ての」という意味です。この時変身したパーンの姿は低きは海底から高きは山の頂上までほどもあり、世界の「すべて」に到達できるとされました。このため、英語では、この「すべて」を意味する接頭語を”pan”といいます。
かつて存在した「全米航空」を意味する、パンアメリカン(Pan American)航空のパンであり、ほかにもパンパシフィック、といった言い方もあり、これら接頭語のパンは、このパーン神が語源です。
そのパーンが、なぜ魔女たちの崇拝神なのか、ですが、ギリシャ神話ではある時、このパーンが竪琴の神アポローンと音楽の技を競うことになりました。そしてこの競技では、山の神であるトモーロスが他の神とともに審査員となり、かつ審査委員長をつとめました。
やがて試合が始まりました。パーンは得意の笛を吹き奏で、そしてその音色をかつてないほど美しい、と自己満足で絶賛しました。が、傍らで聞いている他の神々には田舎じみた旋律に聞こえたようです。
ついで、アポローンが弦を奏でたところ、その音色は明らかにはるかにパーンの演奏したものを凌駕しており、審査委員長のトモーロスもこれを聞いたとたん、答え一発、アポローンに軍配を上げたのでした。
他の審査委員も同意し、この勝負はアポローンの勝ちとみなされましたが、自分の奏でた曲に自身があったパーンは、異議を申し立て不公正じゃないか、とトモーロスを裁判で糾弾しようとしました。
ところが、アポローンはこのような下劣な耳にわずらわされないよう、彼の耳をロバのそれに変えてしまったといい、このためこの裁判は成立せず、この事件があって以後は、アポローンはパーンと対立していくようになります。
アポローンは、全能の神ゼウスの息子でもあり、太陽神とも称されます。これと敵対するようになったパーンは、やがて太陽の影にいつも隠れて陰が薄い、いわば月のような存在とみなされるようになっていきました。
そして、これがウイッカンが、闇の世界の主であるパーンのような有角神を主神として崇拝する理由です。女神をも崇拝するのは、無論のこと、自分たち魔女もまた女性だからでしょう。
現代の魔女であるこのウイッカンたちは、年に8回開かれるSabbat(サバト)とEsbat(エスバットと呼ばれる集会でこうした神々を讃えるといいます。サバトというのは、魔宴ともいい、魔女の夜宴・夜会の意味であり、エスバットというのは、「満月の集会」の意味です。
この集会でいったい何をやるのか、ですが、エスバットのほうは、満月、場合によっては新月のときに開かれ、魔法の業を行います。魔法の業って何よ、ということなのですが、これは霊と交渉する、いわゆる「降霊術」の類のものであり、このほか、祈祷や占いといった「呪術」も行われるようです。
また、サバトのほうは、年8回行われる、魔女宗の「祭日」だそうで、これは古代ケルトの火祭などに起源を発します。お祝い事の儀式が中心のようで、ハロウィー の原型でもあります。また、いわゆるキャンドルナイトと呼ばれる、「聖燭節」に似たロウソクを使った儀式なども行われるようです。
欧米における魔女宗の魔女たちは、伝統的には13人で構成されるグループで活動していたといいますが、最近はもっと少ない人数の実践グループとなり、これは「カヴン(魔女団)」と呼ばれています。ただし、一人で活動するウイッカンもいるそうです。
中には全裸で儀式を執り行うグループもあるといい、こうした風習はスキャンダラスに取り上げられがちですが、こうした儀式が、すわ性的な乱れに繋がるか、というとそういう不埒な団体はないといいます。万一そのような不心得の団体がいたとしたら、本物の魔女宗のメンバーとは認められず、他の組織からも糾弾されるといいます。
このように、ウィッカといえば、魔女、そして呪術を行う、といったことで何かと邪悪視されがちですが、これに帰依している人達は極めてまっとうのようであり、実際にはかなり真面目な宗教のようです。
このウイッカンたちの倫理を一つの言葉に集約するとすれば、これは「誰も害さない限りにおいて、望むことを行え」、だそうで、この標語は、”The Wiccan Rede (ウイッカの教訓) ”と題されているといいます。
多くのウイッカンは「3倍返しの法」を信じているといい、これは、善意によるものであれ悪意によるものであれ、あるいは、魔法であれ現実的行為であれ、自分の行うことはいずれには巡りめぐって3倍になって自分の元に戻ってくるという信念だそうです。
ただ、3倍というのはあくまで例えであり、10倍返し、100倍返しになって帰ってくることもあるわけで、自分が行った行為はそれだけ尊く、努力すれば倍になって恩恵として帰ってくるし、悪行を行えばそれはそのままではなくもっとひどい報いになって返ってくる、ということが言いたいのでしょう。
日本でもドラマの「半沢直樹」で有名になった、この「倍返し」ですが、目には目を、という意味ではなく、こうした自己反省の意味で使われるのが、本来は正しいのでは、と思ってしまいます。
現在、アラブ地方ではイスラム国の蛮行に対して、先進国が目には目をの反撃に出ようとしていますが、果たしてそれで正しいのかどうか、これらウィッカの教えを改めて考えてみてはどうか、と私などは思う次第です。
さて、現代の「魔女」は黒猫をペットとして、聖なるものと見なして飼っている、という話から少々脱線してしまいましたが、この黒猫は、ヨーロッパとは異なり、日本では幸運の女神とされてきました。
近代以前の日本では「夜でも目が見える」等の理由から、「福猫」として魔除けや幸運、商売繁盛の象徴とされ、黒い招き猫は魔除け厄除けの意味を持っていました。また、江戸時代には、黒猫を飼うと労咳(結核)が治ると信じられていたほか、恋煩いにも効験があるとされていたそうです。
新選組の沖田総司は労咳を患って床に伏せっていた際、この迷信を信じて黒い猫を飼っていました。しかし、いよいよ死が目前に迫って来たとき、その死に際にこのネコを斬り殺そうとしたそうです。が、やはりかわいそうで果たせず、このとき、やはり運命というものには逆らえぬものか、と悟って死んでいったといわれています。
近年でも黒猫は大人気です。ヤマト運輸をはじめとするヤマトホールディングス傘下の企業は黒猫を商標にしています。これは、創業者の小倉昌男さんが自社の商標をデザイナーに依頼するとき、優しく丁寧に物を運ぶという企業姿勢を示すために、母猫が子猫を口にくわえて運ぶ様子をロゴにしてくれ、と依頼したことに由来しています。
映画、「魔女の宅急便」にも主人公の相棒役としてジジという名の黒猫が登場しています。この作品には原作者がおり、角野栄子さんといいます。彼女の娘が中学生時に描いた魔女のイラストに着想を得て執筆されたといい、この作品を書いたときは魔女について特に詳しかったわけではなかったそうです。
ところが、映画の公開に伴い魔女についての質問が多くよせられたのをきっかけに魔女について調べ始めたそうで、その後は魔女についてのエッセイも執筆していらっしゃいます。
なお、この映画では、「宅急便」というヤマト運輸の商標がそのまま使われています。一般用語としては「宅配便」が正しいわけですが、映画の公開当初、このタイトルが「ヤマト運輸の商標権に触れて問題になった」と報道されたといいます。
が、実際にはヤマト運輸は映画を公開したスタジオジブリからの依頼に基づいてこれを了承しており、その証拠に、この映画の一部をそのままヤマト運輸のCMにした物も作られています。また、映画化に先立ち、「魔女の宅急便」という用語はジブリによって登録商標されていたそうです。
ただ、角野さんがこの原作本を刊行したとき、「宅急便」はヤマト運輸の登録商標である事を知らず標準語と思っていたといい、このためこの本の初版本にはその断りは書いてなかった、という逸話が残っています。
このほか、黒猫と言えば、我々の世代では、1969年の皆川おさむさんのヒット曲、「黒猫のタンゴ」でおなじみであり、また食品のインスタントラーメン「チャルメラ」シリーズのパッケージには「チャルメラニャンコ」という名の黒猫がチャルメラおじさんとともに描かれています。
このように、黒猫が魔女の手先だ、悪魔の使いだ、といった迷信は遠き過去のヨーロッパでのこと。現在の日本では、黒猫は幸運の女神です。
迷信とは裏腹に、実際の黒猫の性格がおおらかで、甘えん坊で人好きな猫が多いともいわれ、猫の愛好者に人気が高いそうです。
目の色はグリーン、もしくは、榛色(はしばみいろ)あるいは、ヘイゼル色といわれる色ですが、まれにゴールドのクロニャンもおり、これを飼うとお金持ちにもなれそうです。
我が家のテンちゃんはクロネコでありませんが、同じく薄いグリーンのきれいな目を持っており、ときにそれが月のようにも見えます。
最初にこれに気がついていれば、今流行りの「ルナ」ちゃんにしていたかもしれませんが、後の祭り。
みなさんもいかがでしょう。もしネコを飼うご予定があれば、幸運の女神、黒猫を選び、そしてその名を「ルナ」にしてみてはいかがでしょうか。
ありふれていて、いやだ?それならいっそ純日本風に「月子」ちゃんはどうでしょう。それでもやはり「月並み」でしょうか……